クォヴレー君の災難?
 


・・・背中がゾクゾクする。
これだから止められない。


一人心の中でほくそえみ、
ペロリ、と唇を舐めた。









〜I Will ・・・@〜







最初は些細な言葉からだった。
アイン・・・もといクォヴレーは悔やんでも決して戻ってくれない過去を悔やんだ。
そういう意味ではなくてもおそらく彼のプライドを傷つけたのだろう。
恩を仇で返された、くらいには思っているのかもしれない。
だからといってここまで嫌がらせされるいわれもないのだが、
頭のいいクォヴレーは唇を噛みしめてそれに耐えた。

頭一つ身長が違う彼がそんな様子に別の感情を抱いているとは気づきもせずに。




最初の言葉は


『青い髪のクセ毛でロングな男は苦手だ』




誰かから何かを問われクォヴレーはそう答えた。
まさか『青い髪のクセ毛でロングな男』がそれを聞いているとは夢にも思わなかった。

その日からだった。
子供っぽい嫌がらせのようなことが始まったのは。

青い瞳のショートヘアーの女性にもう直ぐミーティングだから向かえに行って欲しい、
と頼まれた時だった。
クォヴレーは『青い髪のクセ毛でロングな男は苦手だ』
と言っているのを聞かれてしまっているので、
なんとなく気まずいので断りたかった。
けれど綺麗な顔でニッコリ微笑まれては断る術をまだ知らない。
それに『青い髪のクセ毛でロングな男』は苦手だが、
『青い髪のクセ毛でロングな女』は苦手ではない。
彼女はクセ毛でもロングヘアーでもないが、どことなく彼女に似ている。
それは当たり前なのだが・・・・と、思いつつ、
無表情な顔のうち眉毛だけ嫌そうに動かして小さく頷いて承諾した。




彼の部屋の前に来ると大きく息を吸い込みコンコン、とドアを叩いた。
だが部屋からは返事が返ってこない。
クォヴレーはもう一度ドアを叩く、が、相変らず返事はない。
もしかしていないのだろうか?と
ドアの『OPEN』ボタンをダメもとで押してみる。
するとすんなりとドアは開いた。


「・・・・!!」

開いたがクォヴレーはドアが開いたことに舌打ちをしたくなった。
返事がないのは当たり前だ。
彼は今まさしくお楽しみの最中であったのだから。
唇を情熱的に合わせあい、互いの身体を弄っている。
イングラムはクォヴレーの存在に気がつくが、
目だけで笑って行為を止める気はないらしい。
クォヴレーは無表情のまま部屋の入り口にある明かりのスイッチを押し
部屋の電気を真っ暗に落とした。

「・・!きゃあ!!」

相手の女性は誰かが入ってきたことにも気づかないくらい夢中だったようだが、
急に部屋が暗くなり気がついたようだ。
慌てて衣服を整え、クォヴレーの横をおぼつかない足取りでそそくさと横切っていった。
暗い部屋の中、クォヴレーはそれを無表情に見送る。

「(これだからは苦手なんだ・・・青い男は・・・)」

お楽しみの時間を邪魔され彼は怒っているかもしれない。
だがミーティングは始まることを知っているのに、
そんなことをしようとしていたほうも悪いのだ。

「(・・・オレは悪くない)」

自信をもってそれは言える。
クォヴレーはイングラムをミーティングルームへ連れて行くため、
再び電気のスイッチへ手を伸ばした。
だがその手はいつの間にか近づいてきていた大きな手によって阻まれた。

「・・・!!」

電気がつく代わりに背後でドアが閉まる音がした。
どうやらドアの「CLOSE」のボタンを押したらしい。
掴まれた手が壁に縫い付けられる。
そして身体を強引に反転させられ、背中も壁に縫い付けられた。
どうやら向かい合わせに立たされたようだ。
耳元で低い声が聞こえてきた。

「・・・・無粋だな。これからいいところだったのに」

いいところを邪魔された筈なのに何故か声は楽しげだ。
そのことにクォヴレーは本能的に恐怖を覚えた。


『怖い』



苦手意識は恐怖とも似ている。
耳元でクスクス笑う彼が徐にクォヴレーの顎を掴んだ。

「・・・!な?」

クォヴレーの身体が恐怖に慄く。
そして次の瞬間滑ったものが唇を掠めたかと思うと、
捕らわれていた出がそのまま下へ移動させられ、
何やら熱く固いものに触れさせられていた。


「・・・ふ・・ん・・んーーー!!」

唇の滑った感触はイングラムの唇だ。
そして手に触れさせられているのは・・・・。

「ん・・・んん!!??」

懸命に頭を振って身体を捩るが、
小柄な身体は大男からは逃れられない。
苦しさに、悔しさに、・・・そして悲しさに、
無意識に目は熱くなり、頬を伝っていく。
顎を捉えていた手にその一滴が落ちると、
イングラムは唇を合わせたまま笑い、
ペロリと唇を舐めて離れていった。
けれど手はいつまで経っても開放されなかった。

部屋は電気が落ちているので暗いが
目が慣れ始めているので、相手の表情を伺うことは出来る。
・・・背中がゾクゾクする。
これだから止められない。
一人心の中でほくそえみ、
ペロリ、と唇を舐めた。
普段の無表情が嘘みたいに悲しそうに、恥ずかしそうに、
青くなったり赤くなったり様々に変化しているのだ。
背筋がゾクゾクする。
芝居をうったかいがあるというものだ。
ヴィレッタと女優志望の女性に協力を仰ぎ一芝居うった。



『青い髪のクセ毛でロングな男は苦手だ』



あの言葉はイングラムをひどく傷つけた。
可愛がっていた猫に噛み付かれひっかかれたのだ。
それまでも元、敵であることに遠慮してか、
いや・・・クローンとオリジナルという関係に遠慮してか、
『アイン』はどこかイングラムに対しては他人行儀だった。
だからいろいろ策を講じて自分にしては信じられないくらいに丁寧に、
優しく接してきていたのだ・・・・多分。
けれど、『青い髪のクセ毛でロングな男は苦手だ』
の一言に何かが切れた。

相手がそういう態度であればこちらもそれなりに・・・、
それがイングラムの信条であり理念だ。
自分をみて怯えるクォヴレーに対し、小さな嫌がらせをしてみた。
クォヴレーの前でわざと女性とキスをしてみたり。
わざと女性の腰を抱いて歩いてみたり。
よく出来ている報告書をわざわざ自分で直してミスを指摘してみたり。
楽しみにしていたであろうお菓子を横取りしてみたり。


・・・どれもこれも子供っぽい、とヴィレッタには呆れられたが、
その瞬間、瞬間にあの無表情が青くなったり赤くなったりするのだ。
その度にイングラムの背筋はゾクゾクとざわめきだし、
もっと、もっと、と要求をエスカレートさせていく。


『青い髪のクセ毛でロングな男は苦手だ』



苦手=嫌い。




そんなことは二度と言わせない。
イングラムは青くなっているクォヴレーを見下ろしながら、
自分の欲望を触らせ続けた。
何度もそれから逃れようと手を引こうとするが、
所詮は子供だ。
大人の力にはどう足掻いても適わない。

「(あんなことを言ったこと、後悔させてやるぞ)」

咽で笑いながら自分の欲望を愛撫させていく。
硬くなっていくサマがリアルに分かるのか、
クォヴレーの全身が小刻みに震えだした。
ガチガチ・・・という音が暗い部屋に響いていく。
どうやら本気で怯えてしまっているらしい。
イングラムとしても本気で嫌がらせをするつもりも、
ましては怖がらせるつもりもないので、
小さく笑って細いクォヴレーの手を開放したのだった。
するとクォヴレーは安心したのか、ズルズルと床にへたり込んでしまう。
小さな嗚咽の声が足元でしている。

「・・・クォヴレー?」


泣いているのか?と自分もしゃがみ込んで聞けば、
バシンと手をなぎ払われた。
そして涙が沢山溜まった目で叫びだした。

「だから青い髪のクセ毛でロングな男は苦手なんだ!」
「!?」
「自分勝手で強欲で!こっちの気持ちなど少しも理解しようとしない!」

滅多に動かさない表情筋をめいいっぱい動かしてクォヴレーは罵ってきた。
けれどなぜ罵られるのか分からないイングラムもまたムッとしてしまい、
再びクォヴレーの手を掴んで触れさせようとする。

「・・・ひっ!」
「自分勝手で・・強欲・・?ふん、そうかもな」
「や、やめっ・・・」
「だからこんなことも平気で出来る・・・」
「・・・あっ」

イングラムは掴んでいた手を放すと、
今度はクォヴレーの下肢に手を伸ばした。
布越しにその場所を捉えると慣れた手つきでチャックを下ろし、
下着の隙間から目的の物を取り出した。

「・・・んっ・・・」

ギュッと目を瞑り、その羞恥にクォヴレーは耐える。
部屋が暗いのがせめてもの救いだ。

「嫌いな男の手でも扱かれれば感じるらしいな・・・?」

イングラムの指が兆しはじめていたものに絡みつき、
上手い加減で刺激を与え始めた。

「あっ・・・・」

小さく息を乱し、クォヴレーはその手を払いのけようとする。
けれどそういった刺激としばらく無縁であった為、
身体は直ぐに快楽に降参した。

「イきそうだな。嫌いな男の手でイかされる気分はどんなだ?」
「・・あぁ・・・あ、あ・・」

全身が小刻みに震える。
恐怖と、快感とが鬩ぎ合い言うことを聞いてくれない。
だから途切れ途切れにしか言うことが出来なかった。

「・・・きら・・・ない・・・にが・・・けだ」
「・・・・なに?」

だがあまりにも舌足らずで途切れ途切れだったので何を言っているのか分からなかった。
イングラムは顔を近づけて、もう一度、と命令した。

「だ、・・だか、ら・・・」

顔面を両手で覆いながらクォヴレーは無意識に腰を揺らし始める。
怒っているはずなのに、嫌われているはずなのに、
なぜかイングラムの手つきは優しい。
優しすぎて気持ちがいい。
・・・だから思考が真っ白になってしまう。
けれどカラカラの咽を一度上下させ、もう一度口を開く。
はやくこの場所から逃れたい。
その一心だった。

「・・・嫌い・・じゃ・・・苦手・・な・・だけ・・だ」

今度ははっきりと言うことが出来た。

「苦手=嫌い、だろう?」

イングラムの手の動きは止まらない。
クォヴレーは顔を横に振りながら答えた。

「違う・・・苦手、は・・=・・怖い、だ・・・」
「・・怖い?」

今度はコクンと小さく頷いた。
顔から手を話し、涙を浮かべた顔は既にグシャグシャだった。

「・・・・似すぎていて・・苦手・・だ」
「似すぎていて?」

誰に、とは問わなくても分かった。
あの男に違いない。
オリジナルであるイングラムに対して異常なほど執念を燃やしていたあの男。

「・・・キャリコ、は・・苦手・・だった。
 ・・・怖い・・・あの燃えるような・・見定めるような・・目が怖かった」
「・・・・・・」
「・・・あの目と・・・イングラムの目は・・同じだ。怖い」
「なるほど・・・」

チッとイングラムは舌打ちをした。
その行動は彼らしくなく一瞬キョトンと見上げてしまうクォヴレーだった。
彼はそんなことしなかった。

「どれもこれも裏目だったわけだ。
 では俺はどうしたら良かったんだろうな?
 ・・・優しく微笑んで、見守っていれば良かったのか?」
「・・・・・・」
「だがそれは俺の性分に合わない・・・。怖いといわれようがだ。」

クォヴレーの高ぶりから手を放すと、
イングラムは何かを考えているようだった。
そして足の裏に腕を差し入れるとそのままお姫様抱っこをした。

「!!」

大きな一歩で部屋に備え付けの仮眠室のドアを勢いよく開け放つ。
突然の出来事に硬直しているクォヴレーを優しくベッドに下ろすと、
顔を近づけてそっと唇を寄せた。

「・・・・んっ」

キスに顔を背けて拒むクォヴレー。
けれどイングラムは逃れた方へ顔を移動させ、また唇を優しく合わせた。

またクォヴレーが逃げる。
イングラムがその後を追いかける。



何度か繰り返したのち、疲れたのかクォヴレーは諦めたように唇を受け止めた。
触れ合うだけの軽いキス。
触れ合うことに慣れてきたのを見届けると、
イングラムの大きな手はクォヴレーの頭を固定しより深く合わせ始めた。
舌先で唇を突き、舐め、ゆっくり舌を滑り込ませる。
驚いたクォヴレーの身体が大きくすくみ上がるが、
なれた大人のテクニックの前に直ぐに息は乱れ始めていく。

「・・・ふぅ・・・ん・・・んー」

鼻にかかった甘い声。
どうやら上顎を舐められるより、
歯列の後を舐められるのが気に入ったらしい。
けれども舌と舌を擦り合わせる行為が一番らしく、
物覚えのよいクォヴレーは直ぐにテクニックを身に付けた。

クォヴレーの手を取り首に回させる。
抵抗はされなかった。
イングラムはキスをしたままクォヴレーの下肢に再び触れた。
するとキスに夢中になっていたクォヴレーが頭を振りキスを振り払うと、
縋るような目でイングラムを見上げた。

「・・・どうした?気持ちよくないのか?」
「・・あ・・・、だ、だが・・その・・・」
「ん?」

穏やかな笑みが珍しいのかクォヴレーはおどおどしている。
そんなに自分は怖いのか?と言いたくなったが、それは逆効果だともう悟っている。
強引、はいいが、怖い、はNGなのだ。
どうした?と耳元で優しく囁けば、ビクッと揺れた身体がのどから搾り出すように叫んだ。

「初めてなんだ!それ以上はしたことがない」
「初めて?」

まさか・・という面持ちで顔を覗き込めばそれが嘘じゃないと直ぐに分かった。
だが納得は出来ない。

「・・・・キスには慣れているのに、か?」

物覚えがいいだけではあそこまで上手くないはずだ。
誰かしらとなんらかの経験があったのだろう。

「キスは・・・してたんだ!」
「キス『は』?」
「・・・それ以上は・・・お互い・・・その・・・進めなくて・・・」

モジモジと身体を捩り真っ赤になっている。
キスの相手はおそらくあの男だろう。
クォヴレーはしきりに似ているから怖い、と言っていた。
キスはしていてもそれ以上は進めなかった二人。
射る様な視線。
むき出しの嫉妬・・・・。
けれど手を出せない自分。



・・・・それらが『アイン』に恐怖を植えつけていたとしたら?
イングラムはニッと笑って軽く唇を吸い上げた。


「・・クォヴレー」
「え?」
「お前は俺と奴が似ているというが早くも違う部分を見つけたぞ」
「・・・・え?」

イングラムの手がクォヴレーの手を取り自分の高ぶったものに触れさせた。

「っ・・・!!」

そしてイングラムはクォヴレーのものを再び掴む。

「俺は奴と違ってヘタレではない。手をこまねいて他人に奪われたりはしない」
「・・・・な、何の話・・・うっ・・・あっ・・」

イングラムの指がくびれの部分を擦った。
背を仰け反らせ喘ぐクォヴレーの口に野性的なキスがふってきた。


「んーーっ」


荒々しく唇と下肢を弄られクォヴレーの身体がビクビク震えベッドが軋む。
そして唇が離れると涙が溢れているクォヴレーの瞳にキスをしながら手を動かしように指示を出す。
同じように動かせ、といえば、素直に同じように手は動き、
イングラムは眉根を寄せて息が乱れ、そのままクォヴレーの耳元で囁いた。

「俺はヘタレじゃない。手を拱いたりなどしない。
 だが初めてなら徐々に慣らしていこう。
 今日は互いに触れ合うだけ、明日は後の蕾を解し、
 そして明後日は・・・・・・」

耳元で囁かれた言葉にクォヴレーは全身が震えた。

「一つに繋がったら最高の快楽を教えてやる」
「・・・ん・・・ふぁ・・・・」

涙目で顔を左右に振る。
けれどイングラムは高慢な笑みを浮かべながら
再び激しく唇を貪ってきた。
そして手つきが忙しないものになり、クォヴレーも同じように手を動かした。
合わさった唇の端から沢山の唾液が流れていく。
クォヴレーの身体が一瞬大きく仰け反り、目も大きく開かれた。
腰がビクビク震え吐精すれば、低く呻いたイングラムも最後の時を迎えたようだった。







このあと、気を失うようにクォヴレーが眠ってしまったので、
イングラムは一人でミーティングルームに向った。
けれどミーティングを終え、部屋に戻ってくるとベッドはもぬけの殻だった。
翌日、気分を害したイングラムが部屋にクォヴレーを呼びつけると
相変らず全身から「苦手オーラ」を放っている。
・・・可愛くない、それが率直な感想。
だがイングラムはもう知っている。
少しづつ違う部分を教えていけばクォヴレーの態度が変わっていくことを。

「(今日はゆっくり優しく中を開発してやる。そして明日は・・・・)」

ライオンがゆっくりと震える子猫に近づいていく。
鋭い爪をむき出しにして威嚇している。

「(すぐに爪を引っ込めさせてやる)」

細い顎を捉え上を向かせる。
綺麗な瞳が大きく揺れた。


一目見たときから運命のようなものを感じていた少年を、
イングラムはどうやって奪ってやろうか・・・、
楽しくて楽しくて無意識に怖いくらい優しい笑顔を向けるのだった。
 


・・・・つづく



有り難うございました。 イングラムを滅法鬼畜ないやな奴にしてみました。 まぁ、イングラムとしては出会ったときから手に入れようと画策していたんですが、 クォヴレーは怖がって逃げていたんですよ。 で、焦れたイングラムがあれこれ・・・と、というお話です。 続いても三回です。