*パラレル*
〜彼らの正月〜
「・・・?・・・ぅ・・・ん・・・?」
カーテンから差し込む眩しい朝日にクォヴレーは目を覚ました。
目線の先には綺麗に筋肉のついた逞しい腕が見える。
自分が枕にしていたためか、少しだけ痺れているようで、
指の先がピク、ピクと運動するように時々動いているのようなので、
この腕の主、イングラムは既に御起床しているようだ。
その証拠に腕に絡まっているもう片方の彼の腕が、
クォヴレーの身体を彼の方へと引き寄せた。
「・・・おはよう。良く寝ていたな?」
クスッと笑う気配とともに、
上体を起こしたイングラムが頬に唇を寄せてくる。
クォヴレーは眉間に皺を寄せ、ムスッとした声で答えた。
「おかげさまでな!」
良く寝ていた、とどの口がいうのだろうか?
クォヴレーは腹が立ってしょうがない。
それというのもこれというのもイングラムが元旦の昼間から、
夜中にかけて『激しい運動』を仕掛けてきたせいなのだから。
「オレは正月番組がつまらないから何か楽しいことはないか?
と、聞いたんだぞ!?それなのに・・・・・」
そう怒鳴るクォヴレーの声は少しだけ掠れている。
「だ・か・ら、詰まらなさそうなお前のために気持ちのいいコトをしたんだろ?」
ふふん、と満足そうに答えるイングラムに、クォヴレーはジロッと睨む。
「オ・レ・は!楽しいことはないか?と聞いたんだ!
決して『気持ちのいいコト』がしたいとは言っていないぞ??」
「気持ちのいいコト=楽しいこと、だろう?」
「・・・っ」
はぁ・・とクォヴレーはため息をついた。
この男には口でも体力でも・・・全てにおいて敵わないのだ。
張り合うだけ無駄、自分が疲れるだけだ、と自身に言い聞かせ、
せめてもの意地で命一杯恨みがましく、
「・・・お腹減った」
と訴えた。
すると心得たようにイングラムは笑顔で頷き、
脱ぎ捨てた衣服を羽織ってベッドを降りた。
「そうだな。元旦の昼から何も食べていないからな・・・。
・・・雑煮でも作るか?餅は大丈夫だな?」
「もちろん!イングラム・・・」
「ん?」
クォヴレーもベッドから起き上がり、
ボタンが何個か飛んでしまっているシャツを羽織りつつ、
更にリクエストを口にした。
「雑煮の種類は『関東風』がいい!」
「・・・関東・・?かつお風味だな・・・了解した」
「それでご飯を食べた後は初売りに行こうな?」
「初売り・・・?ああ、今日からか・・わかった」
クォヴレーの後頭に手を添え、触れるだけのキスをして了解と答えると、
イングラムは先に部屋を後にした。
後に続こうとベッドを降りたクォヴレーは少しだけ顔を顰め、
ノソノソと少しだけ変な足取りでとりあえず洗面台へ向かうのだった。
「・・・うわぁ・・・、人、人、人だらけ。・・・すごい・・・」
目を瞬かせ、白い頬を高潮させているクォヴレーの腕を微笑みながら引っ張っていく。
「人が多いから迷子になるなよ?」
小さな子に言い聞かせるように手を差し伸べれば、
「わかっている」
と、少しだけムッとした様に答えるクォヴレーだが、
差し出された手はいつもなら跳ね除けるが、人が多いから繋いでもわからないと踏み、
今回は素直に繋いで店の中へと足を踏み入れていく。
「折角来たんだ、福袋でも買っていくか」
「・・・・フクブクロ??」
日本の正月を初めて迎えるクォヴレーには意味不明な単語であった。
首を傾げていれば、すかさず説明を始めてくれるイングラム。
「大きな袋に沢山の品物が入っている袋だ。
通常、1万〜3万位で売っている。
1万だと5万〜10万相当の商品が入っているからかなりお得になっている、
・・・・・と、言われている。
俺も買った事はないから実際は分からんがな」
「・・・へぇ・・?」
「種類は服が一般的だが、他にも電化製品とかもあるらしいぞ?」
「ふーん?」
説明を受けるクォヴレーの目が段々キラキラ輝いてきているので、
イングラムは微笑を浮かべてある福袋を指差した。
「・・・試してみるか?福袋」
「いいのか?」
クォヴレーはお金を持っていないので、
何かを購入する時は当然ながらイングラムがお金を出すことになる。
なので申し訳なさそうに遠慮がちに「いいのか?」と聞いてくるクォヴレーに、
気持ちよく「いいぞ」と返事を返すと、
二人は「当たり」を手に入れるため、見えない福袋と数分戦うのだった。
買い物を追え、帰路に着いた時は18時を軽く越していた。
自宅に帰ってくるなり二人はリビングでグッタリとしていたが、
疲れた身体に鞭打ち、購入してきた福袋を早速開ける二人。
「こっちはLLサイズ、俺のだな。
どんなものが入っているのか・・・・・」
ハサミで上部を切り、早速中身を取り出していく。
けれどこのあと二人はある重大な事実に気付くのだった。
・・・・自分達は「標準」ではないという事実に。
リビングには苦笑を浮かべて空笑いの二人がいる。
「・・・そうだった。俺は・・俺たちは普通サイズは駄目だったのだな。
正月気分で浮かれて忘れていた」
咽で笑っているイングラムに対し、クォヴレーは唇を噛み締めていた。
そう、イングラムは「大男」なので、LLサイズの服も「小さい」のだ。
そしてクォヴレーは身長こそ「標準」であるが、
いかんせん「細い」ので福袋に入っているモノのウエストのサイズが合わなかったのである。
「・・・ソレ、デザインはイングラムに似合っているのに、
袖がツンツルテンでみっともないな・・・・」
「そうだな。そのズボンもクォヴレーに似合っているが、
ベルトを締めてウエストを調節するとデザインが崩れてしまう」
はぁ、とため息の二人。
「・・・でもイングラムのトレーナーとかは、
オレが家の中で着るから無駄にはならない・・・・ぞ?」
「・・・クォヴレーには多少大きいが・・・まぁ、寝巻きには丁度いいか・・・。
だがお前のズボンは・・・・ウエスト、詰めて履くか?」
けれどクォヴレーは残念そうな顔で頭をプルプル振ると、
「そんなことをすると折角のデザインが崩れてしまう。
残念だがアラドにいるかどうか聞いてみる。
いらないといわれたら・・・施設にでも寄付しよう」
と案を出すのだった。
イングラムにその意見を反対する気は内容で、小さく頷きを返すと、
いるもの、いらないものとを仕分けしてリビングの片隅にとりあえず置くのだった。
その後、二人は朝食べた雑煮の汁でうどんを食べ、
デザートに栗きんとんを食べ更に正月を堪能した。
そして、夜、ベッドの中・・・、暗闇の中、ひと運動を終えた二人は、
たわいないさわりっこをしながら「正月」について語り合う。
「初めての正月はどうだ?クォヴレー」
サイドテーブルにおいてあったウイスキーを口にしながらクォヴレーの頬にキスをする。
クォヴレーは口移しで少しだけウイスキーを貰い、頬を赤らめながら答えた。
「雑煮も御節も美味しいし、福袋では社会勉強もできたから良かった。
・・・・イングラムは?オレとの正月は楽しいか?」
すると切れ長の目が更に細まり、ウイスキー味のキスが軽く落ちてきた。
・・・・カラン・・・、と氷の音がキスの音と一緒に暗い部屋に響く。
チュッと音を立てて下唇を名残惜しげに啄ばむと、
そのまま咽仏にキスを移動させていく。
「・・・・ぁ・・・」
キシキシ・・・と小さく揺れるベッド。
イングラムの手に合ったグラスはいつの間にかテーブルの上にあり、
グラスのなくなった手でクォヴレーへの愛撫を再開した。
俗に言う二回戦の始まりのようである。
「イ・・、イングラム・・・・っ」
・・・・その優しい愛撫はまるでクォヴレーの質問に対する答えのようで・・・、
もどかしい位に優しく、ゆっくりとクォヴレーを堕としていく。
こうして彼らの正月は過ぎていくのだった・・・・。
有り難うございました。
ブログにUPしていたものです。
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