見限られて気付く想い
 


*パラレル*







チクッ・・・と何かがささった、まさにそんな感じだ。

『オレは酷い男だぞ』

あの言葉は謙遜ではなく真実だったのだと思い知る瞬間。
ドアの外から見る中睦まじい男女の姿。
キュッと唇を引き結び、人形のような表情でクォヴレーはその場を後にした。






〜許容範囲 前編(クォヴレーサイド)〜





「別れる?」

不機嫌な顔と不機嫌な声で椅子に腰掛けたまま男は言葉を繰り返した。
射抜くようなまっすぐな視線。
その視線に負けそうになりながらも、
クォヴレーは大きく頷きはっきりともう一度言った。

「ああ、別れて欲しい。・・・終わらせたいんだ」

だがクォヴレーの訴えに男は咽で笑うと、簡単に退ける。

「そう言われて俺が、はいそうですか、と納得するとでも?」

男の、イングラムの言葉に今度はクォヴレーが不機嫌な顔になった。
自分以外にも沢山の情人や恋人がいるのだ、
たとえココで自分と切れたとしてもイングラムにとっては痛くもなんともないはず。
なのにどうして素直に頷いてくれないのだろうか?
クォヴレーには理解できなかった。

「(ひょっとして振られるのはプライドが許さないのだろうか?)」

容姿・頭脳ともに端麗でおおよそ欠点のなさそうなこの男には、
「振られる」というのは殊の外「嫌」なものなのかもしれない。
それなら丁度いい、とクォヴレーは冷笑を浮かべて
今一度イングラムを見つめ返した。

「もう冷めたんだ。だからこの不毛であいまいな関係を解消したい」
「・・・冷めた?」

ピクッと形のいい眉が動いた。
そして戦闘の時以外はあまり見せたことのない厳しい表情でクォヴレーを射抜いてくる。
しかしクォヴレーはその視線を真っ向から受け止めた。
冷めた、というのは正しくはないが、あながち嘘でもないからであろう。
事実、イングラムのことはまだ好きであるし、出来るならまだ付き合っていたいのだ。
だが「心」がそれを拒絶している。
「心」がこれ以上傷つくことを避けろと忠告している。
皮肉なことにその「心」を与えてくれたのも「彼」なのであるが・・・。














クォヴレーがまだ「クォヴレー」でない頃。
ただ闇雲に「命令」のみで動く人形であった頃・・・、
「クォヴレー」は彼に出会った。
幾度となく彼と戦った。
仲間は皆宇宙の塵となり、「クォヴレー」も塵となるはずだった。
しかしなんの気まぐれか、
彼にやられもう直ぐ爆発するという期待のハッチが急に開き彼が目の前にいたのだ。
瀕死の状態で薄っすらと目を開くとそこにはたった今自分を落とした人物が立っており、
なぜかホッとしたような顔をしていたのだ。
あの時、イングラムは何かを言っていた。
何だっただろうか?

『・・・一人だけでも助けられそうだ・・・』

確かそんな感じであったが記憶が定かではない。
その後、大量出血の影響で何度か生死の境をさまよったが、
イングラムともう一人彼と面立ちが似ている女性からの輸血により、
「クォヴレー」は一命を取り留めた。
青かった髪の毛が何故か輝くプラチナ色に変化しており、
自分も含め周りの人間も驚いたほどだ。

『お前の名前は?』
『・・・ア・・イン・・・』
『アイン?・・・それはコードネームだろう?他にないのか?』
『・・バルシェム』
『・・・それは通称だろう?個人の名ではない・・他には?』
『・・・な、い』
『・・・そうか』

イングラムはその時痛々しい表情をした。
そして直ぐに小さく微笑むと、
管でいっぱいの「クォヴレー」に囁いてきた。

『ではお前に似合いそうな名前を用意しよう。
 ・・・だから早くよくなれ。』

そういって用意してくれたのが「クォヴレー・ゴードン」という名だ。
なぜクォヴレー・ゴードンなのか、
何度由来を聞いてもイングラムは小さく笑ってはぐらかすばかりであった。
それからクォヴレーは彼の下で働くようになり、
いつしか身体も重ねるようになっていた。
なぜそんな関係になったのかはわからない。
だがイングラムからは今だに「好きだ」と言われたことはないし、
彼が付けてくれた「クォヴレー」と呼ばれたこともないのだ。
いつも「お前」と呼ぶし、関係を持つときもただ荒々しく貪ってくるだけで、
「言葉」の一つも無い。
彼は女性にもてるのか良く並んで歩いている。
女性は彼の腕の腕を絡ませ身体をウットリと寄せながら。
イングラムもまた邪険に払うことなく、女性の歩調に合わせて歩いている。

では自分は一体何なのか?
「名前」を呼ばれたこともないし、優しく抱かれたこともない。
そう考えた時、今まで堪えていたものがプツッと切れなんだか疲れてしまったのだ。

















「・・・冷めた、か。昨夜あんなに腕の中で乱れていたのに?」
「!」

酷い言い草にカッと頬を染めた。
イングラムはわかっているとしか思えない。
本当は彼のことが好きでたまらなく、別れたくないということを。
そう思うと無性に虚しく、さらに意地になるしかなかった。

「そんなこと関係ない!
 とにかく冷めたんだ!もう別れる!!」

啖呵を切ってイングラムの部屋をにあとする。
そして部屋のドアを閉めるのとほぼ同時にその声は聞こえてきた。



「・・・好きにしろ」


・・・・と。
















別れを告げてから1週間経った。
時々イングラムの視線が痛い時があるがそれ以外はごくごく静かな日常である。

一仕事終え、昼食のため食堂へ向かうと中は酷くごった返していた。
クォヴレーは食欲がないこともあり、
セットメニューではなく単品でバターロールとコーンスープをオーダーし、
一番人目のつきにくい端っこの席に腰をかけた。

一人で食事をするのはなれている。
時々歳の近いアラドやゼオラがクォヴレーを見つけて一緒に食べたりするが、
今いないところを見るとどうやらまだ食堂にはきていないらしい。
口下手で無表情おまけに元敵であるクォヴレーに
好き好んで近づいてくる人間も少なく、
イングラムと別れてからというもの、
ほとんど誰とも口を利かない、という日も多くなかった。

パンをちぎり口に入れたとき、なんとなく視線を感じて斜めの席を見てみた。

「・・・・!」

そこには沢山の人に囲まれたイングラムが居り、にこやかに会話をしている。
クォヴレーの視線に気付くと、
周りに誰もいないことをあざ笑うかのように小さく黒い微笑を向けてくる。


「・・・・っ」

口に入れたパンを咽につかえさせながらなんとか飲み込む。
だがそれ以上は堪えられなくなり、
結局パンを一欠けら食べただけで食堂を逃げるように後にするのであった。









部屋へ戻るとヨロヨロとベッドに崩れ落ちた。

「・・・疲れた・・・」

久々に発する声は少しだけ掠れており、疲れを感じさせている。
それでもクォヴレーは重たい身体を起こし、
ジッと自分の部屋を見渡した。

ベッドと机以外何もない部屋。
毎日決まった時間におき、決まった仕事をこなし、決まった時間に寝る。
別れてから人間と話すことも減ったし、楽しいと思えることもない。

「・・・これではあの頃と何も変わっていない。
 ・・・・かわったとすればあの頃はそれでも平気だったのに、
 今はどうしてか胸が痛いということだ・・・・。」

クォヴレーはゆっくり目蓋を閉じる。
熱くなった目蓋から一筋の雫が落ち、シーツを静かに濡らしていくのだった。

















ズクン・・・と甘い痺れが身体を走った。
身体は何かに押しつぶされているかのように重く、自由に動かす事が出来ない。
頬にザラリとした何かが触れ、慰めるようにそのまま目蓋をこじ開けてくる。
そしてたまらない気持ちよさが下半身から駆け上がって来るのだった。

「あぁっ・・・!」

悲鳴のような自分の嬌声に、ハッとクォヴレーは目を覚ました。
すると目の前に自分を組み敷いたイングラムが汗を滲ませながら、
巧みに腰を動かし、クォヴレーの身体を支配しているのだった。

「やっと、目を覚ましたか」

フッとわらい嫌らしく腰を動かしては強く突き上げてくる。
甘い疼きに悲鳴を上げクォヴレーは背を撓らせ、
今起こっている現実を必死に考えようとする。
だがそんな暇は与えないとばかりに
イングラムはより一層動きを激しいものに変えていく。

「あぁっ・・・くぅ・・んっ・・・あっ・・あっ」

硬く質量のある先端が容赦なく中にある最も敏感な部分を何度も抉り、
クォヴレーから考える力を奪っていく。
組み敷くイングラムは愉快そうに笑いながら、そっと耳元で囁いてきた。

「・・・イきたいか?」

握り込むように性器に手が触れ、扱かれる。
中も外も犯されクォヴレーは魚のように身体をビクビクさせて喘ぐしかなかった。

「あぁ、・・・あっ・・・も・・・出・・・」

しかし快楽に支配され、全てを見に任せようとしたその時、
快楽を解放する性器の根元が強く圧迫されそれを阻んでくるのだった。

「あぁぁぁ!!!」

クォヴレーは目を見開き大きな悲鳴を上げて身体をバタつかせる。

「い、痛い!!あ、・・放して!!」

解放をせき止められた性器はくっきりと血管が浮かび、
真っ赤に充血していた。
クォヴレーは頭を大きく左右に振り、目から大粒の涙を溢れさせている。
イングラムはその様子を同情に満ちた顔で見下ろしながら、
ゆっくりと口を開き始めた。

「・・・さて、『好きにしろ』という言葉の通り、
 1週間お前を好きにさせていたが・・・考えは変わったか?」
「!!?」

快感をせき止められている拷問に耐えながらクォヴレーは目を見開いた。

「まぁ、聞くまでもないようだが・・・、大分人肌が恋しかったようだし?」

そういうとイングラムは人差し指の腹で、性器の小さな孔をグリッと押し開いた。

「ひっ!!」

白い身体を仰け反らせクォヴレーは口をぱくつかせる。
すぎる快感は拷問でしかない。
それが分かっていてイングラムはわざとそうしているのであろう。

「ココも・・・」
「ひぁ!!」

数度、繋がったままであったモノが中を強く突き上げてきた。
圧迫感にクォヴレーは涙で頬を濡らしていく。

「貪欲に俺を掴んで放さない・・・。恋しかったのか?」
「ふぅ・・・ん、く・・・ひ、酷い・・・」
「酷い?」
「酷い!酷い・・こん、な・・あっ・・あ!止めッ!!うごかなっ・・」
「俺が酷い男だというのは最初に言ってあっただろう?」

イングラムは性器の根を抑えたまま、
中の敏感な部分を何度も苛み始めた。
解放できない性器からはトプトプと先走ったものが溢れ、
イングラムの手をドロドロに濡らしていく。

「それに今回に限っては酷いのはお前だろう?
 かってに別れ話を持ち出してきて・・・・、
 そのくせいつも俺を物欲しげに見つめてきていた」
「う、嘘、だ!・・・っ・・!」
「まぁ、かまわん。我侭の一つや二つ聞くのも男の嗜みだ。
 別れたいなどと・・本当に可愛らしい我侭だ。
 だが言っていい我侭とそうでない我侭があるということを、
 今夜はたっぷりと教えてやろう・・・その寂しがりやな身体に、な」

イングラムの瞳の奥に獣じみた光が見て取れた。
そのあと性器は勿論腕も足も戒められクォヴレーはさんざん啼かされ貪られた。
まるで1週間のウサでも晴らすかのようなそんな抱かれ方だ。
そうして何度も言わされる。

『別れたいというのは嘘です』


・・・・と。








体中に温もりを感じて重たい目蓋をあけると、
クォヴレーはイングラムに抱きくるめられる形で眠っていた。
思えばイングラムと同じベッドで朝をむかえるのは初めてかもしれない。
いつも彼のほうが先に置き、シャワーも着替えも済ませてしまっているからだ。
だが酷い仕打ちを受けた昨日今日ではあまり嬉しくはなかった。
クォヴレーは身体をモゾモゾさせてなんとか腕から逃れると、
ベッドから抜け出そうとした、が、どういうわけかベッドから抜け出せない。

「・・・・っ、???」

不振に思い振り返ると、目を覚ましたイングラムがクォヴレーを凝視していた。
そして逃がさないように足をクォヴレーの足に絡め、
ベッドから出るのを阻んでいたのだ。

「・・ぁ・・・ぁ・・・」

逃れたい一身で小さく頭を振りながら足をバタつかせる。
咽がヒリついていて声もうまく出せない。
そんなクォヴレーを不機嫌そうな目で見つめながら、
イングラムはおもむろに脱ぎ捨ててあった自分の上着から何かを取り出した。
そして逃げるクォヴレーの顎を片手で捕まえると、
乱暴に口を塞ぐのだった。

「んっんーーー!!」

最初は必死に抵抗していたが、
イングラムの口から甘い味のするものが流れてくると、
ピタッと抵抗を止め驚きの表情で移ってきたそれを飲み下した。

「・・・・・」

唇が離れたのでトロンとした目つきで彼の手を見てみれば、
そこには健康補助食品として有名なチューイングゼリーを持っていた。

「・・・昼もほとんど食べていなかったし、
 昨夜はセックスのし通し・・・、咽も痛そうだったから丁度いいだろう?」

イングラムは再びゼリーを口にすると、
クォヴレーの後頭部を固定して今度はゆっくりと口を塞いできた。
生ぬるいゼリーがイングラムの唾液とともにクォヴレーに流れてくる。
口移しも、一緒にむかえる朝も、何もかもが始めてである。
クォヴレーの目には涙が溢れゆっくりと頬に落ちていった。

「・・・・!クォヴレー?」

いきなり泣き出したのに驚いてイングラムは口を離してクォヴレーを覗き込んだ。
するとクォヴレーの目からは次から次へと涙が溢れては頬を伝っていた。

「・・・っ・・、すまない・・・こんな・・オレ・・女々しい」
「・・・・・」
「嬉しくて・・・」
「嬉しい?」

しゃがれた声で頷くクォヴレー。

「名前・・・初めて・・・」
「!」

イングラムは目を見張る。
クォヴレーが何を言いたかったのか、瞬時に理解できなかったのだ。
何を言えばいいのかわからない、
分からないから黙っていたら、クォヴレーは諦めたようにそっと目を閉じた。

「(所詮この男には理解できないんだ・・・。
 期待するだけ馬鹿というものだ・・・。)」


そしていつの間にか脱がされ床に散らばっているシャツを羽織ると、
ゆっくりベッドから起き上がった。

「クォヴレー!?」

名前を貰ってからもう一度名前を呼ばれる。
二度目だ。
クォヴレーは複雑そうな顔でイングラムを振り返る。

「別れる、という気持ちにかわりはない」
「!?」

イングラムの表情が険しくなった。
舌打ちをし、何も羽織らないままベッドから起き上がり、
クォヴレーの腕を容赦なく捉えた。

「まだ、そんなことを言っているのか?
 この身体で?あんなに俺に乱れておきながら別れるだと?
 夕べ散々別れないと誓ったのに?我侭も大概にしないと・・・・」

凄むイングラムの声は表情とともに厳しいものに変わっていく。
しかしクォヴレーにだって意地がある。
このままズルズルと愛人のようにただ抱かれる存在にだけはなりたくない。

「大概にしないとどうするんだ??」
「!」
「・・・・オレだって心がある!お前の言動にどれほど・・・・!」

そこまでいうとハッとなり自分の口元を捕らえられていない手で押さえた。

「・・?何を言っている?」
「・・・なんでもない。
 とにかく!もう疲れたんだ!お前とはやっていけない。
 ・・・・イングラム、貴方の心が見えないから・・・・辛いんだ」
「だから何が言いた・・・!!くっ」

クォヴレーは力の限り掴まれた腕をなぎ払うと、
バスルームへ逃げ込むのだった。
イングラムに、

「出て行ってくれ!二度と近づくな!」

と、履き捨てながら。


有り難うございました。 続きはイングラムサイドです。