〜苦悩(中編)〜
『キャリコ!どうしてだ!!?』
有無を言わさずアインの腕を掴むと、
狼の中へ押しやり扉に鍵をかけた。
中からアインの悲痛な叫び声が聞こえる。
ドアをドンドン叩き、しきりに俺の名前を呼んでいる。
・・・・悲鳴が一層大きくなった。
・・・やがてそれはすすり泣きへ変り・・・、
・・・小さな喘ぎと変っていく。
やがて物音が聞こえなくなって扉を開けた。
すると入れ替わるように数人の男達が
乱れた衣服のまま部屋を出て行く。
中に取り残されたアインはまるでボロ雑巾のようで・・・。
あの日からアインの俺を見る目は変わった。
尊敬も信頼も憧れも・・・懐きすらもなくなり、
侮蔑のこもった冷たい目で俺を見つめてくる。
仮面の下からでも分かるくらいに寒々しいものだ。
一度行為が終わったあともアイン達はまた交わり始めた。
それ以上は見ていられなく、
俺はアインの視線から逃れるようその部屋のドアから離れる。
あの時と同じ部屋の外でひたすら『行為』が終わるのを待った。
あの時と違うのは部屋の外ではあっても、
俺は隣の部屋で『音』がやむのを待っている。
やがて音が消え隣のドアが開く音がすると、
そっとドアの外からのぞきこむ。
二人が部屋から出てきた。
相手をしていたバルシェムが去っていく。
だがアインはしばらくその場に立ち尽くし、
やがてゆっくりと俺がいる部屋へ近づいてきた。
「・・・・!」
思わず息を呑む。
俺たちバルシェムは互いの存在を分かり合うことが出来る。
当然、アインにもあのバルシェムにも俺の存在は分かっていたのだろう。
アインは小さく開かれた扉の間から俺がいる部屋を除き、
俺の姿をその目で捉えると・・・恐ろしく冷たく笑った。
「あの時も、任務中も、今も・・・キャリコは立ち聞きが趣味か?」
「・・・・・・」
小さく開いていた扉を強引に開け、
アインは部屋の中へ入ってくる。
肌蹴た胸元から除く乳輪は赤く腫れあがっている。
・・・その姿に思わず目が眩んでしまう。
「・・・趣味なわけではない」
「・・・ふぅん」
アインがゆっくり俺へ近づいてくる。
「用があってきたらお前達がいたんだ。
だがら邪魔をしないようとりあえずこの部屋にきたまで」
我ながら苦しいいいわけだ。
本当は抱かれて乱れるアインから、
のぞいている俺を視線で捉えるアインから目が逸らせなかったというのに。
「キャリコ、怒らないのか?」
「怒る?」
「あんな場所で如何わしい行為をしていたんだぞ?
ゴラー・ゴレム隊の隊長様は怒らないのか?」
「・・・・怒、る・・・」
俺は言葉に煮詰まってしまう。
アインをあんな世界へ引きずり込んだのは紛れもない俺だ。
そしてアインもまた『生きている』生き物だ。
時に人肌恋しくなり・・・・性欲がわくときもあるだろう。
そんな感情をどうして怒れるというのだろう・・・・。
「・・・場所は問題だが・・・俺には怒る理由がない」
「・・・理由が・・・ない?」
仮面をしていないアインの顔が一瞬・・崩れた。
そして次の瞬間、仮面をしていない俺の頬に痛みが走る。
アインに頬を張られたようだ。
見ればアインの体はフルフル震えて眉はつり上がり、
・・・・そして悲しそうな顔をしていた。
「・・・・!」
思わず息を呑む。
アインが俺に抱きついてきて、
俺たち二人はそのまま床に倒れこんでしまったからだ。
「お前は酷いヤツだ」
「・・・・アイン?」
「あの時もオレは期待していた。
でもお前は平気でオレを・・狼の中へ放り込んだ。
さっきだって・・・・怖い顔でオレ達を見ていたというのに、
『理由がない』とオレを切り捨てる」
アインの手が俺の頬に触れる。
白くツルツルの頬が俺の頬に触れ、
そのまま首筋に顔を埋めてきた。
「お前は酷いヤツだ・・・期待させるだけさせておいて、裏切る」
「アイン・・・」
その時本当に無意識にアインを力強く抱きしめてしまっていた。
「・・・っ、キャリ・・・」
「アイン・・・俺は・・・」
アインの頬に両手を添え、顔を覗き込む。
アインもまた俺の頬に今一度手を添え俺を覗き込んできている。
顔をアインの顔へ近づけていく・・・。
そして唇が触れる直前に、
「・・・そのキスはなぜするんだ?」
と、聞いてきた。
「アイン?」
「お前にとってオレは・・・どういう存在だ?
どうしてキスをしようとする?
・・・・お前もオレのことを・・・・好・・・・ん・・・」
だが俺は全てを言わさせないまま、強引に唇を奪っていた。
あとからその軽率さをのろう羽目になるとは思いもせずに。
「ん・・・キャ・・リ・・・ふ・・・」
「・・・アイ・・・ン・・・・・・」
濡れた音が響く。
アインの口の中へ舌を差し込むと、
本能のまま唇を堪能していく。
俺に応えるアイン。
・・・だが、気のせいだろうか?
アインのキスはどこかぎこちない?
熱く、熱く、キスを交わし続ける。
絡み合い擦りあう舌と舌からだんだん官能が生まれ始め、
下肢に覚えのある疼きが広がっていく。
細い体を折ってしまうくらいの力で抱きしめ、
アインの服に手をかけた・・・その時。
「・・・・っ!!」
頬に痛みが走った。
またアインに殴られたようだ。
だが、何故???
わけが分からずアインを見下ろせば、
その顔は何故か悲しそうで・・・・・。
「・・・やはりお前、オレを・・・・」
「????」
自分の口をぐいぐいと手の甲で拭い、
アインは俺を睨んでくる。
そして先ほどまで官能を生んでいた唇で信じられないことを言うのだった。
「オレは性欲処理機ではない!!」
「・・・なにを」
何を言っているんだ?
キスをしただけだろ???
アインが分からない。
キスだけでなぜ性欲機械になるんだ???
疑問を解決する為にアインの腕を掴んだが、
それは直ぐになぎはわれ、アインは床に膝をついた。
「・・・アイン?」
「・・・熱くなっている」
「!」
しまった、と思った。
確かにいきなりキスを仕掛け、
その間にココをそんなにしていれば誤解されても仕方ない。
おまけに俺は先ほどまでアインたちの行為をのぞいていたのだから。
『好き』とも『愛している』とも言っていない。
・・・いや、言えないだけなのだが。
とにかく何一つとして伝えていない俺が、
いきなりキスをして下半身を膨らませていれば誤解されて当然だ。
なぜなら俺はアインに体を使った任務をするように命じた男なのだから。
「オレがセックスしているのを見てお堅い隊長様もしたくなったのか?」
「・・・それは・・・」
『違う』とはいえなかった。
俺はずっとアインを・・・・・・抱きたかったのだから。
だが抱けない。
好きとも言えない。
それは俺が隊長であり、アインが部下であり・・・、
なにより俺たちはただの戦闘マシーンにすぎないからだ。
部屋に濡れた音が響く。
俺は口に手をあて、もう片方の手はアインの頭におき、天井を仰いだ。
ズボンのから性器だけを取り出したアインは、
切なげに眉を寄せてソレを・・・・舐めている。
棹を舐めては先端から徐々に口内へ含んでいき、そのまま頭を前後させる。
時折チュッと音を立てて性器を絞られ、俺の背筋はゾクゾク快感が走りわたった。
・・・限界だ!
アインの髪の毛を毟り掴み、本能のまま腰を使い始める。
「んっ・・・く・・・んっ・・・」
苦しげなアインの声。
それにはお構いなしに俺は性器をアインの口の中で出し入れを繰り返す。
舌のザラつきに擦られ、アインの咽をつき、
唇に擦られ脈打つ性器はもう欲望を放つ一歩手前だった。
アインは俺の性器の根元に手を置く。
そして後の膨らむをあやす様に愛撫を施してきて、
俺は更に限界が近づいてきた。
どうする?
・・・飲ませるか?
それとも・・・かけるか?
迷っているとアインが先に行動をした。
俺が腰の動きを止めた一瞬の隙をつき、
最も感じる先端の穴に舌を差し込んできて、そのまま吸い付いてきたのだ。
「・・・・くっ・・・アイン!」
「ふぁ・・・・んく・・・」
強引にアインの口の中を何度かいったりきたりさせる。
そして大きく膨れ上がり、ソレは弾けた。
「んーーーー!・・・ふ・・・・」
断続的に射精する。
あらかた出し終えると、アインはゆっくり口から性器を引き抜いていく。
アインの舌と俺の性器に透明な糸が出来たとき、
俺は最後の射精をアインの顔に出した。
「・・・んっ!」
「・・・アイン」
ピチャッと額に白い液体が飛び散った。
二人分の荒い息が部屋中に広がる。
・・・もう、後戻りは出来ない。
精液で汚れているアインの額を撫でる。
俺の射精を受けとめ呆けているアインの瞳が小さく揺れた。
身体がまだ熱を求めている。
後戻りは出来ない。
・・・だがここでアインを抱いてしまったらもっと後戻りが出来ないだろう。
小さく揺れるアインの瞳。
俺は熱を持ったままの性器を素早くしまいこむと、
歯を食いしばりアインに声をかけた。
「・・・すまない・・・今はどうかしていた、忘れてくれ」
「!!」
アインの瞳が大きく見開かれる。
今だ冷めぬ熱を持て余したまま、俺はアインに背を向けた。
「・・・あ」
アインは俺に向かって手を伸ばしてきたが、
俺はその手を避けるように身を引いた。
「・・・・愛しているから、抱かない」
「・・・・!」
「愛しているから抱けない・・・。
抱いてしまえばお前はきっと誤解するだろうから何もしない、これ以上は。
だが愛しているんだ、アイン」
何も言わず、俺を見つめ続けるアイン。
「後悔している。信じられないだろうが、俺はいつも胸が苦しい。
性欲処理機だなどと、悲しいことは言うな・・・。
俺のせいなのだろうが・・・、・・・アイン」
「・・・・・・」
アインの頭に手を置き、髪を撫でた。
相変らず少しも動かずアインは俺を見つめ続けている。
「・・・この想いは・・・禁忌だ・・・我々には不要。
だから苦悩する・・・いらないものは打ち捨てねば・・・、
だが愛しい・・・どうしたら・・・いい?」
思いのはけを一気に吐き出す。
するとアインは真っ直ぐな目で答えた。
「・・・・・オレを抱けばいい」
「アイン?」
「禁忌でも、苦悩しても・・・気持ちは正直にいなければ壊れてしまう。
だからオレを抱けばいい・・・オレもキャリコを・・・・好きだから」
そんなこととうの昔に知っていた。
だが、アイン・・・俺たちは・・・・・。
「それが出来たらどんなにか楽だろうな・・・・。
だが俺にはその一歩を踏み出す勇気がない。
お前が誰かと寝れば腹立たしいのに、何も言えない。
・・・勇気がないからだ・・・今は」
「今は?」
「・・・・きっとこれからもだ・・・俺はお前を抱けない。
今の自分を失いたくない。」
「・・・抱けば失ってしまうのか?お前はそんなに弱いのか??」
アインは分からない、と言う顔をしてる。
それはそうだろう。
俺自身、自分がいやになっている。
折角愛を手に入れられるというのに、
それを手に入れたときに自分を失ってしまうかもしれないことに怯え、
背を向けるのだから。
俺は無意識に口元に笑顔を浮かべていた。
「ああ・・・俺は弱い・・・愛に臆病だ」
「キャ・・・」
俺の名を呼ぶアインには振り返らず、部屋を後にする。
体の熱は今だ火照ったまま、冷めようともしないのに。
ドアを閉めるとあの時のようにアインが何度かドアを叩いていた。
俺を呼んでいる音だ。
俺が部屋に戻ってくるのを待っている。
俺はしばらくその音を聞いていた。
アインがドアを叩くのをやめるまで、俺はドアの前に立っていた。
冷めない熱を持て余したまま・・・・・。
後一回続きます。
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