アンケ
 
〜溶けはじめる心?続き〜



風呂から上がると1着の真新しい服を渡された。

「?これ??」
「・・・早く着替えろ・・・散歩に行くから」
「え!」
「・・・行きたくないのか?」
「行く!!」



昨日庭には出してもらったが「外」に完全に出るのは10日ぶり。
クォヴレーは素直に喜びを顔で表現する。

「・・・何処に行きたい?」
「何処でもいい!」
「何処でも?・・・では、近くの公園にするか・・・」
「うん!」






いつものように並んで道を歩く。
以前ならば腕を組んだりどうでもいいようなことをおしゃべりしながら散歩に出ていたものだが
今はなにを喋っていいのかわからない・・・。
クォヴレーは下を向きながら公園までの道のりを歩く。
横には自分の歩調に合わせ歩くイングラム・・・・。

「(・・・オレのスピードに合わせてくれている・・・。
 こういうところは昔も今も変わらない・・・
 では変わったのはなんだろう??
 イングラム・・・一体何を考えているんだ・・・?
 ・・・??あれ???)」
「?どうした?」
「・・・・ううん・・・別に・・・」
「?」


公園へ行く道とは逆方向の道の角になにやら人影がいた。
じっとこちらを凝視して見ている。

「(・・・気のせいかな?なんかあの人・・・家出たときからついてきているような・・??)」
「クォヴレー?」
「・・・なんでもない・・・早くいこ!」
「?・・ああ・・」




公園につくと夏休みということもあって家族連れ、学生アベックで溢れかえっていた。
イングラムはなかばうんざりしながら

「・・・すごい人だな」
「うん・・・イングラム、こっち!」
「?」

イングラムの手をひき、クォヴレーは公園の奥へと進んでいく。

「こっちに穴場あるんだ・・・あんまり人来ない・・」
「穴場?」
「・・・トイレが・・・『ボットン』なんだ!」
「『ボットン』??」
「そう、『ボットン』・・だからあまり人来ない・・・そこまでいこ?」
「・・・なるほど・・・わかった。そこまで行こう・・・」


人ごみを掻き分け2人は奥へ進んでいく。

「その『ボットン』は臭うのか?」
「臭わない・・・でも汚い・・・」
「汚いのに臭わないのか???」
「風下にあるから・・・」
「・・・なるほど・・・でも臭いそうな気もするな・・・」
「毎日回収に来ているし・・・それに」
「それに?」
「汚いのは壁とかだけ・・・便器とかは綺麗だ・・・今『美化運動』流行っているし・・」
「壁?」
「落書きとか・・・多い・・・」
「落書きか・・・それにしてもよく知っているな・・・?」
「皆でよくサッカーとか・・・野球とかしに来た・・・
 人あまり来ないから・・丁度いい・・・」
「・・・・そうか」


2人は人ごみを掻き分け奥へ進んでいく。
噴水のところまで来た時、クォヴレーの足が止まった。

「??どうした??」
「・・・・・」


イングラムが問いかけても返事は返ってこない。
真っ直ぐにある方向を見ている。

「?」

不振に思いクォヴレーの視線の先に自分も目をやると、
そこにはクレープ屋の屋台があるではないか。

「(・・・・クレープ???)」

ジーとクレープ屋に視線を送っていたがやがて反対方向に足を進めようと動き始めた。
イングラムは首根っこを掴みその動きを静止した。

「・・・いいのか?食べたいのだろう?アレ」
「・・・別に」
「・・・別に???あんなにジッと見つめていたのに??
 甘いもの大好きなのに・・・別に?なのか???」
「・・・って・・・ない」
「?」

ボソッと呟いたのでイングラムは聞き取れなかった。
クォヴレーはもう一度口を開き、理由を言う。

「だって・・・お金・・・ない」
「!・・・・」

頬を少し赤らめ、『別に』と興味のないフリをしたクォヴレーに
思わずイングラムは笑いがこみあげる。
そして微笑しながら細い手首を掴み、

「おいで・・・」
「え?」


なかば強引に屋台まで引っ張っていく。
屋台の前に到着すると、

「どれがいいんだ?」
「・・・え?」
「え?ではなくどれがいいんだ??それとも『え』という商品名があるのか??」

顎に手を置きメニュー画面と睨めっこをする。
しかしあたりまえだが一向に『え』という商品名はみつからない。

「・・・でも・・・わるいから・・いい」
「遠慮するな・・・早く決めないと勝手に決めるぞ?」
「・・・でも」
「いいから・・ほら決めてしまうぞ?」
「あ!・・・じゃあ・・・バナナイチゴチョコクレープ!カスタードクリーム付!」

あわててクォヴレーは食べたい名前を叫んだ。
イングラムは笑いながら、

「わかった・・・すみません『バナナイチゴチョコクレープ、カスタードクリーム付』
 とウーロン茶を1つづつ・・・」
「へい!ありがとうございます!!まいど〜」









「なるほど・・・確かに『穴場』だな・・・人が少ない」

ベンチに座りながらイングラムは感心したように呟く。
さっきまであんなに人手ごちゃごちゃしていたのに
この場所は自分達を含め数組のカップルや家族連れしかいない。
横に座っているクォヴレーをみると美味しそうにクレープを頬張っている。
甘いものがあまり好きではないイングラムは、
生クリームとカスタードクリームとチョコソースがたっぷりのそのクレープを
見ただけで胃もたれしそうであるが、クォヴレーは着々とそれをたいらげていく。

「・・・美味いか?」
「うん!美味しい・・・あの・・」
「ん?なんだ?」
「ありがとう・・・その・・・買ってくれて・・・」
「気にするな・・・」
「うん・・・でも・・・ありがとう」

少しだけ複雑そうな顔の笑顔を向けると再びクレープを頬張り始める。
すると急に何かを思いあたったのか・・・

「イングラムは・・・食べないのか?」
「うん?・・・ああ・・・俺は・・・(甘そうでちょっと、な)
 ウーロン茶で十分だ・・・」
「美味しいのに・・・ちょっとだけでも食べてみたら?」
「・・・いや・・・・」
「美味しいのに・・・」

クレープの皮と、イチゴ、バナナ、2種類のクリームを全部口に押し込め
クォヴレーは幸せそうな顔をする。
すると突然視界が暗くなった・・・

「?・・・んっ」

ベンチの背もたれに手をかけたイングラムに口を塞がれる。
口の中に入っているクレープがイングラムの舌によって
口から奪われていった。
そうして何度がイングラムの口の中で『クレープ』は噛まれた後
クォヴレーの口の中に半分の量が戻ってきた。
『クレープ』を2人同時にゴクンと飲み下す。
するとイングラムの口は離れていった・・・。

「・・・甘い、な」
「・・・でも・・美味しいだろ?」
「そうだな・・・たまには甘い食べ物も悪くない・・・
 もう一口・・・くれるか?」
「・・・いいよ」

クォヴレーはクレープを口に含むと目を静かに閉じた。
目を閉じた瞬間、口はイングラムの口で再び塞がれ、
その方法で残り3分の1ほど残っていたクレープを30分かけてたいらげた。







「もう夕方か・・・帰るぞ」
「・・・え?(・・もう??)」
「なんだ?」

優しかった顔がスゥ・・・と無表情に変わっていくのを目のあたりにする。
クォヴレーは力なく首を横に数回振ると

「久しぶりの・・・外だから・・・・もう少し・・・その・・・いたい」
「・・・・・」
「もうちょっとだけ」
「・・・わかった・・・では少し遠回りして帰ろう」
「!ありがとう!!」








家に着いたとき、視線を感じた。
気になってフッと前の道の角を見るとそこに人影を確認する。

「(?あれ??あの人・・・????)」
「クォヴレー、早く入りなさい」
「・・・わかった・・・(気のせいか???でも・・・)」
「クォヴレー?」
「今入る・・・イングラム」
「?なんだ?」
「・・・(どうしよう・・・気のせいかもしれないし・・・)
 いや・・・なんでも、ない・・・」
「??」



家の中に入ると久しぶりに長い間外にいて疲れたのか
早々にクォヴレーは寝室へと足を運んだ。
着替えるのも面倒でそのままイングラムのベッドに入る。

ウトウトしていると、イングラムも疲れたのかラフな普段着のままベッドの中へと入ってきた。
クォヴレーを抱きしめるとその小さな身体はビクンとした。

「・・・安心しろ・・・何もしない・・・疲れただろ?
 ・・・明日もあることだしな・・・今日はもう寝ろ」
「・・・ん・・・あり・・がと・・・??明日・・・??
 明日も・・・休みなのか???」
「・・・まぁな・・・」
「ふーん・・めずらしいな・・・連休なんて・・・」
「そうだな・・・」


クォヴレーの上に覆いかぶさると深いキスを小さな唇にした。

「・・・ぁ・・・んっ」

力強く抱きしめるとクォヴレーも抱きしめ返してきた。
唇を離すとお互いしばらくの間見詰め合う・・・
口の間には激しいキスの名残で透明な糸が線を引いていた。
イングラムは少しだけ微笑みながら、

「もう寝ろ」
「・・・ん・・・お休み」
「お休み・・・」



・・・交わらずに訪れる夜の時間は実に10日ぶりのであった。

クォヴレーは眠りに落ちる瞬間まである想いが頭をグルグルと回る。

「(イングラム・・・どうして優しく笑ったり・・・急に怒ったり・・
 外に出してくれたり・・・苦しくなるくらい抱きしめてリするんだ??
 ・・・わからない・・・それに・・・あの人・・・・
 あの人、どこかで会った気がする・・・どこ・・・だ・・っけ・・)」


そしてなんだかんだ考えているうちにだんだんにクォヴレーの意識は薄れていく。




イングラムにしっかりと抱きしめられたままクォヴレーは深い眠りについた。




ありがとう御座いました。 少しだけ明るくなりました! イングラムさんがあまり鬼畜サンでありませんから! だんだん話は終わりへと行進しております・・・。 戻る