〜NIGHTMARE 番外〜
任務で地球に降下してきてから1週間。
ようやく一区切りつき、帰られる目星がついた。
公園のベンチに座りながらサングラスごしに周りを見渡す。
誰も彼もが平和そうにお喋りをしたり追いかけっこをしたり本を読んだりしている。
「(・・・平和なことだな・・・)」
サングラスを外し、再びあたりを見渡した。
すると通る人通る人が自分をチラチラ見ていることに気がついた。
「????(なんだ???)」
痛いほどの視線を感じ、
耐えられなくなったのかキャリコはベンチから立ち上がると、
公園を後にし街へと歩き始めた。
ここ1週間でこの国の地理はほぼ頭に入っているので、
何処に行けば何が売っているのかも大体把握している。
「・・・(そういえばこの前、和菓子をやったら喜んでいたな)」
キャリコはとある洋菓子店の前で足を止めた。
「(・・・ケーキ・・いや、グチャグチャになるな・・)」
店の中に入り、ショーケースの前でしばらくキャリコは唸っていた。
「(・・・クッキー・・いや・・割れてしまうな
・・飴・・はバルマーでも同じような味だろう・・)」
「いらっしゃいませ!・・・何かお探しですか?」
「・・・あ・・その・・甘いものが好きな・・のに・・お土産を」
店の店員はしどろもどろに話すキャリコに微笑を向けると、
「・・・彼女さんにですか?」
「!?・・あ・・いや・・まだ・・・」
「そうですか?・・・お客様格好いいですしお菓子をプレゼントしたら
その方、心が揺らぐでしょうねぇ・・・羨ましいわぁ・・・」
「(格好いい??)・・そうですか?」
「そうですよ!ほんと羨ましい
・・当店ではこのクマのぬいぐるみがついている飴もお勧めですよ!」
「・・・いや・・飴は・・・」
「飴はお嫌いなのかしら?・・・でしたらプリンなどいかがでしょう?」
「・・・ぷ・・ぷり??」
聞きなれない単語に、キャリコは店員の言葉を繰り返そうとした。
おかしそうに笑うと、店員はもう一度商品名を口にする。
「プリン、です。卵と牛乳でできたお菓子ですわ。
お客様のお国ではプリンはないので?」
「・・・ない・・と、思う」
「でしたら、プリンがお勧めですわ!
カスタードとミルク、イチゴと抹茶をただいま取り扱っております。」
腕を組み、数秒考えるとキャリコは、
「・・・ではミルクで・・・」
ブリッチでボーとしていると突然目の前にドリンクが差し出された。
「・・・飲むだろ?」
「あぁ・・・」
メムから渡されたドリンクに口をつける。
「・・・何を考えていたんだ?」
「・・・思い出していただけだ」
「思い出す?」
「・・・地球に偵察に行っていた時のことを・・」
「あぁ・・俺が行くはずだった地球の、ね」
キャリコはボソッと呟いたメムを振り返ると、
彼もまたボーと宇宙空間を眺めていた。
「・・・まさかアインがああなるとはね・・」
「言うな・・言っても何も変わらない」
「・・・ギメル」
「・・・・?」
「あの時の言葉、撤回する」
「あの時の言葉?」
「・・・俺、お前のこと嫌いだって言っただろ?」
それはメムがアインを抱いたと告白した時のことだ。
その後、アインは地球へ旅立ち記憶を失った・・・。
「・・そうだったか?」
「・・・俺、お前の事は嫌いじゃない・・ただ目障りなだけ・・」
「はははっ・・お前はいつも清々しいな・・」
「・・やっぱり『バルシェム』は嫌いになれない・・」
「・・・メム・・なら俺もお前は嫌いではない・・目障りではあるが・・」
「・・・アインを寝取った男だし?」
「・・そう・・おまけにアインはその後地球へ旅立ち
全てを真っ白に消去してしまうし・・
お前が関わると踏んだり蹴ったりだ・・・」
肩を竦めながら口元をゆがめた。
「・・・少し・・いや、大分後悔している・・俺も」
「・・・・・」
「自分のことだけじゃなくアイツのことも考えていれば・・アインは・・」
「・・・・・・」
「・・・アインをとっ捕まえたらどうする気だ?」
「どうするも何もラボに直行だろう?」
「お前はそれでいいわけ?」
「良いのか・・と聞かれたら良くはないな・・・ラボに連れて行ったらアインは・・・」
「あぁ・・・そうだな・・・」
2人は再び宇宙空間を見つめた。
青い地球が小さく目に映る。
「でもさ、調整層にぶっこんだら記憶が蘇るかもよ?」
「・・・蘇って幸せかどうかは微妙だがな」
「・・ははぁ・・・そうだな・・返って記憶喪失のままが幸せなのかもなぁ・・」
何も喋らなくなると静けさが妙にリアルにわかる。
浅くため息をつくと、キャリコはブリッジから出て行こうとした。
「??どこへ?」
「格納庫だ・・・なんだか落ち着かないので整備でもしてくる」
「・・・働き者だな、隊長さんは」
キャリコの後に続くようにメムもブリッジを後にする。
「・・・アインの記憶は失うべくして失ったのかもな」
「・・・何故?」
「『人間』ってさ、辛いことがあると楽な方へ逃げるだろ?」
「そうだな・・アインがそうだと?」
「・・・そんな感じがする・・もちろん『取り付いたヤツ』の意思も働いているんだろうけど」
「・・・・そうだとしたらアインにとって、ここでの記憶は必要のないものなんだな・・
俺のことも・・メムのことも・・・」
メムは自分よりも少しだけ背の高いキャリコの肩を叩くと、
「元気出せよ!失ったらまた初めからやり直せばいいんだ・・・」
「・・・お前にそっくり返したい言葉だ・・」
2人はそのまま一言も話さないまま格納庫へたどり着いた。
「・・・もうすぐ地球よ」
「そうか」
整備をしているとスペクトラが話しかけてきた。
「・・・アインのことだけど」
「・・・スペクトラ・・アインは」
「私も・・責任を感じているのよ・・・」
「終わったことだ・・蒸し返しても仕方ない」
「だけど・・・!」
「メムも言っていたが失ったらまた初めからやり直せばいい」
「キャリコ・・」
「アインを拿捕し、そして・・・」
「・・・・わかったわ・・手伝うわ・・そして私も過去は蒸し返さない」
「あぁ・・助かる」
スペクトラが自分の機体へ戻っていく。
キャリコは自分の機体の最終チェックをしながら
美味しそうに和菓子やプリンを食べていたアインを思い出す。
思い出すだけで顔が綻んでいく・・・。
「(・・・捕まえて・・再びこの腕に・・・)」
有り難うございました。
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