「・・・近くにいるわ」
「そのようだな・・・」
「・・・どうするの?」
「・・・決まっている、捕まえるまで・・・!」









〜True Dream1〜











久々に「休暇」というものが与えられ、一人コロニーの街を歩いていた。

ゼオラとアラドに「一緒に買い物に行こう」と誘われたが、
「1人でゆっくり本を読みたい」と丁重に断った。

談話室で1人本を読んでいたが、「視線」が気になりやがて自分の部屋へ戻る。
そう、クォヴレーには絶えず数人の「監視」がついている。
例の仮面の男が必要以上に自分を追ってくること、
正体不明の機体「ベルグバウ」・・・
記憶喪失、時折現れる別人格・・・
様々なことがあいまって「監視」の目は1日中クォヴレーを見つめている。
部屋に入ると、ドサッとベッドに身を投げため息をつく。

「(・・・休暇であって休暇ではないな・・・四六時中見張られていてはな・・)」

枕を抱きしめ目を閉じてみたがどうにも寝付けない。

眠ることを諦め、クォヴレーはクローゼットへ向った。
中には以前艦長から貰った「私服」が入っている。
艦長の息子の服らしいが、デザインが気に入らないと受け取ってもらえなかったらしい。
クォヴレーが私服を持っていないことを知っていたので、
「良かったら着て欲しい」とわざわざ部屋に持ってきてくれた。
断るのも気が引けなんとなくその服を取ったが、1度も袖を通していなかった。


パイロットスーツを脱ぐと初めてその服に袖を通した。

ジーンズのハーフパンツにウェスタンシャツにニットのベストを身に着けると、
学校に通っている普通の「男の子」に仕上がった。

「(何処にいても監視されているのなら外に出よう)」







ここのコロニーにはまだ戦火の火が届いていないらしく実に平和な光景だった。

花屋の前で立ち止まり花を眺める。
アクセサリーの店の前で立ち止まりしばらく眺める。
様々なお店の前で立ち止まってはしばらく眺め次の店へ・・・
クォヴレーはずっとそれを繰り返す。
決して何かを買おうとはしなかった。

・・・そう、クォヴレーはお金を持っていないのである。

「(たいして楽しくないな・・・咽も渇いてきたし帰るか・・)」

小さくため息をつきながら来た道を引き返そうとしたとき、肩を叩かれた。

「・・・1人?」
「え?」

逆光のせいで始めそれが誰だかわからなかったが、直ぐに誰だか悟ることが出来た。
そう、「あの男」を感じることができるように「彼女」のこともなんとなく感じられるのだ。
戦闘時援護攻撃をしてくれる時も、
「流石に息を合わせやすいわね・・」と彼女自身も言っている。
クォヴレーはだんだんと自分が「誰」なのかわかってきている。
自分はもともと敵側の『人間』なのだ・・
おそらく「彼女」も昔そうだったのだろう・・・。
敵側の人間・・・それがクォヴレーに突きつけられた現実だった。
だからこそ最近は監視の目も厳しいのだが・・・。

「ヴィレッタ大尉」
「・・・・1人なの?」
「・・えぇ・・でももう帰る所ですので」
「・・・なにか用事でも?」
「いえ・・特には・・」
「ならお茶に付き合ってくれない?
 ・・・1人でお茶するより誰かと一緒のほうが美味しいから」
「・・・・・・」

クォヴレー自身、咽が渇いていたので「お茶」はしたかった・・、が
クォヴレーはお金を持っていない。
返事を出来ないでいると、


「ね?いいでしょ?」
「・・・・・・」
「返事がないということは肯定ととるわ・・さ、あそこの喫茶店に入りましょうか?」
「ちょ!・・・(・・・はぁ・・どうしよう?・・・お金ないんだが)」

腕をグイグイ引っ張られ、断るまもなく喫茶店に連行されてしまった。



窓際の席に案内されると、ウェイトレスが早速注文を聞きに来た。

「私はアイスティー・・レモンで」
「かしこまりました・・お連れ様はいかが致しましょう?」
「・・・あ・・その・・・水・・で」

ウェイトレスは変な顔をしたが、お金のない自分が何かを注文できるはずもない。
ヴィレッタはジッとクォヴレーを見つめた後、ウェイトレスに視線を戻し注文した。

「この子にはメロンソーダをお願い」
「!?」
「かしこまりました」

ウェイトレスが去った後、少しだけ焦りながらクォヴレーはお金がない事実を伝える。

「えぇ、貴方の態度でそうなんじゃないかと思ったわ。
 安心しなさい、私は年下の子に奢らせる真似はしないわ。
 それに貴方1人分のお茶代くらいの余裕はあるの・・ここは私のおごりよ」
「・・・ですが」
「私はアイスティーを注文したからメロンソーダまでは飲めないわ・・
 飲んでくれないとお金をドブに捨てるようなことになってしまう」

責めるように言われ、クォヴレーは仕方なく素直にご馳走になることにした。

「・・・有り難うございます」

少しだけ目を細めヴィレッタが笑う。
・・・ヴィレッタは時々懐かしいものでもみるかのように自分を見てくるときがある。
それはおそらく、クォヴレーの中にいるという「彼」に向けてのものなのだろう。

「(オレに向けているわけではない・・勘違いしてはダメだ・・・
 αナンバーズでは常にオレは1人だ・・・
 アラドとゼオラは「仲間」だが
 ・・・2人の間にはオレには入り込むことの出来ない「世界」がある。)」

物思いにふけっていると、目の前に飲み物が運ばれてきた。
みたこともないような緑の液体・・気泡が沢山あり、上には白いものが乗っていた。

「・・・・いただきます」
「どうぞ」

ストローをさし、とりあえず一口飲んでみた。
ジュワッとしたものが咽を刺激してきてそれがまた心地よい。

「・・・美味しい」
「・・・・・・」

スプーンを手に取り、上に乗っている白いものを一口食べてみる。
口の中いっぱいに冷たいと甘いが広がりクォヴレーは思わず顔が綻んだ。
そしてヴィレッタに改めて御礼を言う。

「・・・美味しいです・・有り難う」

微笑みながらお礼を言うと、ヴィレッタが少し驚いた表情をしていた。

「・・・貴方も笑うのね」
「・・・・え?」
「いえ・・いつも険しい顔をしているから・・」

アイスクリームを食べるのをやめ、急に険しい顔に戻るとボソッと呟いた。

「・・・1日中監視されていれば険しくもなるでしょう?」
「・・・・!」
「貴女だって本当は今日、オレを監視していたのでは?だから声をかけてきたのでしょう?」
「・・・お見通しってわけね・・ふぅ」
「毎日ご苦労ですね・・・」
「フフ・・今度は嫌味?でもね・・・」
「なんです?」
「監視されていれば、何か起きた時には無実が証明されるわよ?」

クォヴレーは、クスッと笑うと軽蔑したようにヴィレッタに言った。

「・・・監視されていようがいまいが、無実の罪を押し付けられる時は押し付けられる」
「・・・クォヴレー」
「不安な時には人身御供を・・それが人間・・違いますか?」

諦めたように笑いながら再びアイスクリームを口に運んでいく、
ヴレッタは何を言っていいのかわからずしばらく沈黙していたが、やがて喋り始めた。

「貴方が本当に無実なら・・・私は貴方を助けるわ」
「・・・・・」
「本当よ・・だから貴方もそう捻くれないで・・・!!?」
「!!?」


その時2人は確かに「あの気配」を感じ取った。

「大尉!」
「ええ・・どうやら近くにいるらしいわね」
「・・・キャリコ・マクレディ・・・」
「女のほうも・・いえ・・いないようだわ・・あの男1人??私が狙いか・・それとも・・」
「ここ