〜スウィートタイム〜

思いっきり不振だった。
普段より仮面を被ることを好まないバルシェム、アインが、
ガッチリと仮面を被っていたのだ。
任務で1週間ほど留守にいたキャリコは、
仮面を外しながらアインに近づいて、
思いっきり不振そうに頭一つ分違うアインを見下ろした。

「どういった心境の変化だ?」

アインの仮面に手をかけ、ぬがせようとした時、
その手は小気味良いほどの音を立てて振り払われてしまった。

「??アイン?」

どうした?と問う間もなく、キャリコの手を振り払ったアインは、
大急ぎでブリーフィングルームから逃げ出すのだった。



















アインの部屋はバレンタインのチョコレートで溢れかえっていた。
と、いってもキャリコとアイン、二人の中は周知の事実であるので、
部屋に溢れているチョコは、
女性バルシェムや女性研究員から貰った義理チョコだ。
その何個かは封が切られておりアインが食べたことを示していた。


「・・こ、こんな顔見せられない・・・」

仮面を被ったまま枕に顔を埋める。
アインの声はとても悲痛に満ちていて聞いているほうが痛いくらいだ。
一体何が彼をそんなに苦しめているのか?
どうしよう、どうしよう、と唸っているその時、
アインの耳にドアをノックする音が聞こえてきた。

「入るぞ」
「!?」

ドアの向こう側の人物の声にベッドから飛び上がるアイン。
どこかに逃げなくてはと思うのに、
狭い部屋では身を隠す場所もない。
そしてそうこうしているうちに、
扉は無慈悲に開かれるのだった。


「アイン、一体どうしたんだ?」
「キャ、キャリコ・・・」
「ん?」


キャリコはアインの部屋を見るなり、苦笑を浮かべてしまう。
アインは相変らず仮面を被ったままベッドにいるし、
なにより彼の大好きなチョコレートの空箱がゴミ箱に何個か放り込んであるからだ。

「(大方、アインを可愛がっている連中がこれみよがしに与えたんだろうが・・)
 アイン、そんなに沢山のチョコを食べるとニキビが出来てしまうぞ?」

クスクス笑いながらベッドに近づくキャリコに、
何故か前進を震えさせるアイン。

「?アイン??」

肩に手を置くとアインの震えは更に大きなものになった。
理由が分からないキャリコは首を傾げるばかり。

「(1週間も放っておいたから拗ねているのか?)
 ・・どうした?チョコの食べすぎで腹でも痛いのか?」

震えるアインを怖がらせないように優しい声色で伺ってみる。
すると弱弱しく首を振ってアインは腹痛ではないことを教えた。
アインの答えに小さく頷くと、キャリコはポケットから包みを取り出すのだった。

「腹が痛くないのなら問題はなさそうだ。
 ・・・・・アイン」
「・・・?」

優しく呼ばれ、仮面を被ったアインは恐る恐る彼を見上げる。
包みをアインの手に握らせたキャリコは包装紙を解くと、
中から出てきた箱の蓋を開けて中身を見せてくれた。

「・・・・!」

出てきたのはトリュフチョコであった。
アインはもう一度キャリコを見上げて何故か身体を震わせている。

「遅くなったがバレンタインのチョコレートだ。
 女性が男にあげるものと定着しているらしいが、
 そうでない国も沢山あるからな・・・。
 だから俺はお前に・・・・アイン?」

話を続けているうちにアインの震えが再び大きくなるのを見て、
キャリコはただただ唖然とするしかなかった。
一体、何にそんなに怯えているのだろうか?
皆目検討もつかない。

「どうした?・・・やはり腹が痛いのか?」
「・・・ちがう」

キャリコの問いにかろうじて否定の言葉を口にする。
しかしその声は震えていた。

「ならどうした?」
「・・う、うれしくて・・・」

うれしくて震えている、というアインに、
キャリコは微笑を浮かべてアインを抱きしめる。

「・・・可愛いことを・・・アイン」
「・・・っ・・・・」

逞しい腕の中でアインは震え続ける。
しかし『嬉しくて』という言葉を信じたキャリコは
可愛い奴め、と殊更優しく抱きしめるのだった。

「可愛いアイン、俺の贈ったチョコは食べてくれないのか?」

いつまで経っても食べないアインに焦れたように急かしてくる。

「もしかして、お前は俺にチョコを用意してなかったから気にしているのか?
 だから食べないのか・・?」
「・・そ、そんなことは・・・!」

大きく首を横に振ってアインは用意していることを教えた。
正確には用意したのはチョコではなく、
彼の好みそうなブランデーであるのだが、
気持ちの問題よ、とバルシェムの誰かが教えてくれたので、
アインはブランデーを用意したのだ。

「用意してあるのか?フフ・・、嬉しいな。
 なら何の気兼ねも要らないだろう?
 お前のだぁい好きなチョコだ。食べるといい」
「・・・・」
「ああ、食べるには仮面は邪魔だな。
 どれ、俺が外してやろう」

と、アインの仮面に手をかけたその時、
またもキャリコの手はバチンとなぎ払われるのだった。


「・・・・!」

二度目とあってはさしもキャリコも怒りを隠せなかった。
アイン!と名前を叫び、次の瞬間にはベッドに押し倒して、
仮面を無理やり剥ぎ取っていた。

「いや・・いやだぁぁぁ!!」

仮面がなくなった瞬間、悲痛な声を出すアインに、
キャリコは不振そうな目で見下ろしていた。
だが、マジマジとアインの顔を見ていたらあることに気がつく。

「これは・・・」

アインの唇に指を触れ、直ぐにその下の顎に人差し指で触れた。
唇の下はプクンと赤く腫れ上がっており、しこりのようなものが出来ているではないか。

「・・・ニキビ・・?」

小さく呟かれアインは身体をプルプル震えさせた。

「チョ、チョコのせいじゃない!食べ過ぎてなんかないんだ!!
 だから取り上げないでくれ!!!」
「は?」

必死の形相でニキビはチョコのせいじゃないと、
貰ったチョコを取り上げないで欲しい、と懇願してくる。
アインはなぜこんなに青い顔で必死に懇願してくるのか?
その理由が思い当たるキャリコは可愛いと思うつと同時に、
なんだかチョコに負けたようで怒りもこみ上げてくるのだった。
キャリコは常日頃からアインに言っていた。


あれは仲間のバルシェムから貰ったチョコを幸せそうに頬張っていた時だった

『お前のスベスベの肌は俺のお気に入りだ。
 チョコの食べすぎでニキビなんぞ作ったら取り上げるぞ』

その時のアインはこの世の地獄を見てきたかのように青くなったのを覚えている。
自分ではなく、チョコに夢中になっているのが面白くなくて、
言った意地悪であったのだが、どうやらアインの中では健在であったらしい。
だからにきびの出来た顔を仮面で隠し、チョコを守ろうとしたのだろう。

「(健気で可愛いが・・・面白くない)」

身体の下で震えるアインをスゥ・・と目を細めて見下ろす。
それだけで震えを最高潮にしたアインに、
冷笑を浮かべたままそっと唇を塞ぐのだった。

「・・・ん・・ん・・?」

最初は啄ばむように数回、
そして熱い舌で唇を舐め、
深いキスを仕掛けるのだった。

「・・・ん・・・んんぅ・・・」

角度を変えられ、何度も仕掛けられる。
舌を絡みとられ、二人分の唾液が顎を伝りニキビを濡らした。

「ん・・・・痛っ!!」

と、その時顎にかけられていたキャリコの指が
ガリッとアインのニキビを引っかくのだった。

「・・・血が出てしまったか・・・痕に残らないよう舐めてやろう」
「・・・な?舐め・・」

舐めると痕が残らないのか?という間もなく、
アインの男の象徴は握られ、それと同時に潰されたニキビに舌が這ってくる。

「・・・ア、ア・・く・・・」

服の上からやんわりともまれながら、
唇の下を舐められるという愛撫はたまらなくもどかしい。
ニキビではなく、唇を舐めて欲しい。
唇だけでなく、首周りや、胸の飾りや、
それから今彼の手に握られている高ぶり始めた性器も。

「キャリ、コ・・・」
「ん?」
「・・や・・だぁ・・・あ、・・ニキビではなく・・あ、あっ」

ズボンが生暖かく濡れていく。
ズボンの上から刺激を与えられ、先走りのものがすごいようだ。

「ニキビではなく、何だ?」
「・・・体中・・愛してくれ!!」

潤んだ目でいやらしいおねだりをするアインに、
口端を満足げに歪めたキャリコが、
了解とばかりに顎の下から身体をずらしていくのだった。



















「ア・・あ、・・・・んっ・・・」

裸の胸を忙しく上下させながらアインは身体を撓らせた。
両足の間にいるキャリコの口中に、
己の性器を出し入れするように腰を振っている。
袋を強くもまれ、アインは悲鳴にもにた喘ぎを漏らした。

「あっ!・・で・・出る・・・!」

指を自分の口の中にいれ、涎を垂らしながらアインは身体を悶えさせる。
キャリコの弾力ある舌が性器の棹を絡みついてきたかと思うと、
敏感な先端を強く啄ばまれ、アインは絶頂を向かえたのだった。
息を乱しながら足の間のキャリコを見ると、
自分が放ったものを口に含みながらニヤリと微笑んでくる。
後の秘孔に指を挿入したまま、アインの身体に覆いかぶさり、
耳元で掠れた声で囁いてきた。

「・・濃いな、アイン。
 ・・・俺がいない間一人で抜かなかったのか?」
「バ、・・バカ・・・っ・・んぅ・・ゆ、指・・指やだ!」
「イイんだろ・・・ココとか」

グリュと音を立ててキャリコは中のコリコリした部分を執拗に嬲った。
それだけで精を放ったばかりのアインの性器は、
ぐんぐんと熱を取り戻していく。

「ひ、ぃ・・あぁぁぁ!!」

キャリコの首に腕を巻きつけながら身体をくねらせる。
両足をまだ衣服を纏ったままのキャリコの身体に巻きつけ、
自ら指を貪っていく。

「コラ、指が使いにくいだろ?アイン・・・」

秘孔から指を引き抜くとアインの腰を抱えなおし、
片方の手で自分の下肢をくつろげていく。
身体を密着させ、己の猛りをアインの性器と擦り合わせることで、
その大きさと熱・・・、
つまりはキャリコがどれだけアインを欲しがっているのかを伝える。
アインは腰を振り、互いの性器を擦り合わせるという快楽に没頭していく。

「アイン・・・」

眉を寄せながらシャツを脱ぎはらう。
ピンク色に蒸気したアインの頬に唇を寄せ、
開きっぱなしになっている小さな唇を塞いだ。
そして唇を離すとアインの裏筋を抱え、
熱で潤みきっている瞳を覗き込みながら口を開く。

「アイン、知っているか?」
「・・・ん、・・・んん・・・?」

ゆっくりゆっくり、慎重に腰を進めてくるキャリコに、
アインは何を?と目だけで問いかける。

「ニキビが出来るのはなにもチョコだけではない」
「・・・・っ・・・!?」

怒張を最奥まで入れ終えると一呼吸をつく。
その間ににきびが出来る原因を教えていった。

「・・・ああ・・すごい締め付けだ・・喰いちぎられそうだな」
「!!」

満足そうな吐息のあと、ゆっくりと律動を始める。
アインは目を閉じ、キャリコの背中を掻き抱いた。

「あ、・・アア・・・っ」
「よほど俺が不足していたんだな、アイン」

怒張が秘孔に馴染むのを確認しながら徐々にペースを速めていく。
その動きは俺が不足していたんだろう?という問いの答えを、
身体で聞こうとしているかのようだ。

「あっあっ・・キャ、キャリコ・・・」
「・・うん?・・・気持いいのか?」
「・・んぅ・・・っ、・・・ひぃぁ!!」
「・・・っ・・く」

中に入れている怒張がどうやらアインのイイ場所を擦ったらしい。
その瞬間に喰いちぎられるくらいに喰い締められ、
キャリコは眉根を寄せて珍しく声を漏らした。

「淫乱な悪戯猫め・・・!
 そんなだからニキビが出来るんだ・・・く、ぅ・・」

咽を仰け反らせ、これ以上は手加減できないと、
キャリコは細い身体を強く抱きしめ、
貪るように腰を動かし始めた。

「ま、待って・・あぁぁっ・・まて・・・っ」
「アイン・・・、ニキビは・・・、な・・・」

交じり合う濡れた音にキャリコの声は途切れ途切れにしか聞こえなかったが、
最後の一言だけは耳元で言っていたので、
確かに聞き取ることが出来た。




『知っているか?ニキビは欲求不満でもできるんだぞ?』





・・・と、確かにキャリコは言っていたのだ。















「そう不貞腐れるな」


ベッドの上で裸のままキャリコの膝の上に乗っているアインは、
不貞腐れたままキャリコがくれたトリュフを食べさせてもらっていた。
キャリコの指についているココアパウダーも綺麗に舐めると、
悔しそうに身を捩りだす。

「オレは・・オレは欲求不満なんかじゃない!!
 ニキビはチョコが原因だ!
 1週間エッチが出来なかったせいなんかじゃない!!」
「・・・ほぉ?」

淫乱なんかじゃない、と否定するアインの頭上で冷たい声がした。
ビクン、と身体を震えさせ、振り向けばニッコリと凶悪に微笑んでいた。

「つれないな、アイン。
 俺は一週間抱けなかっただけで欲求不満全開であったというのに。
 ・・・そぉか、お前は違うのか・・・・・成る程な」
「キャ、キャリコ・・・」

向けられた凶悪な微笑みにいやな予感が頭をよぎる。

「ならお前の言うとおり、原因はチョコの食べすぎなのだろうな。
 なら宣言していた通り・・・・・」

取り消さなくては、と口をあうあうさせるが、
彼の口は面白そうに歪んで、

「没収だ」

と冷たく言い放った。

「ダメだ!!」

クルリと身体ごと振り返り、キャリコの唇を捕らえる。
ちゅっちゅ、と音を立て一生懸命に機嫌をとろうとした。
舌を絡め、上顎を舐め唇を舐める。
すると落ち着き始めていた体温が再び上昇していくのが分かった。
キャリコの膝からおりて彼の足の間に顔を埋めていく。

「オ、オレはコレが不足していてニキビが出来たんだ。
 チョコのせいじゃない!没収したらいやだ」

叫び終えると再び兆し始めているキャリコの雄を口に含む。
アインの旋毛を眺めつつ、
満足そうな吐息をもらしキャリコは柔らかい髪をすいた。
そして優しい声で囁きかけるのだった。


「冗談だ・・・。俺がお前の喜びを奪う真似をするわけがないだろう?」

次の瞬間、キャリコはアインの口の中に全てを放つのだった。




二人のチョコレートより甘い時間はまだ始まったばかりである。


ちなみにその後アインのニキビはというと、
キャリコが長期任務に出かけたときにだけ出てきたのだという。



ありがとうございました。 あんまりバレンタインは関係ないですが、どうでしたでしょうか? ニキビの原因は様々ですが、 アインの場合は欲求不満のストレスということにしてみました。