〜出会った時からの・・・〜



精神世界・・・・。
初めて彼と対面したのはいつだったか覚えていない。
だが彼はオレが眠りにつくたびに出てきてくれるようになり、
様々な景色や、話を聞かせてくれた。


景色を見たり話を聞くのは楽しくて、
起きるのが億劫な時も多々ある。

オレは、彼が段々好きになっていた。
時折みせる温かい眼差しに惹かれていった。

きっと「兄」がいたらこんな感じなのかもしれない。

オレがたまに我侭を言っても苦笑して許してくれた。
時に叱ってくれ、時に慰めてくれる・・・。


だから今回も許してくれると思っていたんだ・・・。

「仕方がないな」と。




だが・・・・・・











今日もまたさまざまな景色を見せてくれた。



その後、イングラムはいつになく真剣な顔をしてオレをみてきた。


「お前は俺の写し身の一人」


それはもうオレも知っていた。
オレはイングラム・プリスケンという男のクローンの一人にすぎない。
だがゼオラもアラドもそんなオレに分け隔てなく接してくれる。
「そんな事関係ない」「クォヴレーはクォヴレーだから」と。
オレはそれが嬉しかった。
確かにオレはクローンだが今の自分に満足している。
だからクローンである事実はたいして気していなかったので、
イングラムの言葉に小さく頷いた。


「最初はその身体、頂こうと思っていた」
「・・・・いただく??」
「『アイン』の魂を消し去り、身体をなくした俺の新たな身体にする為に」

イングラムは淡々と語っていく。

「だが俺の思惑とは裏腹に『アイン』は記憶を失い『クォヴレー』となった。
 様々なものを吸収し、『人間』になっていった」


イングラムは何がいいたいのだろうか?
何故いまさらそんなことを言うんだ??
オレが何も言わず見上げていると彼の手が頬をなぞってきた。

「俺はその身体を頂くのをやめる事にした。」

どうしてやめたのだろうか?
オレは小さく口を開いた。

「・・・何故?」


いや、それはオレにとって喜ばしいことだが、
体のないイングラムはどうする気なのだろう?
頭に???を浮かべていると、
イングラムの表情が優しいものに変わっていった。

「その身体を乗っ取り、一人で戦うよりもいい方法を思いついたんだ。
 お前を見ているうちに」
「?????」

彼は、何を言っているのだろうか??
一人で戦う、とは何のことなのだろうか??


「俺は様々な世界をダイブしてその均衡を守ってきた」
「・・・え?ダイブ??」
「今までずっと・・・」
「ずっと???・・・・一人で、か・・・?」

コクン、とイングラムは頷いた。


一人・・・で?
寂しくなかったのか??
オレは・・昔はともかく、今は一人などきっと耐えられない。


「だがその一人旅もようやく終わりを告げる・・・」

どういうことだろう??
何故もう「終わる」のだろうか?
わけがわからず考えていたら、
イングラムの顔がだんだんと近づいてきていた。

「お前を手に入れたから・・・」
「オ、レ・・?手に?・・・・んんぅ??」

意味が理解できず考えていたとき、
唇に生暖かい感触が触れた。


信じられない、信じられなかった。
彼の唇がオレの唇を塞いでいるからだ。
一体オレの身に何が起きているのだろうか??
口付けとは愛するもの同士が交わすものではないのだろうか??
どうして、何故イングラムは・・・オレに・・・。

唇が離れる・・・・。
イングラムは優しい顔で小さな子に言い聞かせるように言葉を紡いでいく。

「お前は、俺と一緒に来るんだ」
「え?」
「俺と一緒に数多の世界を彷徨うんだ・・」
「!!?」

オレは目を見開きイングラムを見上げた。
彼はオレの目線に気がつくと優しく微笑んでくれた。



だが・・今日は・・その笑顔が怖い。


何故か、怖く感じる・・・。


イングラムが・・・怖い・・・?




「これは出会ったときからの運命だったんだ・・・。
 お前を『消さないで』本当によかった。」
「・・・・・・・っ」
「この胸が、また震え上がるような想いをおこすとは思わなかったが」
「・・・・・・っ」
「お前が再び俺の気持ちを目覚めさせてくれた・・・。
 お前にはその責任を取る必要がある」
「責任・・・?」
「俺と、一つになるんだ・・・」
「!?」
「俺と一緒に様々な世界をダイブしよう」

何を言っているんだ?
世界をダイブ・・・?

「もちろん今の仲間とは別れなければならないが・・・」
「!?」
「その代り得るものも沢山ある。さぁ、俺と一つになるんだ」
「やめろっ!!」

オレは頬に触れているイングラムの手をなぎ払った。

「!?・・クォヴレー??」

信じられないという表情でイングラムはオレを見下ろすが、
再びオレに手を伸ばしてくる。


・・・オレを捕まえようとする。

だがオレはその手をヒラリと交わし、

「いやだ!!」

力強く否定の言葉を叫んだ。
その瞬間、イングラムの目が険しいものに変わっていく。
これまで見たことがないような・・・険しい視線。



どうしてだ??


どうしてだ???


どうして今日のイングラムは怖い??


どうしてわけのわからない話をする???


どうして・・・・




「俺と一つになるんだ」
「・・・・っ」
「クォヴレー!」

イングラムが険しい表情でゆっくりと近づいてくる。
彼の言葉が「真実」ならば、
イングラムはオレを仲間にしようとしているのだろうか??
だが、彼の仲間になるということは・・・

「・・っ、それで・・それで・・」
「・・・・・・」
「それで数多の世界を彷徨えというのか!?」
「・・・・・・」

オレはジリジリと後ろに下がっていく。
このまま捕まってしまえば・・・・きっと・・・

「多くのモノを失って!?」
「それが俺とお前の運命・・・」
「・・・・・っ」

オレはジリジリと後ろに下がっていく。
彼との距離が広がれば広がるほど、イングラムの顔は険しくなっていった。

「あくまでも俺を拒むというのなら・・・・」

イングラムが右手を振りかざした。

「(殴られる!?)」

オレは目を閉じ衝撃に備えるが、
いつまで経っても何も起きない。

「・・・・・・?」

不思議に思い、目を開けイングラムを見る。
すると冷笑を浮かべた彼の顔が目に映りオレは身体の底から恐怖を感じた。

「強引な真似はしたくはなかったが・・
 お前があくまでも拒むというのならば仕方がない・・・
 その身体・・・無理やりいただく」


そしてイングラムは掲げた右腕の指をパチン、と鳴らした。


「!?・・・えっ?」

その時、暗闇から黒くうねったものが突如現れオレに向って伸びてきた。

「うわぁぁぁ!」

ウネウネとうねりながらオレに向って伸びてくる。
アレに捕まってはいけない!
本能がそう告げ、オレは無我夢中で精神世界を逃げ回る。
だが逃げれば逃げるほどウネウネの本数は増えていき、
やがて四方を囲まれてしまった。

「くくくく・・・まさしく四面楚歌、だな。さぁ、どうするんだ?」
「くっ」

四面楚歌・・確かにそうだった。

だが、それでも今はとにかくここから逃げ出さなければ!

目を覚ませば逃げられる。
彼の力なのか、さっきから一向に目を覚ますことが出ない。
なら目を覚ます方法を探さなければならない・・・っ。
どうやって、どうやって目を覚ませばいい???


目を凝らすと1箇所だけ小さくだが隙間があいているのが見えた。


「(あそこからなら・・・っ)」


とりあえず今はこのウネウネを何とかしなければ。
目を覚ます方法はそれから考えればいい!

オレは真っ直ぐに隙間に向って走り出した。
しかし直ぐに後悔する事になる。
僅かにあいている隙間は頭のいいイングラムがワザとあけていたというのに。


この話は、第一話の途中までです。