〜続・愛妻弁当〜
「ヴィレッターー!!」
ドンドンと扉がけたたましく叩かれ、聞き覚えのある声がヴィレッタの耳に聞こえる。
扉を開けると、柔らかい銀の髪をした少年が勢いよく入ってきた。
「クォヴレー?どうしたの?」
走ってきたのか、息は乱れている。
とりあえず落ち着かせようと、水をコップに注ぎ手渡す。
少年は勢いよくそれを飲み干した。
「落ち着いた?・・・・それで何があったの?もう帰らないとイングラムが心配するわよ?」
「・・・・・」
「?クォヴレー?」
「・・・・いいんだ・・・」
「え?」
「・・・・家出してきた・・・」
「えええええ!?」
少年はそう言うと、かって知ったるヴィレッタの家のソファーに腰を落ちつかせる。
何がなんだかわからないヴィレッタはとりあえずイングラムに連絡しようと、受話器を手に取る。
「!!イングラムに連絡するのか!?」
「・・・当然でしょ?彼は、貴方の保護者よ?心配しているわ」
「連絡しちゃダメだ!!」
ヴィレッタの手から勢いよく受話器を奪うと、絶対連絡なんかさせないぞ!という
面持ちで威嚇し、そのまま2階へ上がり部屋へ立てこもった。
「???クォヴレー??(一体なんなの??)」
コンコン、とドアをノックする。
「・・・・・」
しかし返事は返ってこない。
「一体何があったの?喧嘩でもした?」
「・・・・・」
やはり返事は返ってこない。
痺れを切らし部屋に立てこもっている少年、クォヴレーに脅しをかける。
「・・・別にその電話がなくてもイングラムに連絡する方法はあるのよ!?」
「え!?」
バタンッと扉は開かれた。
そして勢いよくヴィレッタに飛びつくと・・・・
「お願いだ!ヴィレッタ!!イングラムには連絡しないで!!」
「クォヴレー???」
涙目になりながら懸命に訴える。
普段は気丈な少年がこんなに取り乱すなんて・・・・一体何があったのか?
とりあえずクォヴレーの手を引き1階のリビングルームへ連れて行き、
温かいココアを渡した。
「・・・ありがとう」
「どういたしまして・・・それで?一体何があったの?彼と喧嘩したの?」
「・・・ちがう・・・喧嘩はしてない」
「じゃあ・・・何があったの?」
「・・・このままでは・・・学校を辞めさせられる・・・」
「・・・・は?」
「学校を・・・辞めさせられるんだ・・・!!」
瞳をウルウルさせながら家出してきた訳を話し出す。
それにしても学校を辞めさせる、とは穏やかではない。
「・・・どうしてそんな事に?」
「・・・・・」
ボロボロ・・・と涙を流しながら経緯を話していく。
「・・・・残したんだ・・・・」
「何を?」
「イングラムが作ってくれた・・・食事・・・」
「そう・・・貴方、小食だものね、それは仕方ないことだわ。
イングラムだってそのことは承知しているでしょうし・・・
それぐらいじゃ辞めさせられたりしないわよ」
「違うんだ!!」
「違う??」
「・・・・今日・・・実力テストだったんだ・・・」
「はぁ・・・?テスト??」
テストが一体なんだというのだろうか??
今はテストではなく何故学校を辞めさせられるのかを話しているというのに・・・
「イングラムが・・・昨日夜食を作ってくれた・・・」
「夜食・・・?」
「・・・・でも、勉強に夢中で・・・その・・・」
「!食べなかったのね?」
「・・・食べなかった・・・・朝食べれば良いと思ったし・・・」
「そう・・・・」
「イングラム、今日は早番だったんだ・・・」
「・・・・それで?」
「だから朝食も作ってくれて・・・オレの部屋のドアの前に置いておいてくれたんだ」
「貴方の勉強に邪魔をしたくなかったのね・・・」
「そうだと・・・思う・・・まだ朝4時だったし・・・とりあえずその朝食を部屋に入れて・・・
夜食と一緒に6時ごろ食べようとしたんだ・・・」
「その間ずっと勉強していたの?」
フルフルと首を横に振り、クォヴレーは少し冷めてしまったココアを一口飲む。
「まだ4時だったから仮眠しようと・・・ベッドに入った・・・・
それで・・・起きたら7時だった」
「貴方が家を出る時間ね・・・(ん?)!!じゃあまさか!?」
コクンと頷き、目にはまた涙が溢れ出す。
「・・・両方とも・・・食べなかった・・・」
「!!!!・・・・そうなの・・・でも寝過ごしてしまったんだから仕方ないわよ・・
で?両方とも処分するなり隠すなりしてきた・・・わけではなさそうね?」
再びコクンと無言で頷く。
「机の・・・上に・・そのまま・・・オマケに・・・急いでいたから
扉も・・・開けっ放し・・・・」
「・・・・イングラムは早番だったわね・・・?と、いうことは・・・」
「イングラムの部屋は一番奥にあるから・・・当然オレの部屋の前を通る。
扉が開いていれば閉めようとしてオレの部屋を否応なく見るだろうし・・・」
「そうね・・・でもクォヴレー・・・」
「?なんだ??」
「今の話だけじゃ、なんで学校を辞めさせられるのか分らないんだけど?」
「・・・この前のテストの時・・・勉強に夢中で・・・3食も食べていなかったことが・・・
ばれてしまったんだ・・・・」
「3食も!?」
「それでその時・・・『俺は食事をしっかりと取らない奴は嫌いだ。
もしこれから先もこういうことがあったら、学校は辞めさせ始終俺のそばにおいて監視する』
・・・そう言われたんだ・・・」
クォヴレーは涙を流し青い顔をして、ヴィレッタを見る。
「(・・・参ったわ・・・イングラムは一度宣言したことは必ず実行するでしょうし・・・
どうしたものかしらね・・・・)・・・クォヴレー・・・」
「学校・・・辞めたくない・・・イングラムのところへ帰ったら辞めなくてはならない・・・
それは嫌だ!!だから・・・家出してきたんだ!!」
「・・・まだ、そうなると決まっていないわよ?」
「決まったも当然だ!!あのイングラムがはっきりと宣言したんだから!!」
「・・・・(否定は出来ないわね・・・でもあの人クォヴレーには甘いし・・・)」
ふぅ・・とため息をつき、クォヴレーの頭を撫でた。
そして優しく微笑むと
「私、今日遅番なの・・・これから出かけるけど・・・彼には連絡しておいてあげるから・・・
とりあえず今日はここに泊まっていきなさい」
「・・・ヴィレッタ・・・・ありがとう・・・ごめん・・・なさ・・・うぅ・・」
ヴィレッタが連邦軍の基地へつくと、基地と連なって立っている士官学校の建物から
イングラムが出てきた。
「イングラム!!」
「!ヴィレッタ?」
「・・・学校に何か用でも?(まさか)」
「ああ・・・ちょっとな・・・そうだ、ヴィレッタ」
「何?」
「お前の家に転がり込んでいる赤い目をした小ウサギだが・・・」
「は!?赤い目をした小ウサギ???(クォヴレーのこと??)」
「転がり込んでいるんだろう?」
「・・・・・」
「泣いて震えていたのではないか?」
「(成る程・・・だから赤い目をした小ウサギ・・・ね)ええ・・きているわよ
貴方の言うとおり泣いていたから今日は泊まらせることにしたわ・・・」
「そうか・・・主がいない家に・・・な」
「私達の間にそんな遠慮は不要でしょ?」
「そうだな・・・」
「それに貴方もどうせ行くんでしょ?」
「・・・いいのか?」
「ダメといっても無駄でしょう?・・・・リビングでやるのは勘弁して頂戴ね。
それから汚したシーツは自分で洗って頂戴・・・はい、鍵」
「フッ・・・了解、だ」
「・・・あまり苛めないであげてよ?」
「それは・・・あの子の態度しだいだ・・・この書類もな・・・」
「・・・(やっぱり・・・そーゆー書類なわけね・・・)じゃあ、私はもういくから」
「ああ・・・迷惑かけたな」
「いいえ」
振り返る瞬間、彼の不適な笑顔を見た気がしたが・・・・気づかないフリをしたヴィレッタであった。
ヴィレッタの家につくと、部屋は真っ暗だった。
泣き疲れて寝ているのか?
イングラムは真っ直ぐにお客用の寝室へと向かう。
予想はビンゴで、クォヴレーはそのベッドの上で眠っていた。
電気をつけコンコンとわざとらしく部屋のドアをノックする。
その音にガバッ・・・と身を起こすクォヴレー。
部屋の入り口を見れば、イングラムがドアにもたれかかって自分を見ている。
「あ・・・」
「・・・・・・今日は外泊する、とは聞いていなかったような気がするがな?」
「・・・う」
ゆっくりとクォヴレーに近づきベッドに腰掛け、ある書類をヒラヒラさせた。
「!!!」
その書類を見て青ざめていくクォヴレー・・・
「・・・・なんだかわかるか?」
「・・・・退学・・・届け?」
ニッコリと微笑んでその書類を目の前に突きつけた。
保護者の欄にはもうイングラム・プリスケンというサインと印が押されている。
「・・・・あとはお前がサインして・・・提出するだけだ・・・」
「イングラム・・・」
「・・・泣いてもダメだ・・・俺はちゃんと忠告していたんだから、な」
「・・・・っ」
「・・・・だがもう一度だけ・・・チャンスをあげてもいい」
「え?」
ビックリして俯いていた視線を上げれば、相変わらずニッコリと微笑んでいた。
「俺のお願いを聞いてくれるなら、だが?」
「!!聞く!何でも!!」
「・・・本当に?」
「本当だ!!」
「では・・・これからは毎日俺と一緒に朝ごはんを食べること」
「・・・・え?」
「俺が早番の時は、基地まで来て一緒に食べなさい・・・そうしないとお前は
いつまでたっても食事をきちんと取りそうもないからな」
「・・・そんな・・・ことで・・・いいのか?」
「ああ・・・約束できるか?」
「出来る!!ありがとう、イングラム!!」
嬉しさのあまりイングラムに飛びついた。
そして口づけを交わす・・・・
そしてそのままベッドに押し倒された・・・・
「・・・イングラム?」
「このまま・・・いいか?」
「・・・・(/////)」
真っ赤になりながらコクンと頷く。
すると今まで優しかった顔が豹変していくのが・・・わかった。
「!?!?(・・・なんだ?)」
「・・・・だが、今日の分はきちんとお仕置きしておかなくてはな・・・」
「!!!!え!?」
悪魔の微笑だ・・・
悪魔の微笑を見てしまった。
なんとかベッドから・・・悪魔な彼から逃げようと試みるが、
上からしっかりと押さえられているため不可能だった。
「コレ、このリングなんだか分るか?クォヴレー・・・」
「・・・・!?」
「・・・分るようだな・・・ではこの前より沢山激しく愛してやろうかな?」
「イ、イング、ラム・・・あっ・・!!まって!!」
ニッコリと微笑みながら着々とコトに進めていく大人な彼・・・
「(ああ・・・明日は黄色い太陽すら拝めないかもしれない・・・・
きっと明日目覚めたら・・・・星空だろうな・・・・)」
そして、長い夜の幕は開けたのだった・・・・・。
ありがとうございました。
このお話には続きがございます。
裏にあります。
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