クールな彼も時には甘えん坊?
 

IF・・・設定
イングラムが生きていて・・・という設定です。






〜あの子が拗ねる理由 前編〜







角をまがり、自分の部屋(個室)の扉の前を見たとき思わず顔が緩んでしまう。
なぜなら扉の前には退屈そうに『誰か』を待っている
銀髪の少年が立っていたからだ。

「クォヴレー!」

少年の名前を呼ぶとブスっとしていた顔は、はにかんだような笑顔を浮かべ、
名前を呼んだ人物に向かって駆け出した。

「イングラム!」

ガバッとイングラムに抱きつくと、細い身体を慈しむように抱きしめ返す。
そして頬に手を寄せ上を向かせ、

「部屋で待っていろ、といつも言っているだろ?」
「・・・・そうだが」

そう言われ、クォヴレーは困った顔になってしまった。
確かにイングラムの部屋の暗証番号は知っている。
だがいくら知っているとはいえ、勝手に入って寛いでいるのは躊躇するのだ。
(イングラムはクォヴレーの部屋に勝手に入ってよく寛いでいる)
そんなクォヴレーの気持を察してか、イングラムは穏やかに微笑を浮かべ、

「お前は少し遠慮をしすぎだ。もう少し強引でも俺はかまわないんだぞ?」
「・・・遠慮しているつもりはないが・・・・
 わかった、強引になるようがんばってみる」
「・・・・フッ」
「むっ(なんで笑うんだ?)」

相変らず、クォヴレーはたまにトンチンカンなことを言う、と
思わず笑ってしまうイングラムであった、が、
当の本人は馬鹿にされたと思ったのか、少しだけ不機嫌な顔になっていた。

「拗ねるな・・・拗ねているお前も可愛いが俺は笑顔が一番好きだ」
「・・・・(相変らず気障だな)拗ねてなどいない」
「本当に?」
「本当だ!!」

ニヤニヤと見下ろしてくるイングラムに何故か無性に腹立つクォヴレー。
爪先立ちで彼の顔を覘き上げ、頬を膨らませた。

「ムキになるところが怪しいが・・・まぁ、いい・・部屋に入ろう」
「・・・・・・」

しかしクォヴレーは答えなかった。
彼の馬鹿にした態度が許せないからだ。
だがイングラムの次の言葉に、腹立ちは吹っ飛んでしまった。

「早くキスがしたい、部屋に行こう」
「!・・・・・」

ボッと顔が熱くなるのがわかった。
腰に回されていたイングラムの手がクォヴレーの手に触れる。
一瞬ビクッとなるが、直ぐに手を握り返し彼の目を真っ直ぐ見つめ微笑んだ。
指と指を絡め、ゆっくりとイングラムの部屋へと歩き出す。













二人の長くて熱い夜が始まろうとしていたのだった。


















ベッドの上でウトウトしているクォヴレー。


「うわっ」

その時、頬に冷たいものを当てられ目が覚めてしまった。

「スポーツドリンクだ。眠ってしまう前に飲んでおけ。
 沢山喘いだし、汗もかいただろ?」
「うっ・・・だからそういうことは言うなと・・・」
「?何故だ??本当のことだろ」
「ま、まぁ・・そうなんだが・・・(恥ずかしいんだ)
 有難う・・・飲む・・・・」
「あぁ、どうぞ」

氷の入ったグラスを受け取りゆっくり飲み干すクォヴレー。
ベッドの端に腰掛イングラムはその様子を見守っている。

「・・・・はぁ・・・うまかった、ごちそうさま」

グラスをサイドテーブルに置くと、そのままイングラムに抱きついた。
チュッと軽く唇を啄ばみ、お休みのキスを交わすと
先ほどまで激しく交わっていたベッドへ身体を滑らせた。
イングラムも手に持っていたグラスを飲み干し、
クォヴレーの横に身体を滑らせ腕枕をする。
イングラムの腕枕を嬉しそうに受け、クォヴレー再びウトウトしだした。
その時・・・・・、

「あぁ・・・そうだ」
「?」

何かを思い出したらしいイングラムを腕枕越しに見上げる。

「どうしたんだ?」
「・・・すまん・・・言うのを忘れていたんだが」
「・・・・?」
「今度の週末なんだが・・」

その時、クォヴレーは『え?』という表情になる。
嫌な予感がし、段々顔は曇っていった。

「今度の週末はオレと・・・・」
「あぁ、覚えている・・・。だが、すまないことに・・・・」

イングラムの眉が申し訳なさそうに下がっていく。
それと同時に曇っていくクォヴレーの表情。
なぜならイングラムはいつもそうであるからだ。
休暇に約束していても、仕事が入りあえなくなってしまう。
同じ軍籍に身をおいているので、
ある程度は(仕方なく)譲歩しているクォヴレーであるが、
何度も何度も同じことが続くと流石に腹が立つのだろう。

「・・・仕事、か?」
「あぁ・・・さっき急にふられてな・・・すまないが・・・」
「・・・前回もそうだった」
「クォヴレー」

頭を撫でようと腰に回っていた腕が額の辺りまで移動してきたその時、
クォヴレーはその手を払い拒んだ。

「!!クォヴレー」
「・・・・・戻る」
「なに!?」

裸の身体を起し、床に散らばった服を拾おうとした時、
細腕を掴まれ強引にベッドへ戻されてしまった。

「真夜中に徘徊していては懲罰ものだ!忘れたのか?」
「・・・・覚えている」
「だったら朝までここに居ろ!」

少しだけ声を荒げ、クォヴレーの行動を止めた。
そして息を大きく吸い込み、言い聞かせるように聞くのだった。

「・・・クォヴレー、何を拗ねている?」

いつものことだ。
約束を破ってしまうのはいつものことなのだ。
そしていつもなら、残念そうな顔で納得するのに
どうして今回は我侭をいうのだろうか?
分からないイングラムはクォヴレーをベッドに連れ戻し、
再び抱きしめると、咎める口調でもう一度言うのだった。

「今度の週末はおあづけだ・・・俺も残念なんだぞ?」
「・・・・・・」
「クォヴレー、いつもなら聞き分けてくれるだろ?
 我侭をいって俺を困らせるな」

傷ついた瞳が驚愕に見開く。
唇を噛みしめ小さく阿頭を左右に振りながら、

「!・・・・・、ごめん・・・なさい」

と、謝るのだった。
その時、イングラムは腕の中の小さなクォヴレーが更に
小さくなった・・・ような気がした。

この時、イングラムは気づかなかったのだ。
今回に限り、どうしてクォヴレーが我侭を言ったのかを。

傷ついた瞳には少しだけ涙が光っていたが、
クォヴレーはそれ以上何も言わず
クルンと背をイングラムの胸に預けるように向きを変え
眠りにつくのだった。

「お休み、イングラム」
「・・・あぁ、・・・埋め合わせは必ずするからな」
「・・・・・・わかった」
「お休み、クォヴレー・・・」








背中越しに穏やかな寝息が聞こえていた。
だがクォヴレーはなかなか寝付けないでいる。
週末の約束が駄目になったことが相当こたえているようだ。

「(バカグラム!!今度の週末は・・・特別な日だったのに・・・!)」


有り難うございました。 続きは裏の予定です。