嫉妬深いんです
 


〜携帯電話は持たせない〜





カタカタカタカタ・・・・・。




カタカタカタカタ・・・・・。







その部屋には規則正しくキーボードを打つ音が響いていた。
やることがなく、暇を持て余していたアラド・バランガは、
親友ともいえるクォヴレー・ゴードンの部屋へ遊びに来ていた。
けれどクォヴレーはやりかけの作業が少しだけ残っているらしく、
終わるまでこうしてベッドの上に腰掛けながら待っているのだ。
規則正しく打たれているキーボード。
その速さときたら尋常ではない。


「(コイツ・・・、キーボードの配列とか見ないで打ってんのかな?
 まさに蛙の歌状態だよな。
 キーボードで蛙の〜って打ったら画面に蛙の〜、って出るんだろうな〜。
 ・・・・ん!?)あ、そうか!!!」
 



すると何かが思い当たったのか、
急にベッドから立ち上がりアラドは大きな声を出した。
さしものクォヴレーもあまりの大声に驚いき手を止めてアラドに振り返る。

「・・・アラド、急にどうした?」

するとアラドは鼻の下を指で擦りつつ、
ニシシシ、という風に笑顔を浮かべて見せた。

「オレ、わかっちゃった!」
「・・・・わかった?(何がだ??)」

作業の手を完全に止め、
改めて体ごとアラドへと振り返ると、

「一体何がわかったんだ?」

と、改めて質問をして見る。
するとアラドは自信満々に答えてきた。

「理由だよ!」
「・・・理由?」

何のだ?と目を瞬かせて質問すれば、
にんまり笑いながらさらに自信満々のアラド。

「クォヴレーが携帯電話を持たない理由だよ」
「・・・携帯?」
「近頃はさ、携帯って電話よりメールが主流だろ?」
「・・・・ふぅん・・?(それは初耳だな)」

あまり興味のない話しであったのか、
クォヴレーは気のない返事をかえした、が、
アラドはそんなことは気がつかないのか更に自信満々になっていく。

「でもさ、お前は携帯電話って持ってないじゃん?
 あんなに便利な小型通信機なのにさ〜。
 (おかげで暇かそうじゃないかはいちいち部屋まで来なきゃいけないんだよな)」
「確かにオレは持ってないな」
「だろ!で、オレ、この部屋に来てから思ったんだけど・・・」
「・・・・?」
「お前が携帯電話を持たないのって、キーボードを打つのが速いからだろ?」
「・・・・は?」
「お前、ハロを改造して小型モバイルにしてるじゃん?
 確かにそれを持ち歩いていれば、大抵のメールはハロですむし、
 携帯でのメールよりキーボードで打ったほうが速いもんな!
 ・・・・・当りだろ???」


エッヘン!と人差し指を頬の横で立てながら探偵気分のアラド。
クォヴレーは目をパチパチさせていたが、
やがてフッと笑って答え合わせを始めた。

「・・・残念だがアラド・・・」

黒い微笑を浮かべたクォヴレーにアラドは一歩腰を引く。

「・・・ひょっとして・・・?」

いやな予感に汗を垂らしながら回答を待った。
クォヴレーは小さく頷いてアラドの予感を肯定する。

「ああ、オレが携帯を持たないのはそういう理由からではない。」
「えぇぇぇぇ〜〜〜!????」

肩をガックリと落とし、落ち込んだ声で電話を持たない理由は何かを尋ねる。

「当りだと思ったのに・・・トホホ・・・」
「そう落ち込むな。理由を教えるから・・・、だけど絶対に言うなよ?」
「・・・ああ・・、わかってまーす・・・トホホ」
「・・・実は・・・」
「うん」
「・・・・携帯って文字を打つのが複雑すぎて扱いが分からないんだ」
「・・・・・・・へ?」
「・・・・・・例えば『か』という文字を打つのもオレには面倒くさくて仕方ない」
「・・・・・・はい?」

『か』を打つのが面倒くさいとはどういうことだろうか?
『か』であれば一押しで済むはずであるのに・・・・。
それならばキーボードのほうが『K』と『A』で面倒くさいのではないだろうか?

「特に濁点文字とか・・・ああ、『!』とか『?』も面倒くさいな。
 あんな面倒をするくらいならキーボードの方が断然いい。
 オレは携帯で連絡を取り合う奴らの気が知れない・・・」
「・・・・・えぇ!?」

『!』も『?』も濁点も数回同じボタンを押すだけで出てくるはずだ。
キーボードであれば『Shift』+『?』とかを押さねばならないので、
そちらの方が手間なはず・・・・、ますます分からなくなったアラドであったが、
クォヴレーの次の言葉で全てを理解することが出来た。

「『あ』なら『11』、『か』なら『21』・・・、
 濁点とかは覚えていないが、そんなことをするくらいならキーボードが速いだろ?」
「(!!!???そ、それって・・・・)」

衝撃の雷がアラドの脳に落ちた。
クォヴレーの言ってるのは一昔前の『ポケベル方式』だ。
今、その方式でメールする電話はまずないであろう。

「(これって真実を教えてやるべきだよな?)
 ・・・あのさ、クォヴレー・・・」

けれどさらに続いたクォヴレーの言葉に、
アラドは真実を告げる口を永遠に閉ざすことを決意するのだった。

「一度、携帯を持とうとしたんだ。
 けれどイングラムが携帯は面倒くさい、と教えてくれたからやめた。
 実際に聞いてみたら今見たいな方法だったしな・・・・)」
「!!??(ま、まさか・・)」

フゥ・・・、と一息つき、あと少しでで終わるから、と
クォヴレーは再び作業に戻ってしまった。
もちろんアラドは携帯電話の真実は告げず、
わかった、と返事を返して大人しくベッドに腰を下ろす。
その身体は何故か少しだけ身震いをしているようだ。






「(さ、触らぬ神に祟り無し!!おっかね〜!!!)」

























・・・・・その夜。




「メールか?イングラム」

風呂から上がったクォヴレーは、
先に風呂に入ってベッドいたイングラムに話しかけた。
イングラムは携帯電話を片手に「ああ」と返事をし、
送信ボタンを押してすぐに携帯をナイトテーブルへ戻した。

「ヴィレッタから連絡が入っていてな。返していた」
「・・・・ふぅん・・・?
 それにしてもイングラムはすごいな」
「・・・・すごい?」

パジャマの上だけを着てベッドに近づいてきたクォヴレーの腕を引っ張り、
自分の身体の上に乗せながらイングラムは首を傾げた。

「携帯でのメールをあんなにスムーズに出来るなんてすごいだろ?
 オレには無理だ!『あ』や『か』ならともかく、
 濁点とかまでは数列を覚えられない・・・というか覚える気がしない」
「・・・ああ(そういえば、そうだったな)」
「・・・ん・・・んん・・・ん」

上に乗っているクォヴレーの身体を抱きしめ、
与えられるキスに応えながらもイングラムは心の中でほくそえむ。
パジャマの上以外、何も身に付けていないクォヴレーからその唯一を剥ぎ取ると、
身体の上下を入れ替え、ベッドに押し倒すと巧みに技を仕掛けていく。
クォヴレーの白い足がビクビク揺れながら白いシーツを何度も蹴った。
やがて己の熱を体内に埋め込み、
翻弄している最中もイングラムは心の中でほくそえんでいた。

「(こんなに可愛いクォヴレーのことだ。
 狙っている連中も多いからな・・・携帯などもっての他だ)」

そう、イングラムは気軽にメールできるはずの携帯電話を、
わざと旧式のやり方で説明し、嫌煙するように仕向けていたのだ。
すべては愛しい恋人に群がろうとする連中を少しでも遠ざけるため・・。
携帯など持たせ、気軽にメールされては誰かに取られてしまうかもしれない。
携帯なら人を忍んでメールできるし、目を光らせていても届かないことも多いだろう。
けれど端末であるなら必ず目に付く。




自分の腕の中、乱れているクォヴレーを満足そうに見下ろしながら、
イングラムは腰の動きをラストスパートに向けて速めた。
切なそうな喘ぎを堪能しつつ、
より一層強くクォヴレーを抱きしめてサイゴの時を一緒に迎える。
身体の下でボー・・・としている唇を数回啄ばみ、己のモノを引き抜く。
するとトロン・・・としていたクォヴレーの目あ完全に閉じ、
やがて穏やかな寝息を立て始めたので、
イングラムは冷温庫から熱いタオルを取り出してクォヴレーの身体を清め始めた。
そしてタオルで頬を拭いているときに、
悪魔のように黒く微笑みながら小さく呟くのだった。

「お前に携帯は必要ない・・一生、な」

フフフ・・・と笑いながらクォヴレーが信じやすい性格であったことに改めて感謝し、
薄く開いている唇に軽く口付けて、自分も眠りに落ちるのだった。


・・・・一回り以上小さいクォヴレーの身体をガッシリと抱きしめながら・・。



ありがとうございました。 イングラムの黒い焼餅が起こさせた悲劇?です。 多分、クォヴレーはイングラムから説明を受ければ、 他の人からは説明を受けないと思うので☆