*ちょっとパラレル*
〜好きな物語〜
「何の話をしているんだ?」
咽に乾きを覚え食堂に顔を出すと
珍しくゼオラとアラドが口論をしていたので、
心配になったクォヴレーは声をかけてみた。
「喧嘩はよくない。
見ている人間の気分が悪くなるし、
なにより二人が仲違いするとオレは悲しい」
少しだけ悲しげな表情になってしまったクォヴレーに、
二人は慌てて顔を横にブンブン振った。
クォヴレーにそんな顔されるのは嫌だし、
なによりこわ〜い背後霊様が、
呼んでもいないのにしゃしゃり出てくるかもしれない。
「喧嘩じゃないわ!!ちょっと意見がすれ違っただけ!」
「・・・・本当か?」
訝しげな顔のまま、とりあえずアラドの横に腰を落ち着け、
正面にいるゼオラの様子を伺った。
喧嘩じゃないというゼオラを疑うわけではないが、
もう一人の当事者の意見も聞かなければ判定は付けられない。
今度は横にいるアラドの表情を伺った。
すると慌てたようにアラドは縦に頷くのだった。
「そうそう!!意見が合わなかっただけ!!」
ジッ・・・と、二人を見つめる。
アラドもゼオラもそんなクォヴレーを見つめ返す。
賑やかな食堂の一角、
なんともいえない異様な雰囲気。
だがゼオラもアラドも真剣に見つめてくるので、
どうやら本当らしいと一応納得することにした。
しかし、
「本当よ〜???」
「信じてくれ〜」
と、汗をかきながら喧嘩ではないと訴える二人が面白くて、
クォヴレーは少しだけその様子を眺め楽しんだ。
だがこれ以上からかうのも気が引けるので、
「わかった、信用する」
と、微笑を浮かべ返事をした。
クォヴレーの返事にホッと胸を撫で下ろす二人。
とりあえず背後霊様のお出ましは避けられたからであろう。
「ところで二人とも・・」
「なぁに?」
「何について意見が食い違っていたんだ?」
「何の童話が好きか、だよ」
「童話?」
クォヴレーは納得のいかない顔で二人を見る。
結構真剣に言い争っているように見えたので、
もっと深刻なないようだと思っていたのだ。
「丁度いいからお前の意見も聞かせろよ!」
「・・・意見?」
「そうね!・・・ねぇ、クォヴレー?」
「?」
「クォヴレーは人魚姫とヘンゼルとグレーテルならどっちが好き?」
「・・・・は?」
言い争いの理由が『童話』というだけでもあっけにとられてしまったのに、
今度はどっちが好きか?と聞かれて変な声を出してしまう。
「(なんでその二つなんだ???)・・・オレは・・・」
「オレは・・?」
ゴクンと生唾を飲み、身を乗り出してくる二人に、
クォヴレーはなんだか嫌な汗が背中を伝っていくのを感じた。
だがおそらく一番好きな童話の話をしているのだろうと解釈はしたので、
その二つのどちらかではなく、自分の好きな話を教えることにしてみる。
「・・・野の白鳥が好きだ」
「え?」
「・・ののはくちょうって何だ???」
初めて聞く童話なのか、
アラドは頭に無数のクエッションマーク。
するとゼオラがお姉さんぶりを発揮し、
人差し指を上げて説明を始める。
「野の白鳥、別名白鳥の王子よ」
「あ!それなら知ってる!!・・・でも何で???」
「・・・彼女は呪いをかけられた兄姉達を助ける為に、
イラクサで手を血だらけにして孤独と戦いながら服を作る。
愛するものを助けたい一身で自分を犠牲にして・・・素晴らしいことだと思う」
微笑を浮かべたまま二人を交互に見、言葉を続けた。
「二人が大変な時はオレも自分を犠牲にして助けに行く、絶対だ」
その言葉にウルウルと目を揺らしてしまう二人。
どうしてクォヴレーは何気なく嬉しい言葉を必ず言ってのけるのか、
ゼオラもアラドもクォヴレーの手をそれぞれ握り締め誓った。
「私もよ、貴方達がピンチの時は助けるわ」
「オレも!!かえって足手まといかも抱けど、
攻撃から身を守る盾くらいにはなってみせる」
三人はコクンと頷きあい、笑いあった。
そして心の中でコレならもう大丈夫だろう、と
元の会話に戻していくクォヴレーであった。
「それで二人はどうして人魚姫とヘンゼルとグレーテルなんだ?」
「それはねぇ・・・」
すると先に答えたのはゼオラ。
うっとりと頬を染め、乙女になっていくのを目の当たりにし、
クォヴれーもアラドも腰が引けてしまう。
「人魚姫は女の子の一生の憧れななのよ」
「・・・人魚姫が??シンデレラでなく???」
「ゼオラは普通とちげーからなぁ・・っと」
失言に気がつき慌てて衝撃に耐えるアラドであったが、
予想していた衝撃は来なかった。
どうやらまだゼオラは妄想の中のようだ。
「・・・・自分が助けたのにそれを別の女性に譲り、
あまつさえ王子を殺さずに自分が消えることを選んだのよ?
心の強い女性だと思うわ。尊敬しちゃう〜!!!!」
「・・・・だが泡になって消えるのは悲しくないか?」
すかさず突っ込みを入れるクォヴレーに、
分かってないわね!と怒るゼオラ。
「そこが感動する場所なのよ。人魚姫と王子様が結ばれたら心に残らないわ」
「・・・(そういうものなのか??悲しいだけじゃないか。
女の子の心情は難しいな・・・)」
「なのにアラドってば、『げぇーー』って言うのよ?信じられない」
「(なるほど、喧嘩の原因はアラドの『げぇーー』か)」
眉を吊り上げているゼオラに対し、
アラドは納得のいかない顔でクォヴレーに助けを求めた。
「アラドはどうして『げぇーー』などと言ったんだ??
人の好みはそれぞれだし、『げぇーー』はないだろう」
「だってよぉ・・・」
「だって、なによ!?」
「ゼオラの妄想もあれだけど、
人魚姫は食えねーだろ???喰えてもまずそうだしさー」
「はぁ!?」
アラドも一言にクォヴレーとゼオラは固まってしまった。
食い意地が汚い部分はあるがよもやここまでとは・・・。
「お前・・・人魚を喰う・・気・・・なのか??」
「んー?まぁ、『魚』だしな。出会えたら喰ってみた・・・」
だが、アラドがその言葉を最後まで言うことはなかった。
大変激怒したゼオラのかかと落しが降ってきて気絶してしまったからだ。
だが気絶したあとも往復ビンタされたりとなかなか悲惨な状況であったが、
クォヴレーはあえてとめなかった。
今回は全面的にアラドが悪い、と思ったからだ。
女の子の憧れである「人魚姫」を「喰う」は流石にないだろう。
可哀想と思いつつもアラドを残し食堂を後にするクォヴレー。
「(この分ではヘンゼルとグレーテルが好きな理由は
『お菓子の家』なんだろうな・・・アラドらしい)」
扉を開けると見慣れた少年が本を読みながら待っていた。
「あら、来ていたの?」
帰って来た部屋の主、ヴィレッタに「ああ」と小さく答えながら、
読んでいた本を閉じるクォヴレー。
「なにを読んでいるの??童話・・・ああ、金の尾の銀の斧ね」
「最近童話にこっていて読み漁っているんだ。
この話は人間の生き方がそのままの素晴らしい本だ・・」
「そうね、正直者とそうでない者の・・・典型的な話よね」
自分も結構前に読んだ、と何か懐かしいものまで思い出したのか、
悲しげに一瞬だけ微笑んだあと、
クォヴレーの横に腰を下ろし、素朴な疑問を口にする。
「でもどうして童話なの??」
「この前、ゼオラとアラドと話をしていて・・それで」
あの時のことを思い出し、珍しく少しだけ声を出して笑ってしまったら、
あまりの珍しさに普段はあまり突っ込んでこないヴィレッタが、
突っ込んで話を聞いてきた。
「思い出し笑いなんて・・・珍しいわね。何があったの??」
「実は・・・」
クォヴレーはその時のことを一部始終話すと、
彼女も珍しく腹を抱えて笑い出し始めた。
「フフフフ、実にあの二人らしい言い争いね」
「オレもそう思う・・・そして羨ましくも思う」
「クォヴレー・・」
「・・・気にせず、言い合える相手がいるのは・・・羨ましい」
悲しげに目を伏せるクォヴレーの頭にそっと触れ、
ヴィレッタは優しく口を開いていく。
「クォヴレーにも・・・いるでしょ?何でも言い合える人が」
するとクォヴレーは恥ずかしそうに頬を染め、小さく頷く。
「・・・ああ、いる。でも彼は友人ではないだろ?」
「そうね・・・。ああ!貴方は友人が欲しいのね?」
「・・・貴女も、ゼオラもアラドも友人ではなく仲間だから・・・」
「そうね・・・でもきっといつか見つかるわ」
「そうだといいな・・・」
「大丈夫よ・・・。それで?今日は何しにこの部屋へ?」
「『彼』が貴女と話したいと・・・・」
クォヴレーはそこまで言うと、ゆっくり目を閉じ意識を手放した。
銀の髪はザワッっと音を立て青く変化していく。
・・・どうやら背後霊様がご光臨なさったようだ。
それまで浮かべていた笑顔を少しだけ冷笑にかえ、
ヴィレッタは彼を出迎えた。
「こうして話すのは久しぶりね」
『・・・・・』
ニッコリと嫌味を言うが、
青い髪になった少年はフッとわらって聞き流してしまう。
「わざわざ現れたということは何かが起きる前兆かしら?」
『・・・・ああ』
本来のクォヴレーの声と共に、低い声が重なりながら返事を返した。
その声は間違いなくクォヴレーの中の背後霊様、
つまりはイングラム・プリスケン少佐のものだ。
『険呑な気配を感じる・・・・守って欲しい』
「・・・まだ諦めていないということね・・・ふぅ」
『『俺』なだけあってしつこいようだな・・・くくく』
「笑い事じゃないわ・・・・それに『俺』なわけでもないでしょう?」
『・・・まぁな・・・アイツは俺ではない・・・別の男だ』
普段のクォヴレーにはにつかわない黒い微笑みに、
思わずため息のヴィレッタ。
彼のこの黒い性格は死んでも直らなかったようで、
少しだけ仮面男と・・・・何も知らないクォヴレーに同情をした。
「(こうして考えるとクォヴレーは『親指姫』よね。
いろんな男に求愛されては逃げて・・・かわいそうに)
・・・・イングラム」
『?』
「話はそれだけ?なら気をつけて見張っておくから大丈夫よ」
『任せた・・・クォヴレーの貞操はお前にかかっている』
「(命ではなく貞操という部分が生々しいわね)了解よ」
少年は返事に満足したのかニッと笑うと、
すぅ・・・と意識を手放していった・・・・・。
ヴィレッタは大きくため息を吐きながら、
銀色の髪の少年を自分のベッドへ寝かせたのだった。
場所は精神世界。
イングラムの足の上、クォヴレーは向かい合うように座りながら
うっとりと彼を見上げていた。
その唇はつややかに濡れて光っており、
誰が見てもキスの直後だと想像できる。
「・・・イングラムは何が好きなんだ?」
「・・・何が好きとは何がだ?」
クォヴレーの頬を指で撫でながら問うその姿は、
昔の冷徹で鬼畜な彼はとても想像が出来ない。
「童話・・・、何が好きだ?」
「童話?・・・ああ、今はまっているのだったな?」
小さく頷きながら、今度は自分から彼の唇を自分の唇で塞いだ。
けれど直ぐに主導権は奪われ、
クォヴレーは身を弄らせながらイングラムに身を委ねていく。
「ん・・・・ふ・・・っ」
「そうだな・・・俺は・・・・」
唇から頬へ、頬から首筋へ、鎖骨へ・・・イングラムの唇が下降していく。
切なげに眉を寄せながら喘ぐクォヴレーは、どこか遠巻きにその声を聞いていた。
「・・・ラプンツェル、だな」
「・・・ラプ・・・んーーー!!」
中心を何の合図もなく口内に含まれてしまい、
ビクビク跳ねるしかないクォヴレーの体を、
更に指で腰をなで上げ余裕を奪っていく。
「・・・塔に捕らわれた美しい姫。
逢瀬を続け、魔女に見つかり、二人は引き裂かれる」
「・・・ん、・・・・んっ・・・」
堪えきれない快楽の証が流れ落ち、
後の窄まりを塗らしていく。
その力をかり指で窄まりを解しながらイングラムは話し続ける。
「姫は髪を切られ、見知らぬ土地に置き去りにされる。
王子は光を失い・・・それでも姫を探し続ける・・・・」
「・・っ、ひ・・あぁぁっ」
クォヴレーが悲鳴を上げると、
馬乗りになっていたイングラムの顔が快楽に歪み、息を詰める。
一気に灼熱に貫かれたクォヴレーは、その圧迫感に生理的な涙を零していた。
「それでも何とか二人は再会した・・・。
見えなくなった王子の目は・・・姫の涙で・・・・」
「・・・イングッ」
クォヴレーの瞳にキスをし、涙を吸い上げた。
「・・・運命で結ばれた二人は例え離れてもまた再開できる。
・・・俺はこの話が一番好きだ」
「イングっ!!・・・あぁ・・・は・・・あっ・・」
「・・・俺たち・・・そのものだ・・・」
最後の言葉の意味がクォヴレーにはよく理解できなかった。
その意味を聞こうと口を開くが、
出てくるのは喘ぎだけで・・・、
とうとう最後まで聞くことは出来なかった。
少年は今日もヴィレッタの部屋を訪ねてきていた。
手には『ラプンツェル』を持っている。
「今日も『彼』が話があるのかしら?」
分かっているのにそう聞いてくる『彼女』は意地悪だ、
と、口をへの字に曲げるが、クォヴレーは素直に頷く。
「・・・違う・・だが、もう直ぐ来る」
「そう・・・」
クォヴレーの隣に腰を下ろすと、
彼が手に持っている本をマジマジを見つめてしまう。
その本はもう何度も読んだのか、表紙には手垢がついているし、
・・・なんともいえない『シミ』もついている気がする。
「(・・・一体どんなプレイしているのよ)その本、よほど好きなのね」
「・・・え?」
「だって・・・表紙がボロボロ・・・」
「・・・・!」
するとクォヴレーは真っ赤になって頷いた。
本を大事そうに抱えそっと理由を耳打ちしてくる。
「・・・イングラムが初めてくれたプレゼントなんだ。
・・・生き返ってから初めての・・・・」
なんとも微笑ましく可愛らしい理由にヴィレッタも赤くなってしまう。
きっと『初めてのプレゼント』という名目の下、
あの『シミ』ができるようなこともされているだろうに、
それでも大事に持ち歩いているのだ。
なんといじましく・・・そして大きく彼を愛しているのだろうか、と、
微笑を浮かばせずにはいられない。
「(ま、女の子へ贈る物のような気もしなくもないけど)」
その経緯をしっているヴィレッタにはさほどの問題ではなかった。
大事なのは『気持ち』だ。
そんなことを話しているうちにヴィレッタの部屋の扉は前触れもなく開き、
そこから白い制服に身を包んだイングラム・プリスケンが現れる。
戦争が終わり、クォヴレーは軍を除隊し学校に通っている。
だが学校が終わりイングラムの帰りが早いときは
こうしてヴィレッタの部屋で彼の帰りを待っているのだ。
イングラムの部屋でまたない理由は、
クォヴレーがいると彼の仕事がおろそかになってしまう為ヴィレッタがとめたのだという。
「・・・またせた」
「大丈夫だ!ヴィレッタと話をしていたし」
「そうか・・・・」
微笑を浮かべ駆け寄ってきたクォヴレーの腰を引き寄せるようにして部屋を後にする。
クォヴレーはヴィレッタに振り返り手をふって御礼をし、
イングラムは微笑を浮かべることで礼をしたのだった。
そんな二人の様子を温かく見守るヴィレッタ。
彼女の目には去った後も眩しい二人がいしばらく焼きついて離れない。
クォヴレーをしっかりと抱く彼はもうあの頃のような背後霊ではなく、
一人の人間として生まれ変わったのだという実感を噛みしめながら・・・。
有り難うございました。
キャリコが登場してない(笑)でも一応彼も生きている設定。
何かとイングラムの邪魔をしヴレにちょっかいかけてきます。
あ、ヴレが学校に通い始めたのは友人を作るためです。
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