IF・・・シリーズ?
イングラムが生きていて・・・という話です。
ヴレは彼の部下。
〜自分の色〜
赤・青・黒・・・・。
『色』には様々な種類がある。
そして人はそれぞれ自分に似合う色というものがあるのだ・・・・。
イングラムはわけが分からなかった。
いつも『贈り物』をすると始めは素直に受け取らない可愛い恋人。
しかし今回はいつになく頑固だ。
「クォヴレー・・・?そんなに気に入らなかったか?」
イングラムがクォヴレーに贈るものはたいてい『洋服』だ。
なぜならクォヴレーはファッションに無頓着で、
放って置けば2枚500円のTシャツとかで平気で出掛けるのだ。
別にそれはそれで構わないのだが、
せっかく神様からニブツを与えてもらった『容姿』だ。
それを活かさず安物の洋服で埋もれさせるのはもったいないことこの上ない。
だからイングラムはコトあるごとに洋服を贈っているのだが・・・。
「いらない・・・。先週も貰った・・・」
「そうだったか?」
「そうだ・・・」
「だが先週のは部屋着だろ?今回のはお出かけ着だ」
そう言ってビニールの中から買ってきた洋服を出し、
胸の前で広げる。
しかし、それを見た瞬間クォヴレーの形のいい眉が
ピクッと上につり上がったのである。
「・・・いらない」
「クォヴレー・・・気に入らないのか?」
「・・・・・・・」
イングラムの問いに無言のクォヴレー。
ただただ睨むようにその洋服を見つめている。
「クォヴレー」
そしてついにはプイッと顔を背け、
その服を受け取る気はない、と無言の意思表示を示したのだった。
イングラムは愕いてしまう。
確かにいつも『贈り物』を拒むクォヴレー。
しかし、イングラムが哀しそうに、
『お前が受け取ってくれないのならばもったいないがこの服はゴミ箱行き決定だ。
俺が着てもいいが、生憎サイズが小さすぎて入らない・・・』
と、言えばムスッとした顔で受け取り、
しばらく服と睨めっこした後ニコッと微笑みお礼にキスを返してくれる。
そして頬を桜色に染め
『有難う』
というのである。
その態度に心の底から迷惑がっているわけではない
(むしろ喜んでいる)とイングラムは感じていたのだが・・・・。
「(俺の自惚れだったか?
いつもなら『もったいない』の一言で受け取ってくれるというのに)」
クォヴレーは倹約家だ。
洗濯物もお風呂の残り湯でするし、
洗物も水を溜めてから洗ったり、
窓拭きなどはボロボロになった下着などで行う倹約家。
当然新品の服を『捨てる』というのは『倹約家』の名折れになるし、
なによりイングラムの心を踏みにじってしまうようで嫌なのだ。
だが今回は・・・・
そっぽを向くクォヴレー。
どうしてもこの服を着てもらいたいイングラムは、
小さくため息を吐きながらいつもの『演技』に入った。
「クォヴレー、お前が着てくれないとこの服は・・・」
だがそこまで言ったとき、信じられないくらい冷たい瞳で
「・・・返してくればいい」
と、クォヴレーは言い返した。
さしものイングラムもその後の言葉に詰まってしまう。
「・・・まだ値札はついているのだろう?なら返品可能なはずだ」
「・・・・・・・・・」
確かに今、目の前にかざしている服には値札がついている。
クォヴレーが目を丸くするような金額の洋服。
ブランド品を買うような人種が『返品』などしないだろうが、
返品をしようと思えば可能だろうなはずだ。
だが返品になど行きたくない。
プライドもあるしなによりクォヴレーに似合うと思って買ってきた
1点モノの服を返品することで他の誰かが着るのは気に食わない。
「・・・気に入らないのか?」
再び同じ質問をしてみる。
何故何度も同じ事を聞くのか?
クォヴレーは機嫌悪そうにコクンと頷きイングラムを見つめた。
「どこが気に入らない?」
何が気に入らないのか?深く追求する。
聞いておかなければまた『気に入らない服』を
買ってきてしまうかもしれない。
しかしクォヴレーはその質問に一層機嫌悪い顔になると、
ソファーから立ち上がり部屋を出て行こうとした。
はやくこの話題から逃れたい、
そんな雰囲気を体中に醸し出しながら。
「クォヴレー!」
だが、入り口で肩をつかまれ阻まれてしまう。
振り払おうとするがイングラムの力は強く、
振り払うどころかそのまま壁に追い込まれてしまった。
「・・・・どけ」
「どくわけにはいかない。クォヴレー、俺の眼を見ろ」
「・・・・・・」
クォヴレーは一瞬目を合わせるが、直ぐに視線を逸らしてしまう。
すると顎をつかまれ強引に視線を合わせられてしまったのであった。
「・・・!イングラム、痛い!」
「俺の目を見ろ、と言ったのに見ないからだ。
クォヴレー、さぁ、俺の眼を見ながら答えろ。
・・・どこが気に喰わない?」
「・・・・・・っ」
唇を噛みしめ、恨みがまし気にイングラムを睨む。
彼の頭のてっぺんから顔、首、胸、腰、腿、足のつま先。
ゆっくりと『イングラム』を凝視し、口をへの字に曲げるクォヴレー。
そしてゆっくりと目を伏せ、小さく呟いたのだった。
「・・・・・んだ」
「何?」
蚊の鳴くような小さき声はイングラムに届かなかった。
不機嫌になりつつあるイングラムの眉がつりあがっていく。
「オレだって・・・・・んだ」
「・・・・・?何だって?なんと言った?」
「・・・・・・」
相変らずの蚊の鳴くような声。
不機嫌になっていくイングラム・・・・。
しだいにクォヴレーはいたたまれなくなり、
目頭が熱くなっていった。
「だから・・・オレだって・・・着たいんだ」
「着たい?」
コクン、と頷くクォヴレー。
しかしイングラムには何がなんだか分からなかった。
一体何を着たいというのだろうか?
と、頭の中はクェッションマークでいっぱいになっていく。
「何だ?何を着たいというんだ??
こういう服は嫌いだったのか???」
力なく頭を左右に振るクォヴレー。
「そういう服は・・・嫌いではない」
「???では、何が気に喰わない?」
「デザインではないんだ・・・」
「??????」
「イングラムはセンスがいい。オレにあったデザインを選んできてくれる。
いつもとても感謝している・・・だが・・・・」
「だ、が?」
ダラン・・とさげていた両手をイングラムの背中に回し、
顔を胸板に埋める。
頬を胸板に摺り寄せながら、蚊の鳴くような声で話を続けた。
「・・・色、が・・・」
「色?」
「色・・・いつも淡い色ばかり・・・イングラムは・・・明るい色の服・・多いのに」
「・・・?????」
「今日・・・言われたんだ」
「・・・??言われた?」
何を言われたのか?
そいえば・・・とイングラムは思い起こしてみた。
部屋に入ってきたとき、クォヴレーは珍しくソファーの上でゴロゴロしていた。
大抵は端末に向かってなにか作業をしているのに、だ。
クォヴレーがゴロゴロしているときの理由は限られている。
イングラムが夜通し責めて体がだるい時、や、
むくれている時、落ち込んでいるときだ。
今回は元気がなかったからきっと『落ち込んでいた』のだろう、と
答えに行き着くイングラムであった。
胸に顔を埋めてくるクォヴレーの身体をそっと抱きしめ返し
顔を覗き込むようにして尋ねてみることにした。
「誰になんと言われた?」
「・・・お前はいつも味気のない色ばかりだ、と」
「味気のない色?」
「オレの持っている服・・・ほとんどがイングラムからのプレゼントだ」
「・・・そうかもしれないな」
「実際そうなんだ。オレはファッションに疎いから。
・・・イングラムが選んだデザイン、色。
その全てに共通しているのが『淡い』なんだ」
イングラムはこれまであげてきた服を思い返してみる。
どれもこれも忙しい合間を割いてクォヴレーの為に選んで買ってきた洋服だ。
クォヴレーに合いそうなデザイン、
クォヴレーに合いそうな色。
「・・・・!(そうか)」
反芻していくうちにあることに気がついた。
自分がクォヴレーに送ってきた服。
確かにデザインは様々な種類があったが、
色はどれもこれも似たり寄ったりであったのだ。
「・・・薄いグレー、薄い青・・・、茶色、黒・・・。
オレの服は全てがそんな色だ・・・・。
今、くれようとしている服も・・・・」
「・・・・グレー・・・だな・・・(それもかなり淡いグレーだ)」
「皆・・・・オレがイングラムのクローンだということを知っている」
「・・・クォヴレー」
淡々と語ってはいるがクォヴレーの表情は悲しみに揺れていた。
受け止めたはずの現実。
決して逃れようのない真実。
どんなにがんばっても所詮はコピーと
心無い人間は罵り蔑むのだ。
「・・・今日、言われた」
「・・・・・・」
「『少佐は赤などの華やかな色を着るのにお前は着ないんだな?
所詮はコピー。オリジナルの劣化品。
着ている服さえもお前と同じでハッキリしない色が多いな』・・・と」
「・・・・・・」
目を伏せ懸命に涙が出るのを堪える。
けれども密着していれば身体の震えは隠せない。
イングラムは目を閉じ、力の限りでクォヴレーを抱きしめた。
「!!・・・んぅ・・!イング・・・苦し・・・っ」
「クォヴレー・・・!そんな愚かな輩の言うことなど気にするな!」
「・・・イング・・・ラム」
「言いたい奴には言わせておけ。所詮は群れていないと何も出来ない連中の戯言だ」
「・・・かっている・・・、オレだって・・・わかっている・・・!だが!」
抱きしめてくれるイングラムの腕から逃れるように暴れだした。
腕の中で身体を翻し、なんとか離れようとする。
しかしイングラムは離してはくれなかった。
「クォヴレー、気にするな。お前は俺と同じ遺伝子を持っているだけだ。
俺とお前は違う『個人』だ。」
「・・・・分かっている!だが・・・だが・・・!」
「クォヴレー」
ぎゅぅ・・・と暴れ続けるクォヴレーを抱きしめる。
すると観念したのか暴れるのをやめ、
イングラムを見上げ、哀しそうに呟いたのだった。
「・・・聞いていいか?イングラム」
「・・・あぁ」
「どうしていつも淡い色なんだ?」
「・・・・・それは・・」
「お前は一度だって俺に赤や緑の服をくれた事がない。
どうしてだ???お前はいつも明るい色ばかりなのに」
クォヴレーの瞳が段々虚ろになっていく。
確かにイングラムを見ているはずなのに、
瞳はイングラムを映してはいない。
悲しげな表情で小さく、小さく言葉を発していく。
「やはり・・・所詮はコピーだから・・とお前も・・・?」
「!?」
「・・・・・うっ!」
小さき呟き。
聞こえないように言った言葉。
だはそれは紛れもなくクォヴレーの本心。
最後まで聞くことなく、イングラムはクォヴレーの頬を張っていた。
「クォヴレー、お前がそんなに心が弱いとは・・・ガッカリだ」
「・・・・・っ」
頬を張られたからか。
イングラムの視線が冷たいからか。
クォヴレーは驚愕しながら真っ直ぐにイングラムを見つめ、
射抜くような彼の視線から目を逸らすことが出来ずにいた。
「お前がいつまでもそんな考えを持っているから、
そういうことをいう連中が後を絶たないんだ」
「・・・・!」
「俺とお前は別々の『個人』。
別の色で生きている人間だ」
「・・・別の・・・色・・・?」
フゥ・・・とため息をつくと、
イングラムはクローゼットへむかう。
そして一枚の服を手に持ち戻ってきたのだった。
「・・・なん、だ?」
クォヴレーの手を引き、入り口近くの全身鏡の前へと連れて行く。
そして手に持っている『赤い服』をクォヴレーにあてがった。
「イングラム????」
「・・・よく見てみろ」
「・・・・?????」
言われたとおり鏡に映った自分をよく見てみる。
隣に並ぶ男とよく似た顔。
少しだけ表情を曇らせながらも鏡に映った自分を見続ける。
しばらくするとクォヴレーはあることに気がついた。
「・・・・変だ」
「・・・・・・・・」
鏡に映るイングラムと視線を合わせもう一度繰り返した。
「なんか・・・変だ」
鏡の前で合わせた赤い服。
イングラムサイズなので少々(?)でかいのは横においておいても
違和感を感ぜずにはいられない。
「どう変なんだ?」
「・・・・なんか・・・はっきりしない・・・?
いや、ハッキリしすぎている・・・服、が・・・・」
「・・・そうだろう?」
「・・・・・?」
鏡に映ったイングラムの表情が少し和らいだ。
クォヴレーの頭に手を置き、そっと髪の毛をすいていく。
「俺とお前は確かに顔が似ている・・・・。
だがお前は俺に比べて色が白い」
「・・・・そう、かもしれない」
「おまけに髪の毛は銀色だ」
「・・・・そうだな」
「眩い黄金の髪、輝く白銀の髪・・・。
これら二つの色は原色と合わさると見劣りしてしまう」
「・・・・・・・」
「逆に、薄いピンク、薄いグレー、茶色、紺・・・、
これらの色はこの二つの魅力を引き出してくれる」
「・・・・・・!」
鏡の向こう側、
見つめてくるイングラムの表情がいつものように和らいでいく。
それと同時に高鳴っていくクォヴレーの心臓。
「俺はクォヴレー・ゴードンを一人の人間として愛している。
そんなお前に似合う色をと考え、淡い服をいつも贈っていた」
「淡いは・・・オレに似合う・・・色・・・ということか?」
「・・・少し違う、お前の魅力を最大限に引き出してくれる色だ」
「???どう違うんだ???」
首を傾げるクォヴレーに苦笑をむけそして意地悪く微笑んだ。
「どう違うのかは・・・お前への課題だ
(お前の魅力を引き出してくれる色・・・
それに気づいた時、お前はどんな風に輝くのか・・楽しみだな)」
「・・・課題???わっ・・・んっ」
グイッと顎を捕らわれ口付けを落とされる。
進入してくる熱い舌に自分の舌を預け彼を味わっていく。
「んっ・・・ふ・・・・」
ピチャ・・・と音を立て、唇が離れた。
熱い視線に頬は火照り身体も火照っていく。
「・・・今度、お前に合いそうな赤や緑の服を見つけてくる」
「・・・んっ・・・んぅ・・・あ・・るの・・か?」
口付けの合間に交わされる会話。
しかしクォヴレーの舌は甘く痺れ段々回らなくなっているようだ。
「・・・見つけて・・・きてやる・・・
二度と・・・お前が蔑すまれないように・・・」
「イング・・・・っ」
赤・青・黒・・・・。
『色』には様々な種類がある。
そして人はそれぞれ自分に似合う色というものがあるのだ。
自分を最大限に引き出してくれる色を見つけ、その意味にいづいた時、
クォヴレーはイングラムの『愛の深さ』に気づくこととなるのである。
有り難うございました。
忘れたころに続きがUPされると思ます。
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