匂っちゃうの!
 


〜香りの原因!?〜


「オレ、大盛りじゃなくて山盛りね!」
「はいはい、わかってるよ!・・・あんたは?また半分でいいの?」
「・・・ええ、オレの分はアラドへあげてください」

場所はアークエンジェルの食堂。
クォヴレーはアラド、ゼオラと一緒に夕食をとりに来ていた。

「やりぃ!いやぁ・・・毎回悪いな」
「いや・・・どうせ残してしまうし・・・
 それならばアラドに食べてもらうほうが食べ物も喜ぶ・・と思う」
「なるほどねぇ・・・、確かにそうだよな!んじゃ今夜も遠慮なく貰いまっす」
「もぉ〜!!いい加減にしなさいよ!アラドは食べすぎよ!
 クォヴレーは食べなさすぎ!ほんと足して2で割れば丁度いいのに・・・」

そんな二人のやり取りを見ていたゼオラは、またいつもの如くお小言を言う。
アラドは聞く耳持たずな感じで「♪」を浮かべながら、
クォヴレーの分を自分のトレーに乗せてもらっている。

そう、コレが今では当たり前になっている「トリオ」の食事時での会話だ。
ゼオラは怒りつつも弟のような存在のアラドが(実は恋愛感情を抱いているが)
食べ物を豪快に食べている姿を見るのは好きだし、
もう一人の弟のよう存在・クォヴレーが
最近食事の時によく笑ってくれるようになったので、
(食事量が少ないのは気になるが)
怒りつつも実は幸せを噛みしめているのであった。

だが、この平和な光景がある人物のある一言により崩れ去ってしまうことを、
この時の3人はまだ知る由もなかったのである・・・・。













「食事時なだけあって混んでるわねぇ・・・席が空いていないわ」
「そうだな・・・一緒に座るのは困難かもしれない」
「うーん・・・でも一緒に食べたいよなぁ・・・あ!」

3人はトレーを片手に空席を探していた。
だが夕食の時間帯なだけあって空席はなかなか見つからない。
空席があっても1席だけと・・・そんな感じなのである。
だがその時、アラドが空席を見つけたのか、大きな声を出した。

「ゼオラ!クォヴレー!あそこ!」
「・・・空いたようだな」
「ええ!行くわよ二人とも!」
「了解だ」
「よっしゃーー!!」

両手でトレーをしっかりと握り締め、
3人は無言のまま超特急で空いた席へ急ぎ足で行く。
他にも空いたその席を狙っていた人間はいたが、
鬼のような形相のアラドが突っ込んできたので
泣く泣く席を明け渡してくれたようだ。


バンッとトレーを置き席の確保に成功した3人。
無事食事の席を確保できたことにフゥ・・・と安堵の息をついた時、
事件は幕を開けようとしていたのである。



「あらぁ?なんだか懐かしい香りがしたわ」

アラドがニコニコ顔で、いただきまーす!と箸を掴んだその時、
突如その声は背後からかかってきた。

「へ?」
「え?」
「?」

3人は横一列に並ぶような形で席を確保したのだが、
その確保した席の背後からその人物は話しかけてきたのである。

「フフ・・、ごめんね?驚かせちゃった?」

ふり返れば緑色のショートヘアーで、
着ている露出度の高い制服が印象的なアヤ・コバヤシ大尉が後で食事をしていた。
傍には妹のマイとリュウセイ・ライ・ヴィレッタも一緒に食事をしているようである。

「いえ・・驚いたというか急に声をかけられたから何かと・・・」
「フフ・・ごめんね?あなた達が走ってきた時、懐かしい香りがしたから」

その時、アヤは何故か物悲しげな顔をしていた。
なぜそんな顔をするのかクォヴレーにはわからなかったが、
明らかにアヤは自分を見て哀しそうに微笑んだ・・ように思えたのだ。

「懐かしいって?なんだよ、アヤ?」
「リュウは感じなかった?」
「??何を??」
「リュウはそういうことに鈍感そうだものね。
 マイ・・はわからないわよね・・・、
 でもライは隊長はわかるんじゃないかしら?」
「・・・自分がですか?」
「私も?」
「ええ」

皆一様にアヤの言葉に首を傾げる。
一体何が懐かしいのだろうか?
相変らずクォヴレーを見ては困ったように微笑むアヤ。

「香水って誰でも手に入れられるから同じ匂いがしても不思議はないのだけど・・」
「香水っすか??」

「香水」というあまり聞かない単語にアラドは驚いたような声をあげる。
コクンと頷くアヤに、益々「???」になっていく一同。

「・・・クォヴレーは・・こういうこといわれるのイヤかもしれないけど・・」

遠慮がちに話を続けていく。
皆「???」な顔をしているし、
ここで話を終わらせてもよくないと判断したからであろう。

「・・・自分、がですか?」
「・・ええ、だから気を悪くしないでほしいの・・・
 偶然にしてはあまりにも懐かしかったから・・つい・・」

遠慮がちに言うアヤにライは何かを感じたのか、あ!という顔になる。
それとほぼ同時にヴィレッタが、

「あ!そういうことね・・・!成る程・・・」
「フフフフ・・隊長もライもわかったみたいね」
「ええ・・・確かに懐かしい香りですね」

3人は何かを懐かしむようにクォヴレーに視線を送ってきた。
だがクォヴレーは何故そんな目で見られるのかわからないので首を傾げるばかり。
そしてまったく話のみえてこない他の5人も同じように首を傾げていた。

「・・・クォヴレー、貴方・・彼と同じ匂いなのね」
「・・・・はぁ?」

何の話だ?とクォヴレーは更に首をかしげた。

「匂い・・ですか?」
「ええ、匂い」
「・・・それって・・・香水の匂いってコトですか?」
「そうよ、ゼオラ」

どこか遠くを見つめながらヴィレッタは質問に答えた。
だがアラドは、

「・・・クォヴレーが香水つけているってことっスか??」
「ああ・・しかもあの人と同じ香水だな」

無表情ながらも、ヴィレッタと同じように遠くを見ながらライは答える。
しかしアラドは「はて?」という顔で、

「・・・クォヴレーは香水も清汗スプレーも使ってないよな?」

と、同意を求めるようにクォヴレーを見ながらその言葉を言った。
クォヴレーもコクンと小さく頷いて持っていないことを主張する。

「ああ、第一に持っていない」

衝撃の告白にアヤもヴィレッタもライも
目を大きく日開くことで驚きを現した。

「嘘だろ!?だって・・お前・・・この距離でも香ってくるぞ??」

滅多に大声を上げないライが席からガタンと立ちあがりクォヴレーを見下ろす。
そう、ライはクォヴレーから最も遠い位置にいるのに、
懐かしい香りが漂ってきているので、
『つけていない』という事実に驚きを隠せないようだ。
一方クォヴレーの言葉が信じられないアヤは何故かクォヴレーに鼻を近づける。
怪しげなアヤの行動に不快感さを滲ませながら、

「大尉・・・何をしているのです?」

と質問した。
だがアヤはクンクンとクォヴレーの首の辺りに顔を近づけ
何かを確かめているよである。

「・・・本当に何もつけてないの??」
「???ええ」
「おかしいわねぇ・・・確かに匂うのに・・特にココ」
「?」

そう言いながらアヤはスッとクォヴレーの首筋を指した。

「首筋からよく匂うわ・・・あ、でも何故か顔からも香るわね」
「顔???香水って顔にかけるもんなんか?ゼオラ?」
「え・・・?普通は首とか腕とかだと思うけど・・・?」


クォヴレーの首に顔を寄せて相変らず匂いの元を確かめているアヤ。
と、その時問題の人物の身体が小刻みに震え始めていることに気がづいた。


「???クォヴレー???寒いの??」
「・・・か・・お・・から・・・???」
「え?」
「・・・大尉・・・顔から・・も・・匂うのですか??」
「・・・・え?」
「・・・だから・・・その・・・懐かしい匂いとやらは・・顔からも?」
「え、えぇ・・・そうだけど・・それが・・・」

その時、クォヴレーの顔は一瞬で茹蛸のように真っ赤になったのである。
そして勢いよく席から立ち上がったかと思えば・・・


「ひ・・・昼寝してくる!!」
「・・・・へ?この時間だと就寝なんじゃね?」

突然真っ赤になったかと思えば「寝る」と言い出したクォヴレーに、
驚きつつもアラドは冷静につっこみを入れてみた。
生真面目な性格のクォヴレーは
その突っ込みに納得したように返事を返しながら、

「!?そうだな・・もう昼寝とは言わないな・・・
 とにかく!アラド!オレの食事は全部食べてくれてかまわない!
 オレは今から昼寝・・ではなく就寝させてもらう!」
「ちょっと・・クォヴレー!?」
「すまないゼオラ!明日はきちんと食事を取る!
 だから今夜はどうか見逃してほしい!!
 それから皆も『匂い』については深く突っ込まないで下さい!!」
「お・・おい!クォヴレー???」

アラドの呼びかけには答えず、慌てて食堂を後にするクォヴレー。
皆一様にポカーン・・・としていたが、
何故かヴィレッタだけが苦笑いを浮かべていた・・・。








一方自室に戻る最中、クォヴレーは怒りと恥ずかしさで体中を真っ赤にさせていた。
そして心の中でひたすら叫び続けていたのである。


「(イングラムの奴ーーー!!だから顔にはかけるなって言ったんだ!!
 だいだい首に吸い付きすぎなんだ!!絶対に許さない!!)」



さてさて、クォヴレー君から漂ってきた『匂い』の原因とはなんだったのか・・・?
皆さんはもうお分かりですね・・・・?



有り難うございました。 この後イングラムがどう怒られたのか・・・は、 書くかも知れないです・・・そのうち?