〜イングラムとキッス〜
素直じゃなくて・・・ごめん・・・。
イングラムとキスをした。
3日ぶりのキスだ。
初めて自分からしたキスだ。
自分からしたキスなのに、いつの間にかオレは身体に力が入らなくなってしまっている。
ベッドの横に立ちながらキスを交わしていたはずなのに、
いつの間にか身体はベッドの上・・・、
いや・・・性格にはイングラムの身体の上にある・・・。
「ん・・・・んっ・・・・ぁふ・・」
息が苦しくなる。
イングラムのキスはいつもそうだ。
夢中になってしまう。
夢中になって息をするのを忘れてしまう。
このままでは窒息する!と、彼の身体を押し返しキスから逃れるのだが、
イングラムはいつも頭や身体を押さえ、キスから開放してくれない。
今回も駄目もとで彼から唇を離してみた・・・だけど・・・・
「・・・・・・ぷはぁ・・・」
「・・・・・・・」
だが、オレが唇を離してもいつもの強引な力は襲ってこなかった。
イングラムは薄く開かれ濡れた唇をしながら黙ってオレを見上げている。
オレを見つめるイングラム。
オレもイングラムを見下ろす・・・。
どれくらい見つめ合っていたのだろうか・・・?
オレが何もせず突っ立っていると、
イングラムは小さく息を吐き、
再び目を閉じてしまった。
「(あ!)」
いつもと違う・・・?
いつもと違う・・・!
いつもならキスで仲直りだというのに・・・・。
イングラムはまだ怒っているんだ。
「イングラム!」
オレは彼の名を呼んだ。
「・・・・・・」
「イングラム!」
「・・・・・・」
だがイングラムは返事をしてくれない。
オレの呼びかけに閉じていた目を開いてはくれたが、
言葉を放ってはくれない。
・・・どうしてだ??
オレが何も言わず、彼の体の上でしどろもどろしていると、
再び小さくため息をつくイングラムに、オレの身体は小さく竦む。
「・・・なんだ?」
そして一言、言葉を発してくれた。
「イングラム・・・オレ・・・」
「・・・・・・」
「オ・・・レ・・・・」
「・・・・・・・」
イングラムが口をきいてくれたというのに、
オレは『オレ』以外言えないでいた。
するとイングラムは再び目を閉じようと・・・・
「(駄目だ!!駄目だ!!このままでは駄目だ!
だがなんと言っていいいのかわからない・・・。
どうすれば・・・・そうだ!)イングラム!」
「・・・クォ・・・・んっ」
イングラムの頬に手を添え、再びキスを仕掛けた。
上手くなくていい。
濃厚でなくていい。
ただ・・・彼の唇を塞ぐだけのキスだ。
やがてゆっくりと唇を離した・・・。
「イングラム・・・オレ・・・わからないんだ」
「・・・・・・・」
「なんと言っていいのかわからない・・・、
どう謝ればいいのか、わからない・・・」
「・・・・・・・」
「だが、オレはイングラムが好きだ・・・。
好きだから触れたい!キス、したい・・・」
「・・・・・・」
「・・・『ごめんなさい』が言えないかわりに、
『ごめんなさい』のキスがしたい・・・」
思いつくままに言葉を連ねていく。
それまでイングラムは黙って聞いていたが、
「『ごめんなさい』のキス・・・?」
と、聞いてきた。
イングラムがやっと話してくれたのが嬉しくて、
オレは無我夢中で頷いた。
「そ、そうだ!」
「・・・『ごめんなさい』のキス、とはどんなキスだ?」
「それは・・・」
「・・・・・」
どんなキスだろう???
結局キスはキスだし・・・・そうだ!
「オ、オレからキスするキスは『ごめんなさい』のキスだ」
「・・・お前から?」
その時、イングラムの眉が不機嫌につりあがった。
・・・・何故?
オレ、何か怒らせることいったか?
「では俺はお前からキスしてもらえることはほとんどないというわけだな?」
「・・・・!」
あ!
そうか・・・!
そういうことになってしまうよな・・・??
「・・・お前はやはり俺とそういうことをするのが嫌なんだな・・・」
「!?そんなこと・・・!!」
「そうだろう?今回の喧嘩の原因だってそれだしな」
「え?」
喧嘩の原因???
今回の喧嘩の原因ってなんだった??
そうだ・・・3日前、
いつものようにイングラムが強引にベッドに押し倒してきて、
オレは思わず言ってしまったんだ・・・・
『イングラムはオレではなくセックスが好きなだけなんだ!
だからオレの意思は無視するんだ』
あの時、イングラムはとても傷ついた顔をしていた。
それはそうだと思う。
だってオレは知っているんだ。
イングラムは本当は『淡白』だということを・・・。
これまで何人かと『経験』はあるっぽいが、
いつもどこか冷めていた・・・とヴィレッタも言っていたし。
「俺が熱くなるのはお前だけだ。
お前相手だから見境もなくなるし、歯止めも利かなくなる。
だがお前は俺が嫌いらしいな?」
「そんなことは・・・」
「お前はいつもそうだ」
「え?」
「必ず最初は俺を否定する」
「・・・否、定?」
「セックスを始めようとすると、『嫌』と必ず言うだろう?」
「!?」
「俺は否定されている、ということだ」
「!?」
イングラムの表情が悲しげなものにかわった。
違うんだ!!
違う!!
否定しなければ!
だがどうやって言葉にすればいいのだろう??
どうやって・・・・?
どうやって・・・・?
言葉は難しい・・・・。
言葉を使うのは苦手だ・・・。
言葉で伝えられないならどうしたらいい?
どうしたら・・・・?
あぁ・・・、そうか・・・・
だから・・・イングラムは・・・・
イングラムも無口で・・・言葉が苦手なのか?
だから・・・イングラムは・・・・
オレの身体は考えが全てまとまるより先に、
動き出していた・・・・。
「ん・・・・んっ・・・」
「・・・・・っ」
三度目のキス・・・・。
オレはいつもイングラムがそうしてくるように、
それを真似て激しく彼の唇を犯し続けた。
言葉の代わりに『好き』を伝える為に・・・・。
「んっ・・・・ふ・・・」
「・・・・・っ、・・・・・ん」
唇を離す。
オレの目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
イングラムの指がその涙を優しく掬ってくれる・・・。
「クォヴレー・・・」
「イングラム・・・嫌じゃないんだ!」
「・・・・・・?」
「イング・・・とエッチなことするの・・・嫌じゃない!」
「・・・・・・・」
「けど・・・は、恥ずかしいから・・・どうしても『嫌』と言ってしまうんだ」
「・・・・・・・」
「オ、オレの『嫌』は『いい』と思って欲しい!!」
「・・・・・!」
オレは一体何を言っているんだ???
恥ずかしさで全身を真っ赤にさせていると、
イングラムはオレの腕を掴み、身体の上下を逆にさせた。
「うわ!!」
見下ろしていた顔に今度は見下ろされている。
「クォヴレー・・・、俺を好きか?」
「・・・・・・」
オレは恥ずかしいので顔を背けてコクン、と小さく頷く。
だがそれでは納得いかないのか、
グイッと彼の視線と合わせられてしまう。
「俺を、好きか?」
「・・・・き」
「・・・・・」
「好き・・・だ」
見上げるイングラムの頬が綻んでいく。
そして軽くキスをされて・・・
「俺も、好きだ。
だから『否定』されると悲しくなり、腹が立ってしまう」
「・・・・・・」
「好きだからお前からもキスしてほしいし、
身体も繋げたい・・・・」
「・・・オレも繋がるの、好きだ・・・嫌じゃない・・・恥ずかしいけど」
「本当か・・・?」
「本当だ・・・ただ強引なのは・・・嫌だ・・・
心の準備くらいさせて欲しいんだ」
「・・・確かに俺は強引なことがほとんどだったな・・・悪かった」
「オレも『否定』ばかりして悪かった・・・ごめん」
オレ達はその後もしばらく謝りあっていた。
第三者がいたら不思議な光景だったに違いない。
3日間の隙間を埋めるように
謝罪から普通の会話を交わしていく・・・。
そして・・・・
「クォヴレー」
「・・・・・ん?」
「・・・いい、か?」
真剣なイングラムの顔にボッと熱くなる。
確かに心の準備は整ったが・・・、
面と向かって言われると照れるというか・・・
「お前が欲しい・・・、触れられなかった3日間、気が狂いそうだった」
「・・・・イングッ」
「いい、か?」
真剣な、イングラム。
オレを好いてくれているイングラム。
そんな彼を拒む理由などどこにもない。
オレは・・・小さく頷き、彼の唇に唇を近づけた。
オレからのキス・・・。
イングラムとキス・・・・。
3日ぶりの愛の育みは・・・・
オレのキスから始まろうとしていた・・・・。
有り難うございました。
ブログに掲載したものの続き。
ちょこっとだけ題が違うんですよ(笑)
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