言いつけは守ること
 



*パラレル*



〜悔恨〜



大人(親)の言うことは絶対に聞く。

オレはそれを身を持って体験した。


「大丈夫か?」

コクピッドに入ってくるなり保護者、兼、恋人であるイングラムが、
心配そうに覗き込んできた。
こともあろう、オレは戦闘の最中によそ見をして、
顔面をおもいっきりぶつけてしまったのだ。
幸い血は出なかったが目の辺りを強く打ってしまった。
いつもならこんなミスはしないのに、
今回は昨晩の激しい・・・その・・・運動のせいでどこか上の空だったんだ。

「・・・しっかりと見えているし、傷はついていない・・と思う」
「本当か?」

イングラムはオレの目をジッと覗き込んでくる。
青い目が心配げに細まっていてなんだか胸が痛くなってきてしまう。
・・・心配をかけてしまっている。

「だが目なだけに心配だ。念のため医務室へ行くぞ」

オレは大げさだ、と言おうとしたが、
有無を言わさない強さでコクピッドから下ろされ、
強制的に連行されてしまうのだった。







『眼球は傷ついていないから平気よ。
 でも1週間はこの目薬を朝と晩にさしてね』






診断の結果はそのようなものだった。
たいしたことがなくてよかった。
イングラムも安心したのか、穏やかな笑みを浮かべてオレの頭を撫でてくれた。





だが問題はそこから始まったんだ。














「・・・クォヴレー」
「?」


ベッド上で本を読んでいたらその本は取り上げられてしまった。


「1週間は目を酷使してはダメだろう?」
「・・・・!・・う」

呆れたようにため息をつくイングラムに反論のしようもない。
オレは枕を抱えて恨めしげにイングラムを睨んだ。

「少しくらいなら問題ないはずだ。あと30分ならいいだろう?」

ベッドの傍に立つイングラムに上目使いでお願いをしてみる。
けれどイングラムは取り上げた本を片手に、

「だ・め・だ」

とオレの鼻をギュムッと摘んできたのだった。

「目は危険なんだぞ?1週間は我慢しろ。」
「・・・・・・」
「・・・クォヴレー?」

イングラムの『注意』に返事をしないでいると、
恐ろしく低い音声で名前を呼ばれたので、
オレは慌てて首を立てに振った。
彼を怒らせてもいいことは何もない、と断言できるからだ。

「わかった・・・」
「よし!・・・・それで目薬はもうさしたのか?」
「・・・え?」

・・・・・オレは返事が出来なかった。
まさか目薬を貰ってから一回も点眼していない、とは言えないしな。

「朝晩、さすように言われていただろう?
 夜の分はもうさしたのか?」
「・・・・あ・・・あぁ・・・もちろん・・・・」

言えない。
言えるわけない。
だからオレは嘘をついた。



・・・だって恥ずかしいだろ?
目薬をさすのが怖くて一回もさしてないだなんて・・言えない。
けれどオレがあやふやに答えたから、ピンッときたのか、
イングラムは無言のままナイトテーブルにおいてあった目薬を手に取った。

「・・・・これは?」

険しい目つきの彼が腕を組んで見下ろしてくる。
とうとうばれてしまった。
開封していないのだから当然だが・・・どうしよう?


「まさかとは思うが一回も使っていないのか?」
「・・・そ、それは・・・・」

証拠があっては嘘もつけない。
厳しい視線の前には言い逃れも出来ない。
オレはしょぼくれながら小さく頷くことで肯定した。
頭上からイングラムの重たいため息。

「・・・どうしてささなかった?」
「・・・・・・」
「お前は言いつけは守る子だろう?」
「・・・そうだが・・・だが・・・・無理だったんだ」
「・・・無理?」

真っ直ぐ見下ろしてくる視線を外すことなく見つめつつ、オレは答える。

「・・・目薬・・怖くてさせない・・・無理なんだ」
「!」

オレの答えは衝撃的だったのか・・・・、
イングラムは一瞬目を大きく見開き、
そのあと何かを考えるように沈黙してしまった。




・・・なんだが気まずい。




だが、その時。




「・・・・・フ・・・」
「?」
「ククククク・・・・」
「??」
「クク・・・はははははっ」


???なんだ??いきなり笑いだしたぞ??
どうしたんだ???

「はははっ!大人びたお前にも子供の一面があったとは・・・くくく・・」
「イングラム?」

見下ろす目がなぜか優しいものに変わっていた。
なんなんだ??

「まさか目薬がさせないとは・・・気づかなくて悪かったな」
「・・・・・・うっ」

身体が熱い!
なんだか急に恥ずかしくなってきた。
イングラムのあの優しい笑顔がよけにに傷つくぞ!
オレはムッと唇を尖らせた。

「拗ねるな、その顔は可愛いだけだ」
「・・!!」

『可愛い』と言われるのが嫌いと知っていてあえて言うイングラムは嫌なやつだ。
だけど大きな手がオレの頬を包み込むように触られると、
その嫌な気持ちもどこかへ吹っ飛んでいってしまう。


・・・唇に温かいモノが触れてきた。
彼の唇だ。

「・・・・・ん」

包み込むような優しい口付けは次第に深くなり、
オレは夢中で彼に応えて唇を吸いあった。
そして頭がボゥ・・・としてきた頃、
目の辺りに彼の唇が異動していった。

「目薬はやはりさせたほうが何かと都合がいい。
 俺と一緒に練習をしような・・・だが、今回は・・・」
「!!」

ペロッと熱い舌が眼球を舐めた・・・気がした。

「イ・・イングラ・・・?」

一体何が起きているのか?
彼はフッと笑ったかと思うと、オレの瞼にキスをして再び眼球を舐めた。

「目薬の練習は明日からな・・とりあえず今夜はコレで治療だ」

・・・・コレって・・イングラムの舌のことだよな??
確かに傷は唾を付けておけば治る、というが・・・だが・・・。

「イングラム・・・っ」

ピチャピチャと濡れた音がする。
舐められていない目から知らず涙が溢れてきていた。

ガクガクと震え始めるオレの身体。



ああ・・・どうしよう?
目を舐められているだけなのに・・・オレの身体は感じ始めている。
それを知ってか・・・イングラムの手が優しくオレの下半身へ触れたのだった。




そして舐められているオレの目は確かにソレを捉えた。



・・・楽しそうに細められたイングラムの目を、
オレの目は確かに見たのだ。




・・・・・後悔先に立たず・・・。


・・・これからどんな時間が始まるのか・・・、
答えはイングラムのみぞ知る、だ。



有り難うございました。 裏に続くかもしれません・・・。 中途半端なSSになってしまっているので・・・・。