非番であるイングラムは三角巾を頭にし、
叩きやほうきを片手に家中の掃除をしていた。
リビング、客室、自分の部屋、風呂場、キッチンなどの掃除を終え、
いつもは極力掃除しないようにしている部屋、
クォヴレーの部屋も掃除することにした。
プライバシーの問題もあるし、
流石に主がいない間に入るのは(いくら恋人とはいえ)憚れるものもがあったからだ。
しかし今回は部屋の扉が少しだけ開いており、
その隙間からある気になるものが目に留まってしまったので、
『掃除』という名目の元、主のいない部屋へ足を踏み入れたのであった・・・・。
〜シークレット ダイアリー 前編〜
クォヴレーの部屋は綺麗に整理整頓されており、
部屋の主の性格が伺えるこざっぱりした部屋である。
本棚にはその年代の人間が読むとは到底思えない難しい本がずらりと並んでおり、
机の上も綺麗に片付いているが、
その机の上には置き去りさされたように一つのノートがポツンと置かれていた。
そう、イングラムが気になったのはそのノートなのである。
頑丈そうな作りのそのノート・・・・、
鍵がなければ中が見れないようになっており、
それだけでどういう用途のノートか分かるが、
表のある部分に書かれている文字がそれがそうであることを決定付けている。
「『Diary』・・・・日記か?」
クォヴレーが日記をつけていたことに驚きを隠せないイングラム。
一緒に住み始めて結構経つが、
日記をつけていたなどとはちっとも気付かなかったのである。
そして人間という生き物は他人の日記ほど読みたくなるもので・・・・・。
ズボンのポケットをゴソゴソし、あるモノを取り出した。
ソレは女性が髪の毛をアップする時などによく使われるヘアピンで
(なぜそんなものを常備しているかは不明である)
それを日記の鍵穴に差し込むと、何の苦労もなくイングラムは施錠を解いてしまった。
「(・・・少々気は引けるが・・・)」
許せクォヴレー、と心の中で謝罪し、
イングラムは歳がいもなくワクワクしながら拝見するのだった。
ベッドの上に座りながら日記を読み始めてどれくらい経ったのだろうか?
イングラムの頬は柔らかく緩み、時折噴出しては腹を抱えて笑っていた。
クォヴレーの日記は何のことはない、
極々平凡な日記である。
しかし彼はB型・・・・。
最初の頃はズラズラと長い日記をしたためていたが、
最近は飽きてきたのか、面倒くさくなったのか、
それでも途中で投げ出すのが嫌な彼らしく毎日書かれてはいるが、
最近は実に簡素な日記になっているのであった。
しかし本人以外の人間が読むときは、
返って最近の日記のほうがはるかに微笑ましい内容なのだ。
「・・・今日はなんだか腰がだるい。昨夜イングラムと散々・・・したせいだ。
痕こそつけられなかったからよかったが、体育がなくて本当によかった。
今は器械体操だし飛んだり跳ねたりするのは正直辛い・・・響くから」
確かにその日記の前の夜は痕こそつけなかったが、
いつになく意地悪く攻めた記憶がある、と思いだし笑いをする。
「今夜はカレーにしてみた。少し鍋を焦がしたがカレーだからあまり問題はなかった。
・・・・シチューじゃなくてよかった。
焦がしたことがばれたらそれを理由にからかわれるだろうしな・・・ベッドで」
・・・そういえばあの日のカレーはちょっと焦げた味がしたな、
と反芻し、ペラペラページを捲っていく。
そしてあるページに目が留まり・・・・・、
「なにしてるんだ!?」
大きな声で咎められ、イングラムは日記を床に落としてしまった。
部屋のドアに部屋の主が立っていたのだった。
しかしイングラムは笑いすぎのため目に涙が溜まっていたので、
ボンヤリとしかクォヴレーを捉えることが出来ない。
「何しているんだ!イングラム!!」
「・・・クォヴレー・・、おかえり」
「何していたんだ!?」
物凄い形相でイングラムまで駆け寄ってくるクォヴレー。
床下に落ちた日記を拾い上げ、
しっかりと腕に抱え込みながら大声で何度も尋ねるのだった。
「何していた!?」
「・・・・別に?」
怒り狂うクォヴレーとは裏腹に、
冷静なイングラムは大げさに肩をすくめシラを切る。
しかしその態度はクォヴレーの油に火を注いだだけである。
「『別に』ではないだろ!!じゃあ、これはなんだ!」
「・・・日記」
「そう、日記だ!!今朝まで机の上にあった!なのに今は・・・」
ビシッと床を指し次いでイングラムを指差す。
「床にあった!!どういうことだ!!」
「・・・羽でも生えて飛んだのではないのか?」
「そんなわけあるか!!」
日記をベッドに放り投げイングラムの洋服の襟をつかんだ。
そして顔と顔をめいいっぱいに近づけて罵る。
「読んだんだろ!!?」
「・・・・・・」
しかしイングラムはあくまで冷静な態度でフッと口端を緩めるだけである。
納得のいかないクォヴレーはもう一度ゆっくり尋ねた。
「よ・ん・だ・ん・だ・ろ!!?」
すると真っ赤になって怒っているクォヴレーの頬に、
そっと大きな手が添えられ顎をくすぐられ始めたのだった。
一体どういうつもりなのか?
訝しげな表情のまま見つめていると、
不意に腰を抱かれベッドに押し倒されてしまうのだった。
「うわっ!!」
青く癖のある髪が頬を擽る。
急に押し倒された衝撃が背中にきているクォヴレーは、
苦しげな咳を何回かした後、キッと押し倒しているイングラムを睨みあげた。
「何をする!!」
「・・・何も」
「そんなわけあるか!!」
「本当だ、ただこの方が冷静に話し合えるだろ?」
「オレは至って冷静だ!」
「そうかな・・・?まぁ、いい。
ああ、・・・そうだ、質問の答えだが」
「・・・読んだんだな?」
「・・・・YES」
信じたくない『答え』に驚愕顔のクォヴレー。
それと同時に再び怒りがこみ上げてきて、
汚い言葉で罵り始めるのだった。
「最低だ!!プライバシーの侵害だ!治外法権だ!!」
「・・・治外法権は関係ないだろう?」
「煩い!!馬鹿!!キチガイ!!種馬ーーーー!!スケベ!!」
「・・種馬とスケベは関係ないだろ・・・キチガイ・・は当たっているか」
「納得するな!!」
「・・・俺ばかりが悪い言われようだが・・・」
「お前が悪い!!」
何を言っても聞く耳なし、のクォヴレーに苦笑いのイングラム。
だが日記の内容があまりにも可愛らしすぎて、
今日はどんなことを言われようとも、
『可愛いなぁ』としかイングラムは思えなかった。
「そうかな?元はといえば机の上に置きっぱなしのクォヴレーにも非はあるのでは?」
「そんなことはない!!」
「・・・・そんなことはある」
「ない!!なぜなら主のいない部屋に勝手に入るのは違法だ!」
「・・・他人であれば、な。俺とお前の間には関係のない話だ」
「何故だ???」
「毎日あれだけ身も心も一つになっていれば当然だろ?」
「!!?な、ななななななっ」
「俺たちは二人で一つ・・・・」
「イン・・・・ん、・・・んんんっ」
そんなことでは丸め込まれない、と反論しようとしたが、
反論する口は発するよりも先に封じられてしまった。
甘く、脳が痺れるようなキスは直ぐに身も心も溶かされていく。
胸板を叩き抵抗していた手はいつの間にか首と身体に回され、
イングラムに応え始めていたクォヴレー。
互いに着衣を着たまま本能のままに抱き合っていれば、
次第にベッドの軋む音が大きくなっていく。
「ぁ・・あぁっ・・・脱・・・脱がせて・・くれ」
「・・・・っ」
「下・・・下、痛い・・・下着・・邪魔・・・」
「同意見だ・・・クォヴレー」
「イングラッ・・・んっ・・ふ、・・・っ」
激しいキスの嵐の中、
ついにイングラムの手がクォヴレーの洋服の一部に触れた。
身体の肉付きを確かめるように撫でた後、
そっとズボンのホックを外しジッパーを下ろしていく。
ジッパーが下まで下ろされると、
耐え切れない!と自らズボンを取り払ってしまうクォヴレー。
それはいつものようにクォヴレーがイングラムに陥落した瞬間であった。
有り難うございました。
続きまする。
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