*パラレル*
〜幸せを噛みしめて〜
「ウニャーーー!!」
普段は垂れ下がっている髭をピンッとはり、
一生懸命に猫パンチを繰り出している。
俺はその光景を見るたびに苦笑を止められない。
・・・・あれは雨の日だっただろうか?
『子猫』は耳をうな垂れて寒さに震えていた。
普段は通り過ぎる俺だが、
雨に濡れて光り輝くプラチナ色の毛色に惹かれ、
無意識に手を差し伸べていた。
すると『子猫』は威嚇しながら俺の手を振り払った。
『同情するな!』
・・・と。
強気な態度であったが目は酷く傷ついており、
俺はなんとか『子猫』を引き取り暖めてやりたかった。
体中に擦り傷、切り傷のある『子猫』は余程の扱いを受けてきたのだろう。
捨てられたのか、逃げてきたのかわからないが、
『主人』が今現在いないのであれば、
俺が引き取っても何も問題はないはずだ。
俺は小さく笑いつつ、首を横に振った。
『同情ではない・・・』
シャー!!と威嚇する『子猫』の首根っこを掴み強制連行。
暖かい風呂で綺麗に洗い、暖かいミルクを与えた。
暖かい寝床を与え、優しく触れる。
傷ついた猫はそれでも最初は警戒して威嚇してきていたが、
時が経つにつれ、気を許し甘えてくるようになった。
ただの気まぐれで引き取ったプラチナの『子猫』。
今では俺はその『子猫』に身も心も・・・デレデレだ。
そんな『子猫』が一昨昨日(さきおととい)、
ある拾い物をしてきた。
溝鼠のように汚れた、小さな『本物の子猫』だ。
小さな身体をブルブル震わせながらも、
尻尾を立てて必死に威嚇している。
「ウニャーーー!!」
普段は垂れ下がっている髭をピンッとはり、
一生懸命に猫パンチを繰り出している。
俺はその光景を見るたびに苦笑を止められない。
俺のプラチナの『子猫』クォヴレーはパンチを直に喰らい、
鼻に数本の引っかき傷が出来てしまう。
「・・・もう3日になるのに全然なつかない」
しょんぼりとうな垂れるクォヴレー。
拾ってきた猫のように、クォヴレーにも『本物の耳と髭』があれば、
しょんぼりと下に垂れているに違いない。
「まだ3日だからだろう?あと半月もすれば自分から擦り寄ってくる」
「・・・そういうものか?」
半信半疑の目で俺を見上げてくるクォヴレーに、
俺は小さく頷いてプラチナ色の髪の毛を撫でた。
「まだ人間に警戒しているだけだ。じきに警戒が解け、なついてくる。
・・・・お前だって俺になつくのに1ヶ月かかっただろう?」
「!!」
バツが悪かったのか、
全身を真っ赤に染めたクォヴレーは、
口をモゴモゴ動かして何か言い訳をしている。
そして甘えるように俺の身体に身体を擦り付けてきた。
「・・・あの時は生きているモノ全てが敵に思えたんだ」
クォヴレーの目が何処か遠くを見ながら独り言のように呟いた。
俺はあえて自分からはクォヴレーの過去を聞いたりはしていない。
あまり恵まれた環境でなかったのは分かっているし、
話したくなったときに話してくれればいいと思っているからだ。
あれから一ヶ月。
俺は寝室の外から聞こえる物音に目を覚ました。
隣のベッドには主がいなく空っぽだ。
つまりベッドの主があの音の正体なのだろう。
まだ眠い頭のまま、寝室から出てみた。
するとそこには仲良くじゃれあう二匹の猫がいた。
クォヴレーは俺に気がついたのか、
猫を抱きしめたままパタパタ駆け寄ってくる。
そして本当に嬉しそうに・・・、
「食べたんだ!オレの手から!!ご飯!!」
と、猫を掲げて見せ付けてきた。
「それから猫じゃらしにもじゃれついてきた!
イングラムの言うとおり、一ヶ月経ったら懐いた」
嬉しそうなクォヴレー。
その様子に俺の心まで嬉しくなってくる。
こんな気持ち、久しく忘れていた。
クォヴレーを拾ってからというもの、
俺は凍り付いていた心を取り戻しつつあるのかもしれない。
これが幸せ、というものだろうか・・・?
俺は良かったな、と呟きながらクォヴレーの頭を撫でてやった。
そして今度は猫の咽をなでようとした・・・その時・・・。
「痛っ・・・!!」
「!!?」
パタタッ・・・と血が・・・というほど大げさではないが、
猫に引っかかれ俺の手の平に3本の傷が出来ていた。
どうやらこの猫、俺にはまだまだなつく気がないらしい。
そういえばメスのようだし、クォヴレーに恋をしているのかもしれない。
これはなかなか強力なライバ・・・・!!?
・・・俺は今、何を考えた??
猫が・・・メスが(女が)ライバル???
それではまるで・・・・。
目線の先ではクォヴレーが心配そうに俺の手を撫でている。
猫の頭を軽く叩き、叱っている。
「イングラム、大丈夫か??」
心配そうなクォヴレー。
クォヴレーが心配してくれるだけで、
手の傷の痛みなど吹っ飛んでいってしまう。
「そんなに深くないから大丈夫だ。」
「だが結構腫れているぞ??」
「問題ない。昔はもっと大きな怪我をしたものだ」
「!?」
ゲージに子猫を戻していたクォヴレーが、
俺の言葉に驚いて振り返った。
「イングラムの仕事は大怪我をするのか??」
猫をゲージに入れ終えたクォヴレーは、
心配そうに俺に駆け寄ってきた。
俺は華奢なクォヴレーの身体を優しく抱きしめる。
「軍人はいつも怪我や死と隣り合わせだ。
・・・・だが・・・・」
細い顎に手を添え、上を向かせる。
目と目が重なり合い、お互い真っ直ぐに相手を見つめあう。
「守りたい誰か、・・・愛している誰かがいれば確立はうんと減る」
「・・・守りたい・・・、愛する・・・誰、か・・・?」
真っ直ぐ見つめてくるクォヴレーに俺の中の何かが弾けた。
顎を捉えたまま、ゆっくり唇を重ね合わせる。
・・・クォヴレーが息を呑むのが分かった。
だが、止められない。
止める気も、ない。
・・・そしてゆっくり唇を離す。
驚いているのか、クォヴレーの目は大きく開いたまま俺を見つめている。
「・・・お前が俺の愛する人になって欲しい」
「オレ・・・?」
俺は小さく頷いた。
クォヴレーの顔が段々真っ赤になっていく。
「オレなんかで・・・いいのか?
オレは素性も知れない・・孤児(みなしご)のようなものだぞ?」
「お前がいい。孤児とかそういうのは関係ない。
・・・お前といると幸せななんだ・・・、
いなくなったことを想像すると・・・・胸が張り裂ける」
クォヴレーの顔が更に真っ赤になっていく。
「もちろんあの猫も一緒にな」
「・・・・っ・・・ぁ・・・その・・・」
「返事は急がない。
NOでもお前を放り出したりしない。
NOでも成人するまではお前の保護者になるつもりだ」
「・・・保護者・・・」
クォヴレーの顔が複雑そうなものに変わる。
・・・このぶんだといい返事が聞けそうな予感だ。
「・・・オレは・・・・」
迷いながらも何かを言おうとするクォヴレー。
俺はその口に人差し指を当てると言葉を阻んだ。
「・・・よく考えろ。一生のことだ。
・・・お前が俺の愛する人になってくれるのなら・・・」
「・・・・なら?」
「その時はお前からキスをしてきてくれ」
「・・・・キッ・・!?・・・ス・・・?」
パニックになっているクォヴレー。
顔は益々赤くなり、目はグルグルまわっている。
・・・・まだまだ早い感情なのだろうか?
だが一刻も早く理解して欲しいものだ。
俺はクォヴレーの頭に手を置き、額に口付けた。
そして『急ぐ必要はない』と静かに告げ、
とりあえず朝食にしようとクォヴレーの手を引いた。
・・・触れている手からドキドキが伝わってくる。
・・・・クォヴレーもひょっとしたら・・・、
いや、ひょっとしなくても俺と同じ気持ちなのかもしれない。
・・・早く、1分でも、1秒でも早くと願ってしまう。
だがとりあえずは、
今のところは、
この幸せで少しだけ曖昧な時間を噛みしめていた自分もいたりする。
・・・・厄介なものだ。
ありがとうございました。
すごくプラトニックな二人もたまにはいいですよね!
このあとどうなるかは・・・・ご想像で☆
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