IF・・・設定
イングラムが生きていて・・・という設定です。
〜リップ〜
「綺麗な桜だったな」
玄関に着くなり、クォヴレーは白い頬を今だ高潮させて呟いていた。
靴を脱ぎ家の中に足を一歩踏み入れると、
クルリと背後の長身の男を振り満面の笑みを浮かべた。
「流石イングラムだ!自然好きを自負しているだけあるな」
よほど気に入ったのか、
普段ではあまり見れないくらいテンションが高いクォヴレーに、
イングラムもまた満面の笑みを浮かべながら靴を脱ぎ始めた・・が、
・・・・その時。
「気に入ってもらえてよかった・・・・痛っ」
笑った瞬間、ピリッとした痛みが唇に走り眉をよせてしまう。
急に黙ってしまったイングラムの顔を訝しげに覗き込んだクォヴレーは、
彼の唇を見た瞬間、言葉を失ってしまった。
「・・・・切れてる」
「・・・・切れ・・?」
一体何が切れているのか?
言葉の意味を直ぐには解せず目をパチクリさせた時、
痛ましげな目をしたクォヴレーの指がそっと唇をなぞってきた。
「唇が切れてしまっている。血も出ているし・・・痛いだろ?」
「唇が・・・?」
どうやら先ほど感じた痛みは唇が切れたかららしい。
「・・・体調でも悪かったのか?」
心配そうな表情に申し訳なさそうな表情を交えてクォヴレーが聞いてくる。
どうやら体調が悪いのに花見につき合わせてしまった、
と思ってしまっているらしい。
イングラムは痛む唇を我慢し、微笑を浮かべると、
「体調は悪くないからそんな顔をするな」
と、クォヴレーの頭を優しく撫でたのだった。
本当はキスをしたいところではあるが、
なにぶん唇が切れてしまっているのでそれは出来なかった。
「体調が悪くないなら何故切れてしまったんだ?」
クォヴレーのせいではない、
と言っても相変らず申し訳なさそうな表情をしながら上目使いに尋ねてくる。
そんな様子に苦笑しながら、
とりあえず玄関先では落ち着かないので、
リビングまでクォヴレーを誘導しながらイングラムは唇が切れてしまった理由を話し始めた。
「今日は風が強かったからな。
おそらくそれで乾燥してしまって切れてしまったのだろう」
「乾燥で?」
「そうだ。それに唇は直ぐに治る場所だからそんな顔をするな」
「直ぐに治るのか?」
「ああ・・・・、唾を付けておけば一発だ」
「・・・唾?」
するとイングラムが何故かにやりと笑うのでクォヴレーはジト〜と彼を睨みつけた。
折角心配しているのに相変らず悪い冗談をいうヤツだ、
と心の中で罵っているに違いない。
「イングラム」
「ん?」
「・・・オレは舐めないぞ・・・。」
『お前が舐めろ』
と、言われる前に謹んで事体を申し出るクォヴレーに、
イングラムは益々面白そうに笑うのだった。
小ばかにしたような態度にカチンときたので、
クォヴレーは顔を真っ赤にしながら叫ぶのだった。
「唾を付けたいなら自分でつけろ!」
「・・・自分で、な。
残念だな、お前からの濃厚なキスをもらえるチャンスだと思ったが」
「残念なものか!傷ついているのに濃厚もキスもあるか!」
「くくくくく・・・」
からかわれていることに我慢ならなくなり咽で笑うイングラムの膝小僧を蹴ろうとした時、
何かを思い出したのかクォヴレーは急いでリビングから出て行ってしまった。
「思い出した!ちょっと待っててくれ!」
「・・・クォヴレー?」
蹴られることに対し、
防御をしようとしていたイングラムは手持ち無沙汰で
クォヴレーを待つしかなくなってしまう。
そして数分後、手に何かをもったクォヴレーが部屋へ戻ってきたのだった。
「待たせた」
ガサゴソと何かの包みを開けながらイングラムの傍までやってくる。
そして包装をとり終えるとなにやら小さな物体をズズイとイングラムの前へ出してきた。
「・・・・これは?」
「リップだ」
「・・・リップ?」
「バレンタインデーの時にゼオラから貰っていたのをそのままにしていたんだ」
「・・・・バレンタイン??」
イングラムの問い返しに頷きながらリップのキャップを外す。
けれどイングラムは疑問でいっぱいであった。
「バレンタインにリップとは・・・ゼオラは変っているな」
「・・・・どうしてだ?」
わからない、と小首を傾げるクォヴレーにイングラムは世間一般的な常識を話し始める。
「普通、・・・まぁ、お返しに普通も何もないだろうが、
一般的にはチョコとか・・・ネクタイとか・・ハンカチとか・・・その辺だろう?」
「ふぅん・・・?」
「それなのにリップをくれるとは・・・」
変っているんじゃないのか?と言おうとした時、
口をへの字にしたクォヴレーが不機嫌そうに何かを喋り始めるのだった。
「・・・・だそうだ」
「?」
けれどあまりに小さな声であったのでよく聞き取れなかった。
二人の間になんともいえない沈黙の時が訪れる。
瞬きを繰り返してクォヴレーを見つめていると、
不機嫌さを一層増したクォヴレーが今度はハッキリとした声で話してきた。
「だから!オレの唇がよく腫れている、と、心配してくれたんだ!」
「・・・腫れて・・・?・・・・よく・・・?」
一体何故腫れているのか・・・?
理由が分からないのかイングラムは瞬きの回数を増やしてしまう。
するとクォヴレーがジトー・・・とした目で話を続けていった。
「お前が毎日しつこいくらいキスをするからだろ!濃厚で長いやつを!
おかげでオレの唇は午前中はいつも腫れているんだ!」
「!」
バシッと胸元を殴ってくる拳を受け止めながらイングラムは苦笑を浮かべた。
「そうか・・・それで心配してゼオラはリップをくれたわけか」
「そういうことだ!
・・・だがそのまま使わずにしまっておいたままだった。
だが男がリップなんで気恥ずかしいから気持ちだけ貰ってしまっておいたんだ。
このまま眠らせておくのももったいないし今のイングラムには丁度いいだろ?」
怒った口調でリップを差し出してくる。
イングラムはクスッと笑うと、
そのままリップを受け取らず何故かソファーに腰を下ろしてしまった。
「・・・イングラム?」
ソファーに座るなり目をとしてしまったので、
クォヴレーは眉を寄せた。
けれど・・・・・・。
「お前が塗ってくれ」
けれどイングラムのお願いに真っ赤になってしまった。
「・・・ばっ・・か!何を言って・・・」
「ソレくらいいいだろう?舐めろ、と言っているわけではないんだぞ・・それとも・・」
・・・舐めてくれるのか?
と、閉じていた目を開けてその目で聞いてくるイングラムに、
グッと言葉を詰まらせてしまうクォヴレー。
数秒考えたのち、口をへの字にしたままゆっくりとイングラムへ近づくのだった。
「・・・今回だけ・・・だぞ?」
「・・・・フフ・・今回だけ、な」
数日後。
「んん・・・っ。ン〜・・・!んんっ・・」
自宅に帰って来るや否や、そのままソファーに押し倒され深いキスをされ続けていた。
頭をふれども、背中を叩けども、そのキスは終わりを感じられない。
「ンッ・・・ふぁ・・・んっ・・・」
息が苦しくなり、目じりに涙が溜まった頃、ようやく満足いったのか唇が一旦離れていく。
切れ切れに息をするクォヴレーをクスっと笑いながら見下ろすイングラムは、
後頭に手を添え、音を立てて唇を一回啄ばんだ。
そしてそのあとにキスで濡れた唇を満足げに指で撫で始める。
「・・・真っ赤だな」
「・・・ッ、誰のせいだ!」
「俺のせいだな」
イングラムの悪びれない様子に睨むが、
彼はクスクス笑いながらごぞごぞとポケットを探り出した。
何かをつかむとおもむろにニヤリ、
と微笑むのでクォヴレーはいやな感じがして思わず腰を引いた、が、
なにぶん体格の差がすごいので少しも動くことが出来ないのだ。
「・・・コレが何かわかるか?」
面白そうに笑うイングラムが取り出したのは小さなチューブだった。
パッケージには『リップグロス』と書かれている。
「・・・リップ・・・グロス?」
いやな汗を流しながら必死にパッケージの文字を口にする。
「そう、リップグロスだ。何に使うか知っているか?」
「・・・・女の子がお洒落に使うモノ・・・だろ?」
「まぁ、そうだな。だがコレには保湿効果もあるらしい。
丁度いいとろみ具合だし・・・・イイと思わないか?」
「・・・イイ・・・?」
何に?とはもう聞けなかった。
なぜならイングラムの手は既にズボンのファスナーに移動していたからだ。
「リップは口につけるものだからな。
・・・・ならば当然下の口につけても問題なかろう・・?」
「!!!????」
いやな予感とは当ってしまうものとはいうが、
まさしくビンゴでクォヴレーはますます青くなる。
「俺のはデカイからいつも腫れてしまうだろ?
ならコレは丁度いいのではないか?
使用前には濡らす効果があり、
使用後には癒す効果があるとはすばらしいな。」
「使用前、使用後って言うな!!人を何だと・・・うわっ!わっわ!」
「コレはラメが入っているからキラキラして目の保養にもなるな。
まぁ、お前のココはそんなものがなくても可愛らしいが・・・」
「変なこと言うな!というか変なことに使うな〜!!」
「お前に貰ったリップは使ってしまったからな、コレはそのお礼だ」
「そんなお礼は欲しくない!!」
「・・・減らず口も直ぐに甘い声に変えてやる」
「待て!!待て待て・・・!待って!!・・・・ひぅっ」
・・・・その後クォヴレーはリップをみるたび赤面し。
周りの人間を不思議がらせたらしい。
有り難うございました。
本当はリップを使ったプレイも書こうとしたのですが、
長くなるしただの変態プレイになってしまうのでやめました。
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