持久力
 



*パラレル*





〜裏の意味〜



「やっぱりクォヴレーは最初よ!」


執務室に帰ってくるなりその言葉は聞こえてきた。
部屋には毎度同じみアラド・ゼオラ、そして愛しいクォヴレーが、
ソファーに腰掛けなにやら真剣な顔で机の上の紙と睨めっこしている。

「だがオレは最初は少し・・・」
「なんで??お前、足速いしもってこいだと思うけど??」

3人はイングラムが帰ってきたことにも気がつかないのか、
真剣に話し合っているようである。
会話の内容から察するに、
どうやら軍で近々行われる運動会のリレーの順番のようである。
このリレーは主に10代半ばから20代半ばまでの間で選手を選び、
各チーム対抗戦となっている。

「(俺も昔同じようなことを言われたな、そういえば)」

クォヴレーは一番最初に走りたくないのか、
珍しく焦ってどうにか回避しようとしている。
その姿が可愛らしくてイングラムは知らず顔が緩んでしまう。

「足は・・・そこそこだと思うが」
「クォヴレーは速いと思うわよ?」
「・・・だが、その・・・」

もごもごと口を動かし、なんとか言い訳を考えようとしている。
可愛らしいその態度をもう少し眺めていたい気もするが、
自分以外の誰かに可愛い姿を見せ続けるのももったいないので、
イングラムは早々に助け舟を出すことにした。

「リレーの順番決めか?」

不意に声をかけられ、クォヴレーを始め3人は驚いた顔で
声が下方向へと一斉に振り向いた。
ゆっくりとソファーへ近づきテーブルの上の紙を除く。

「(もう殆ど決まっているのか・・・
 決まってないのはクォヴレーとアラド、ライ・・・)」

クォヴレーを含め、順番が決まっていないのは数名。
しかも誰も彼もが足の速い人間であるようだ。

「少佐、お帰りなさいっす!!」
「ああ・・・、お前達もご苦労だな」
「お帰りなさい、少佐!」
「・・・おかえり」

ゼオラとアラドは満面の笑みで、
クォヴレーはいつものようにはにかんだ顔で、
「おかえりなさい」を口にする。
するとゼオラはいいことを思いついたのか、
急に身を乗り出してイングラムに話しかけた。

「そうだわ!少佐!」
「・・・・?」
「少佐からも頼んでください!クォヴレーに最初を走ってくれるように!」
「ゼオラ!」

ゼオラのお願いに慌ててクォヴレーも立ち上がる。
そして縋るような眼をイングラムに向ければ、
一瞬だけ意地の悪い顔をされたので、クォヴレーは青くなってしまうのだった。
ひょっとしたらこのまま一番を走らされるのか・・・・?
そんなことを考えていたら、イングラムは思わぬことを口にする。

「残念だが二人とも、クォヴレーに最初は無理だろう」
「へ?」

さも残念そうに顔をしかめ、
イングラムはクォヴレーの「一番」を否定する。
クォヴレーの足の速さを知っているはずなのにどうして?
と、二人はイングラムをマジマジと見つめるのだった。

「どうしてですか?」
「確かにクォヴレーは足が速いが・・・」
「(イングラム、一体何を言うつもりなんだ???)」
「実はスタートダッシュが苦手なんだ」


イングラムの言葉に一瞬・・・いや数秒だろうか・・・、
部屋がシー・・・・ンとなった。
そして物申し合わせたように変な声を出してしまうアラドとゼオラ。

「え?」
「へ?」

クォヴレーも一体何を言ってるのか理解できず、目をパチクリさせている。

「スタートダッシュは一番には一番必要な武器だ。
 だがそれが苦手なクォヴレーは一番には向かないと思う。 
 ・・・そうだな・・中間よリ少し後か・・・アンカーが妥当だろう」

腕を組みながら、三人を見渡すイングラム。
誰も彼もがポカンとしているのでなんだかおかしかった。
しかし誰も何も言わないので、
どうやらまだフォローが足りないと判断したイングラムは
更に言葉を続けていく。

「クォヴレーはいつも最初乗り気じゃないからな」
「!!」
「乗り気??すか??」
「(一体何の話なのかしら?」

だがイングラムの言葉は理解しがたくアラドもゼオラも目が点のままである。
そんな中、一人続けられた言葉の意味を理解したクォヴレーは、
口をパクパクさせていた。

「だが中間地点くらいになるとだんだん乗ってくる。
 そして最後の方にはもうノリノリでラストスパートも大得意だ。」
「それって・・・最初はダラダラで真ん中辺でシャキッとしだして、
 最後の最後でラストスパートかけてゴールするってことっすか??」
「ああ、珍しく頭が冴えているな、アラド」
「いやぁ〜・・・それほどでもあるっす!!」

けなされているのに褒められた、
と勘違いしたアラドは頭をかきながら照れ笑いを浮かべる。
そしてアラドの話を聞いたゼオラもやっと合点がいったのか、
手をポンッと鳴らし、ニコニコと頷いた。

「ああ、成る程!つまりクォヴレーは徒競走より持久走が得意なのね!」

ゼオラの言葉にイングラムは声もなく頷く。
そしてニヤッとした笑いを浮かべてクォヴレーを見るのだった。
クォヴレーはワナワナと体を震わせてイングラムを睨んできている。

「そういうことなら、一番は・・・ライ少尉でいいかしらね!」
「そうだな・・・んで、クォヴレーはアンカーで・・・オレは・・・」




こうしてクォヴレーは苦手な一番を避けることが出来たのだが、
心の中はイングラムへの文句でいっぱいであった。














粗方運動会の選手を決め終えると、
ゼオラとアラドの二人は自分たちの部屋へと帰っていった。
残された執務室・・・、
イングラムは自分の机で黙々と仕事をこなしていたので、
クォヴレーは怒り露にその場所へ大またで歩み寄っていく。

「イングラム!!」

さっきはよくも・・・と右手をふりあげれば、
その腕は難なく捉えられ、逆に捕まってしまった。
グイッと胸元へと引き寄せられ抱きしめられる。

「・・・・何を怒っている?
 感謝されることはしたと思うが、殴られるようなことをした覚えはない」
「・・よ、よくもそんなことが言える!!」

抱きしめられた格好のまま、イングラムを見上げれば、
彼は面白そうに口の端をゆがめている。
こういう顔のイングラムはとても質が悪い、と
学習しているクォヴレーだが、
毎度毎度くってかかって後で自分が泣く羽目となっているのである。
泣くと云っても・・・「泣く」ではなく「啼く」が正しいのだが。

「あんなことを言って・・ばれたらどうする!!?」
「・・・どうも?寧ろその方が変な虫がつかず安心だ」
「イングラム!!」
「それに俺は嘘はついていない・・・お前は最初いつも乗り気ではないが・・」
「・・・!!ん、む・・・」

クイッと顎を捕らわれそのまま口が塞がれてしまった。

「・・・ん、・・・嫌・・だ・・・・あっ・・・」
「ほら、な・・・最初は嫌がっているが・・・さて、どこまで持つかな?」
「・・・っ、あ、・・・あぁ・・・イン・・・」


















部屋いっぱいに汗と、常時の独特の匂いが広がっていた。
クォヴレーはイングラムの膝の上に乗り
首にしがみつきながら息を乱していて、
その足首には脱ぎきれていないズボンが引っかかっている。
そしてイングラムは椅子に深く腰掛け、
上着のボタンを数個外し、下半身はジッパーだけを下ろしている状態である。
息を乱しているクォヴレーをギュッと抱きしめながら、
イングラムはその耳元で意地悪く囁いた。

「やはりお前は長距離方だな・・・
 最後の方は自分から腰を振って極みを得ようとしていた」
「・・・・っ!!」

座位のまま、執務室という事も忘れ二人は実は3回ほど天国の門を開いていた。
激しい情交の後で声も出ないクォヴレーは キッと睨むことしか出来ない。

「三回目が一番ノっていたな?」

図星に言い返せず、悔しさのあまりイングラムの耳たぶに噛み付いてみたが、
当のイングラムは咽で笑うだけであった。

「そう拗ねるな・・・俺もどちらかといえば長距離が好きだ」
「・・・・そうだろうな」

イングラムが長距離派だということに異論はない様子のクォヴレー。

「お前は回数が増えれば増えるほど、動きが激しくなるし、極めるまでが長い。
 間違いなく長距離派だとオレも思う」
「・・・フフ」
「だがもう関係がばれる様なことは言わないで欲しい。
 オレだって本当は公にしたいが・・・イングラムはもてるし不安になるからな。
 だがバレてお前の立場が危うくなるのはもっと嫌なんだ」
「クォヴレー・・・」

上体を起こし、イングラムを見下ろす。
すると彼も真っ直ぐにクォヴレーを見つめてきていた。

「約束しよう・・・この関係は墓へ行くまで・・極秘だ」
「・・・イングラム・・・」

どちらともなく唇を再び重ね始めた。
始めは啄ばむように、そしてだんだん深く・・・・。
そしてそんなキスを繰り返していくうちに・・・。

「!!?」

クォヴレーは真っ赤な顔でイングラムを見る。
多少罪悪感があるのか、イングラムも困ったように微笑んでいる。
そしてかすれた声で囁いた。

「・・・仕方ないだろう?お前と抱き合いながらキスをしていると、
 俺の持久力は底というものを知らなくなるのだから・・・」

言うなり、数度腰を突き上げてくる。

「・・・・っ!」

背を仰け反らせクォヴレーは小さく喘いだ。
そう、力を失ったはずのイングラムが、
クォヴレーの中で再び熱を取り戻してしまっていたのだ。

「・・・こ、の・・・底なし!!」

精一杯罵ってみるが、クォヴレーの声も既に欲情に満ちてしまっているので、
説得力などまるでない。
イングラムは苦く笑いながら腰を抱えなおすと、
再び二人深く深く繋がりあうのだった。

「・・・・クォヴレー・・・、好き、だ・・・」
「・・・・っ、・・・イン、グ・・・ラム・・」


深く深くいつまでも繋がりあう・・・。
恋人達の長い長い持久走はどうやらまだ始まったばかりのようであった。




予断だがクォヴレーの持久力がついたのは、
イングラムと恋人同士になってからだという。
それまでは普通より少しあるくらいであった・・・・。



有り難うございました。 ただ、甘い話が書きたくなっただけなんです。