旅行
 



慰安旅行・・・とでもいえばいいのか、
とにもかくにも軍は全ての部隊を半分に分け、
ひと時の休暇を兵士に与たのだった。
最初に分けた半分が休暇を楽しみ、
残りの半分は後半に出発する、という具合で
リフレッシュ期間を与え指揮を高めようとしている。


旅行の内容はいたってシンプルで、
温泉旅行のそれであるが、
この戦況下、仕方がないとはいえ未成年の多い軍では、
温泉旅行でも大いなる気晴らしとなっているのだった。








〜少佐は一人部屋〜









夕食を終え各々温泉に入ったり娯楽施設で遊んだり、
酒を飲み交わしたりなどして満喫している。
温泉に入り終えたクォヴレーがある部屋の襖をノックもなしに開けると、
窓際で内輪を片手に夕涼みしているイングラムがいた。
浴衣を着ているイングラムであるが、
風呂上りで熱いのか少しだけ着崩してきている。
クォヴレーは少し頬を赤らめ、
手招きしているイングラムの元へ急いだ。
傍によると腕を引っ張られ無理やり膝の上に座らさせられる。
クォヴレーは大人しくそれに従うと、
顔だけ背後のイングラムへと振り返り、早速質問をした。

「・・・・大浴場へどうしてこなかったんだ?」
「・・ん?」

パタパタ・・・と内輪で仰ぎつつ、
イングラムは微笑とも苦笑ともいえない曖昧な笑みを浮かべて答えた。

「大浴場といっても、あれだけの人数で入れば手狭だろう?」
「確かに少し狭かった」

小さく頷きそれを肯定する。
けれど少し狭いくらいではあまり問題はないはずだ。
クォヴレーは、ん?ともう一度首を傾げてしまう。

「クォヴレー・・・、俺は標準よりでかいだろう?
 手狭な浴場へ行けば更に狭くして、
 皆に迷惑をかけてしまう。
 ならば部屋についている檜風呂で、
 景色を見ながらゆっくりつかったほうがいい」
「・・・せっかく温泉に来ているのに一人なんで・・、
 寂しい気がする・・・・」

クォヴレーが哀しそうな声で言うと、
何故かイングラムは黒い微笑を浮かべた。

「そう思うなら、お前が一緒に入ってくれてもよかったんだぞ?」

後頭にキスを受けながら囁かれた言葉に、
赤面するクォヴレー。
浴衣の胸の隙間と、足にいつの間にか大きな手が滑ってきており、
ツツツツツ・・・となぞり始めていた。

「・・・っ!!!!」
「・・・・契りを交わして三ヶ月・・・。
 そろそろ一緒に風呂に入ってくれてもいいのではないのか?」
「!!!!!!」


イングラムと恋人になって半年。
契りを交わして三ヶ月・・・・。
けれどまだ一緒にお風呂に入ったことはなかった。
恥ずかしい、とクォヴレーが散々逃げ回っているからだ。
明るい部屋でも契っているのだから今更・・・、
と思うイングラムだがそこはあえて口に出していない。
真っ赤になって逃げるクォヴレーをもう少し堪能するのも悪くない、
と思っているからだろう。

「・・・どうなんだ?クォヴレー・・?」

長い指が胸の摘みを捕らえた。
ギュッと力をこめると、
クォヴレーは眉を寄せて咽を仰け反らせる。
広がっていく痺れに半開きに開いているクォヴレーの口に
イングラムは自分の口を重ねようとした・・・・その時・・・・。

「教官〜!!!」

ノックもなしに入ってきたのはリュウセイ・ダテであった。
手にはお酒とジュースとおつまみを持っている。
一方のクォヴレーは慌ててイングラムから離れると、
その場に不自然に正座をしていた。
イングラムはといえば内心ため息をつきつつ、
それを表情には出さずにリュウセイに話しかけるのであった。

「・・・リュウセイ・・それは?」
「お!やっぱりクォヴレーもいたか!良かった。
 これは隊長から二人に差し入れだそうです」
「・・・ヴィレッタから?」

リュウセイの手の中の物を見れば確かにイングラムの好きな酒と、
未成年の為お酒が飲めないクォヴレーの為のジュース、
そしてお酒にもジュースにも合いそうなおつまみが数種類。

「(ありがたいが今この時は邪魔にしかならんぞ、ヴィレッタ)」
「じゃ、これここに置いていきますんで・・・」

部屋の中央にある和風なテーブルにそれらを置くと、
リュウセイはそそくさと部屋をあとにしようとする。
そんな行動を不思議に思ってクォヴレーが聞けば、
『これから大広間でロボットの展示会』があるらしい。
それならば急いでいる理由も納得できて、
クォヴレーもイングラムも苦笑を浮かべて彼を見送るのだった。
リュウセイがいなくなると、
改めてクォヴレーは膝立ちになりイングラムの傍へ寄りそう。

「ロボットの展示会か・・・少し面白そうだな」

小さな声で呟くと、無表情だが明らかに不機嫌な声で、

「行きたければ行っていいんだぞ」

と、イングラムがいうのでクォヴレーは噴出してしまう。
自分より一周り以上は大きい手をとり、
ぎこちない笑みを浮かべてみせる。

「・・・ロボットはいつでも見れるが、
 今日この時の二人きりのこの時間は二度とない。
 だからイングラムと一緒にオレは居たいんだ」
「クォヴレー・・・・」

重ねていた手を外し、
クォヴレーの顎に指を添える。
そして上を向かせ、唇を合わせようとしたその時・・・。

「クォヴレー!!」

今度は元気よく、またもやノックもなしに扉が開いたのだった。
そこにいたのはクォヴレーの一番の仲間、アラドがいた。

「やっぱココだったか!」
「・・・アラド?」

イングラムとクォヴレー・・・、
二人はまた不自然に離れた距離を一瞬のうちにあけていた。

「あのさ〜、部屋に鍵置いたまま閉めちゃって・・・。
 悪いんだけどお前の鍵貸してくんない?」

頭をポリポリかきながら己のドジっぷりを告白するアラド。
仕方ないヤツ、と肩を竦めつつクォヴレーは部屋の鍵をアラドに渡す。
・・・そう、イングラムほどになれば個室だが、
クォヴレーもアラドもまだ個室ではなく相部屋なのだ。

「サァンキュ〜!!
 この鍵だけど、ロボット展見た後に返すんでもかまわないか?
 もうあんま時間なくてさー」

顔の前で両手を合わせて頼まれれば断れない。
そもそもイングラムの部屋でしばらく過ごすすつもりなので、
しばらく鍵がなくとも困らないのでクォヴレーは快く頷くのだった。

「ああ、かまわない。オレは少佐の部屋に居るから」
「りょーかい!んじゃ、借りてきまーす!
 少佐、失礼しましたー」

嵐のようにそそくさと去っていくアラド。
こうも出入りが激しいのであれば、
おちおちキスも出来はしないではないか・・・。
二人は顔を見合わせると、クスッと笑いあうのであった。

「イングラムの部屋は人の出入りが多いな」
「全くだ・・・、おかげでキスもその先も出来たものではない」
「『少佐』という地位も考え物だな・・・」
「本当だな・・・・(!・・・、そうだ)」

クォヴレーはキスすることを諦めたのか、
テーブルの傍によるとリュウセイが置いていったジュースに手を伸ばす。
けれどイングラムは何かを思いついたのか、
窓際からスクッと立ち上がると、
ジュースを掴もうとしていたクォヴレーの手を取り、
入り口の辺りまで引っ張っていく。

「???イングラム・・??」

イングラムは入り口の近くにある扉の前に立つと、
勢いよくその扉を開く。

「・・??イングラム??オレはまだ尿意も便意も催していないが・・?」

扉の奥がトイレであったので呟いたクォヴレーに苦笑を浮かべつつも、
細い腕をひっぱり中へ一緒に入っていく。

「???イングラム」

クォヴレーを押し込め、鍵を閉めると、
二人居る為に狭く感じるトイレの便座に腰を下ろすのだった。
そして自分の太ももをポンポンと叩く。

「・・・!!」

瞬間、顔を真っ赤に染めるクォヴレー。
イングラムの考えが分かったからだ。

「・・た、確かに出入りが多くて落ち着かないが・・・でも・・・」

いくらなんでもこんな場所で・・・と、クォヴレーは身体をモジモジさせる。

「だが安心してイチャつける密室はココは風呂くらいだろ?
 風呂は安定感がない、だがここは安定感のある椅子もあることだし」
「・・・イングラム」

けれどクォヴレーはまだ悩んでいた。
傍には寄りたいが、トイレというのが引っかかるのであろう。
けれどそんな迷いは次の一言で吹き飛んでしまうのであった。

「・・・キス、したくないのか?」

クォヴレーの目が大きく揺れた。
頬を染め、ゆっくりした動作でイングラムの膝の上に向かい合わせに座ると、
オズオズ自分の顔をイングラムの顔へ近づけていく。

「・・・ん、・・・ふ・・・・」

三度目の正直・・・・。
二回もお預けを喰らった後のキスは格別に甘かった。

「・・・あ、・・・あ・・・イングラ・・・んぅ・・・」

唇が離れては角度を変え塞がれる。
そして舌と舌が絡まりあい、気持ちよくなったところで、
また角度を変えられ塞がれる。

「・・・一人部屋なのに邪魔が入ってどうしようかと思っていたが・・、
 今までの邪魔も悪くないと思えてしまうな・・・。
 こんなにキスに積極的なクォヴレーは初めてだ」
「・・・ば・・・か・・・ぁ、・・ん・・・・」

キスの濡れた音が狭い密室を支配していく。
そして何度目かに唇が離れたとき、
不意にイングラムの目が何かに閃いた。
そしてクォヴレーの耳元に唇を寄せ囁く。

「このまま・・・ここでもっと気持ちのいいコトをしようか?」
 

・・・それはクォヴレーにとって悪魔の囁きに他ならないのかもしれない。
この旅行のそれぞれの夜の時間はまだ始まったばかりである。


有り難うございました。 きっと続きます(笑)