〜イングラムのストレス〜
ドキドキした。
『恋』のドキドキではなく
どちらかといえばハラハラのドキドキだ。
恋にとだけど上司と部下。
そんな関係が始まってから結構経つが、
たまにこういう場面に出くわすことがある。
冷静・沈着なイングラムが妙にイライラして落ち着きがない。
しかもオレをジッと見つめて舌打ちまでする。
そういえば以前、こんなことを言っていたな。
『顔がよくない・・・いや、性格もダメだ』
あれはどういう意味だったのか?
オレを見ながら言っていたからオレのことなのだろうが・・・。
それにしても傷つく言葉だ。
顔も性格も嫌ならどうして付き合っているのか、甚だ疑問だ。
そしてそうやってイライラしている時のイングラムは、
決まってあることをしてくる。
今回も当然そうだった。
「・・・借りるぞ」
「!」
ドカッとソファーに腰を下ろすと、
おもむろにオレの太ももを枕にして昼寝を始めるんだ。
「何かあったのか?」
「・・・別に・・・何もない」
「でも不機嫌だ」
「・・・・何もない」
「だが・・・」
「何もないと言っているだろう!」
「!!」
オレのしつこさに嫌気がさしたのか、
珍しく怒鳴るイングラムに、オレもムッとしてしまう。
だってそうだろう?
人が折角『イライラ』を少しでも緩和させようとしているのに、
頭ごなしに否定しているんだぞ?
それはオレでは役に立たないと言っているのと同じことだ。
いや、実際にオレは役立たずだが・・それにしたって・・・・。
唇を尖らせ、明らかに傷ついた目をしていたようだ。
イングラムはハッとしたようにオレを見上げ、
罰が悪そうに口を噤んでしまった。
だがイングラムの前では『子供』になってしまうオレは、
直ぐに目が熱くなって視界がぼやけていってしまう。
それに気がついたイングラムは膝枕から起き上がり、
熱い唇でオレの涙を拭いだしたのだった。
「・・・すまない」
「・・・イングラムのバカ!もう知らないんだからな!」
「クォヴレー・・・・、すまなかった。許して欲しい」
「オレは知らない!」
子供っぽく頬を膨らませそっぽを向いた。
自分でもバカな行動だと分かっているが、
イングラムにかまって欲しくて一生懸命勉強して身に付けた技だ。
すると耳元に大きなため息が・・・・。
「・・・はぁ」
「!」
そんなあからさまに呆れなくてもいいだろ!
確かに子供な行動だったが・・・・オレは・・・ただ・・・。
だがショボンと背中を丸めた時、
イングラムの口から聞こえたの違うはまったく言葉だった。
「頼むから、あまり愛想を振りまかないで欲しい」
「・・・・・?」
今、イングラムはなんと言ったんだ??
オレは首をかしげイングラムを睦める。
どこか困ったような顔をしているイングラムは、
チュッと音をたててオレの額にキスをすると、
そのまま話を続けたのだった。
「愛想を振りまくのは俺の前だけ・・、
いや、俺だけにして欲しい・・・俺限定で」
「・・・??」
「他の誰かがお前のことを『好きだ』というと俺は・・
落ち着けず、仕事が手につかない。
いっそ、顔も性格ももっと下劣なものであったら良かったのに、
と、何度思ったことか・・・・」
「??」
「ストレスが溜まる。
誰かがクォヴレーの名前を口にするだけでもだ。
おかしいという事は分かっている。だが・・・嫌なんだ」
「イングラム・・・」
それは独占欲、というやつだろうか?
イングラムは他の誰かに焼餅を焼いて、
それで不機嫌になっていたのか?
・・・なんだか嬉しい。
「・・・クォヴレー、何故笑っている?」
「え?」
笑っている?
オレが???
「頬が緩んでいるぞ?人が折角真剣・・・うぉっ!」
オレは嬉しくて満面の笑みを浮かべた。
浮かべると同時にイングラムの頭を抱き、
再び膝枕へと導いた。
「クォヴレー?」
「・・・お前の特許品だ」
「特許品?」
「これ」
「コレ?」
目をパチパチさせ首をかしげているイングラムに、
オレは更に笑顔を浮かべて見せた。
「コレだ」
「??どれだ??」
「わからないのか?」
本当にわからないのか??
これはお前だけのものなんだぞ??
「わからない・・・なんだ?教えてくれ、降参だ」
「フフフフフ・・・」
状態を屈め、そっとその耳に囁いた。
途端イングラムは微笑んだ。
本当に嬉しそうに・・・微笑んでくれた。
「クォヴレー」
「ん?」
「折角だ、もう一つの特許品をくれないか?」
「もう一つ?」
スッと目を閉じると、
口ももにと笑顔を浮かべ、イングラムはねだってきた。
「・・・キスを」
「!」
・・・顔が熱い。
そうだな。
キスも・・・イングラムだけの・・・ものだ。
オレは状態を屈め、形のいい唇にそっと口付けた。
大好きな人の大好きな唇。
今日はいつもより・・・甘い味がした。
だけどイングラム、知らないだろ?
オレにとっての特許品は・・・お前の全てだということを。
お前が触れてくれただけで、
それはオレにとってかけがえのない特許品に変るんだ。
知らないだろ?
・・・・言うと、夜が大変なことになるのが分かっているから言わない。
これはオレの心の中だけの秘密だ。
オレは、オレ達はしばらく甘いキスをかわし続けていた。
彼の特許品である『膝枕』の体勢のまま、
口付けを交わし続けた。
有り難うございました。
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