〜キス・キス・キス〜
「・・・・・っ!!」
口端からツゥ・・・と血液が流れ落ちる。
鉄の味が口いっぱいに広がり抱きしめていた相手を思いっきり睨んだ。
「・・・クォヴレー・・・」
口元を押さえクォヴレーの肩を掴む。
しかしクォヴレーはフイと顔を背け、
まるで汚いものでも拭うかのように口をゴシゴシ清めていた。
「(人をばい菌かなにかのように・・)クォヴレー!」
しかしクォヴレーはイングラムの凄みにも何も感じないのか、
僅かに眉を潜めて静かに睨むのだった。
その態度が気に喰わなく、
またどうしてキスの最中に急に不機嫌になり、
舌を噛んできたのか分からないイングラムは、
後頭部に手を添え再び唇を重ねようとした、が・・・。
「・・・く」
唇が合わさった瞬間今度は上唇に噛み付かれたのだった。
そして口元を拭いながらクォヴレーが叫んだ。
「やめろ!ヤニ臭いキスはしたくない!」
「・・・・!」
イングラムは驚きを隠せなかった。
確かにイングラムは今日、1本・・・そう本当に1本だけタバコを吸った。
仕事に煮詰まったり、イライラしたりすると口寂しくなりごくたまに吸うのだ。
だがそれも一番軽いライトなヤツで吸ったのは3時間くらい前だ。
それなのにクォヴレーは分かるというのであろうか?
「(・・・そういえばタバコを吸った後、
飲み食いを何もしていないな・・それでか?)」
「・・・お前がタバコを吸うなんて初耳だ。どうして今まで隠していた?」
「・・・別に隠していたわけではない・・・お前が今まで気がつかなかっただけだろ」
口をへの字に曲げるクォヴレーとそれ以上キスをするのを諦めたのか、
イングラムはソファーに腰を下ろすとおもむろにタバコを取り出した。
どうやらクォヴレーとイチャイチャする筈が思わぬ『邪魔』が入り、
イライラしてきたので吸いたくなったようだ。
タバコを咥え、慣れた手つきで火をつける。
その様子にうぉヴレーはますます不機嫌になっていくのだった。
「止めろ!タバコなんて身体にど・・・うっ!」
クォヴレーの視界が煙に覆われる。
「けほっ・・・!けほっ」
「くくくくく・・・」
タバコを片手にイングラムは口端を歪めた。
そしてもう一度タバコを咥えると、
先ほど様に煙をクォヴレーの顔に向けて吐き出すのだった。
「や、やめろ・・・けほっ!!けほん!」
「・・・・餓鬼め」
「!」
『餓鬼』という言葉にカチンときたクォヴレーは座るイングラムに掴みかかった。
だが体格差で力の差は歴然としている。
イングラムは口にタバコを咥えたままクォヴレーの腕を後に捻るのだった。
「痛っ!」
そしてそのままソファーに押し倒す。
口からタバコを取り、押さえ込んだクォヴレーの唇を塞ぎ、
舌を差し込むと同時にタバコの煙をクォヴレーの口へと押し流した。
「ん・・・んーーー!!」
クォヴレーの身体を抱きしめながら、
傍にあったコーヒーカップにタバコを押し付け火を消した。
そしてそのまま暴れるクォヴレーを押さえ込みながら口付けを深めていく。
「ふ・・・ん・・・く・・・んんっ・・・・」
重なった唇の端からどちらのものともいえない唾液が流れ落ちた。
押さえ込まれ暴れていたクォヴレーも、
舌と舌が絡まりあう快感に、
上あごや歯列を舐められ湧き上がってくる快感にいつしか夢中になり、
ヤニの味のするキスに溺れていくのだった。
「・・・ん・・・はぁ・・・」
「クォヴレー・・・・っ」
イングラムが一度口を離すと、
潤んだ目で今度はクォヴレーから唇を合わせ、キスを仕掛ける。
夢中で舌を動かしキスに溺れていく。
・・・頭上ではイングラムの笑う気配がした。
「・・・ヤニくさいキスは嫌なんじゃなかったのか?」
「・・・!うるさい!」
ほんの5分くらい前までは否定していたタバコ味のキスを、
今では夢中に貪っている自分を恥ながらも、
クォヴレーはキスを止めることは出来なかった。
「・・・確かにヤニの味のするキスはあまり好きではない。
だが・・仕方ないだろ?」
「・・・仕方ない?」
「ヤニの味だろうが・・・イチゴの味だろうが、
イングラムのキスはイングラムのキスだ!
・・・一度始めてしまったら歯止めが利かない・・・」
潤んだ目で必死に言い訳をし、唇を重ねてこようとする。
そんなクォヴレーの頬を優しくなでながら優しく唇を啄ばんでやった。
「可愛いことを言う・・・今夜は睡眠がいらないみたいだな?」
そういうとイングラムはクォヴレーの手を取り、
自分の下半身へと導いた。
「・・・!」
そこは既に熱く猛っており愛することへの準備は万端のようだ。
「ばか・・・ばかぁ・・・ん・・・」
「安心しろ、いくら俺でもタバコプレイなどしたりはしない」
「・・・!!ばかーーー!」
数日後、クォヴレーが執務室へ行くとなにやら難しい顔のイングラム。
「(どうしたんだ?)」
なにかよくないことでもあったのだろうか?
クォヴレーはそっと彼に近づくと心配そうにその顔を覗き込んだ。
するとイングラムも物言わぬ強さで腕を引っ張り唇を重ねてきたのだった。
「!!!んーーーーー!ぷはぁ・・・」
しかし予想に反し、唇は直ぐに離れていく。
そしてクォヴレーはこの前とはまた別の味のするキスを味わったのだった。
「・・・・甘い?」
「・・・・・・」
「・・・イチゴミルク?・・・どうしてだ?」
「・・・・・・」
イングラムは種明かしとばかりに足元にあるゴミ箱を指差す。
するとそこには『イチゴミルク』味のキャンディーの袋が捨てあった。
「飴・・・?イングラムが???」
「ヤニ味は嫌いでも、甘い味は好きだろう?」
「・・・????」
「毎回、キスのたびに舌を噛まれて喧嘩するのは嫌だからな。
・・・イライラしたりしたときはタバコではなく飴を舐めることにした」
「・・・・・・」
あのイングラムが自分のためにタバコではなく飴を舐めることにしたという。
イングラムが甘いものをあまり得意ではないことを知っているクォヴレーは、
驚きのあまり瞬きを忘れてしまっていた。
そしてしばらくの間相変らずしかめっ面のイングラムを見つめ続け、
そのうちにクォヴレーは思わず噴出してしまった。
「だからといって無理して甘いの食べることないだろ?
ハッカとか・・・のど飴とかいろいろあるのに・・・フフフフフ」
クォヴレーは可笑しくて笑いが止まらない。
だが目はとても自愛に満ちていて、
決してイングラムを馬鹿にしているものではない。
自分のために我慢して甘い味の飴を、
しかめっ面で舐めていたイングラムが愛しくて仕方ないようだ。
「イングラム!大好きだ!」
「クォ・・・んっ・・・」
抱きつくやいなや大胆に舌を絡ませ始める。
「んっ・・・ん・・・オレの・・・口で・・・口直しさせてやる・・」
「クォヴレー・・・・」
濡れた音が静かな部屋に大きく響く。
だが二人はそんなこと気にせず、お互いの唇を貪り続けるのだった。
クォヴレーを膝に乗せながら資料に目を通すイングラム。
イングラムの首筋に顔を埋めながら、
そういえば・・・とクォヴレーはある疑問を口にする。
「イングラムはいつからタバコ吸い始めたんだ?」
「ん?」
「結構最近か?」
「何故そう思う?」
「・・・・若い頃からならそんなに大男にならなかっただろ?
タバコを吸うと身長が伸びなくなるというし・・・・」
『大男』という言葉にイングラムは苦笑してしまう。
確かに世間一般的に言えばイングラムは大男の部類なので仕方ないのだが。
「確かにそういわれているがそれはあまり関係ないのではないか?
吸おうが吸わまいが伸びるやつは伸びるし、伸びないやつは伸びない」
「ではイングラムは子供の頃から?」
「いや・・・・吸い出したのは大尉になったくらいからだ」
「ふぅん・・・?」
首をかしげ下から覗き込むように訪ねてくるクォヴレーの頬を撫でながら、
何を思ったのかイングラムはおもむろにタバコを取り出した。
何をするのだろう?とクォヴレーが首を傾げれば、
タバコに火をつけそれをクォヴレーに持たせる。
「この煙・・・」
「煙?」
タバコの先から出ている煙を指差し、イングラムは何故か黒い笑みを浮かべた。
「この煙が一番の毒だ。
タバコは吸っている人間より副流煙・・、
つまりこの煙を吸っている人間の方が害が大きい。」
「・・・??」
「・・・俺は吸う側だったからここまで伸びたのだろうな。
だがクォヴレー・・・・お前は吸わない、吸うのは副流煙・・・」
「!!!」
ここまできてイングラムの言わんとしていることがわかり、
クォヴレーは青い顔でタバコを消そうとした。
しかしもっていたタバコはイングラムに奪われ、
そのタバコを口に含んだイングラムは、
フゥーとクォヴレーに向かって煙を吐き出すのだった。
「!!げほ!!こほっ!!」
「・・・かわいそうに・・・お前はこれ以上身長が伸びることはないだろうな」
「!!そんなの嫌だ!!消せ!」
クォヴレーが腕を伸ばす。
しかし意地の悪い笑みを浮かべたイングラムは余裕な表情でタバコを吸うと、
その煙をクォヴレーに向かって吐き出すのだった。
「やめっ・・・!けほん!・・こほっ!!ばかーーー!!」
「くくくくく・・・」
「やめろってば!本当に成長が止まったらどうしてくれるんだ!」
「そうしたら万々歳だ・・・、責任とって一生俺が面倒見てやる」
「!!!!!?・・ばか・・・けほっ!」
こうしてクォヴレーはたまにタバコの味のするキスや、
甘いキャンディーの味のするキスを楽しんでいるのであった。
ちなみにクォヴレーの成長が止まったかどうかは誰も知らない。
有り難うございました。
私としましてはイングラムよりキャリコの方が
タバコイメージなんですけどね。
まぁ、偉くなれば人間イライラもたまりタバコも吸いたくなるのでは?
という仮説の元作ってみました。
たまには子供っぽいイングラムもいいですよね?
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