ちょこえれーと・まじっく
 
〜チョコレート・マジック〜



「・・・ん?」

部屋に灯る薄明かりの僅かな眩しさにクォヴレーは目を覚ました。

「・・・イングラム?」

ベッドの横を見ても、彼の温もりは見つけられなかった。
見れば寝室のドアが3センチほど開いていて、
そこから先ほどの光が差し込んでいたらしい。

ベッドから起き上がり、そのドアへと歩き出す。
ドアの向こうは彼の仕事部屋になっていて、
よく持ち帰ってきた仕事を夜遅くまでこなしている。


・・・今夜もそうなのだろうか?


そうならば邪魔をしてはいけないと、ドアの僅かな隙間から部屋の中を覗き込む。



僅かな隙間から見える彼は、ソファーの上でワイングラスを片手に本を呼んでいた。
と、その時手がすべりドアが少しだけ動いてしまう。

「(しまった!)」
「・・・クォヴレー?」

このまま返事をしないでベッドに引き返すことも可能だが、
カンのいい彼のことだ、直ぐに追いかけてきて問い詰められたらいいわけが出来ない。
それに、自分は悪いことをしているわけでもないし堂々とドアを開けて部屋に入ってもいい筈だ。

クォヴレーは静かにドアを開け、その部屋に足を踏み入れた。

「イングラム・・・」
「悪い、起してしまったのか?」
「大丈夫だ・・・たまたま目が覚めただけだ
 ・・・イングラムは何をしているんだ?仕事??」
「・・・いや」

読んでいた本を閉じ、クォヴレーを手招きする。
ソファーの前までやってきたクォヴレーを隣に座らせると肩を抱きながら、

「なんだか寝付けなくてな・・・酒を飲んでいたんだ」
「そうか・・・イングラムはワインが好きなのか?」
「ん?いや・・・今日はワインな気分だったんだ。つまみがチョコレートだったからな」
「チョコ!?」

『チョコ』と聞いて目を輝かせるクォヴレー。
そんな様子に苦笑しながら、食べていたチョコレートを一欠けら口元へ持っていってやった。

「・・・ありがとう」

チョコレートを幸せそうに頬張るクォヴレー。
しかしその幸せそうな顔がだんだん変な顔へと変化していく・・・。
イングラムは微笑みながら、

「どうした?」
「・・・なんか変だ」
「何が?」
「だって・・チョコなのに・・・苦い」
「プッ!・・・それはそうだろう!
 それは普段お前が食べているチョコとは違ってカカオ率が多めのチョコだからな!」
「カカオ・・率??」
「簡単に言えば大人味のチョコだ。お子様味覚のお前には苦かったかもなぁ・・?
 だが本来カカオは苦いものなんだぞ?」

ニヤニヤ笑いながら言う彼に、なんだか腹がたった。

「オレはお子様ではない!!・・・カカオは苦いのか??」
「ああ、それを子供用に色々加工して甘いチョコにしてあるんだ。
 俺はカカオ本来の味のするチョコは好きだが、加工してあるのは苦手だな・・・甘すぎる」
「ふーん・・?」
「身体にもいいしな・・」
「知らなかった。イングラムは本当に物知りだな・・・ちょっと悔しい」

プクッと頬を膨らませ上目づかいで睨んだ。

「むくれるな・・・生きている年数の差だ・・もう一個食べるか?」
「・・・食べる!オレはお子様味覚じゃないから今度は美味しいはずだ!」
「負けず嫌いだな・・・」

少しだけ呆れ声をしていたが顔は極上の笑顔で語るイングラム。
チョコを口に含むと、そっとクォヴレーの口を塞いだ。


「んっ・・・んん・・ふ・・・」
「・・・美味いか?」

唇が離れると不思議そうな顔でイングラムを見つめる。

「???甘い」
「・・・・・」
「さっきは苦かったのに・・・イングラムに食べさせてもらったら今度は甘かった」

本当に不思議という顔でしかも真顔で言ってくるので
愛しさと一緒に笑いがこみ上げてくるイングラム。

「はははははっ!それはそうだろう、
 今のはお前用に買っておいた『ミルクチョコレート』だからな」
「・・・え?」
「フフフフ・・お前は、本当に可愛いな・・・」

バカにされていることがわかり、クォヴレーは大きく頬を膨らませる。

「騙したな!!」
「拗ねるな・・子供なんだからお子様用を食べていても誰も笑わない」
「そういう問題ではない!!」
「むくれるな・・」
「むくれてなどいない!!怒っているだけだ!!」
「俺が悪かった・・・今度はちゃんと大人のチョコをあげるから・・」

頬にキスをし、ご機嫌を伺う。
すると、まだ多少不機嫌さが残っているがクォヴレーははにかんで笑ってみせる。
その笑顔に微笑み返すと、チョコレートを一つ口に運んだ。
そして自分の唇を自分の指でチョンチョン、とつついた。

その意図を察したクォヴレーは真っ赤になるが、
オズオズと彼の顔に両手をあて唇を近づけていく・・・

そう、イングラムは食べたければキスをして来い、と合図していたのだ。

「んん・・・ふっ・・・ぁ」
「・・・どうだ?」
「なんだか・・ポヤポヤする・・」
「ポヤポヤ・・・?はははっ!やはりお子様はお子様か!」
「むっ!どういう意味だ!?」
「この程度のアルコールで酔ってしまうとは・・・」
「アルコール???」
「今、食べたのはウィスキーボンボンだ」
「・・ウィスキー・・?お酒!?」
「ああ・・女の子にもらったんだ」
「女・・の子に??イングラム、お前・・」

鋭い目つきで彼を睨みながら、

「堂々と浮気宣言とは・・・度胸があるな?」
「は?浮気???」

一体何を言い出すのか?
イングラムは一直線にクォヴレーを見つめ返した。

「女の子からもらっただなんて・・・浮気だろ??」
「・・・お前だって学校の女の子におやつをもらうだろう?」


焼もちを焼いてくれているらしい可愛い恋人に
やや困ったような笑顔を向けながら優しく諭す。

「・・・もらう」
「だろ?それと同じだ・・・別に恋愛感情などない」
「本当か?」
「あぁ、本当だ。」
「・・・・・」
「信じられないか?・・・なんなら証明してやってもいいぞ?」
「証明?」
「今日は解禁日ではないが・・・・俺と寝るか?」
「!?」
「・・・そうしたらいかに俺の愛情が深いか思いしることができるぞ?」
「・・・・・」
「俺は朝まで放さないからな・・・どうする?」
「遠慮する・・・そう、だな・・・そうだった」
「何が、『そうだった』んだ?」
「・・・イングラムは・・しつこいんだ・・・」
「それは光栄だ・・・だが誰に対してもそうなわけではない
 ・・・お前だからだ・・・俺の愛の証だ」
「愛の証・・・信じることにする・・・疑ってごめんなさい」
「フフフ・・ありがとう?・・ほら、もう寝ろ」
「・・・イングラムは?」
「俺もあと少ししたら行く・・・なんなら裸で待っていてくれてもかまわないぞ?」
「!!だれが待つか!?このエログラム!!」

目を見開きながら『エログラム』に驚くイングラム。
そして噴出しながら、

「・・・エログラムか!上手いな!」
「どうもありがとう!お休み!!」
「はははっ。お休み、あぁ・・クォヴレー、
 週末にはエログラムになってやるから楽しみにしていなさい」
「ならなくて結構だ!!」


プリプリしながら寝室へと引き返していくクォヴレー。
後に残されたイングラムは苦笑しながら残りのワインを片付けた。




すみません・・・ 甘甘が急に書きたくなっただけなんです・・・ 面目ない・・・。