〜夏といえば海! 1〜



「明けた〜!!」

両手を大空へ伸ばしアラドはジャンプした。
そこへ偶然通りかかったクォヴレーは首を傾げる。

「・・・今年はまだあと半年はあるが・・?」

相変らず不思議な奴だ、と言う目でアラドを見れば、
アラドもまた不思議な奴だ、という目を返してきた。

「クォヴレーって時々、天然だよな」
「・・・なに!?」

自分ではゴクゴク地味な人間だと思っている。
アラドのように口が滑って女性を怒らせたりもしないし、
巷にいる男性のように女性の尻を追い掛け回したりもしない。
趣味といえるものもコレといってないし、
無口な方だ。
当然行き着く先は『地味で目立たない普通の人間』、
なのであるが、そう思っているのは本人のみである。

「オレが明けたって言ったのは梅雨のことだよ」
「・・・汁(つゆ)・・?」

クォヴレーが再び首を傾げれば、
アラドが大きくため息をついた。
いつもは自分が彼に大してしている行動なので、
クォヴレーは少しだけ口を尖らせる。

「お前、今『汁』って変換しただろ?
 そうじゃなくて・・・確か漢字は・・・梅に雨・・だったかな?
 とにかく汁じゃなくて梅雨!
 6月から7月にかけて多く雨が降るだろ?
 その時期のことを梅雨って言うんだぜ!」

クォヴレーが知らなく、自分が知っていることがある。
そのことがちょっぴり嬉しくてアラドは鼻をこすって自慢げに言った。

「なるほど・・・『梅雨』か・・(あとでイングラムにでも聞いてみよう)
 ・・・それでアラドはどうしてそんなに嬉しそうなんだ?」
「梅雨が明ければプールも海も解禁だからだよ!」
「・・・プール・・・海・・・・?」
「暑い日に水浴びすると気持いいだろ?
 晴れてれば入り放題じゃん!あ〜!楽しみだな♪
 よし!水着をクローゼットから出さなきゃ!」

頭に『♪』を浮かべつつ、アラドはいそいそと自分の部屋へ戻っていった。
残されたクォヴレーはというと、アラドとは反対に『?』を浮かべている。

「・・・水浴びとはそんなに楽しみなものなのだろうか?
 そんなに水浴びがしたいならシャワーでも浴びていればいいのに・・・」

アラドの気持ちが理解できない・・・、
小さくなっていく彼の背を見つつ、
小さな声で呟いていたら頭上から小さな笑い声が聞こえてきた。

「そういう問題ではないと思うぞ?」
「え?」

突然聞こえてきた声に驚いて振り向けばそこにはイングラムが立っており、
クスクス笑って「相変らずだな」というのであった。

「お前は本当に興味のあること以外は無知なのだな」
「・・・無知?」

それはまだまだ『人間』として出来ていないということだろうか?
もっと沢山のことを学ばなければ自分はやはり『人形』でしかないのだろうか?
心の揺れが瞳に出ていたのか、イングラムは頭を小さく横に振り、
そっと頬に触れてくるのだった。

「どうやら俺は傷つけてしまったようだな。
 無知と言ったのは悪い意味ではない」
「・・・・いい意味のときなんてあるのか?」
「そういうことだ」
「・・・よく、わからない」
「そのうちに分かる時がくる。」

そんなときが本当にくるのだろうか?
クォヴレーは瞳を更に不安げに揺らしつつ、目線を背けた。

「・・・水浴びをプールや海でするとどんないいことがあるんだ?」
「大勢でいけば絆が深まる」
「絆・・・・?」

目線を逸らしたままクォヴレーは窓の外を見た。
海の上に底流している為、砂浜には何人か出ていてパラソルを立て始めていた。
どうやら水浴びをしたいと思っているのはアラドだけではないらしい。

「どうして深まるんだ?」
「スイカ割とか、棒倒しとか・・・いろいろ遊べるからな、海は」
「スイカ割り・・・?」

目を凝らしてみると、確かにスイカらしきものもパラソルの近くに置かれている。

「どうやらスイカ割りをやるようだな・・・クォヴレー」
「・・?」

窓を夢うつつ見ていたら突然腕を掴まれた。
そしてニッと笑ったイングラムが腕を引っ張りながら廊下を歩き出したのだった。

「イングラム?」
「折角だ、我々もあの輪に混ざろう」
「えぇ??」

突然そんなことを言われても水着を持っていないクォヴレーは困ってしまう。
けれどそんな心配などとうに見越しているのか、
イングラムは俺のを貸してやる、と言うのだった。

「でかいと思うぞ??」

体格が違うのだ。
イングラムが特大ならクォヴレーは特小・・・ではないが細い為そんな感じだ。

「ゴムを詰めれば大丈夫だろう。ほら、急ぐぞ」
「わっ・・・引っ張るな!」


部屋の前につくと扉を開け、有無を言わさずクォヴレーを押し込める。
そしてベッドの前にあるクローゼットの前まで引っ張っていき、
クォヴレーの背をクローゼットへ押し付けた。

「イン・・・・んぅ・・?」

顎を掴まれたかと思うと、突然唇を塞がれる。
ヌルッと熱い舌が忍び込んできて、好き勝手に口内を弄び始める。

「・・・っ・・・ふぅ・・、あ」

唇が離れ、額と額は合わせたまま何故か困った顔のイングラム。

「本当はお前の水着姿を誰にも見せたくはない・・、
 だがお前のためになることを無碍にも出来ない」
「・・・イング・・・、痛っ!!」

ビリッと耳の下辺りに痛みが走った。
印を付けられたのはしばらくぶりで、クォヴレーは驚いた。


「夕べ、沢山つければよかったか・・?
 そうすればお前は水着になれない・・・いや、それは俺のわがままだ。
 夏は薄着になるし、印はつけないように心がけていたんだが・・」

その時、クォヴレーは先ほどのイングラムの表情の意味が分かったのだった。
困った顔のイングラム。
独占浴が少し強めの彼は恋人の肌を誰にも見せたくないが、
まだまだ打ち解ける仲間の少ないクォヴレーには海で騒ぐことも必要だ、
と葛藤していたのだ。
クォヴレーは相変らず複雑な表情をしているの首に腕を回し、
首元に顔を埋めた。

「クォヴ・・・?くっ」

身体に旋律が走る。
クォヴレーがさっきイングラムがしたのと同じように、
耳の少し舌辺りに印をつけたからだ。

「・・・オレだってイングラムの肌を誰にも見て欲しくない。
 だけどそれはオレのわがままだから・・・だからお互い様だ」
「クォヴレー・・・」

二人同時に目を閉じ、静かに唇を重ねあう。
本当はそのままベッドへ倒れこみたいが、今回はそういうわけにもいかない。
ただこのまま海に行くには悶々してしまうので、二人はしばらくキスを味わうのだった。




クォヴレーの海デヴューは直ぐそこである。


有り難うございました。 『2』は裏になる予定です! 『1』はシリアスチックでしたが、 『2』はちがくなります。 ・・・・多分。