なんとなくイヤ・・・
 


*パラレル*




〜その部屋で飲む理由〜





チーズを肴に今年の新作を楽しむ優雅な男を前に、
ヴィレッタはいつものように頭の中の疑問を拭えなかった。

それほど酒を好きな男ではないが、
それでもどうしても飲みたいときがあるのだろう。
そんな時、この男は何故かいつもヴィレッタの家で一緒に飲むのだ。
同居している人間が未成年だから遠慮しているのだろう、
と最初の頃は思っていたがどうやら違うらしい。
前にフと尋ねた時、やや困ったように苦笑したからだ。

ワイングラスを回しながら、ヴィレッタはゆっくりと話し始める。

「・・・ねぇ、イングラム」
「・・・何だ?」

イングラムもまた赤い液体の入ったグラスを傾けながら返事を返してきた。
だが声が心なしか低く、どうやらこれから聞かれることを悟っているようだ。

「・・・どうしていつも私の家で飲むのかしら?」

するとフゥ・・というため息とともに、
イングラムはワイングラスをテーブルの上に置いた。

「・・・またその質問か?」

ヴィレッタもまたグラスをテーブルへ置き、
チーズが刺さっている爪楊枝を手に取った。

「不思議で仕方ないのよ。
 いつもはあんなにベッタリなのに、
 どうしてお酒を飲むときだけは遠ざけるのか、って」
「・・・・・・」

けれどイングラムは何も応えない。
置いたグラスを手に取り、再び黙って酒を飲み始めた。
けれどヴィレッタも今夜は諦めるつもりはない。
ズズイ、と身体を前に出し、思い当たることを口にしてみる。

「・・・ひょっとして酒癖が悪いのかしら?」

ヴィレッタの言葉にイングラムがジロッと睨んだ。
ひょっとしてビンゴかしら?とヴィレッタは更に言葉を続ける。

「貴方のことだから、
 多分なにか良からぬことを考えて、
 一度はクォヴレーにお酒を飲ませていそうだものね・・・。
 で、飲ませてみたら酒癖が悪すぎて懲りたって所かしら?」

するとイングラムが再びジロッと睨んだ。
そして小さく言葉を口にする。

「・・・違う。」
「え?」
「酒癖は・・・悪くない。
 暴れたりも吐いたりもしなかった」
「へぇ・・・?」

ヴィレッタは肩眉を上げて口端を上げた。

「じゃ、泣き上戸・・・とか?
 いつもしている様々な酷いことを、
 涙で訴えられたのが辛かったのかしら?」

けらけら笑いながら意地悪く微笑むヴィレッタ。
いつもならココまでイングラムをからかわない彼女にしては珍しい行動だ。
どうやら彼女も酔い始めているらしい。

「違う・・・、それに俺は酷いことなどしていない。
 ・・・・ただ、愛して可愛がっているだけだ」
「・・・愛して、可愛がって、ね・・・」

ワイングラスを人差し指で弾き、苦笑する。
わざとではないが、ヴィレッタは一度だけその場面を目撃したことがある。
イングラムはクォヴレーを狙っている男が入ってきたと思って、
そのまま行為を続けていたらしいが、
それにしてもあの光景は今だ目の奥に焼きついて離れてくれない。
クォヴレーは手を後に縛められ、
両足は左右に大きく開かされていた。
そしてイングラムの鉄の棒を埋め込まれ、
男の象徴は根元で手と同様に戒められていた。
ひっきりなしに嬌声を上げている口は、
飲み込むことの出来ない唾液が沢山流れている。
目は泣き濡れ、真っ赤に腫れ上がっていた。



あの時の光景を思い出したヴィレッタは、
小さくため息をついてイングラムを見つめる。

「・・・随分特殊な愛し方ですこと・・・縛りプレイか・・」

途端、イングラムが珍しく顔を真っ赤に染めるのだった。

「!!あ、あの時は・・・そ、その・・・、っ」

もごもごとバツの悪そうなイングラム。
さすがにこれ以上からかうのは可哀相なので、
ヴィレッタはそれ以上追求することをやめ、
話をもとに戻した。

「ま、いいわ!
 ・・・・で、どうして家で飲むのかしら?」
「・・・・・・」

都合の悪い話が終わっていささかホッとしたのか、
イングラムはいつもの冷静さを取り戻しつつあった。
その質問には答えない、
と、プイッとそっぽを向こうとした時、
ヴィレッタがボソッと何事かを呟いた。

「・・・教えてくれたら・・・、
 縛りプレイのことは脳内からリセットしてもいいのよ」
「!!?」

イングラムの背中にタラリ・・・と汗が流れた。
目の前の女性は美しく妖艶に微笑んでいるが、
おそらくこのまま無視を続ければ毎日「縛りプレイ」でからかわれそうだ。
それだけは勘弁願いたい、と、
イングラムは大きくため息をついて話し始めるのだった。

「・・・クォヴレーは・・・強い」
「・・・・え?」

一瞬、ヴィレッタは何を言っているのか理解できなかった。
イングラムは飲んでいたワイングラスを口につけ、
眉間に皺を寄せながら話を続けていく。

「・・・酒にものすごく強い。
 ・・・・酒豪、とはアレのことをいうのだろうな」
「・・・・え?」
「ワインなど5本は軽い・・・、日本酒も一升は軽いだろうな」
「え・・・えぇ??」
「何度か一緒に酒を飲んだが、いつも先に俺が酔いつぶれる」
「・・・・・・・」
「・・・・つまり、俺は悔しいから、
 もうクォヴレーの前では酒を飲まないことにしたんだ」
「・・・・・・・」

・・・・・言葉もないとはまさにこのことだろう。
予想していなかった『理由』に酔いも一気に醒めてしまったヴィレッタ。
もし自分がイングラムと同じ立場であっても、
おそらく家ではもう酒は飲めないだろう。

「・・・さらにこの話には続きがある」
「・・・・続き?」

これ以上何があるというのだろうか?
目をパチパチさせながらゴクン、と生唾を飲んだ。

「・・・酒を飲むと性欲も満たされるらしく・・・、
 2週間はその気になってくれないんだ」
「・・・・・・その気・・・?」

つまり恋人の夜の時間が1
2週間はなくなる、ということだろうか?

「・・・触れば反応するが、そうすると機嫌が悪い。
 噛み付くは引っかくはで一苦労だ・・・・、
 で、縛って・・・その・・・あの時のような状況に陥る」
「・・・・!」

フゥ・・・と、ため息のイングラムにポカンとなってしまった。
あの「縛りプレイ」の裏にはそんな秘密があったとは思いもしなかった。
確かに健全な男が恋人と一つ屋根の下、
2週間もご無沙汰、というのは拷問に近いだろう。
あの悲惨な光景を目の辺りにし、これまではクォヴレーに同情していたが、
なんだかイングラムに同情を感じてしまうヴィレッタ。


「・・・・貴方もいろいろ大変なのね・・・」
「・・・ああ、アレは扱いが難しい・・・、
 クールで人に懐かない・・かと思えば急に甘えてきたりして・・、
 俺はいつも振り回されっぱなしだ・・・・」
「でも、好きな気持ちは止まらないのでしょ?
 むしろ大きくなっているのかしら?」

目を細めウフフ、と笑って気持ちを確かめる。
イングラムも目を細め小さく微笑むと、コクンと頷いた。

「そういうことなら仕方ないわね!
 お酒が飲みたいときはいつでも付き合うわ。」
「・・・・・ありがとう」

ドンッと胸を叩くヴィレッタに、
イングラムは目を細めたままお礼を言うのだった。












































〜おまけ?〜



「・・・またオレに隠れてお酒を飲んだな?」

不機嫌な顔で眠るイングラムを覗き込むクォヴレー。
酒に酔ったのか、ヴィレッタの家から帰宅すると、
そのまま今のソファーで眠ってしまっていたらしい。
すでに夜は明けたらしく、窓から朝日がサンサンと降り注いでいた。
クォヴレーはイングラムの腹筋の上に馬乗りになりながら怒っている。

「ずるい!オレがお酒を好きなの知っているのに、
 どうして仲間に入れてくれないんだ!?」
「・・・・お前、未成年だろ?」
「・・・!」

痛いところをつかれ、グッと言葉を詰まらせるクォヴレー。
確かに未成年だがほんの数ヶ月前に、
躊躇っているクォヴレーにお酒を飲ませたのはイングラムだというのに。
クォヴレーの眉間にはますます深い皺が出来た。
そんな様子にこれ以上拗ねられたらややこしいことになるな、
と、イングラムはクォヴレーの顎に手を添え、自分の唇へと導いた。

「・・・酒は20歳まで我慢しろ。
 だが少しだけなら味あわせてやる・・・・」
「・・・?何を言って・・・・んっ・・・」

チュっと音がしたかと思うとすぐにクチュ、と濡れた音に変った。
唇を合わせた二人、クォヴレーはイングラムの意図を悟って、
珍しく積極的にキスをしている。
イングラムの口内に舌を差し込み、
口の中に残っているお酒の味を楽しむ。
唇を啄ばみ、一旦キスを終えると、

「・・・何の酒だ?」

と、質問した。
自分の濡れた唇を舌で舐めながらイングラムは答える。

「・・・ヴォージョレ・ヌーヴォー」
「あ!・・・昨日が解禁日だものな!」
「よく知っているな・・・」

なかば呆れ気味で呟くと、クォヴレーは身体をモジモジさせてはにかんだ。

「・・・飲みたかったからな」
「・・・・フッ、この酒豪が」
「!!う、うるさい!・・・・それより・・・イングラム・・・オレ・・」
「ああ、わかっている」

クォヴレーは会話の最中もしきりに身体をもじもじさせていた。
それは恥ずかしがり屋のクォヴレーが唯一できる『誘い方』なのだ。

「だが俺は酒に酔ってだるい・・・、悪いがお前が上に乗ってくれ」
「・・・オレが!?」
「・・・上は好きだろ?・・・それとも我慢するか?」
「!!・・・我慢は出来そうに・・・ない・・・・、わかった」

キスだけで感じてしまった若い身体は我慢が辛いらしい。
まぁ、イングラムがそうなるように躾けたのだから仕様がないのだが・・・、
と、いうことをクォヴレー本人は知る由もない。

「全部お前にやらせるつもりはないから安心しろ。
 とりあえず俺の顔を跨げ・・・、お前は俺の準備だ。
 ・・・・出来るな?」

言われた言葉にクォヴレーは顔を真っ赤にさせて小さく頷いた。
今、言われたコトはクォヴレーが苦手としている行為の一つだ。
お互いの大事な場所を同時に口で愛撫するのはたまらなく気持いいが、
すぐにわけが分からなくなってしまう・・・だが、止められない。

クォヴレーはクルリと向きを変え、イングラムの頭を跨いだ。
そして自分は目の前にあるイングラムの下半身へ手を伸ばす。
クォヴレーと密着していたからか、それともお酒の効果か、
ソコはクォヴレーと同じように少しだけ硬度を持ち始めていた。
ゴクンと唾を飲み込み、そっとズボンのファスナーに手を伸ばし始める。
それとほぼ同時にクォヴレーのファスナーもイングラムによって下ろされた。




・・・・・恋人達の時間は今まさに始まろうとしている。



有り難うございました。 ・・・・え?終わりですよ。 ウラはないですよ・・・多分。 気が向いたら作ります☆