〜トリック・オア・トリート!D〜
『アイン』
『・・・何だ?』
『お前が行く、αナンバーズという連中はお祭り好きらしい』
『そうか』
『・・・そんなモノにはなんとなく付き合えばいいが、アインよ』
『?』
『【ハロウィン】という祭りにだけは気をつけろ』
『【ハロウィン】??』
『・・・なんでも、ある呪文をいうとお菓子を貰えるらしいが、
その時に悪戯されなければならないらしい・・・』
『???お菓子を貰うかわりに悪戯されてやるというのか??』
『そうだ』
『意味不明な祭りだな・・・それでいて恐ろしくハードだ。』
『そうだな・・・ともかくの【ハロウィン】にだけは気をつけろ』
『・・・了解』
ゆっくりと目を開けると、アークエンジェルに与えられた自室のベッドの上だった。
記憶をなくしてから、過去の自分を思い出すことはなかったが、
ゴラー・ゴレムの艦で自分の秘密を知ってからというもの、
時折過去の自分の夢を見ることがある。
だからといって全てを思い出すわけではないが・・・
今回見た夢はどうやらαナンバーズに間者にくる少し前のようだった。
「(・・・オレが『ハロウィン』の知識を間違って覚えていたのは、
どうやら本の影響ではなく奴のしわざらしいな・・・)」
隣のベッドを見ると、アラドが寝像悪くまだ夢の中にいる。
机の上をみると、カボチャのランタンがこちらを睨んでいるように2つ並んでいた。
「(ハロウィンか・・・おそらく始めての体験だ・・・楽しいだろうか?)」
ベッドからソロリと音をたてずに降りると、顔を洗いに行く。
「(・・・楽しいといい・・来年は【ハロウィン】など出来ないかもしれない。
これが最初で最期かもしれない・・・楽しいと・・いいな)」
まだ、朝早いので戦艦は静まり返っていた。
クォヴレーは1人格納庫へと向う。
アストラナガンに今日着る衣装を隠しておいたからだ。
「・・・おはよう、アストラナガン」
「・・・・・」
もちろんアストラナガンから返事があるはずはないが、
どうしても機体に話しかけてしまう。
アストラナガンのコックピッドに登ろうとしたとき、
何故だかゾクッとした。
「?????」
どこからか視線を感じる。
誰かが自分を見ている。
「(・・・この視線は・・・)」
空気が変わる。
ソレは一瞬のうちにクォヴレーの目の前に現れた。
「アイン」
「・・・やはりお前か!キャリコ・マクレディ!!」
「フフフ・・毎度の事ながらなんと忍びやすいのだろうな?この戦艦は」
「・・・お前の忍び方がゴキブリ並みなんだろ!?」
「お褒めの言葉いたみいる」
「・・・(褒めたわけではないんだが)・・・今日はなんのようだ?こんなに朝早く」
「・・・今日は『ハロウィン』だろ?」
「あぁ・・・」
「・・・お前にお菓子を持ってきた」
「!?菓子を???」
「そうだ・・・さぁ?遠慮なく言え!『トリック・オア・トリート』と!」
「・・・・・・・」
「・・・・・?どうした?なぜ言わん??別に菓子には毒など入っていないぞ?」
「・・・・・」
「アイン・・遠慮はいらない・・・さぁ言え!今すぐに言え!ドン!と言え!」
ズンズンと合間をつめながらキャリコは『トリック・オア・トリート』を迫ってくる。
クォヴレーは冷や汗をかきながらアストラナガンへと追い詰められていった。
「・・・さぁ?もう逃げ道はないぞ?」
「・・・キャリコ・マクレディ」
「なんだ?アイン・バルシェム」
「何故、そんなに『トリック・オア・トリート』と言わせたいんだ?」
ギクッ・・となりながら咳払いをし、キャリコは答える。
「・・・俺は『ハロウィン』を体験したいだけだ」
「ふーん?・・だがキャリコ・・」
「?なんだ?」
「オレが『トリック・オア・トリート』と言って、お前が菓子をくれたら、
お前は大人しくオレの目の前から消えなければならないんだぞ?」
?と、首をかしげながらキャリコはおおいばりでクォヴレーを罵った。
「ははははは!アインよ、お前は記憶をなくして”パー”になったのか?
俺がお前に菓子をやったらお前は大人しく悪戯されなければならないんだぞ?」
「・・・・・・はぁ」
やはり間違った知識を身につけているのか、
そして悪戯するのが目的で朝早くから忍び込んできたのか、
とクォヴレーは大げさにため息をついた。
キャリコはムッとしながら、
「なんだ?なぜため息をつく?」
こばかにした笑みをキャリコに向けると、自分の翻訳機をキャリコに手渡した。
「???なんだ?」
「・・・貸してやる・・・それで『トリック・オア・トリート』の
意味でも調べてみろ」
「?」
アインの言うことに大人しく従うキャリコ・・・なんだか異様な光景だが、
翻訳機に『トリック・オア・トリート』と打ち、『翻訳』というボタンを押す。
「・・・・『トリック・オア・トリート』・・・意味は・・!!?」
雷に打たれたかのような衝撃を受けるキャリコ。
クォヴレーは初めて見る『抜けたキャリコ』に思わず声を荒げて笑ってしまった。
「ハハハハハハッ!」
「・・・・・・っ」
「アハハハハハ!ゴラー・ゴレムの隊長ともあろう奴が間抜けな話だな・・・!」
「・・・・・っ」
仮面で顔全体は見えないが、僅かに見える口元が真っ赤に染まっている。
おそらくそうとう恥ずかしいのであろう。
ニヤリ、と黒く微笑みながら、
「・・・キャリコ・・トリック・オア・トリート!」
「・・・・」
「キャリコ?トリック・オア・トリート!」
グッと手をグーに握りワナワナとする。
そして・・・・・
「お前にやるような菓子はない!!」
「さっきはある、と言っていたじゃないか」
「お前の空耳だ!ない!」
「・・・・本当に?」
「本当だ!」
「・・・じゃあ、悪戯するぞ?」
「・・な、に?」
キャリコの首まで手を伸ばし、背伸びをして顔を近づけた。
目を閉じ、触れるか触れないか位に唇るを重ねると直ぐ離した。
何が起きているのか?という感じのキャリコを見届けると、
改めて唇を唇に押し当てた。
今度は一瞬ではなく・・30秒ほど・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・おわぁぁぁぁ!!」
キャリコは急いでクォヴレーを引き離す。
突然のことにいつもの冷静さを失ってしまったようだ。
「アイン!」
「フ・・フフフフフ・・悪戯完了だ」
大慌てで持ってきていた菓子袋をクォヴレーに叩きつけると、
「また来る!覚えていろよ!?アイーーーン!!」
「はははははっ」
あっという間に姿が見えなくなってしまった、台風のような奴。
少しの間、唇に残された温もりに浸ってから、
クォヴレーは改めてアストラナガンに登り始めた。
アストラナガンのコックピッドに入ると、さっきのキャリコを思い出してクスクス笑い出す。
「(・・・アイツがあんなに慌てるとはな・・・
だが、少しもったいなかったかな?もうすこし焦らすべきだっただろうか?・・)」
今日着る衣装を手で玩びながらクォヴレーは唇に指をあてる。
「(・・・まぁ、いいか・・キスなど減るものではないしな・・
それにししてもキャリコ・・・お前ここ一番で手を出さない奴だな)」
その頃のゴラー・ゴレム艦
「・・・キャリコ?キャリコ!?」
スペクトラがいくら話しかけてもキャリコはうわの空であった。
「・・・キス・・・」
「は?」
「アインと・・・キス・・・」
「・・・(ついにアイン欠乏症も末期かしら?妄想し始めているわ)」
スペクトラはしばらく放って置いてほうがいいと思い、静かにその場を後にした。
クォヴレーの唇の柔らかさを思い出しているキャリコ。
幸せに浸っていたが、ハッとあることを思ってしまった。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ガバッと椅子から立ち上がり、自分の失態を嘆く。
「俺は馬鹿だぁぁぁぁ!何故、あのままアインを押し倒して
そのまま『いただきます』をしなかったんだぁぁぁぁ!!」
キャリコはショックでその後1週間ふて寝をしたそうです。
有り難うございました。
一応キャリヴレです。
ヴレがキャリより上な感じに仕上げてみました。
詰めの甘いキャリコに笑っていただけたら嬉しいです。
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