〜クォヴレーからの・・・〜
「アラド!」
「クォヴレー?どしたの??」
「探したぞ」
その言葉通りクォヴレーは息を切らせながらアラドに近づいてきた。
「探してた??なんで?」
「お前もうすぐ誕生日だろ?」
「へ?・・・・」
「・・・・・」
アラドはしばらく反芻したのちポンッと手を叩いた。
「そういやそうだった!・・・誰が考えたんだかしらねーけど誕生日だ」
「・・・アラド」
少しだけ悲しい目で自分を見てくるのでアラドはニマッと笑いながら、
「そんな顔すんなって!オレはそんな事気にする人間じゃねーからさ!」
「・・・人間・・?」
「・・・っと・・ごめん」
今度はアラドが悲しげにクォヴレーを見つめかえした。
「そういう意味じゃなくて・・その・・」
バツが悪そうにボソボソ話すアラドに薄く微笑みながら、
「気にするな、オレもそんな事を気にする『人間』じゃない」
「!クォヴレー・・」
ほっとしたようにアラドは改めてクォヴレーの顔を見る。
彼はいつものように無表情に戻っていた。
「話がそれてしまったが、アラドが誕生日だというのでプレゼントを用意した」
「え!?マジ??」
「ああ」
「何々??あ!刺繍のハンカチ??」
「違う・・・アレは女の子に渡すものだろう?」
「ま、そうだな」
「でも、オレの手作りということには変わりはない」
「へぇ・・・?」
「受け取ってくれるか?」
「もちろん!オレ達仲間だろ?」
「???仲間がどう関係あるのかわからんが、コレだ」
「・・どれどれ・・・!!?」
アラドは渡されたソレ、をみて固まってしまった。
ソレは瓶に入っていてなにやら朱色の液体の中で蠢いている。
「(な、なんだ??コレ???)」
アラドは冷や汗をかきながらクォヴレーに視線を戻す。
するとクォヴレーは照れたような笑顔を返してきた。
「あ、あの・・クォヴレー・・さん?」
「?なんだ?」
「コレ、なに???」
クォヴレーは素敵な笑顔をアラドに向けると自信満々に答えた。
「アラドは食べ物が好きだろう?」
「・・・うん」
「だからプレゼントは食べ物を用意した」
「(!!?コレ、食い物なの???)・・へぇ・・でさ」
「なんだ?」
「コレ、なんて食い物??」
「イカの塩辛・・・」
「えぇぇ!?イカの塩辛???」
驚きを隠せないアラドに更にニッコリとした笑顔を向けながら、
ある人から貰った『昆虫大辞典』をアラドに見せる。
「・・・?なに??」
「最近、昆虫にはまっているんだ」
「へぇ・・?で?」
「そして急だったからイカが用意できなかったんだ」
「・・・だから?」
「・・・イカの代用を探していたらこの本に丁度いいのが載っていた」
「・・・その・・本に??」
アラドは脂汗が止まらなかった。
イカを使っていないのであればコレはもうイカの塩辛ではないのでは?
「(聞きたくない・・聞きたくないけど・・聞きたい)クォヴレー」
「なんだ?」
「ちなみにイカのかわりに何を使ったわけ??」
「・・・知りたいのか?」
「・・・知りたい」
「どうしても??」
「どうしても!」
するとクォヴレーは『昆虫大辞典』をパラパラと捲りだす。
そしてあるページにたどりつくと指を指した。
「どれどれ・・・!!!???」
アラドは後悔した。
やはり聞かなければよかった。
クォヴレーが指差したもの、それは自分が想像していたものそのものだったからだ。
「そんなに集めるの大変だったんだぞ?排水溝とか・・色々探した」
「・・・へ、へぇ・・?」
「ソースの作り方がわからなかったから朱色の絵の具を水で溶かし塩で味付けした。
「!!?絵・・の具??」
「とろみを出すために片栗粉も少々・・それから」
「ストーップ!!ストップ!もういいよ!」
アラドは説明を聞いているうちに気持ち悪くなってきた。
「せっかく説明しているのに・・まぁいい・・喰え!」
「・・え?」
「喰え、アラド。誕生日プレゼントだ」
「えぇぇぇぇ!?」
アラドは手に持ったソレを改めて凝視する。
ソレは相変わらずニュルニュル蠢いていた。
「(冗談じゃねーよ!こんなの喰ったら死ぬ!)・・えっと・・後で?あははは」
「今喰え!直ぐ食え!さっさと喰え!」
詰め寄られアラドは慌てる。
ここははっきりと言うべきかも知れない。
ゴクン・・と唾液を飲み込みアラドは口を開く。
「ごめん!クォヴレー」
「・・え?」
「いくらオレが食い意地張っていてもそれだけは食えねー!」
「・・・え?」
「オレはナメクジを食べる舌は持ち合わせてねーンだ!」
「アラド・・」
「き、気持ちだけ貰っておくよ!じゃ、じゃーな!!」
アラドは一目散にその場を後にする。
残されたクォヴレーは悲しげな表情をしていた。
次の日そのことをヴィレッタに話したらクォヴレーは怒られた。
クォヴレーは頭に??を浮かべていたが、
更に次の日には改めてアラドにプレゼントを贈った。
「・・・(今度はなんだろ?)あ!」
「今のオレにはコレしか用意できなかった・・・すまない」
「なんで謝んの?すっげー気に入ったよ!このハンカチ」
「!本当か?」
「ああ、ビルガーの刺繍がイカスじゃん!サンキュ」
アラドは鼻を擦りながらお礼を言う。
その顔にクォヴレーも微笑する・・なんだか心が温かくなった。
「・・ところであの塩辛もどきは?」
「ああ・・・ヴィレッタに怒られたから排水溝に戻した
・・やっぱり喰いたかったのか?」
「い、いやいや・・めっそうもない・・ははは・・」
こうしてアラドの誕生日は無事に過ぎていった。
翌月のクォヴレーの誕生日にアラドがクォヴレーに贈ったもの、
ソレは『基礎からはじめるお料理本』であったという。
その話はまたおいおい・・・。
有り難うございました。
アラドの誕生日話第一弾目です。
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