〜overflows in loveA〜
・・・イングラム、そろそろ下ろしてくれ
『もういいのか?』
あぁ・・十分だ。
『わかった・・・』
ありがとう・・・
『・・・そろそろ戻るんだ』
・・・・・・・戻る?
『ここは精神世界、お前のいるべき場所ではない・・仲間の元へ帰らなくてはな』
仲間・・・オレの仲間・・・
『怯えることはない・・皆お前のことが好きだ』
・・・・そうは思えない。
『・・・戻るんだ』
・・・どうしても、か?
『どうしてもだ・・・それとも俺に体をあけ渡すか?』
!!?それは・・!
『ではクォヴレー・・お前に一つ保険をやろう』
保険??
『もう一度だけ、目を覚まして現実に戻るんだ・・・
そして、お前が自分の居場所がないと思ったら戻ってきていい・・
その時はもう邪魔しない・・俺がその体を使う・・・これが保険だ』
この体を乗っ取る気か??
『お前が放棄したならその体を頂いても問題はないだろう?
俺に体を渡せばもう苦しい思いをしなくてすむぞ?』
そうか・・・
わかった・・もう一回だけ・・頑張ってみることにする。
だが直ぐに戻ってくると思うぞ?
『それはどうかな?・・・俺はここにいるからお前よりお前の仲間のことをわかっている』
だから?
『お前は戻ってこない・・・』
・・・・・?イングラム?
『さぁ、もう行け・・・今度は違う形で会いたいからな』
そうだな・・そうなるといいな・・無理だろうが・・
『お前は意外に心配性なんだな・・・可愛いことだ』
!!なんだと!?
『フフフ・・怒っていないで戻れ・・次はいい報告が聞けることを願っている』
わかった・・・
・・・ん?次???
次とはどういう意味だろうか??
オレは彼に『次』の意味を聞こうとしたが出来なかった。
振り向くと彼は何故か酷く哀しげに微笑んでいて・・
そんな姿に心臓が締め付けられてしまったからだ・・。
オレは精神世界を見渡す・・・
・・・!暗く・・何もない世界・・
あぁ・・・そうか・・・彼は・・彼、も・・・
身体中が痛い・・・
オレはどうしたというのだろうか・・・・?
「・・・レー!」
・・・誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「クォヴレー!!おいってば!!目ぇ開けろよ!!」
「クォヴレー!目を開けて頂戴!!」
「・・・ぅ・・ん?」
「クォヴレー!」
「・・・アラ、ド?・・ゼオラ?」
2人はいきなりオレに抱きついてきた。
「くっ・・・痛っ」
「あ、ごめんね?痛かった?」
「ごめん!でもお前が目を覚ましてくれてうれしくて・・!」
・・・訳がわからないまま二人を見つめると、
目は腫れていて・・・どうやら泣いていたような感じだ。
「2人とも・・どうして泣いているんだ?」
「バカ!!バカバカバカ!!もぉ〜!!クォヴレーのバカ!!」
「お前が戦闘中に大怪我して昏睡状態になっちまったからだろ!?」
「・・・え?昏睡状態?」
「そうよ、もうすぐ10月6日が終わるわ」
・・・!?この声は・・・
「ヴィレッタ・・大尉?・・貴女もついていてくれたのですか?」
窓の傍にいた彼女がゆっくりと近づいてくる・・・
「ヴィレッタでいいわ・・敬語も使わないで普通に喋ってくれる?
貴方に大尉と呼ばれたり敬語を使われたりすると・・こそばゆいわ」
「・・・了解した・・ヴィレッタ」
彼女は嬉しそうに微笑んだ・・・
一体どうして笑うのだろうか?
「お前、今日はどうしたんだよ?あんな雑魚に落とされるなんてらしくないじゃん?」
「そうよね・・アラドじゃあるまいし」
「・・・ちょっと考え事を・・・」
「考え事?悩みか??」
「あぁ・・まぁ、そんなところだ」
「なぁんだ!そんなもん、飯食って寝れば解決するよ!」
「それはあんたの場合でしょ!?クォヴレーは単純なあんたとは違うのよ!」
・・・2人は相変わらず喧嘩をしている。
いつもの光景だ・・・
オレには決して入り込むことの出来ない二人の世界・・・。
最近も2人でコソコソ何かをしていたようだし・・・
やはり、オレには居場所がないのかもしれない・・・。
「あなた達、喧嘩してないで例の物クォヴレーに渡してあげたら?
早くしないと今日が終わってしまうわよ?」
「あ!いっけね」
「そ、そうね・・・クォヴレー」
「?なんだ??」
2人はニッコリと微笑みながらある箱を差し出してきた。
綺麗に・・とはいいがたいが、ラッピングされてリボンまでかけられている。
「・・・?これは??」
「フフフ・・クォヴレー、今日誕生日でしょ?」
「!!?」
「そうそう!だからオレとゼオラでお前の誕生日プレゼント用意したんだよ!」
「・・・プ・・レ、ゼン・・ト?」
誕生日・・・
プレゼント・・・
本当だろうか・・・?
「よかったわね?クォヴレー・・開けてみたら?」
ヴィレッタがベッドに腰掛けてプレゼントを覗き込みながら言ってきた。
オレは小さく頷くとラッピングを解き始めた。
「・・・これは?」
「鈴のキーホルダーよ!私たちの手作り!」
「お前、機体のキーに何にもつけてないじゃん?
だからゼオラとプレゼントはキーホルダーがいいんじゃないかって!」
「日数が少なくて大変だったけど・・・受け取ってくれる?」
・・・オレは恥ずかしくなった。
1人で拗ねて・・・剥れて・・・落とされて・・心配させて・・。
ヴィレッタがオレの頭を撫でる・・・
「・・・目から・・水が出てきた」
「へ?・・お前、それは涙だろ?・・・傷痛むのか??」
「・・・ちがう・・・胸が苦しくて」
「え!?胸を打ったのかしら???」
「フフフ・・違うわよ2人とも、クォヴレーは嬉しくて泣いているのよ」
「へ?・・・へぇ・・クォヴレーも泣くんだ?」
「あったり前でしょ!人間なんだから!」
「そりゃそうだな・・!あははは」
人間・・・
人間・・・オレは人間・・?
あぁ・・彼の言った通りだ・・・
ひょっとしたらアラドもゼオラも・・ヴィレッタもオレを好きでいてくれているのかもしれない。
だが、オレが臆病で・・目を反らしていたんだ・・・。
「ありがとう、2人とも。本当に嬉しい・・
コオロギだかゴキブリだかわからないが、この鈴のキーホルダー早速使わせてもらう」
「・・・クォヴレー」
「・・ゴキブリは酷いわ」
「・・・?」
「それ、ベルグバウのつもりらしいわよ?」
「!!?そうなのか!!?」
「はぁ・・やっぱゴキブリに見えんのか・・」
「・・・ごめんね〜?」
「いや、そんなことはない、有り難う」
2人は嬉しそうに微笑んだ。
オレも微笑み返した・・まだ不器用にしか笑えないけれど・・・。
「あぁ・・そうだ、ヴィレッタ」
「なに?」
「貴女に聞きたいことがある」
「私に??」
「イングラムのことについて教えて欲しい」
「イングラム?・・・どうしてまた・・」
「・・・知りたいんだ・・・オレの家族のことを・・少しでも」
「!!?・・・そう、・・わかったわ・・どうせしばらく医務室のベッドの上でしょうし・・
話してあげる、彼のこと・・・どこから話そうかしらね・・・」
イングラム・・・
オレはお前のことが知りたい。
いつもオレが苦しいときに声をかけてくれる・・・
オレが悲しい時に抱きしめてくれた・・・
オレはお前のことが知りたい・・・
あの暗い世界でお前はいつもどうしているのだろうか?
孤独と戦っているのではないのか?
お前はひょっとしてオレより孤独なのではないのだろうか?
オレを孤独から救ってくれたイングラム。
オレはお前のことが知りたい。
お前のことを知って・・・
今度はオレがお前の孤独を癒してあげたいんだ・・・
迷惑だろうか・・・?
迷惑ではないよな・・・?
家族なのだから・・・!
だからもう哀しげに笑わないでくれ・・・。
皆が帰った後、オレは静かに目を閉じる。
彼に会うために目を閉じる・・・。
暗い世界
彼がポツンとそこにいた。
オレは気づかれないよう背後から抱きついた。
『!!?』
・・・驚いたか?
『どうした?・・やはり辛くて戻ってきたのか?』
いや、お前にお礼が言いたくて戻ってきた。
『礼?』
お前が行った通りだった・・・
オレは一人相撲をしていた・・恥ずかしい。
『そうか、良かったな・・・』
それに、お前に会いたかった・・・
『俺に?』
お前はオレの孤独を救ってくれた。
だから今度はオレがお前に光を射しにきた。
『光・・?』
お前、本当は誰よりも孤独なんだろう?
だからオレを放っておけなかったんだろ?
孤独を知っているから・・・。
『・・・・・』
でも、これからは孤独じゃない。
オレがいる!
イングラム、オレと家族になろう!
毎日、夢の中で会おう!
『・・・クォヴレー』
彼は困ったように微笑んだ、が、
直ぐに力強く抱きしめられてしまった。
オレの首筋に顔を埋めるイングラム・・・
首に・・液体が落ちてきた・・・。
『ありがとう』
誕生日というのはいい日かもしれない。
人間の温かさに直に触れることが出来る。
創られた存在のオレに誕生日など無粋かもしれないが・・・
オレは10月6日が大好きになった。
なぜなら沢山の「あたたかい心」を貰うことが出来たから・・・
有り難うございました。
これって誕生日?と聞かれたらうーん?と唸ってしまいそうですが・・
クォヴレー君の成長を楽しんでいただければ、と。
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