それは、思っていたより表面がザラついていて、
乾いていて・・・冷たかった・・・。
そしてその時オレは理解した。
決して縮めてはいけなかった『距離』を
オレは縮めてしまったのだ・・・。
〜縮まりゆく距離?〜
唇を重ねていた時間はほんの数分。
けれどオレにはそれが終わりのない永遠のような時間に思えた。
・・・いや、そうではない。
「終わりのない永遠」であってほしかった。
何故そう思うのか?
なぜこの不可思議な時を永遠にしたいのか・・?
・・・オレにはその答えが分からない。
・・・・答えを知っていけない。
オレとアイツは・・・敵同士だからだ。
そう、敵なんだ。
キャリコは敵。
かつては仲間だったのに。
一番信用できて信頼していた仲間。
・・・・「かつて」とはだから・・いつなんだ??
思い出せない。
思い出してはいけない。
思い出せばオレはきっと壊れてしまう。
そんなことを考えていたら再びキャリコの唇が触れてきた。
相変らず表面がザラついていたので、
オレは無意識にアイツの唇を舐めていた。
「・・・・んっ」
「!」
キャリコの体が一瞬大きく揺れた。
・・・・オレの行動に驚いたらしい。
だがオレが夢中になって奴の唇を舐めていると、
次第に薄く開かれていくキャリコの乾いた唇。
中から赤い舌がチロチロと
コチラの様子を伺うかのように出てきた。
・・・・やがて舌と舌とが触れ合った。
「・・・ん、んんんんぅ・・・っ」
「・・・・っ、ア・・・イン・・・」
触れ合う舌と舌。
唇はあんなに乾いてカサついていたのに、
キャリコの舌は生暖かく濡れている。
それまで開いていた目を閉じる。
これ以上開けていられなかった。
なぜなら・・・気持ちいいんだ。
誰かと触れ合うことがこんなに気持ちいいだなんて知らなかった。
そしてそれまで宙ぶらりん状態だったキャリコの手が
オレの肩に置かれ・・・・・・
「んっ・・・ふ・・・・っ」
次第にその手はオレの腰へ・・・・。
始めは弱い力で抱きしめられていたが、
やがて力がこめられ息が苦しくなっていく。
ああ・・・・
オレの腕が後手に縛られてさえいなければ
オレもキャリコを抱きしめられるのに。
口の外で舐めあっていた舌。
だが突然オレの舌はオレの口の中へと押し戻されてきた。
・・・・奴の舌と一緒に。
「ふぅ・・・んっ、・・んっ・・んーー」
キャリコの舌が歯列を這う。
キャリコの舌が上あごを這う。
キャリコの舌が舌を絡める。
キャリコの舌が・・・・
キャリコの舌が・・・・
キャリコの舌が口の中を犯す。
「んぅ・・・っ」
「・・・・・アイン」
「・・・キャリ・・・コ・・・ふぅ・・・」
激しく蠢きまわっていたものがようやく口の中から出て行った。
しかし舌全体は甘く痺れ、唇も感覚を失っている。
口が・・・だるい・・・けれど・・・・
「・・・キャリコ・・・」
「・・・・アイン」
「キャリコ・・・仮面、を・・・」
「・・・仮面?」
「仮面、を・・・とって・・・ほしい・・・」
「・・・取る?」
キャリコはまだオレを抱きしめたままだ。
オレを抱きしめたまま、オレを見下ろしている。
仮面で隠された表情は今何を語っているのか?
見てみたい。
お前の素顔を見てみたい。
キャリコはオレを抱きしめたまま何も言わなくなってしまった。
時々、何かを言いた気に唇を動かそうとするが、
すぐに言葉を飲み込んでしまっていた。
やがて小さくため息をついた後、
右手で仮面に触れたキャリコ。
カチッ・・・と音が鳴り
青い髪が更に風邪に靡いた。
カラン・・・という金属音と共にオレの目に奴の瞳の色が映る。
「・・・・・っ」
「どうした?」
初めてみる素顔に思わず息を呑む。
オレの態度にキャリコの瞳が面白そうに細められる。
「・・・俺の顔になにかついているのか?」
「・・・・っ」
「お前の望みどおり俺は仮面を外してやっただけだぞ・・・?
何を驚いている?」
ああ・・・
やはり・・・やはり、だ。
「・・・オレと・・・」
「ん?」
「オレと・・・似てい・・る?」
そう言うのが精一杯だった。
分かってはいたが・・・だが・・・
「!・・・フッ・・・くっくくく・・・」
面を食らっているオレの態度にキャリコが咽で笑う。
哀しげに・・・憎らしげに・・・オレを見つめながら・・。
オレはそんなキャリコの視線から目を逸らすことが出来ないでいた。
するとキャリコの指がオレの頬を撫で始めたのだった。
「アイン・バルシェム・・・・」
「・・・・・・?」
「もう少しだけ・・・」
「・・・・?」
「もう少しだけ・・・この時間、を・・・」
「・・・キャリ・・・?んぅ??」
突如、キャリコの細長い指が2本も口内に侵入してきた。
同時にキャリコの頭はオレの首筋まで移動しており、
首に甘い痛みを感じ始めた。
「んぅ??んぅ??・・・んーーー??」
オレは必死に口を動かすが奴の指が邪魔でしゃべれない。
体が震える。
恐怖で、ではない。
首筋を這う生暖かな感触と、
時折感じる甘い痛み・・・。
その刺激でオレの体はブルリと背筋を何かが駆け抜けていく・・・。
いけない。
これ以上触れ合ってはいけない。
本当に後戻りできなくなってしまう。
だが・・・だが・・・
「・・・・アイン」
「ん・・・ふぅ・・・ふ・・・」
もう少しだけ・・・、
この世に神がいるというのなら
もう少しだけこの男と触れ合うことを許して欲しい。
オレは・・・決して開いてはいけない扉を開きつつあるようだ・・・。
有り難うございました。
『アインまで数センチ』の続きです。
今回はクォヴレーからです。
・・・まだまだ続く予定。
次はキャリコサイドですよ。
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