シリアスBL番外1
 


目線の直ぐそこには切れ長の青い瞳があり、
腰の辺りにはその瞳の持ち主の手の暖かさがしっかりと伝わってくる。
そしてフカフカのベッドにおよそ相応しくないゴツゴツした枕。
これは疑いようもなく瞳の持ち主の腕だ。
ああ、またやってしまった、とうな垂れるクォヴレーに
青い瞳の持ち主は咎めることもなく言ってきた。
顔と顔が近いので言葉を発するごとにかかる吐息が生々しい。

「・・・今日の休みは買い物へ行く、いいな?」

眇められた視線に縦に頷くしかないクォヴレー。
毎回こうして彼を湯田んぼ代わりにしてしまっているクォヴレーに、
その申し出を断る勇気はなかったのだった・・・・。















物音に目を覚ますといつもの様に少年は自分のベッドではなく
イングラムのベッドへ『戻って』くる。
掛け布団をゆっくりとした動作で持ち上げ、
僅かな隙間に自分の身体を滑り込ませてくる。
そしてモゾモゾと何度も体を動かし『自分の場所』を作り上げていく。
今では微笑みながらその動作を見守るイングラム。
寝ぼけているクォヴレーの目は『場所を作ること』に一生懸命で、
眉の中央には常に皺が出来ているのだ。
そして最近クォヴレーはもう一つあることを要求しだしだ。
場所を確保し終えると、イングラムの腕をガシッと掴む。
始め、イングラムはわけが分からず抵抗していたが、
クォヴレーはしきりに腕を自分の頭の位置へ持っていこうとしていたので、
その意図を察し大人しく彼に自分の腕を貸し出すことにした。
イングラムの腕に頭を乗せ『枕』を獲たところで、
眉間からは皺が消えクォヴレーは眠りに落ちていく。




そしてその晩もクォヴレーに腕を貸し出すとスースーと寝息を立て始めた。
いつもであればそんなクォヴレーの唇を少しだけ堪能し
イングラムも眠りにつくのだがなぜかその晩は寝付けなかった。
それもそのはず、イングラムの下半身は腕の中の存在に対し
欲望を露にしていたのだから。
流石に毎晩のことなのでいつもは多少反応してしまうものの抑えることが出来ていた。
また仮に抑えられなかったとしても、
クォヴレーの寝顔を堪能しながら自分で処理をすれば治まっていたのだ。
しかしその晩はどうとしても湧き上がる疼きを抑えることが出来ない。
いつもの熱とはどうも感じ方が違うようなのである。

「(・・・参った。これは自慰程度では治まりそうもないな)」

かといってイングラムは身代わりの誰かを相手にしようとは思わなかった。
耐え切れず試そうとしたことがあったが、
いざ誰かを前にすると全く反応を示さないからだ。
『不能』になったのか、と焦りもしたが、
夜にクォヴレーを抱きしめれば熱くなるのでそうではないと悟った。

「(つまり本気ということか・・・厄介な)」

抱けない相手を抱きしめながらイングラムは今夜もまた唇に唇を寄せる。

「・・・・ん」

漏れる吐息に更に熱くなっていく心と身体。
抑えようもない肉の欲望が残酷にイングラムを蝕んでいく。
密着した身体からはクォヴレーの体温が嫌というほど伝わってきている。
腰をしっかりと抱きしめもう一度キスをしようとしたその時、
イングラムはあることに気が付くのだった。

「(・・・そういうことか)」

クォヴレーへの想いを実感したのは極々最近のことだ。
始めは彼がバルシェムであり記憶を失い、
更には感情を少しとはいえ露にしていたから興味深かった、という程度だった。
いや、実際には最初に顔を合わせた時に既に心は奪われていたのかもしれない。
『人形』のくせに強い意志の光を垣間見せてくれた『瞳』に魅了されたのだろう。
何はともあれイングラムはクォヴレーに『ベタ惚れ』状態だ。
最初のうちは触れ合うだけで我慢できていたものが、
もっと深い場所まで触れてみたい、と思うのは自然なことだろう。
それ故に今までは例えクォヴレーが下着一枚の姿で抱きついてきても
我慢できていたものがだんだんしきれなくなってきたのだ。

「(そう、この服装だ。下着一枚の薄着がよくない。
 パジャマを着させもう少し厚着になってくれれば俺の下半身も少しは・・)」

やり場のない熱を持て余し、小さくため息のイングラム。


やがて腰を抱いていた手がそっと下着を捲り上げクォヴレーの素肌に触れた。
舐めるように下から上へ背中を撫でる。
しっとりと吸い付くようなその手触りに感嘆の息を吐くと、
今度はその手を背中から腹へ移動させ同じように下から上へ撫でていく。

「・・・ん・・」

滑るように肌を這わせていると、指先に小さなシコリが触れた。
クリクリと悪戯してやるとそのシコリはだんだん固さをましていく。

「・・・フフ、胸の飾りも小さいな。
 検査の時一度だけ見たが・・・どんな色をしていたか忘れてしまった」

可愛いピンク色だっただろうか?
妙なドキドキがイングラムを襲い、確かめたい衝動にかわれていく。
クォヴレーを起さないよう慎重に身体を起し、ベッドライトをつける。
眩しさにクォヴレーは一瞬眉根を寄せるが再び眠りに落ちていき、
そのことを確認するとイングラムはゆっくりと下着の裾を捲っていく。
白い腹やアバラが露になり、やがて目的のものが姿を現した。
イングラムが少し刺激したからか、それとも寒いのか、
胸の二つの飾りは少しだけ固く盛り上がっている。
手を伸ばし指先で擽るようにそれを撫でる。

「・・ん・・・んー」

くすぐったいのか、身を捩るクォヴレーだが、
イングラムはしっかりと腰を抱きしめそれを阻んだ。
そして目を細めゆっくりと白く平らな胸板に唇を近づけていく。
唇がそっと飾りに触れると小さく揺れるクォヴレーの身体。
その反応に口元に笑みを浮かべネットリと飾りを舐め、
唇で吸い上げてみることにした。

「んっ・・・んー・・」

遊びのような愛撫に感じているのか、頭上からは艶かしい声が聞こえてきた。
もう少しだけ、と少し強めに飾りを吸ってやるとクォヴレーの身体が大きく震える。

「あっ・・んー、んぅ・・・ふ・・」

チラッと上目遣いでクォヴレーを見上げれば、
切なげに眉を寄せもどかしげに腰を捩っている。

もっと強く吸ってみる。
すると耐え切れないとばかりにクォヴレーはイングラムの頭を抱え身を捩りだした。
イングラムはそっとクォヴレーの下半身に触れてみる。
そこはイングラムほどではないにしろ反応を示していて、
胸の飾りを吸い上げるたびにビクビク大きさを増していっているようだ。

「・・・っ・・辛そうだな?」
「・・・んぅ」


飾りから唇を離し、自分の下肢を寛げる。
同時にクォヴレーの下着を膝の辺りまで下ろしてしまうと
自分の性器と一緒に握り締めた。

「っ・・・今晩、は・・俺も・・これでよく眠れ・・そうだ」
「・・・・・っ」

クォヴレーの首筋に顔を埋め欲望を擦り付けるように
手の動きにあわせ腰を蠢かす。

「・・・・ぅっ」

やがて低くうめくと同時にイングラムの手の隙間からは
二人分の白濁した液体が流れ落ちていく。
枕もとのてティッシュでそれをふき取ると、
クォヴレーの下肢を綺麗にふき上げ下着を元通りに着せた。
熱を解放し満足したのか、クォヴレーはスヤスヤと眠っている。

「(毎回思うのだが、ここまでされていてどうして目を覚まさないんだ??
 まぁ、俺としては助かっているが・・・・不思議な子だ)」

本当にどうしてクォヴレーは目を覚まさないのか?
答えはもっとエロチックなことをされていたからなのだろうが、
イングラムには知り得ようもない。
どこか納得のいかない顔をしながらもイングラムは
薄着のクォヴレーを抱きしめ眠りにつくことにした。
しかし一回解放しただけでは精力が有り余っているイングラムとしては
再び熱くなってしまうのは時間の問題。
相手が薄着であれば尚のことだ。


「(・・・やはりパジャマは着てもらうことにしよう。
 丁度明日は休みを取っていいと言われているからな)」



こうしてクォヴレーはイングラムと買い物に行く事になったのである。












「本当にオレ達も一緒でいいんスか?少佐」

街中を一人の成人男性と二人の少年、一人の少女が歩いていた。

「ああ、俺はお前たちくらいの年頃のファッションは分からんからな。
 お前たちがいてくれないとクォヴレー一人では決めかねるだろう?」

普段はパイロットスーツか制服である彼らも今日という休日は私服姿だ。
イングラムはワイシャツにジーンズというラフな格好、
ゼオラは女の子らしくスカート姿に薄ピンク色のジャケット、
アラドはこれまた若者風のトップスにズボンという姿であった。

「まぁ、確かにクォヴレーに服は必要ですよね」

後からトボトボついてくるクォヴレーを振り返りながらゼオラは笑いを堪えるのに必死だった。
私服を持っていないクォヴレーは、始めアラドの服を借りてみたが大きすぎて駄目だった。
仕方がないのでゼオラの服を借りてみたがやはり大きくて駄目であったのだ。

「・・クォヴレーって身長はオレとあんまり変わんないのに、
 ほそっこいからオレの服がデカイんだもんなぁ・・・・」
「そうね、私の服もでかそうだっわ」
「・・・オレは細くない・・普通だ」
「・・・ほっせーだろ、ねぇ?少佐!」

それまで黙っていたクォヴレーが不機嫌そうに口を開く。
しかしアラドに反撃をひと蹴りされますます機嫌が悪くなったようだ。

「そうだな・・・ライの子供の頃の服が丁度いいようでは・・・」
「!!」

そう、誰の服も合わなかったクォヴレーは
ライディースの幼い頃の服を借り街まで出てきたのだ。
なぜライの子供の頃の服があったかというと、
彼の兄のレーツェルが戦争で物資が少なくなり、
子供達の服が不足しているというのでわざわざ自分の家から
ライや自分の小さな頃の服を持ってきていたからだ。
借りることはなんとも思わないが、
なにぶん小さい頃の服というのに引っ掛かりを覚え、
クォヴレーは頑なに拒否していたがゼオラに怒られ泣く泣く着る羽目となってしまった。
だが納得のいかないクォヴレーの機嫌は道中悪いままである。

「いくら俺を睨んだところで体型は変わらないぞ?
 悔しいならもっと太るか、丁度いい服を買うことだな。
 だからこうして買い物に来ているのだから・・・・」

フッと意地悪い笑顔でクォヴレーを見下ろすと、
真っ赤な顔で反撃に出てこられた。

「少佐!!他にも選択肢はあります!」
「・・・ほぉ?」

クォヴレーはコレまでで一番感情を表に出していた。
イングラムもアラドもゼオラもそんな様子を何処か安心したように見守りながら、
その選択肢とやらを聞いてみることにした。

「もっとでかくなる!という選択肢がある!!少佐くらいに!!」
「俺くらいでかく、か・・・くくく」
「!!」

無理だな、という風な笑いをされクォヴレーはカチンときてしまう。
そして何かを言い返そうとしたとき、駄目押しのように他の二人にも言われるのだった。

「そうねぇ・・・クォヴレーは大きくなれる骨格の持ち主じゃないわよねぇ」
「!!?」
「だな!あとあんま食わねーし・・・でかくなる、は無理な気が」
「!!?」

頭の奥にガーンという鐘が鳴る。
三人が三人とも『無理』というので、信じやすいクォヴレーは信じてしまったようだ。
ショボンと肩を落とすと、アラドがポンと肩を叩いてきた。

「ま、まぁまぁ・・落ち込むなよ!でかくなる、は無理でも太くなる、は可能・・うーん??」

アラドはマジマジとクォヴレーを見てみる。
細い手首に細い腰、突風が吹けば吹き飛びそうな華奢な姿に、

「(コイツ・・太れる体質でもなさそうだな・・・ははは・・)」

と、思うのだった。
アラドが答えに言いどよんでいると、最後の一撃とばかりにイングラムの一言が。

「太る、も無理だろうな」
「!!?」
「(凄いわ少佐・・・まさしく一刀両断ね)」

しかしイングラムは飴を与えることも忘れない。
拳を握り締め口を引き結ぶクォヴレーの頭にポンッと手を乗せ、
ヨシヨシと撫でるイングラム。
子ども扱いされていると、余計にムッとするクォヴレーであるが、
イングラムの顔があまりにも優しいものだったので思わずポカンとしてしまった。
もちろんアラドもゼオラも厳しい顔のイングラムしか見る機会はなかったので、
一緒にポカンとしてしまっている。

「?どうした?三人とも」
「・・・・・・」
「い、いえ・・その・・・」
「少佐もそんな風に笑うんスねぇ・・・あはははは」
「そんな風?」
「ええ!微笑というか・・ほんわかというか・・・でも素敵です!」

ゼオラが満面の笑みで誉めると、イングラムももう一度フワリと微笑む。
そんな様子に何故かイライラとしてしまっているらしいクォヴレーは
らしくない言葉でその場の空気を凍らせてしまう。

「・・・少佐にも人の血が流れているということだな」
「お、おいおい!クォヴレー!!」

何を言ってんだ!とジェスチャーするアラドを無視し、
スタスタ歩きだしてしまうクォヴレー。

「待てよ、クォヴレー!!目的の店はこっちだぜ?」
「!!?」

行く方向が違うことを指摘され、クルリと向きを変え戻ってくる。
その表情な何故か傷ついているようで・・・・、
イングラムはハァ・・と溜息をつき注意する。

「後悔するくらいなら言わないことだ、初めからな」
「・・・すみません」

うな垂れながら謝罪するクォヴレーをそれ以上三人は責めようとはしなかった。
それまでに散々クォヴレーの体型のことを言っていたので、
そのことでむくれていて今のような発言をしたのだろう、と解釈したからだ。
しかし実際は違う。
クォヴレーはイングラムが誰かに微笑みかけたのが何故か気に入らず、
あのようなことを言ってしまったのだ。

けれどクォヴレーにはそれが何かまだ分からない。












「最初は生活必需品、パジャマだな」
「へ?」

店に入ると第一声にそう言い放つイングラムに、アラドは変な声を出してしまう。

「どうした?アラド・バランガ」
「(フルネームで呼ばないでくれ!)い、いえ・・そのぉ・・」
「なんだ?」
「どうして生活必需品がパジャマなのかな?と」
「必要だろう?いつまでも下着一枚では風邪をひく」
「あ、なるほど・・・(クォヴレーはいつも下着一枚なんだ?上司の前で??)」

なんだか納得がいかないアラドであるが、
イングラムに逆らってもいいことはないのでそのまま流すことにした。
けれどイングラムが選んだパジャマに再び変な声を上げてしまうのだった。

「しょ、少佐〜???」
「・・・なんだ?アラド・バランガ」
「そ、それをクォヴレーに着せる気ッスかぁ??」
「・・おかしいか?」

イングラムは眉を中央に寄せゼオラを見る。
どうやら彼女の意見を聞きたいようだ。

「ゼオラ、俺の選択はおかしいか?」
「え?・・・えっとぉ・・・、
 クォ、クォヴレーはその・・・
 15歳くらいだし・・もう少し普通のがいいんじゃないですか??」
「普通?・・・これだって普通だろう?」
「え!?」

ゼオラは驚いてしまう。
いつもいつも冷静冷徹なイングラムが
まさかそのデザインを『普通』と思っているとは意外も意外であったからだ。

「少佐が選んだパジャマはおかしいのか?」

それまで黙っていたクォヴレーがボソッと口を挟んできた。
イングラムが持っているパジャマが果たして普通なのかそうでないのか、
クォヴレーには判断できないので今まで黙っていたのだ。

「・・・俺は普通だと思うが?」
「い!?・・・まぁ・・似合わなくはないと思うけど・・」
「そ、そうねぇ・・・似合いそうだけど・・・」
「・・・クォヴレー、お前はどうなんだ?」
「・・・オレは・・寝やすければなんでも・・いいです」
「ではコレにするか・・・それとも・・・」

イングラムはゴソゴソと棚を探る。
そして別のパジャマを掴むと三人にそれを見せた。

「コチラがいいか?」

しかしゼオラもアラドも再び驚いてしまう。
たしかにデザインは普通のパジャマになったが・・柄は・・・

「(・・・やっぱ猫なんだ・・・はははは)」
「(少佐ってば猫好き???それともクォヴレーのイメージが猫なの??)」

そう、はじめイングラムは猫の着ぐるみのようなパジャマを取り出してきていた。
猫耳に猫の尻尾、まさしく猫の姿そのままのパジャマである。
そして次に取り出したのが、デザインこそ上下のシンプルなものであったが、
柄が可愛らしい猫のアニマル柄がプリントされているものだったのだ。
ゼオラとアラドは悩んだ。
確かに着ぐるみのようなパジャマも似合いはするだろうが、
誰かに見られた時、からかわれるのはクォヴレーだ。
そしてそれに傷つくのもクォヴレー。
しかしどうやらイングラムは『猫』を譲る気はないようなので、
それならば、と二人は無言でコクンと頷きあった。

「ク、クォヴレー!!オレはこっちがいいと思うぜ??」
「私も!!コッチのほうがトイレに行きやすいわよ???」

必死な形相で上下のデザインのパジャマを進める。
何でそんなに必死なのか分からないクォヴレーは首をかしげながらも、
小さく頷いて、シンプルなデザインのパジャマを購入することにした。



・・・・・イングラムは少しだけ残念そうな顔をしていたという。









「次は私服だ。・・・とりあえずこれは本人に選ばせよう」
「(・・だったらパジャマもクォヴレーに選ばせようぜ、とは言えねーな)」
「そうですね!クォヴレーはどんなのがいいの???」
「オレは・・・・」

少しだけウキウキしながらクォヴレーはゴゾゴソと棚を探っていく。
そしてポイポイとかごの中に希望のものを放り込んでいった。

「クォヴレーってば欲しい服が決まってたみたいね」
「だな!・・・どれどれ・・・いぃ〜!?」

一体どんな服を選んでいるのか、
とアラドが籠に放り込まれた服を一枚手に取ると思わず石化してしまった。
動かなくなったアラドを不振に思い、
それまで黙っていたイングラムも籠から一枚服を取り出した瞬間に固まってしまう。

「ちょ、ちょっと!クォヴレー!!待ちなさい!!」
「??」

ゼオラの叫びに服を選ぶ手を止め振り返る。
すると目には石化しているアラドとイングラムがいた。

「・・・ゼオラ、何故二人は固まっているんだ??」
「(貴方のせいでしょーが!!)クォヴレー」
「なんだ?」
「・・・違う服にしなさい」
「!?何故だ!???」

どうして別の服にしなければならないのか、クォヴレーには分からない。
目を瞬かせていると正気に戻ったアラドが教えてくれた。

「・・・にあわねーよ」
「似合わない??」

クォヴレーは籠の中を見てみる。
中には自分が放り込んだ服の数々・・・・。
その一枚を手にとって広げてみた。


その服は黒いTシャツで白文字で大きく『漢』と書かれていた。
そしてアラドが手に持っているものには『武士』。
イングラムが持っているものには『箸使えます』。

「・・・普通のTシャツだぞ?似合わない筈がない」
「(普通じゃねーよ!)」
「とにかくダ・メ!!こっちにしなさい!」

そんな服は着せられない!とゼオラはある服を目の前に広げて見せた。
しかし男三人の反応は冷ややかなものであった。

「(・・・あら??)」
「・・・俺は最近の若者のファッションは分からないが・・あれが流行なのか?」
「そんなわけないでしょ!イングラムさん!ゼオラ!お前ももうちっと・・・」
「・・・オレもあれはなんか・・・嫌だな」
「えぇぇぇ!?」

残念そうな声を出すゼオラ。
しかしクォヴレー自身が『嫌』と言うのであればどうしようもない。

「(似合うと思うんだけど・・・残念だわ)」

泣く泣く手に広げた聖歌隊のような服を棚に戻すゼオラ。
クォヴレーはそんな彼女に背を向けて再び棚を探り出すのだった。

「やはり服は自分で選ぶべきだと思う・・・コレなんかどうだろう?」
「どれどれ・・・・!?」

しかしアラドは再び硬直してしまう・・・なぜなら・・・


『ドエム・・・時々ドエス』と書かれていたからだ。

「・・・ほぉ?クォヴレーはドエムだったのか?」

面白いものでも見たという風に意地悪く微笑むイングラム。
一方のクォヴレーは『え?』と言う顔になり、

「!!間違った!!」

と、あわてて違う服を取り出し目の前で広げようとしたが、
その前にイングラムがあるTシャツを広げて見せた。

「お前はコレがいいんじゃないか?」


『私は女じゃないです』


「(イ、イングラムさん・・・ひでぇ〜・・・)」
「(残酷だわ、少佐!)」
「ああ、こっちのほうがいいか?」



『俺は男です』



「(うわっち!!もっとひでぇ〜・・・・)」
「(・・クォヴレーが目に涙を溜めているわ!!
 少佐こそ『ドエスです』というTシャツを着るべきね)」



もちろんイングラムは冗談でそれを提示したのだが、
クォヴレーにはまだ冗談は早かったようで本気で落ち込んでしまったという。
三人はその後慰めるのに30分は費やし、洋服選びに没頭したと言う。
結局イングラムに選ばせるとアニマル柄、
ゼオラに選ばせると聖歌隊、
クォウレーに選ばせると妙に男らしい服になってしまうので、
アラドが洋服を選んでくれたと言う。


普段、馬鹿をやっていてもそこは年頃の男の子。
最近の流行はバッチリしっていたようだ・・・・・。



ちなみにどうしても男らしい服を諦めきれなかったクォヴレーは
一枚だけTシャツを買うことを許された。


ちなみに買った服の文字は、


『男塾』


である。











買い物を終え、帰ってくると二人はグッタリとソファーにもたれる様に腰をかけた。

「・・・少佐、ありがとうございます・・・買ってくれて」
「あぁ・・・気にするな(自分のためでもあるしな)」

クォヴレーはお金を持ち合わせていないので、
今回の買い物は全てイングラムが買ってくれたようだ。
初めての自分の服にホクホクなのか、
クォヴレーははにかんだ笑顔でお礼を言う。
イングラムもクォヴレーがパジャマを着てくれることで
今夜からは多少落ち着けるだろうと、安堵の微笑を浮かべた。

「・・・けど」
「ん?」
「・・・オレは・・その・・なにもお返しが・・・」
「・・・・・」
「申し訳ないのですが・・・」

義理堅い性格をしているクォヴレーは何も返せないことに引け目を感じるらしい。
小さくなってしまっているクォウレーにクスと笑うと、
そっとその唇に唇を寄せた。

「・・・・んぅ?」

一瞬で離れるお互いの唇。

「少佐?」
「・・・お礼はこれでいい・・・」
「え?」
「・・・お礼はこの唇でいい、と言ったんだ」
「・・・くちび・・・んぅ」

腰を引き寄せられると同時にソファーに押し倒されるクォヴレー。
軽いキスが何度も角度を変えられ落とされる。
逃げようともがくが、イングラムの体重がそれを許さなかった。
次第に逃げるのを諦め、クォヴレー大人しく『お礼』を返すのだった。














「(・・・それにしても少佐はキス魔なのか???
 ハロウィンの時といい・・・キスばっかされている気が・・?)」




もちろんクォヴレー何故お礼がキスなのか、
そのキスの意味が分かる筈もない。



有り難うございました。 番外編「1」 そのうちキャリアイの番外編も予定してます〜。