出来上がった書類を届ける為、
ライが上官であるイングラムの部屋の前に来たとき、
何故か部屋の扉は少しだけ開いていた。
「・・・・?」
無用心だな、と思いつつ僅かにあいたその隙間から中を覗いてみた。
・・・・その時。
「・・・・っ」
ライの頭のもう一人の上司の顔が思い浮かぶ。
リュウセイが大きなため息をつきながらいった言葉。
『最近教官の目が怖いんだよ』
すると女上司・ヴィレッタは少しだけ困った表情で苦笑しながら、
『彼は子供なのよ』
と言ったのだ。
その時の光景が昨日のことのように思い出され、
ライは引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。
僅かな隙間から覗き見たその光景。
それは到底信じられるものではなかったのだ。
『鬼教官』と名高い、あのイングラム・プリスケンが微笑んでいるのだから。
「(・・・いや、少佐もまがりなりにも人間だ。
日常生活において面白いことがあれば笑いはするだろう)」
だがイングラムの『笑み』は面白いから笑っているソレではない。
その『笑み』はまるで・・・・。
僅かな隙間から見えるイングラムが状態を屈めていく。
そして彼の膝を枕にスヤスヤお昼寝中のクォヴレーの額にそっと口付けだのだ。
「・・・・!!(嘘だろ)」
額から唇を離すと、愛しそうに前髪をすいて頭を撫で始めた。
優しく微笑む彼の微笑は、愛しい恋人に向ける笑顔そのものだった・・・・。
クォヴレーは眠いのかコッでクリコックリしていた。
ソファー書類に目を通しているイングラムの横で、
ハッとしては重たい眼(まなこ)をゴシゴシこすって睡魔と戦い続ける。
「(・・・眠い・・昨夜も眠れなかったせいだ)」
横に居るイングラムをチラッと見上げてみる。
連戦の影響でココのところパイロットはお偉方は十分な睡眠時間を取れていないはずだ。
けれどイングラムは睡眠不足など感じさせないかのように、
始末書や他の書類に目を通しサインをしているではないか。
「(少佐は眠くないのか・・・?
オレなんて部屋から出られないから寝る時間はあったのに、
眠れなくて今になってこんなに眠いのに)」
むぅ・・・と唇を尖らせて見つめていたら、
口端を意地悪く歪めたイングラムがゆっくりとふり返ってきた。
「眠たいなら眠っていいぞ」
「・・・え?」
「・・・ここの所連戦続きだったからな。
外野が煩くて眠れなかったのだろう?静かな今のうちに眠っておけ」
しかしクォヴレーはブンブンと頭を左右に振る。
「大丈夫です。
・・・少佐も眠っていないのにオレだけ眠れない」
「・・・だが、さっきからコックリコックリしているぞ?」
「!!」
イングラムの指摘に唇を噛みしめ顔を真っ赤に染める。
「俺のことは気にするな。いいから昼寝してしまえ。
・・・・しばらく情勢も落ち着くだろうから、
また書類整理を手伝ってもらうことになる。
そうなればなかなか休めなくなるだろうから、今のうちに寝ておけ」
「しかし!」
「いいから眠れ、これは命令だ」
「!」
『命令』と言われてしまえばクォヴレーは逆らえない。
遠慮がちにコクンと頷き、そのままソファーに持たれかかって目を閉じた。
さしものイングラムもここで『昼寝』するとは思っておらず、
一瞬目を見開いてしまうのだった。
「(確かに寝て良いとは言ったが・・・)」
よほど眠かったのか、クォヴレーからは既に穏やかな寝息が聞こえてきている。
ぞしてそのままズルズル体勢は崩れていき、
イングラムの膝を枕にするように寝入った。
「!」
けれどイングラムは起して咎めようとは決してしない。
フフ、と小さく笑って自分の上着をクォヴレーにかけてやるのだった。
「・・・・ん・・・」
スリスリと頬を腿に寄せ、身をモゾモゾと捩る。
やがて小さな寝言が聞こえてきた。
「(寝言か?何を言っているんだ?)」
状態を屈め、クォヴレーの口元に耳を寄せる。
すると舌足らずな言葉が聞こえてきた。
「・・・やは・・・にお・・おち・・・すー・・すー」
聞こえてきた言葉にイングラムの頬は柔らかく緩む。
そのまま額にキスをし、柔らかな銀の前髪をすき頭を撫で始めた。
『やはりこの匂いだ・・・落ち着く・・・』
クォヴレーはそう言っていた。
無意識の言葉とはいえ、イングラムは嬉しかった。
クォヴレーが寝不足だったのは、
自分が居なかったからだ、と思えたからだ。
温もりを求めてベッドに忍び込んでくるクォヴレーにとって、
夜一人で眠ることはこの上なく切ないことらしい。
「・・・今夜からはまた一緒に寝ような?」
甘いボイスで夢の中の住人に優しく囁く。
・・・・その時の彼の顔は、恋をしている男そのものの顔であった。
有り難うございました。
番外編「2」
ライディースはみた!的な話にしてみました。
このライディースは見たシリーズはまだ続きます。
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