シリアスBL番外3
 


「ライーーーーー!!!!」

紅茶を片手に優雅に本を読んでいたら、
その人物は慌しく部屋の駆け込んできた。
バタンと行儀悪くドアを開けたかと思えば、
開口一番に、

「見ちまったーーーー!」

と叫ぶのである。
一体何を見たというのか?
眉間に皺を寄せつつもライは短く聞いた。

「・・何をだ?」
「きょ、きょきょきょきょか・・・!!!」
「許可?」
「教官が!!」

『教官』の一言でライの脳裏に先日の出来事が思い返された。
眠るクォヴレーの額にキスをしていた彼、イングラム。
リュウセイが『何』を見たのかは分からないが、
おそらく自分と同じような場面だろう。

しかしリュウセイの口から叫ばれたのはまったく違うのものであった。

「教官が昼寝してた!!」
「・・・そうか、ならお前ももうクォヴレーには余計な・・ん?昼寝?」

目をパチクリさせリュウセイを見る。
リュウセイは嬉しいのか、頬を高潮させ身体を乗り出してきた。

「あの教官が昼寝だぜ??おっどろいた〜。」
「・・・まぁ、あの人も人間だからな。たまには昼寝位するだろう」
「そうだけど、なんとクォヴレーと肩を寄り添ってだぜ?」
「!?」
「いやぁ〜。珍しい光景を見たな」

次々と出てくるリュウセイの言葉にライは驚いた。
『鈍い』とは思っていたがどうやらリュウセイは『激ニブ』のようだ。

「リュウセイ」
「ん?」
「・・・お前、なんとも思わなかったのか?」
「何が?」
「・・・・・・」
「ライ?」
「いや・・・いい」

大げさにライがため息をつくが、リュウセイはキョトンとしたまま、

「変なヤツ」

と、言うのだった。
そんなリュウセイに再び大きくため息をつくと
ライは同情の眼差しで忠告してやった。

「・・・今見てきたこと、これ以上口外はしないことだな」


















「イングラムさーん」

イングラムとクォヴレーが通路を歩いていると後ろから呼ぶ声が。
同時にふり返ると、手に黄色い物体をもったアラドが駆け寄ってきた。

「イングラムさん!お願いします!!」

傍に到着するやいなや、アラドが持っていたソレをズズイとイングラムの前に差し出す。
イングラムは一瞬でソレがなんだか分かったが、
クォヴレーは見たこともない物体に首を傾げてアラドに聞いた。

「・・・その黄色いヒトデはなんだ???」
「へ??ヒトデ???」

ヒトデとは砂浜に生息している星型のウニやナマコと同じ棘皮動物のことだよな?
と、アラドは引きつった声を出してしまった。
確かにアラドは今、黄色い星型の物体を手に持ってはいるが・・・、
流石にヒトデはないだろう。

「フッ」

するとド天然な発言に思わず笑ってしまうイングラム。
そんなイングラムにクォヴレーはムッと唇を尖らせる。
だがイングラムはヨシヨシと頭を撫でてやりながら、
黄色いヒトデのことを教え始めた。

「コレはツリーの星だ、クォヴレー」
「つりぃ??」
「クリスマスだよ、クォヴレー!」
「くりすます???」

二人を交互に見ながら首をかしげていると、更に教えてくれるイングラム。

「クリスマス・・・、もみの木の一番上にアラドが今もっている星を乗せる。
 その木をツリーという。他にも綿で雪を現したり、
 プレゼントBOXのミニチュアを垂らしたり・・・まぁ、そんな感じだ」
「そ!コレはヒトデじゃなくて星だよ、クォヴレー。
 軍のツリーは背が高いからイングラムさんじゃないと乗っけらんないんだ」
「・・・・・」

クォヴレーは隣に居るイングラムを見上げてみる。
軍のツリーの高さは知らないが、
イングラムでないと頂点にあの黄色いヒトデを乗せられないのであれば
相当大きいのだろう、とクォヴレーは小さく頷いた。
するとアラドがコレが一番肝心だとばかりに、

「あとは靴下も大事だぜ!」

眼を輝かせて教えるのだった。

「靴下???」
「サンタクロースがプレゼント入れてくれる場所だよ」
「讃多苦蝋簾?」

片言なクォヴレーにアラドはジトーとした眼で尋ねる。

「・・・お前、今どう変換した?」

クォヴレーは首をかしげ、バカ正直に答えていく。

「讃辞の讃に多いの多・・それから・・」

と、クォヴレーがモゴモゴ言っているとまたもイングラムが頭上でフッと笑うのだった。
二度目とあって流石のクォヴレーも不機嫌さを隠さず言葉で挑んだ。

「・・・なんです?」
「いや・・・?」
「そんなはずはないです!今、笑った!!(絶対馬鹿にされた)」

むくれるクォヴレーの頭を再びポンポン撫でながら、
今度はサンタの説明をし始める。

「サンタとはツリーに欲しい物を書いた短冊を飾ると、
 クリスマスの夜にそのプレゼントを・・・(ん?何かが違うな)」
「い??(それって七夕とごっちゃになってないか??)」

アラドも途中からおかしいと気がついたのか、
可笑しな声を出してしまった。
イングラムは数秒の沈黙の後、正しい知識を思い出したのか、
何事もなかったかのように再び淡々と説明を始めていく。


「すまん、間違った・・・。
 サンタとはクリスマスの夜に煙突から忍び込んできて、
 子供達限定で枕もとの靴下の中にプレゼントをくれるという慈善事業家だ」
「(ほっ・・良かった、正しく説明してくれて。)」

さしものアラドもイングラムの図太さに関心とあきれを交えた表情を浮かべていたが、
そのことを突っ込む勇気はないようだ。

「(それにしても慈善事業家?さすがイングラムさん!言うことに切れがある)」
「ふ〜ん??その讃多は暇人なんだな」
「(今、絶対『讃多』って変換したな、コイツ)」
「だがこの艦には煙突はないですが?」
「その場合は窓から不法侵入してくるツワモノだ」
「!!不法侵入???犯罪者なのですか?讃多は??」
「この時ばかりは罪に問われない」
「ふーん・・けれど艦の窓は開かないのでは??どうするのですか??」
「・・・その時は最終手段、ドアから堂々と、だ」
「そうなんですか!・・・確かにツワモノだ」
「(なんだか話が変な方向にいってる気が???イングラムさんも案外天然だな〜)」

と思いつつもやはり突っ込めないアラド。
乾いた笑顔を浮かべながら、
その後数分間二人の天然な会話を聞いていたという。



















執務室へ帰ってくるとクォヴレーの頬はまだ高潮していた。
初めてツリーを見たクォヴレーは、
その大きさにも驚いたが、一番驚いたのは綺麗なイルミネーションだった。
部屋の明かりを落として見たツリーはとても幻想的で
クォヴレーの心を一瞬で捉えてしまったようだ。

「少佐」
「ん?」

話しかけるとイングラムは少し気だるげにクォヴレーを見下ろす。
背の高い彼はツリーを組み立てる時に、
その『少佐』という地位を忘れられ馬車馬のようにこき使われたたため、
どうやら少しだけ疲れているようだ。

「クリスマスはいつなのですか?」
「12月24・25日だ」
「・・・24と25・・・」
「クォヴレーも靴下を用意するといい・・・きっともらえる」
「靴下・・・・」

クォヴレーは少しだけ考えてしまう。
クリスマスの知識のない自分は果たしてもらえるだろうか?と思っているようだ。
けれど先ほどのアラドやゼオラの話ではどうやら『クリスマス』は楽しいものらしいと、
印象受けたクォヴレーは是非とも体験してみたかった。
ならばもっと知識を身につけなければ・・・・。
クォヴレーはジッとイングラムを見上げ・・・、

「少佐、オレにクリスマスについてもっと教えてください」

とお願いしてみるのだった。



















ライはヴィレッタに頼まれた書類を片手にイングラムの部屋の前に来ていた。
ノックをしようとしたところ、またもや僅かに開いているドア。
訝しげな表情を浮かべながらも気持ちを切り替えノックをしようとしたその時、

「少佐、オレにクリスマスについてもっと教えてください」

というクォヴレーの声が聞こえてきたのだった。
いや、ライにとってそこまではいいのだ。
知らないことを学ぶのはいいことだ。
けれどイングラムの次の言葉と行動に硬直してしまう。

「ああ、もちろんかまわない。だが授業料は頂くぞ?」
「授業料・・・?」
「(授業料???)」
「そうだ・・・お前の・・・・」
「!!しょ・・・」

クォヴレーの言葉が途中で遮られる。
その代わりというように中から「ちゅ」という音が聞こえてくるのだった。
見るまでもない、ライにはその音がなんだかわかっている。
しかも今回は頬や額ではなく『唇』のような感じの音であった。
その証拠にクォヴレーの声はくぐもっているのだから。

「・・・んっ・・しょう・・・」

ドサッという音が聞こえてくる。
どうやらイングラムが押し倒したようだ。
濡れた音はより淫らにドアの向こうから伝わってくる。

「(・・こ、これ以上居てはダメだ!!立ち去ろう!)」

ライはいても立ってもいられずそのままその場を立ち去っていく。
そして心の中で自分自身に悪態をついた。

「(どうして俺はあんな場面にばかりでくわす???)」

らしくなく顔を真っ赤にし戻ってきたライは、
ヴィレッタには居ませんでした、と言い訳するしかなかったという。
何かを察したヴィレッタは苦笑を浮かべるだけでライを咎めようとはしなかった・・・・。













「んっ・・・ん・・しょ・・・」

濃厚にキスをされ息が苦しくなっていく。
苦し紛れに頭を振ればイングラムの大きな手に固定されてしまう。
イングラムが口を少し離した隙に顔を背ければ、
今度は角度を変えたキスが落ちてくるのだ。

クォヴレーの眦に涙が浮かんでいく。
やがてその涙が頬を伝う頃、
やっと満足がいったのか唇を離すイングラムであった。

「ふむ?授業料の前金はこんなものか・・。では授業を開始する」
「(前金??)」

クォヴレーは涙を拭いながらイングラムの言葉に唖然とする。
今のキスだって苦しかったのに、授業を終えた後のキスはどんなものなのだろうか?
そしてクォヴレーは思うのだった。


「(やはり少佐はキス魔なんだな・・・授業料とかお礼系は絶対にキスだ)」

と、とんでもない方向へ勘違いしていく。
哀れイングラムはクォヴレーに『キス魔』というイメージを抱かれたまま、
しばらくの時間(とき)を過ごすこととなったのだった。


有り難うございました。 番外編「3」 ライディースはみた!です。 クリスマスの話は4にも続きます。