シリアスBL番外4
 


「クォヴレーはサンタさんに何をお願いしたの?」

場所は多目的ルームの一つ。
クリスマスパーティーも半ばを向かえ、
ゼオラは正面に座っているクォヴレーに笑顔で尋ねた。

「そういうゼオラは?」

ここ最近、クォヴレーはよく笑顔を見せてくれる。
会話も『ああ』とか『いや』ばかりで続かなかったのに、
続くようにもなってきていて、
心の中でうんうん、と頷きながらゼオラは先に答えるのだった。

「私はお料理の本よ」
「料理?」
「ええ、私ね、趣味といえるものが料理くらいだから
 もっとレパートリーを増やしたいの」
「ゼオラの趣味は料理なのか?」
「そうよ、今度クォヴレーにも食べさせてあげるね!」

ニッコリ微笑むゼオラに小さく頷き微笑み返すクォヴレー。
しかしゼオラの横に座ってがむしゃらにご馳走を食べていたアラドは、
ピタッと食すのを止め青い顔でブンブン頭を左右に振ってジェスチャーする。


『悪いことは言わないからやめておけ』


そういう合図だったのだが、
ゼオラの料理の腕前を知らないクォヴレーはただ首を傾げるばかりであった。
そんなアラドの様子に気が付かないのか、ゼオラは最初の質問に戻し、もう一度尋ねる。

「それで?クォヴレーは何をお願いしたの??」
「オレは・・・その・・・・」

クォヴレーは自分の横に座ってすました顔でコーヒーを飲んでいるイングラムを見た。
そしてゼオラのほうへ身体を乗り出して教えるのだった。
・・・・そう、イングラムに聞こえないように。

「・・・DVDだ」
「・・・DVD?」
「・・・マ○ジンガーの・・」
「マジ○ガー???あら??でもリュウセイ少尉と全部見たんでしょう?」

首を傾げるゼオラにクォヴレーはソレを否定するように頭を左右に振る。

「・・・古いのは・・見た。リメイク版はまだなんだ。
 少尉もまだ買ってないらしくて・・・一緒に・・・今度はオレから」

その時ようやくゼオラは理解した。
なぜ、クォヴレーがひそひそ話に切り替えたのかを。
アラドと違い『するどい』ゼオラはなんとなく気付いていた。
イングラムがクォヴレーにある感情を抱いていることを。
それ故にリュウセイとクォヴレーが仲よくすると不機嫌になってしまうのだから。

「(最もクォヴレーはどうしてだか分かってないみたいだけど・・・、
 一応気は使っているのね〜・・・・)」
「あら?二人で内緒話?」
「ヴィレッタ大尉!」

小皿二枚を片手にイングラムの横に腰を下ろすヴィレッタ。
その小皿を片方をアラドの前に、片方をイングラムの前へと置いた。

「アラド、ゼオラと分けるのよ?プチケーキ」
「はぁ〜い!わかってます!」
「クォヴレーはイングラムとね?」

ニコッと微笑みかけると、小さく頷くクォヴレー。

「大尉は食べないのですか?」
「私?私はいっぱい味見をさせられたから・・・・」
「そうなんですか・・・(美味しそうだ)」

何処かうわの空で返事をするクォヴレー。
その目線の先はプチケーキが乗っているお皿に移行している。
どうやら頭の中は既にケーキでいっぱいらしい。
小さなショートケーキや、チョコケーキ、
クリスマスらしくブッシュドノエルなどが沢山乗っていた。
そんな目線に気付いたのか、イングラムは薄く笑うと食べるかどうかを聞いた。
クォヴレーはその質問に小さく頷きフォークを手に取ろうとしたが、
イングラムが先にフォークを手にしてしまう。
先に食べたいのを食べるのだろうか?とその場にいた誰もがそう思ったが・・・・、

「クリスマスだし、ブッシュ・ド・ノエルから食べるべきかな?ほら」

なんとイングラムはプチケーキにフォークをさすと
そのままクォヴレーの口元へもってきたのだった。

「(えぇぇぇぇ!!!????)」

驚きを隠せないゼオラは思わずヴィレッタへ視線を送るが、
彼女は軽く肩をすくめるだけで別に気にしていない感じだ。
仕方なくアラドを見れば、食事に夢中で気が付いていない。
更に自分の横に大人しく座っていたライを見れば
なにやら難しい顔をしているが驚いた様子はない。
更にその横にいるリュウセイはマイとアヤとのおしゃべりに夢中で気付いていないようだ。
あれこれ悩みながら再びイングラムへ視線を戻した時、
ゼオラはもっと信じられない場面を目にしてしまう。

「・・・美味いか?」

優しく微笑むイングラム。
まさに女性を虜にする極上の笑みだ。
しかしその先にいるのは・・・美しくも儚げな銀髪の少年。
クォヴレーは口の周りにチョコクリームをつけながら美味しそうに何かを食べていた。
イングラムのもっているフォークを見れば何も刺さっていないので、
おそらくクォヴレーが食べているのはケーキだろう。

「クォヴレー、口の周りにクリームがついているぞ?」

美味しそうに頬張っているクォヴレーの口に細長い指を持っていくと、
そのくリームを指で拭い、ペロリと舐めてしまった。
クォヴレーのほうも別段イングラムのその行動を気にすることもせず、
今度は違うケーキを指差し催促をするのだった。
ゼオラはもう開いた口がふさがらず、開いた目を閉じることが出来なかった。


・・・結局クォヴレーは6つあったプチケーキを全てイングラムに食べさせてもらったのだから。




「(なんだかご馳走様、って感じ?・・・見てるこっちが恥ずかしいわ!)」



























クリスマスパーティーが終わり一息つこうと『お茶』の準備を始めた時、
同室であるリュウセイが倒れ込むように戻ってきた。

「ライ〜・・・俺、もうだめ・・・」
「リュウセイ?」

ドサッと床に倒れ込むリュウセイがライに手渡したのは一つの包みだった。
リュウセイはパーティーの途中から席を外していたので、
どうやらソレを買いに行っていたらしい。

「悪い・・・ソレ探し回ってもう一歩も動けねー。
 ・・・・悪いんだけどさ、イングラム教官に届けてきてくんない?」
「・・・!イ、・・・ングラム・・少佐に・・??」

なぜイングラム???と質問する前に、床に倒れ込んでいるリュウセイが説明してくれた。
パーティーの途中でリュウセイはイングラムに話しかけられたらしい。
どうやらあるものを買ってきて欲しいのだが、
自分は行けない(抜け出せない)ので代わりに行ってきて欲しいとのことだったのだ。
けれどクリスマスシーズンで頼まれたものはほぼ売り切れで、
しかたなく秋○原まで行って購入してきたらしい。

・・・・ちなみに今いる場所はアメリカである。


「ジェット機で行ってきたのか??」
「おうよ〜・・・、ついでにお袋にも会ってきた〜・・本当はまずいんだろうけど」
「ま、まぁいいんじゃないか???(というか俺が許すぞ、リュウセイ!)」
「そうかな?・・・とにかく疲れた〜・・・おやすみ・・・ぐーぐー・・」
「お、おい!せめてベッドで・・・ふぅ・・・仕方ない毛布でもかけてやるか・・。
 それにしても少佐は何を頼んだんだ???
 俺には関係ないが早いとこ済ませてくるか・・・はぁ・・・・」


とりあえず床に寝込んでしまったリュウセイに毛布をかけ、
受け取った包みを手にイングラムの部屋へと急いだ。


・・・だがライは忘れていた。
いつもいつも自分はタイミングが悪いということを・・・・。
















イングラム(とクォヴレー)の部屋の前に着くとやはり扉が数センチ・・・
ではなく今回はほぼ半開きで開いていた。

「(!!??嫌な予感がするな・・・)」

ノックをする前に中の様子を伺う。
悲しいかな・・最早この行動はライの日課のようになってしまったようだ。

「!!??」

そしてライは見てしまった光景に息を詰める。
部屋の大きなソファーの上でイングラムの膝の上、
クォヴレーは彼の首にしがみつく様に眠りに落ちているようだった。
そっとイングラムが首筋に唇を寄せると、
クォヴレーは目が冷めたのか瞳を擦りながらイングラムを見上げる。

「・・・オレ・・?」
「どうやらシャンパンに酔ったようだな。
 部屋に着くなり眠ってしまったぞ?」
「・・・え?」
「あまりに気持ちよさげだから起こすのが阻まれてな。
 このままでは風邪をひくし俺の体温で我慢してもらった」

クォヴレーの顔がピンク色に染まる。
まだシャンパンに酔っているのか、イングラムに抱っこされているのが恥ずかしいのか、
目をそむけてお礼を言うクォヴレーにイングラムはそっとその顎をとらえ正面を向かせる。

「人にお礼を言う時はまっすぐ見つめて・・・態度でも示さなければ」
「・・・ぅ・・・その・・ありがとう・・ございます・・・少佐」
「・・・少佐?」
「うぅ・・・その・・・イングラム・・・ありがとう・・・」
「フフ・・・寝起きの子は素直だな・・・」
「・・イン・・・んっ、・・・・」

その時、ライの嫌な予感は的中したのだった。
クォヴレーの顎を捉えたイングラムはそのままその小さな唇を塞いだのだから。
何度か軽く唇を吸い上げると、クォヴレーは不思議そうにイングラムを見上げる。

「なぜ・・・・」
「ん?」
「なぜ、いつもキスをするのです?
 ・・・・お礼を頂く、とか・・・最近は朝起きた時も・・・してくるでしょう?」

イングラムの肩に手を置き、青い瞳を覗き込むように問う。
けれどイングラムは青い瞳を細めるだけで質問には答えてくれない。

「・・・お前はどうしてだと思うんだ?」

答えぬ代わりに質問を質問で返してくるイングラム。

「わからない・・・・」
「・・・ではお前はどういう相手にキスをしたい?」
「・・・どういう相手に?」

再びイングラムの唇が重なる。
ただ触れるだけの優しいキス。

「・・・どういう相手だ?クォヴレー」
「・・・相手・・・キスの相手は・・・普通・・好きな人?」
「あぁ・・・きちんと知っているんだな?
 では俺が何故お前にキスをするのか分かっただろ?」

キスは好きな相手と・・・。
クォヴレーもそのことは知っている。
けれどなぜイングラムがキスをしてくるのかは分からない。

「わからない・・・」

素直な答えにイングラムはおやおやと肩をすくませる。
どうやら自分のことには疎いタイプらしい。

「わからない悪い子には俺の身体で直接指導だな」
「・・から、だ・・・あ、・・・んんぅ・・・」

もう一度イングラムの唇が重なった。
今度は軽く済ませる気はないらしく、舌先でクォヴレーの唇をチロチロ擽った。

「あ・・・・ん・・・・」

口を開け、という合図にクォヴレーは薄く口を開く。
勿論そんな合図とはクォヴレーは知らないが、体が無意識に反応するのだ。
遠慮なく進入してきた熱い舌は最初はただ歯列を舐めるだけだった。
次第に歯茎を舐め始め、クォヴレーの舌裏を擽り始める。

「んんっ・・・ん・・・」

透明な液体が口端から零れていく。
クォヴレーの両頬を大きな手で支え、イングラムは上あごをゆっくり舐めた。
そして最後に快楽でヒクヒクしてしまっている小さな舌を自分の舌と絡め合わせたのだった。

「んふ・・・ん、・・・ふ・・・・・は・・だめっ!」

イングラムの唇が離れる。
透明な糸が二人の間にひくなか、クォヴレーは涙目でイングラムが去るのを拒む。

「だめ?なぜだ?」
「気持ち・・いいから・・・もっと・・その・・・」
「もっと・・・?」
「もっと・・・だから・・・」
「・・・キスして欲しい?」

コクコク頷くクォヴレー。

「どうしてもっとしてほしい?」
「・・・それは・・・好き・・?だから・・・」
「好き?・・・なにがだ?」
「イングラム・・少佐の・・・キス・・?あれ??少佐のキスが好き・・???」

混乱しているクォヴレーにクスッと笑うイングラム。
どうやらまだまだ自分はキスより格下らしい。

「俺のキスが好きなのか・・・、まぁ、それでもいいか・・今はな」
「今は・・?」
「そう、今は・・・。さぁ、キスをしてやろう・・口を開いて」
「・・・ん・・・んっ・・ふぅ・・・」

今度はクォヴレーの後頭を支え、更に濃厚なキスを与えていく。
クォヴレーの体からは次第に力が抜けていき、細かく震え始めていた。

「・・・っ、・・横になるか?」
「あっ・・・やだ・・もっと・・・!」
「分かっている・・だが横になったほうがらくだろう?」
「んっ・・・」

腰を支え、頭を支えゆっくりソファーに押し倒す。
クォヴレーもイングラムの首に腕を回し、本能のままキスに応えていく。
クォヴレーが悪戯するように歯茎の裏を舐めてくれれば、
イングラムの腰には痺れるような快感が走った。

「んぅ・・・ふぁ・・・、あ・・もっと・・」
「もっとか・・欲張りだな・・・どこをどうして欲しいんだ?」
「・・・上のほう・・」
「上?」
「上のほう・・擦って欲しい・・ソレ、気持ち良い」
「擦って、か・・・フフ・・・・」

イングラムは小さく腰を揺らし、己の下半身をクォヴレーに密着させた。

「そういう台詞は・・・コレを使う時言う台詞だな・・・」
「コレ・・って・・?」

シャンパンに酔っているせいか、はたまた素面でも分からなかっただろうか?
クォヴレーにはイングラムの言葉が時折理解できない。

「わからないのか・・・?ますます苛めて泣かせたくなるな・・・」
「あっ・・・いやだ!!・・・苛められるのは。
 それより・・・少佐・・はやく・・・擦ってほしい」
「早く、な・・・フフフ・・・可愛いことばかり言っていると・・・コレで擦ってしまうぞ?」
「・・・コレ・・って?」
「さて、な・・・」

本当に可愛い、と、ギュウと抱きしめると再び望むままキスを与え続ける。

「んっ・・はぁ・・・少佐」

濡れて充血した唇をイングラムの唇に寄せながらクォヴレーは変な顔をした。

「どうした・・?まだキスしたいか?」
「したいけど、でも・・・なんか・・・硬いのが当たっている・・・コレなんだろう?」

本当に分からないのか難しい顔のクォヴレーに、
イングラムは噴出したいのを堪えるためもう一度キスで口を塞いだ。

「んーーーー!!」
「・・・ふ、ぅ・・・この硬いの・・わからないか?」
「・・・からにゃい・・・」
「・・あぁ・・もう舌が痺れすぎたのか?呂律がまわっていないぞ?」

クォヴレーは首を縦に振って頷く。
そして目でこの硬いものの正体を教えて、と訴える。

「これはな・・俺がお前を・・・・抱きたいからだ。反応しているんだ」
「・・・抱きたい??だがもう、抱いていると思う・・」

クォヴレーは身を捩り自分がイングラムの腕の中にいることをアピールする。
そういう意味じゃない、と苦笑しながらも動けないように腕の力を強めた。

「・・・んっ・・・」
「・・・良い気持ちか?」
「・・・うん」

誰かに抱きしめてもらうのは心地のよいこと、と
最近クォヴレーは思いだしはじめていた。
特にイングラムに抱きしめてもらう時はスッポリ身体が収まってしまうので、
特に気持ちが良い、と思っている。
強く抱きしめられ、その香りに包まれてしまうと安心できるのだ。
安心して・・・目蓋が重くなっていく・・・。

「本当の意味で俺に抱かれたならもっと気持ちいい・・・って、もう夢の中か」
「・・・・ん〜・・・むにゃ・・・」
「お休み・・・」

ソファーの下からブランケットを取り出すと、それを自分達にかける。
リモコンで部屋の明かりを消し、イングラムもまた眠りに落ちたのだった。














一方のライは二人が眠ったのを見計らい部屋の扉を閉めた。
だが表情は極めて極悪で、妙な汗をかいているようだ。

「(なんだあれは???熱々じゃないか???というかバカップルか???)」

大またで自分の部屋に戻るさなかも
ライの脳裏にはあの二人の熱々ぶりが焼きついて離れてくれない。

「(それよりなにより、あの男がまだクォヴレーと寝ていないという事実が驚きだ!)」

ライはイングラムが手の早い男だということを知っている。
当然クォヴレーとはそういう関係なのだと思っていた。
しかし先ほどの会話から推理するとどうやらまだ最後まではイタシテいないらしい。
そしてその理由はクォヴレーが疎いというのもあるだろうが・・・・。

「(うかつに手を出して嫌われたくはない相手・・・つまり本気か??
 ・・・可哀相にクォヴレー・・厄介な男に惚れられたものだな。
 ・・・・あ、これ渡しそびれた・・・結局コレはなんなんだ??
 ・・・ん?・・・・・!!!!!!!?????????)」

何処かにぶつけたのか、包装紙は少しだけ破れ中身が見れる常態であった。
そしてその包みの中身を見たとき、ライは何気なく聞いていた二人の会話を思い出した。
いや、実際にライに聞こえていたのだからあの男に聞こえていてもおかしくはないのだが。







『それで?クォヴレーは何をお願いしたの??』
『・・・DVDだ』








「(澄ました顔でちゃっかり聞いていたということか・・・。
 しかもそれをリュウセイに買いに行かせるとは・・・・、
 怖い男だ・・イングラム・プリスケン)」











次の日ライは朝早くイングラムの部屋へ尋ねた。
どうやらあれからべッド度へ移動したらしくイングラムはまだパジャマ姿であった。
例の包みを渡すと黒く微笑むイングラム。
ライはそれ以上その場にいるのがいたたまれなくなって急いでその場を後にしたとか。






その日の昼、クォヴレーがサンタからプレゼントを貰った、
と言っていたので、どうやらイングラムは間に合ったようだ。




有り難うございました。 番外編「4」 またまたライディースはみた!です。 この作品で一番可哀相なのはライです!! はてさて、クォヴレー君はいつイングラムに喰われるのか??? 悩んでいるのが、レイ○的か合意の上でか、です。 それにより話も変わるしね〜。 ・・・・決めかねる。  どうしましょーねー??????