シリアスBL番外6
 

バシャンと水飛沫が飛んだ。

「っ・・・や、だぁ・・・・」

叫ぶ声は力はないがどこか色めいている。
胸の辺りで両手をイングラムの手で縛められ、
片足はバスタブに預け、
風呂の中にある足は閉じないようにイングラムの足で固定されており、
足を左右に大きく開かされている。
そしてクォヴレーの手を縛めていない手で、
イングラムは最も弱い部分である体の中心を執拗に弄っていた。


「あっ・・・あっあっ!!」

容赦なく上下に扱かれ無意識に揺れるクォヴレーの腰。
その動きに合わせ大きな波を作り揺れる風呂の水。

「・・・気持ちいいか・・・?クォヴレー?」
「ひぁっ・・あっ・・ふぅ・・・んっ」

棹に触れていたイングラムの手がが鈴口を刺激し更なる快楽をクォヴレーに与えていく。

「いいのか・・・?ん?・・どうなんだ?」

耳に直接響くセクシーなイングラムの低音。

「よくないのか・・・・?」

ギュッと強く握られ、痛みと快感で身を大きく捩るクォヴレー。
クォヴレーが身じろぎするたびに刺激され興奮していくイングラムの性器。
過ぎる気持ちよさに喘ぐことしか出来なくなっているクォヴレーを更に追い詰める為、
イングラムは低い声で耳元に囁いた。

「何もいわないということはよくないんだな・・・?
 ならばもうちょっと刺激的に扱いてやろうか?」
「!!??・・・・やっ・・・これ・・・いじょ・・・は、あ、ぁっ・・ぁぁ、ん!」








彼らは今はじめて一緒に風呂に入っていた。
もちろん、一緒に入るに至るまでは様々な経路があり、
始めはこんなエッチなことはしていなかった。
ではなぜこんな雰囲気になってしまったのか・・・・・・。


それは・・・・・・。





















それは一瞬の出来事であった。
力を入れすぎたのか、
グッと押さえた瞬間にカチンという高い音と共にガラスの割れる音が盛大に響いたのである。
当然手はその出来事に驚き、ナイフとフォークを放してしまっているが、
形は握っている形をしている。



一瞬のことに我を忘れていたがハッと現実に戻ってきたクォヴレーは
この世の終わりのように青い顔で慌てて椅子から立ち上がり割れた食器を拾おうとした。
イングラムもよもや食器が力の入れすぎで吹っ飛び割れるとは思っていなかったので、
唖然としていたのだが、食器を拾おうとしているクォヴレーを目にし慌てて止めに入る。

「危ないぞ!」
「・・・平気です。早くしないと絨毯にシミが・・・うっ」

クォヴレーの呻きと同時にパタタタッと何滴もの赤いシミができていく。
普段は冷静なクォヴレーも心底慌てているのか、
拾おうとした陶器の破片で指を切ってしまったようだ。
イングラムはクォヴレーの傍に駆け寄ると
細い手首を掴むと・・・、

「少佐!!」

なんと切れた指を躊躇うことなく自分の口内に含むんだ。
まさかそんな『手当て』をされるとは夢にも思っていなかったので
口から指を抜こうとするが、イングラムの手首を掴む力は強く出来ない。
舌先を使った愛撫のような『手当て』はクォヴレーの身体に妙な灯火を宿していく。
身体の妙な部分が疼き、力が入らなくなり、。
耐え切れなくなってだんだん声が小さくなっていくクォヴレー。

「やめて・・・くださ・・・少佐・・・」

消え入りそうな声に、イングラムは視線でクォヴレーを捕らえ見つめる。
かち合った視線。
逸らしたいのに逸らせない・・・強い眼差し。

「(・・・あの目は苦手だ)」

抵抗が弱弱しいものになっていく。
クォヴレーは苦手だった。
あの青い目で真っ直ぐに覗き込まれると動けなくなってしまう。
息をするのも苦しくて立っていられないのだ。
指を咥えられながら切なげに目を閉じていくクォヴレー。
クォヴレーが諦めたことを悟ると、イングラムは『治療』を再開した。









二人しかいない部屋に響いていた濡れた音がやんだ。
そっと口から指を引き抜くと少しだけ赤い色の混じった透明な液体が線を引く。
するとクォヴレーの身体からは力がどっと抜け落ちヘナヘナと床に座り込む・・・が。

「クォヴレー!」
「・・・?うわっ!!」

そう、クォヴレーは忘れていたが『治療』は終えたが、
床はまだ片付けていなかったのだ。
つまり床にはまだダメにしてしまった料理が落ちているわけで・・・・。
クォヴレーは間抜けにもダメにしてしまった料理の上に座り込んでしまったのだ。
白い制服にあっという間にシミが出来ていく。

「・・・その服はもうダメだな」
「・・・・・・・オレは・・・バカです」

シュン・・・と小動物のように小さくなっているクォヴレー。
短時間で2回も失敗していれば当然なのだろうが、
イングラムはいたって気にしている様子もなく冷静に言うのだった。

「とにかく風呂に入って来い。ここは俺が片付けておく」
「しかし!」
「いいから風呂に入って来い、命令だ。」
「けれど・・・!」

クォヴレーの表情が動揺に揺れている。
感情を隠すのも忘れ、本当にどうしたらいいのか分からないようだ。
自分の失敗を上司に尻拭いさせるのは嫌なのだろう。

「気が動転しているお前がこの場を片付けるより、冷静な俺が片付けるのが効率的だ。」
「・・・・・・」

正しい指摘に唇を噛みしめるクォヴレー。
唇はあっという間に真っ赤に染まった。


負けず嫌いというか、頑固というか・・・・。
どうしてもイングラムに『借り』を作るのは嫌らしい。
イングラムは数秒思案した後、
ヤレヤレと気づかれないよう小さなため息をついてあることを提案した。



「・・・気が引けるというのであれば心配は要らない」
「・・・・・?」

どういう意味だろう?と不安げにイングラムを見上げた。
するとイングラムはニッとした笑いをむけて提案を提示する。

「礼はきちんともらうから安心しろ。」
「礼?」
「礼、だ。この場を片付ける礼と治療の礼」
「・・・だからゆっくり温まって来い。風呂は好きだろ?」
「了解です少佐。・・・・・けど・・・・キスは嫌です」
「ん?」

イングラムの提示にいくらか安心したのか、
クォヴレーは身体から少し力を抜いて潤んだ目で訴える。

「貴方のお礼はいつもキスだから・・・それは嫌です。
 (気持ちよくてわけが分からなくなるんだ)」

最初は何をいているのか分からず目を真ん丸くしていたイングラムだが、
思わず噴出してしまう。
『礼』について具体的に考えていなかっただけになお更だろう。

「フフフフフフ・・・わかった!今回はキスはしない」
「本当か!?」

安心したようにホッと顔をほころばせるクォヴレーに微笑のイングラム。
感情のままに敬語でなくなったことなんだか嬉しかった。

「ああ、約束だ。キスはしない(キスは、な)」
「約束だぞ・・・ではなく・・ですよ??」
「わかった。わかったから早く風呂に入って来い」
「了解だ・・・いや・・です!」

ビシッと敬礼しそそくさとバスルームに入るクォヴレーの背中を見ながら、
イングラムは一瞬で微笑を黒い微笑みに変化させた。
悪魔の微笑をクォヴレーが見ることは少ないが、
おそらく見ていたら瞬く間に彼から離れていくことだろう。
床に腰を下ろし、とりあえずガラスの破片を拾い始めるイングラム。

「(キスはするな、か・・・フフ・・・かまわないぞ、俺はな。
 キスなぞしなくともお前の乱れる姿を見る方法はいくらでもある。
 とりあえず今回のお礼は・・・・・)」

一体何を考えているのか・・・・?
黒く微笑む彼の思考は彼にしかわからない。
けれどクォヴレーはすでに蜘蛛の巣にかかろうとしている蝶になろうとしているのだ。





























脱衣所の扉を開けるとバスルーム独特の香りが漂っていた。
身体を洗っているのか、黒いシルエットが揺らめいては消え消えては揺らめいている。
フッと口元に笑みを浮かべ、中の人物に気取られないよう衣服を脱いでいく。


・・・バスルームの中の人物、クォヴレーはまだ己の危機(?)に気が付いていなかった。


























髪の毛を洗い終え、猫や犬のように頭をプルプルさせていた時、
突如その扉は開いた。

「!?」

驚きのあまり今しがた自分が流した泡に足をとらわれ滑りそうになるが、
現れた人物に腕を掴まれ転ぶことはなかった・・が、
クォヴレーは口をパクパクさせて入ってきた人物・イングラムを見あげた。

「・・あ(あの?)・・・な(なんで)・・・ど(どうして)・・・・」

驚きのあまり言葉が出てこない。
けれどイングラムは余裕の表情でにこやかに微笑を浮かべると、
雫が落ちているクォヴレーの前髪をそっと横になびかせた。
そして余裕めいた声で慌てているクォヴレーに声をかける。

「どうして?と言いたいのか?」

コクコク頷きながら、とりあえず掴まれた腕を外そうとするが、
なぜかイングラムは楽しげな微笑を浮かべるだけで力を緩めてはくれない。


「礼をもらうと言っただろ・・・?」
「・・・礼・・?なんでもいいですが・・は、放してくれ・・!!」
「駄目だ」
「何故です!?」
「放せば恥ずかしがり屋のお前は逃げてしまうだろ?
 俺は礼をもらいたいんだ」
「だからそれと今この場に貴方がいるのと何の関係が・・・あっ」

話をするよりも行動で示したほうが早い。
瞬時に頭を回転させてクォヴレーの腰を抱き上げると、
そのまま戦艦にしてはいささか広めの湯船に二人は浸かっていたのだった。

「!!???少佐???」
「お礼はこれでいい、クォヴレー」
「・・・これ???」
「俺と風呂に入ることだ」
「え?」

広めに造られているとはいえやはり二人で入るには手狭な風呂。
クォヴレーはイングラムの膝の上に乗る形で浸かっていたので、
クルリと背後を振り返ってそんなことでいいのか?と首をかしげた。
目を瞬かせているクォヴレーに穏やかな微笑を浮かべ濡れている髪に唇を寄せる。

「!!?キスはなしと・・・!!」
「・・・キスはな。だが俺は今お前の髪の毛の香りを楽しんだだけだ」
「なっ・・・そんな屁理屈!!」
「フフフフ・・・」
「少佐!!あっ!!」

尚も講義しようとしたがその時クォヴレーの身体に甘い痺れが走り
それ以上は抗議ができなくされてしまった。

「んんっ・・・ぁっ・・・」

イングラムの指が胸にある二つのシコリを妖しく捏ね始めていた。

「ふっ・・・あぁっ・・・」

頭を左右に振りクォヴレーは目を潤ませてイングラムを見つめ、
左右に振っていた頭を今度は縦に振る。

「・・・・少佐は・・オレの髪の香りを・・楽しんだだけだ・・!」

納得がいかないがこれ以上されてはおかしくなってしまうので、
仕方なく妥協を許してしまうクォヴレーに、
イングラムはニッと笑って胸への悪戯をやめた。

「・・・フフ・・いい子だな」
「うぅ・・・(ずるい!!)」

胸の刺激がなくなったことで身体の力を抜きホッと息をつくと、
今度は湯船の中で足と足が絡まり始める。

「ひっ」
「ああ・・すまない・・やはり狭いから足がきつくてな。我慢して欲しい」
「うぅ・・・・(なら一緒に入らなければいいだろ!!)」

足を足でがっちりホールドされ、
腰にも腕がしっかりと巻きついているのでクォヴレーは少しも動けない。
少しでも身じろぎすればより強い力で押さえ込まれるからだ。
同じ男なのに力で全くかなわないことになんだか虚しさを感じたクォヴレーは、
ムッと口をへの字に曲げて水の中へ視線を漂わせていた。
そしてそれは本当に一瞬のことだった。
だが記憶喪失なクォヴレーにはそれが不思議でならなかった。
への字に曲げていた口を小さくあけ、ん?と首をかしげていると、
それに気が付いたらしいイングラムが耳越しに問いかけてきた。

「どうした?なにか気になることでも??」

コクン、と頷くと上半身だけをイングラムへむけジー・・と見つめる。

「・・・やはり・・・そういうことなのか」
「何がだ?」

すると今度は少しだけ腰を浮かせある場所をジー・・と見つめるクォヴレー。
そして、

「やはりそうだ」

と呟いた。

「?????」

けれどもイングラムには「何」が「そう」なのかわからない。

そしてしばらくの後、何かを見つめていた視線をイングラムに戻し、
クォヴレーは目を輝かせて自分が見つけた「発見」を言うのであった。

「オレが少佐より小さくて力がないのはまだ青くなってないからですね?」
「・・・・青く???(何がだ??)」
「拝見したところ、少佐はわきも下ばえも青でした」
「????・・・・そうだな(髪が青いからな)」
「でもオレは・・・下は銀だし・・・わきに至ってはまだ・・その・・」
「・・・生えていないな」
「うっ」

気にしていることをズバッといわれてはやはり傷つくのか、
一瞬眉をしかませるクォヴレーであったが、直ぐに目を輝かせてイングラムに言うのだった。

「大丈夫です!きっともう直ぐ生えてくる!」
「・・・ほぉ?すぐに???・・・で、その自信はどこから?」
「きっともう直ぐオレも下が青くなる!するとわきが生えてきて、
 身長も伸びるのでしょう????」
「・・・・・・!」


一体何をどういう風に勘違いしているのか?
どうやら明後日の方向に勘違いしていることだけは確かだろう。
そしてこの勘違いがクォヴレーにとって試練の始まりとなるのであった。



続きます。