シリアス小話
 

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

食堂で趣味の料理をしていたら背後から只ならぬ視線を感じ、
クルリと振り返るレーツェル。
するとそこにはジー・・・と、
自分を睨む・・・ではなく見つめる一人の少年が立っていた。
とりあえずニコッと愛想笑いを浮かべてみたのだが、
少年は瞬きもせずただただ見つめてくる。

「(わ、私は彼に何かしただろうか??)」

考えても答えは見つからない。
二人は見詰め合ったまま5分ほどの時を過ごしていたが、
そんなレーツェルに恵みの雨とも言える人間が尋ねてくる。

「・・・・兄さん」
「!ライディース!」

まさに砂漠に雨、枯れ木に水だ。
レーツェルは子供が苦手ではないが、
つかみ所のない子供は扱いに困るようだ。
今、目の前にいる少年・クォヴレー・ゴードンは素直ないい子なのだが、
いかんせんつかみ所がない。
話しかけても『そうですね』などの一言で
スッパリ会話を切られてしまい続かないのが悩みなのだ。
とにかく第三者の登場でレーツェルはいつもなら、
『私は君の兄ではない』と突っぱねるところだが、
嬉々としてそれを受け流すのであった。

「トレーニングをしたら咽が渇いてしまって・・、何か飲み物・・!!」

まだ言葉をいい終えていないというのに、
ライは腕を引っ張られ強引に食堂の椅子に座らさせられる。

「(な、なんだ???)」

筒全の出来事に抵抗も忘れその場所に落ち着いてしまっているライ。
隣には同じように強引に連れてこられたクォヴレーが座っていた。

「ふぅ・・・、さて、3時のおやつにしようか?」

額の汗を拭うとレーツェルは何事もなかったかのようにおやつの準備に取り掛かり始める。
ライはポカン、と一瞬してしまうが
別におやつを食べたいほど小腹は好いていないので、
気を取り直し早々に席を立とうとした・・・が、

「(うっ)」

レーツェルの異様なプレッシャーを肌で感じてしまい、
再び席についてしまう哀れなライディース、19歳。










食堂にハイビスカスのいい香りが漂っている。
どうやら本日のお茶はハイビスカスのハーブティーらしい。
テーブルの中央にはレーツェルの焼いたクッキーやマフィンが置かれていて、
3人は黙々と3時のおやつを楽しんで(?)いた。

「(き、気まずいぞ!!なんでこのメンバーなんだ??)」

何か話してくれとばかりに兄に視線を送る。
するとその視線を感じ取ったのかどうか、
レーツェルは頬に食べかすをつけながら
黙々とマフィンを食べているクォヴレーに話しかけるのだった。

「ところでクォヴレー」
「?」

問いかけにマフィンを頬張りながらチラリと上目遣いのクォヴレー。
口をもしゃもしゃ動かしながら首を傾げるのだった。

「私に何か用かな?」

にこやかな微笑とともに、やっと言えた!と安堵のレーツェル。
『何か用か?』と聞くまでに実に30分もかかってしまっていたことを本人は知らない。

レーツェルの問いかけにクォヴレーはコクンと小さく頷いた。
反応があったことに内心ホッとするレーツェルをよそに
クォヴレーはそれをきっかけにペラペラ話し始めるのだった。

「・・・実は少佐にお願いがあるのです」
「・・・少佐?・・・イングラム少佐にかな?」

クォヴレーはレーツェルの正体を知らないはずだ。
それ故に彼の言う『少佐』をイングラムだと思ったのだが、
クォヴレーはプルプル頭を左右に振る。

「・・・貴方は少佐でしょう?」
「!?」

レーツェルもライも思わず顔を見合わせてしまう。
一体全体誰がクォヴレーに彼の正体を教えたのか?
難しい顔をしていると、
何かを感じ取ったのかクォヴレーは聞かれてもいないことを話し始めた。

「・・・イングラム少佐がいない間・・暇なんです」
「・・・俺やリュウセイの訓練の時とかか?」
「そうです・・・。
 そんな時、たまに少佐の端末借りて・・その・・
 軍の情報網のハッキングとかを楽しんでいるのですが」
「・・・君の趣味はハッキングかね?(いただけない子供だな)」
「趣味というか・・・少佐の部屋の本も読みつくしてしまったし・・暇なので仕方なく」
「(暇で仕方ないからハッキングされる軍も可哀相だな・・・)」
「それで・・・その・・・その時、貴方の・・・経歴を・・・」
「なるほど・・・・」

クォヴレーが自分のことを知っていることへの疑問は解決した。
しかしレーツェルとしてはあくまで自分はレーツェルであり『エルザム』ではないのだ。

「・・私にお願いがあるのは分かった。
 だがその前に私のお願いも聞いてもらえるかな?」

ん?と首を傾げて彼を見るとレーツェルは穏やかに微笑を浮かべていた。

「私のことは少佐ではなくレーツェルと呼んでくれるかな?」
「・・・・?」
「・・・今の私はそうでなくてはいけないのだよ・・・わかるかね?」
「・・・・そう・・なんですか?」

チラリと横に座っているライを見れば、
何かいいたそうな顔をしているが、コクンと頷いて言うとおりにしろと即す。
クォヴレーも何かを感じ取ったのか小さく頷き返し約束する、

「わかりました、レーツェルさん」
「ありがとう」


食堂ににこやかムードが漂いはじめた。
しかしこれはただの嵐の前の静けさなのかもしれない。
果たしてクォヴレーのお願いとは何なのか?
3時のおやつの時間はまだ始まったばかりである。

2008/1/14