「・・・(何で俺まで・・・)」 心の底から大きなため息をついて、横をチラリと見やる。 横ではクォヴレーが懸命に箸で小豆を小皿に移動させていた。 はぁ・・・ともう一度ため息をついて、 ライもまた小豆を小皿に移動させ始めるのだった。 ・・・・・時は1時間前に遡る。 『箸?』 お願いがあるとレーツェルを訪ねてきたクォヴレーがいってきたお願い、 それが『箸の使い方を教えて欲しい』であったのだ。 二人ははじめ目をパチパチさせ顔を見合わせていたが、 クォヴレーがボソボソその理由を話していくのでだんだん納得が顔になっていった。 『オレは食べるのが下手なんです。』 『食べるのが?』 『あまりにも情けない食べ方をするので、イングラム少佐が呆れています。』 『情けない食べ方・・・?(どんな風に食べているのだろうか?)』 『口に食べかすをつけたり・・・・』 『『!?』』 すると二人は納得したようにクォヴレーをマジマジを見た。 成る程、確かに口の周りにはマフィンのカスが沢山ついているし、 テーブルの上にもボロボロ落ちている。 『どうやら箸やナイフ、フォークの使い方がよくないらしいのですが・・・』 『成る程!それで私に箸の使い方を習いに来たのだね?』 穏やかな口調で聞いてくるレーツェルに小さく頷いて答えるクォヴレー。 『そうです。レーツェルさんはかなりの食通と伺いましたので、 箸とかの使い方も上手だと思いました。』 『(かなりというか既にマニアだな、この人は)』 『最近は食堂で食事をさせてもらえないのです。 ・・・・情けないからと、いつもイングラム少佐と二人で食べてます。』 『(そういえば食堂で見かけたことないな・・・。 ただ二人で食事したいがタメの言い訳にも感じるが、黙っておこう)』 『箸の使い方を間違えると右手を叩かれます。』 『(園児か???)』 見る見るうちに小さくなっていくクォヴレー。 しかしライの心は苦笑いばかりである、が、レーツェルはどうやら真剣に受け止めたようだ。 うんうん、と頷きクォヴレーの方に手を置いた。 『分かった。それで君は少佐にも内緒で箸の使い方をマスターしてビックリさせたいのだね?』 『そうです・・・・。』 『わかった』 サングラスで見えないがレーツェルが穏やかに微笑んでいるのが分かった。 どうやら『指導』をしてくれるらしい。 クォヴレーは頬を薄紅色に染め期待に満ちた目でレーツェルを見上げた。 『教えてくださるのですか?』 『もちろん。特別にライディースが昔やっていた手法でマスターさせてあげよう』 『ライディース少尉が?』 『兄さん!(ま、まさかアレを・・・???)』 こうして3人の箸の使い方講座がスタートしたのであった。 「ふむ。なかなか筋がいいね」 「・・・そうですか?・・・・これ、結構難しいです」 小豆を一つ掴む。 すると力を入れすぎているのかクォヴレーの手はプルプル震え、 箸の先まで震動が伝わっていた。 「箸を上手く使えるようになるには小豆を小皿から小皿へ移動させる手法が一番なんだよ。 ・・・・それからその秘密兵器もだ」 「(・・・これが秘密兵器?・・・兄さん、食通なら食べ物は大事にすべきだ)」 「この方法はレーツェルさんが考え付いたのですか?」 「いや・・・・」 最初の頃とは打って変わって打ち解け始めている二人。 ライは乾いた笑みを浮かべて懸命に小豆を掴んでは皿に移すを繰り返し 二人の会話に耳を傾けてている。 「では誰が考えたのです?」 「昔、α家の食卓というテレビ番組でやっていたんだ」 「α家の食卓という映像で?」 「(クォヴレーにとってテレビは映像と言うひとくくりなのか?)」 ふーん・・・と、クォヴレーは不思議そうに持っている箸を見つめる。 箸の上部分に竹輪が刺さっているソレは確かに箸の使い方を覚えるには 大変宜しいらしい。 その証拠にクォヴレーは始めの頃に比べグングン上達していた。 「大分上手くなってきたね」 レーツェルに褒められると嬉しそうにはにかんだ。 レーツェルもまた幼い弟が一人増えたようでなんだか嬉しい気持ちになっていく。 「この分なら今夜の食事ではイングラム少佐に怒られないんじゃないかな?」 「本当ですか!?」 褒められたことで頬をもっとピンクに染め、残りの小豆を小皿へ移動させていく。 レーツェルは温かい眼差しでその様子を見守り、 ライは苦笑いを浮かべたままその横で残りの小豆を移していくのだった。 その晩、クォヴレーがイングラムに褒められたかどうかはまた次のお話である・・・・。 2008/1/14 |