シリアス小話5
 


「まだ起きていたのか?」

この時間になれば余程のことがない限り誰も訪ねてはこない。
それを知っているクォヴレーは、
大きくフカフカなソファーの上で寝そべりながら読書を楽しんでいた。
時刻は明け方6時。
普通であればまだまだ夢の中の時間である。
イングラムは目を真っ赤に充血させながら本を読んでいるクォヴレーに
半ば呆れながらその横に腰を下ろした。

「・・・おかえりなさい。・・・面白くてつい・・・」

クォヴレーは夢中になると時間を気にしない。
それ故に度々夜更かしをしてはイングラムにお小言を喰らっているのだ。
何とかしなければ、と思ってはいるのだが、
けれども未成年ではないイングラムには夜勤があるので、
(一応未成年に夜勤はさせない)
いつもいつもクォヴレーを見張っているわけにはいかない。

「つい、ではないだろう?クマが出来ている。
 折角の綺麗な肌も寝不足でガタガタになってしまう」

呆れたような口調の毎度のお小言。
クォヴレーは鉄仮面を少しだけ崩し、ムッと唇を尖らせる。

「オレは男だから肌がガタガタでもかまいません」
「俺が嫌なんだ。毎回ベッドに忍び込んでくる相手の肌がガタガタなのは。
 どうせ抱きしめるならスベスベのほうがいいに決まっている」
「!」
「・・・それとも」
「?」

口端を意地悪そうに上げ、イングラムはゆっくりと状態を屈めクォヴレーを覗き込む。

「もう忍び込まずに一人で眠れるのか?」
「!」

瞬時に体が熱くなり顔が真っ赤になる。
クォヴレーだってわざとイングラムのベッドに忍び込んでいるわけではない。
無意識なのだから仕方がない。
イングラムに抱きしめられて眠ると怖い夢を見ないのだから仕方ない。
悔しそうに唇を噛みしめているクォヴレーの頭を優しくなで、
勝ち誇った顔で最後通告を言い渡した。

「一人で寝れないのなら読書はそこで切り上げて、寝ろ」
「・・・・・・」
「俺もシャワーを浴びたら直ぐに寝る」
「・・・・・・」
「いいな?」
「・・・・・はい・・けれど」
「けど?」
「・・・この本だけ読みたいです・・・あと数ページだから」

と、クォヴレーが見せる本の題は『苦痛を長引かせる拷問の仕方・初級編』である。
その前は『殺し方』の本を読もうとしていたのを、
なんとか説得して『拷問』に妥協させた時の苦労を思い出した。

「・・・面白いのか?」
「とても」
「!!・・・そ、そうか・・・(変っているな)」

顔を引きつらせているイングラムを見て何かを悟ったのか、
クォヴレーは少しだけ眉根を下げてイングラムを安心させようと、

「大丈夫です。試す気は毛頭ないですから」

と、言うのだった。
けれどもイングラムは、当たり前だ、と心の中で突っ込みをいれ、
クォヴレーを自分の体へと抱き寄せた。
どうやらクォヴレーが寝る気がないことをお見通しのようで、
寝かす為の何か策を考えたらしい。

「・・・少佐?」
「あと数ページ・・・読みたいのか?」
「読みたい」
「ダメだ、、と言ったら?」
「・・・・それでも読みたい・・・読む」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「いいだろう」
「え?」

意外にあっさり許可が下りたことに驚きが隠せず、
思わず間抜けな声を出してしまった。
だが忘れてはいけない。
相手はあのイングラムなのだ。
『ただ』で許可してくれるはずはない。

「ただし、上手におねだりが出来たらだ」
「・・・お、ねだり???」
「そう・・・」

するとイングラムは自分の唇をチョン、と指差した。
その瞬間顔に再び火がつくクォヴレー。
彼が言わんとしていることを直ぐに理解できるまでには成長しているようだ。

「・・・ぁ・・・ぅぅ・・・(やはりキス魔だ!)」
「さぁ・・・、どうするんだ?」
「・・・・・っ」
「クォヴレー?」
「・・・・する」
「ほぉ?」

ニヤッと微笑むイングラムの首に腕をまわし、自分の唇を近づける。
軽くチュッと触れ合うと、直ぐに彼の腕に強く抱きしめられてしまった。

「・・・んっ??」

唇を強引に割り、容赦なく彼の舌が侵入してくる。
そしてあっという間に彼の口へと舌が招かれていく。

「・・・ん・・・ふ・・・??」

唇全体で唇を食べられ、息が苦しい。

「んんっ・・・」

クォヴレーの呼吸が苦しげに変ると、
イングラムは少し唇を離し、角度を変えて唇を合わせてくる。
そしてまた唇を離すのだ。

「・・・・クォヴレー」
「・・・ふぁ・・?」
「お前も出きるだろ?」
「・・・・?」

何が出来るというのか、快感に飲まれ始めている頭では理解できなくなっていた。

「今度はお前に俺の舌を吸って欲しい」
「・・・・!」

優しく唇が合わさり、次に舌が進入してくる。
夢うつつ、クォヴレーは夢中で舌を唇で甘く噛んだ。

「んっ・・・ん・・・」

イングラムの指がスゥ・・・と咽をなぞる。
ゾクゾクっと背中に奇妙な感じが走りぬけ、
クォヴレーはイングラムの舌を口から出してしまう。

「ダメだろ・・?」
「あっ・・・んっ」

離れた唇がまた重なり、
まるでお仕置きのようにクォヴレーの口の中をたくみに動き回る舌。
やがてクォヴレーの瞼が眠さに負けて閉じられていく。

「ん・・・ん・・・・や・・・だ・・・寝ない・・・」

唇が離れ、首を左右に振るとそれにあわせ透明な糸が長く伸びた。

「寝ない・・・本・・・読・・・・ん・・・すー・・すー」

抱きしめていた体から完全に力が抜けるのを感じると、
イングラムはそっと自分の膝を枕へ早代わりさせる。
このままベッドへ運んでもいいが、ひょっとしたら目を覚ましてしまうかもしれない。
それなら少しの間、こうして寝かしておく方が効率的だ。

「・・・まったく頑固なところは誰に似たのか・・・。
 まぁいい・・・お休み、クォヴレー・・・・」


と、チュッとおでこにキスをしたとき、
部屋のドアが何の前触れもなく開き、
イングラムは先ほどのキスで濡れている唇を慌てて拭うのだった。

2008/3/10