シリアスBL1
 

*αシリーズに少しだけそっております*







歩けども歩けどもその暗闇から抜け出す出口は見つからない。
生きているのか、死んでいるかも分からないその場所を
男はひたすら歩いていた。
もう何時間歩いているのかわからない。
自分は何故この場所にいるのか、それすらもわからない。
男は自分の『名前』すらわかっていないのかもしれない。
だが唯一つ、『自分の使命』だけは覚えていた。





何時間も歩き続ける。






ただただ歩き続ける。








その時不意に男の目に一つの光が映った。
その光の向こうに何がいるのかはわからない。
だがその光が『今の自分を』救ってくれるような気がしてならなかった。





やがて光の直ぐ傍までやってきた。


光に向かって手を伸ばす。
すると男の手は縄のようにうねり、
光の向こう側のモノに絡み付いていったのだった。




光の向こう側のモノを確かに捉えた。




男の口は無意識に言葉を奏でた・・・・。






『一つになる運命なのだ』




・・・・・と。












〜人形の少年〜








「!!」


けたたましいコール音にイングラムはハッと目を覚ました。
机の上の書類は散らばっており、
どうやらいつの間にか居眠りしてしまっていたらしい。

コールの音が次第に大きくなっていく。
フゥ・・・と小さくため息をついた後、
自分を呼び出している人間に応えることにした。



「・・・・はい」
『『はい』じゃないわよ!!』
「・・・ヴィレッタ・・・何のようだ?」

それまで黒かった液晶画面がパッと明るくなり、
青いショートヘアーの女性が眉を吊り上げて映りだされた。

『・・・・用がなければコールなんてしないわ』
「それはそうだ」
『・・・イングラム』
「・・・・なんだ?」
『顔色、よくないわね?ちゃんと寝ているの?』
「・・・・ここのところ徹夜続きだな・・・それに夢見もよくない」
『夢?』

イングラムが悪夢で眠れないことが意外なのか、
ヴィレッタは切れ長の目を大きく見開いた。
滅多に見れない彼女の驚き顔に、フッと哀しげに微笑む。
・・・・その笑顔は今も昔もヴィレッタ意外には殆ど見せない笑顔だった。
もっと笑えばいいのに、と常日頃思うヴィレッタであるが、
『離反』の過去がある彼にとって微笑むという動作一つだけで
『また何かたくらんでいる』と、
嫌味をネチネチ言われるのかもしれない、思って口には出さないでいた。

「・・・・なんでもない。それより用があるんだろ?」
『何でもないということはないでしょう?』
「いや、本当に心配してもらうほどのことではないんだ」
『・・・そう?』
「ああ」
『ならそういうことにしておくけど・・・・今日でしょ?』
「・・・今日?」
『例の新人が来るのが、よ』
「!!」

イングラムは虚を疲れたように、
引き出しにしまってあった資料を取り出し目を通す。
成る程、確かに『彼』は今日配属されてくるようだ。

「(忘れていた)・・・そのようだな」
『なんて名前だったかしら?』
「・・・この資料によれば、名前は『クォヴレー・ゴードン』15歳だな」
『クボ・・・レイ・・・?女の子?』
「『クォヴレー』・・・男だ。最も写真がないから美形かどうかは不明だ」
『顔なんてどうだっていいわよ。それでね、イングラム』
「?」
『私達、まだ帰れそうもないの。貴方は忙しいだろうし
 本当は私が向かえに行くべきなんでしょうけど・・・』

画面越しのヴィレッタが本当に申し訳なさそうな顔なので、
イングラムはわざと意地悪い笑顔を向けて見せた。

「気にするな・・・。新人一人の世話くらいで俺は仕事が遅れたりしない」
『そう?』
「ああ、だから気にせず任務を遂行して来い。
 それに・・・・デスクワークばかりで俺もつまらん。
 そろそろリュウセイたちをしごきたいから早く帰ってきて欲しいな」

デスクワークはもうこりごりなのか、
心底嫌そうな顔でいうイングラムに思わず噴出してしまう。

「プッ!了解よ!なるべく早く帰れるようがんばるわ。
 ・・・・新しい子の事ヨロシクね」
「了解した。」
「じゃあ、通信を終わるわ」
「ああ」

プツッと再び液晶が黒くなる。
それと同時に部屋は再び静寂に包まれたのだった。
誰もいない執務室の椅子の背もたれに体重を預け、
イングラムは大きなため息をつき、独り言を呟いた。


「・・・ふぅ・・・あの夢・・・もう何度見ただろうか?
 離反し、生還し・・・それからずっと見続けている夢。
 あの夢でいつも『俺』が捕まえるのは一体・・・・?」



その時、緊急スクランブルを知らせる鐘が鳴り響いた。
部屋の色が赤く染まり第一戦闘配備を知らせている。

「少佐!!」

執務室の扉のロックが自動的に解除され兵士が飛び込んでくる。

「何事だ?」
「未確認物体と接触いたしました。これから戦闘に入ります」
「・・・俺も出撃か?」
「いえ、数も少ないですし、おそらく大丈夫でしょう」
「そうか・・・だが準備はしておこう」
「お願いいたします」

ビシッと敬礼し下級兵が部屋から出て行った。
それを見送りイングラムはノーマルスーツへ着替えようとした、が、
その時再び兵士が戻ってきたのだった。

「少佐!」
「?どうした?」
「艦長が至急ブリッチに、とのことです」
「ブリッチ???」
「はい、何でも未確認機体と戦闘している未確認体のことで話がしたいとか・・」
「・・・未確認・・・?(どういうことだ?)」
「・・・少佐?」
「あ、すまん・・・わかった」


未確認の機体と自分がどう関係あるのか・・・?
イングラムは眉間に皺を寄せながらブリッチへと急ぐのだった。

















ブリッチにつくと皆難しい顔をして、モニターに見入っていた。

「・・・・・?イングラム・プリスケン到着いたしました」

イングラムが声を変えると、
我を失っていたブリッチの要員が一斉に視線をイングラムに移す。

「よく来てくれた」

ラー・カイラムの艦長ブライトは挨拶もそこそこに
モニターを見るように目配せをしてきた。
イングラムは訝しげにその戦闘シーンに視線を合わせる。

「・・・見たことのない機体ですね」
「ああ・・・ベルグバウ、というらしい」
「ベルグ・・・?」
「本人がそう言っている」
「本人・・・?と、いうことはあれは無人ではないのですね?」
「そのようだ・・・しかも操縦しているのが・・・」
「・・・・?」

そこまで言いかけたとき、オペレーターが戦闘終了を告げた。

「敵、完全に沈黙しました!」
「わかった!だが周囲への警戒は怠るな」
「了解!・・・艦長、『ベルグバウ』はどうしますか?」
「回収だ!・・・乗っているのはクォヴレー少尉だからな」

正体不明の機体を操っていた人物の名前を聞き、
イングラムはブライトを真っ直ぐに見つめる。
ブライトはコクン、と頷き大まかな説明をしてくれた。

「・・・顔を見る限りクォヴレー少尉に間違いない。
 だが問題は彼が記憶を失っていることだ」
「記憶を・・・・?」
「戦闘中だった故、まだ二言三言しか会話していないが・・・、
 どうやら記憶を失ってしまったらしい」

ブライトの声が段々小さくなってく。
申し訳なさそうにイングラムを見つめどう言おうか言葉を捜しているらしい。
小さくため息をつくと、イングラムは、

「わかりました。彼は私が責任を持って監視しましょう。
 どうせ私のチームに配属予定だったのですからかまいません」

と、言った。
ブライトは安心したように頷きながら今度は写真付の資料を手渡してきた。

「彼の細かな書類だ。・・・・何か不審な点があったら・・・」
「その時は彼を拘束しましょう・・・では、私は向かえにいってきます」
「宜しく頼む、少佐」
「了解です」












ブリッジを後にし格納庫へ急ぐ。
その道々、手渡された資料に目を通していく。
以前もらっていた資料とは驚くほどに細かなことまで記載されている。

「(・・・最初からこの資料を渡して欲しいものだ)
 ・・・・クォヴレー・ゴードン・・・月から・・・月??
 ・・・顔は・・・・・!!!?」

イングラムは足を止めてしまった。
それまでクォヴレー・ゴードンの顔を知らなかったので、
『そんなこと』は微塵も考え付かなかったのだ。

「・・・この・・・顔・・・いや・・・ただ似ているだけかもしれん」

バカな考えだ、と首を横に振り格納庫へ急ぐ。


だが格納庫に着き、
問題の人物と対峙した時イングラムは認めざるを得なかった。


・・・・クォヴレー・ゴードンの・・・「正体」を。









『ベルグバウ』という機体の前に立っているその少年の姿に
整備の人間や戦闘から帰ってきたパイロット達は目を逸らすことが出来なかった。
先に到着していた医療班の人間が何か質問している。
少年はその人物を真っ直ぐに見つめ首を左右に振っていた。

「・・・・では君は本当に何も覚えていたいのだね?」
「・・・・ああ」
「名前も?」
「・・・わからない・・・分かるのは『ベルグバウ』という名前だけだ」

始めイングラムは黙ってその様子を見守っていた。
いや、見極めていたのだ。
彼が本当に記憶喪失かどうなのかを。
そして答えが出たのか、ゆっくりと少年に近づくのだった。

「これは・・・イングラム少佐」
「(・・・イングラム?)」

少年はゆっくりと目の前に現れた男に視線を合わす。
男は無表情に自分を見下ろしていた。

「クォヴレー・ゴードン・・・?」

イングラムは『彼の名』を呼んでみる。
だが少年は返事をしない。

「クォ・・・?それは本当にオレの名前なのか?」
「書類上ではそうなっている・・・これがその書類だ」

手に持っていた書類を手渡した。
少年はそれを受けとり『自分』を確かめ始めた。
全てに目を通し終えたのか、少年はその書類をイングラムに返した。
イングラムは改めて少年に問いかける。

「クォヴレー・ゴードン、15歳。階級は少尉」
「・・・・・・」
「少尉、お前は記憶を失っている・・・間違いないな?」
「・・・・ないと思う」
「では、お前の身柄はこれから俺の監視下に置くこととなる。
 ・・・・理由はわかるな?」
「・・・・『記憶喪失』ほど危ないものはない。
 当然の処置だ・・・従おう」
「宜しい・・・ではこっちへ。お前にはこれから身体検査を受けてもらう」
「・・・・・」
「その後艦長の元へ連れて行こう・・・ついて来い」
「・・・・わかった」

イングラムは医務室へクォヴレーを連れて行こうと背を向けたが、
フッと何を思ったのか、険しい顔でクォヴレーに忠告した。

「それから・・・・」
「・・・?」
「目上の者には敬語を使え」
「・・・・・え?」

意表をつく言葉だったのか、
クォヴレーはキョトンとイングラムを見上げた。

「・・・そういうことを気にする輩もいるということだ。
 ・・・わかったな?目上の者には敬語を使え
 (ここで命を終わらせたくなければ余計にな)」

クォヴレーは黙ってイングラムの瞳を見つめ続ける。
しかし数秒後、難しい顔をしながら了承するのだった。

「・・・わかり・・ました・・・少佐。
 ・・・これでいいのですか・・・?」
「ああ・・・では、いくぞ」
「・・・了解だ・・・ではなく・・・了解、です」

敬語は使い慣れていないのか、しどろもどろに話すクォヴレー。
その様子がおかしいのか、フッと微笑を一瞬浮かべるイングラムであった。
















「アインから連絡は?」
「ないわ・・・事故にでもあったのかしら?」
「可能性はあるな・・・。
 こんなことなら最後の晩に発信機でも埋め込んでおけばよかった」
「・・・ふぅ・・・生々しいことを言うのはよして頂戴」
「何故・・・?俺は別に嘘は言っていないが・・・?」
「事実を知っているから余計に生々しくてイヤなのよ。
 貴方の思考に口出しする気はないけどね・・・アインは私も可愛がっていたのに」
「・・・ほぉ?恋人にしたかったのか?」
「ちがうわ!弟のようだったのよ!それなのに・・・はぁ・・・」
「アインが俺のモノになったとしても、お前の弟に違いはない」
「・・・それは・・・そうだけど・・・。あ、この辺りよ」
「!!アインの消息が途絶えた場所か?」
「ええ、・・・探ってみましょう、なにか分かるかも」
「・・・・そうだな」


有り難うございました。 ほそぼそと続きまする。