シリアスBL12
 







何故そんなに真剣にお願いしてくるのか、
理由を聞かずとも理解するのは簡単だった。
妙に精神が落ち着いたようだし、
『彼』の話をする目が今まで以上に『優しい』。
たった一日離れるだけだというのに、悪い虫がつかないか心配なのだろう。
ヴィレッタは呆れたように口を開いた。

「確かにあの子を『一人』にするのには上層部が反対でしょうけど、
 だからといって女の私と一緒なのも問題なんじゃない?」
「それはそうだが、リュウセイやライ、アラドと一緒というのも心配だ」
「(なんで男の子の名前しかあがらないのかしら?)・・・・」
「クォヴレーは他人のベッドに忍び込む癖がある」
「・・・・・へぇ?」
「お前なら・・・その・・・そうなっても変な気持ちにはならないだろう?」
「・・・なってほしいのかしら?」

念を押すような言い方に、わざと冷たい視線を送る。
すると珍しく慌ててイングラムは否定した。


「頼むから睨むな!!」
「睨んでないわ。目を細めただけ」
「(それを睨んでいるというんだ)噂が心配ならアラドも一緒に泊めればいい。
 ・・・・お礼もするから、頼まれてくれないか?」


珍しく低姿勢な彼。
流石にこれ以上からかうことに気が引けたのか、
ヴィレッタはニッと笑って返事をした。

「いいわ。引き受ける。」
「ヴィレッタ!」
「ただし、私達の『コト』を話す時は私も同席させてくれること、
 というのが条件よ?」
「!」

ヴィレッタのいう『私たちのこと』というのは、
イングラム・ヴィレッタ・クォヴレーの関係のことだろう。
本当は今日、クォヴレーに話す予定だったのだが、
タイミングの悪いことに仕事が入ってしまったのだ。
クォヴレーは納得のいかない顔をしていたが、
仕事ならば仕方ない、とぎこちなく笑って先延ばしを許してくれた。

「・・・了解した。約束しよう」
「私も了解よ。・・・いってらっしゃい、気をつけてね」
「・・・・ああ」












〜トワイライト〜














薄明かりの元、ヴィレッタはクスッと小さく笑った。
はしゃぎ疲れたのか、クォヴレーもアラドもゼオラも枕を並べて仲良く眠っている。
アラドとクォヴレーがヴィレッタの部屋に泊まるというので、
ゼオラも一緒に泊まることになったのだ。
イングラムが一夜空ける今夜、まだまだ『スパイ』の疑いが晴れていないクォヴレーは、
それなりに自由になったとはいえまだまだ行動に制限がかかっている。
始めは四人で仲良く話をしていたのだが、
誰かが投げた枕で『枕投げ』が始まってしまい、
ヴィレッタも歳甲斐もなくはしゃいでしまった。
久しく見た『子供』の笑顔。
ヴィレッタは今度は少しだけ表情を歪ませて笑う。

「(そう、子供なのよね・・・クォヴレーは子供。一体どうしてなのかしら?)」

いくら考えてもその答えは分からない。

「(いっそ誰かが教えてくれたら・・・・)」

そんなことを考えながら、ベッドライトを消しヴィレッタも眠りについく。
その『誰か』が着々と近づいてきていることには全く気付かなかった。



















早々に『任務』を終え帰還し報告を済ませると一目散で自分の部屋へ向かった。
格納庫まで迎えに着てくれたヴィレッタの話しによれば、
昨夜クォヴレーは誰の布団の中にも忍び込まなかったという。

『だから私、聞いてみたのよ。
 どうして忍び込まないのって』
『大胆だな』
『・・・そう?で、クォヴレーはなんて答えたと思う?』
『・・・・・・わからん』
『・・・フフ、クォヴレーもそう言っていたわ、『わからない』って』
『・・・・わからない?』
『分からないけど、多分と言っていたわ。
 多分、イングラムの気配があるとどうしてもその温もりに包まれたくなってしまうんですって。
 ・・・・無意識によ?』
『!?』
『貴方は幸せ者ね』






道中、我慢しきれず顔が緩んでしまう。
確かに自分は幸せものなのかもしれない。
無意識につつまれたいということは、クォヴレーも出会った当初から・・きっと。




今回の任務は決して気持ちのいいものではなかった。
『元』、彼らの仲間であるイングラムにはうってつけの任務であろうが、
壊れかけの『機体』に乗っていた『人間』に吐き気がこみ上げたのは事実だ。
目の当たりにする『鏡』に気持ちが悪かったわけではない。
『鏡』に映った『運命』に吐き気がしたのだ。
一歩間違えればそこにいたのは自分であり、ヴィレッタであり、クォヴレーであったかもしれない。
何かはしれないが、『任務』に失敗した『彼』は躊躇うことなく『自害』したのだろう。
戻ったところで『破棄』の運命なのだから仕方がないのだろうが・・・・。
死んだ魚のような目が虚空を見つめていた姿が忘れられない。
自分に似た姿の人間が死んでいるのを見るのは気持ちのいいものではない。

「(抱きしめたい・・・抱きしめて、・・・抱きしめ返されて・・・癒して欲しい)」


はやる心を示すように、足早な足は自室へ到着した。
執務室を通り過ぎ、小さく開いていた寝室を覗き込むと、
イングラムはその光景に目を細めて微笑んだ。









クォヴレーはイングラムのベッドの上で、
いつだかアヤ・コバヤシが小さな部屋には邪魔だから置いておいて欲しいと置いていった、
巨大な猫のぬいぐるみを抱き上げていた。

「・・・・少佐が無事に帰ってきたそうだ・・良かったな、猫」

そう猫に話しかけたかと思えば、頭を前に押してコクンと頷かせた。
そして薄っすらと微笑む。

「今は報告に行っているらしいから戻ってくるのは・・・
 あとどれくらいだと思う?」

今度は質問形式で話しかけ、横から猫の頭を押し首をかしげる形にしている。

「そうか・・・わからないのか。まぁ、お前は猫のぬいぐるみだからな。
 ・・・・それにしても・・・・」

クォヴレーは猫のわきに手をそえ、よっ、と挨拶するようなポーズをとらせてみた。
そしてその次はお腹をポンポン叩き、眉間に皺を寄せる。

「・・・猫・・・お前・・・」

悲しげな表情を浮かべギュ・・・と抱きしめベッドにごろんとなり、
猫のぬいぐるみを高く持ち上げ、同情的に呟いた。

「腕周りも腹回りもプニプニだ・・・。今流行のメタボというヤツだな。
 ・・・・可哀相に・・・明日からダイエットだ」

ぬいぐるみがどうやってダイエットするというのか・・。
気配を殺して見守っているイングラムは笑い声をなんとか堪えて震えるしかない。
一方クォヴレーは高く上げた猫のぬいぐるみを今度はギュと腕に抱きしめる。
抱きしめながら目を閉じるとなんだか懐かしい香りが鼻を掠めてきた。
それは寝転がっているベッドのシーツと枕から漂ってくるようで・・・。

「・・・・少佐」

小さく彼の『地位』を口にする。

「少佐の匂いだ・・・・。一昨日いっぱい嗅いだ。
 ・・・・いい匂い・・・何処か懐かしい気もするし、
 悲しい気もするけど・・・それ以上に・・・胸がいっぱいになる」

クォヴレーは猫のぬいぐるみをベッドの端に座らせると、
おもむろに腰をモジモジ動かし始める。

「・・・・どうしよう・・??どうしたらいいんだ??」

声は少し掠れ気味で熱を含んでいるように聞こえる。
モジモジ腰を動かし、もどかしげに眉を寄せている。

「・・・っ、・・・こんな・・・はしたない・・・だが・・・」

仰向けからクルンとドアに背を剥け横向きになる。
ソロソロと下半身に手を伸ばし、震える手で兆し始めているモノを取り出した。

「・・・初めて・・・これは、きっと初めてだ。
 ・・・自分で弄るなんて・・・罪だ・・・だが、止められないん、だ」

部屋に濡れた音とクォヴレーの艶かしい切なげな声がし始めた。
小さく「あ」といったり「ん」と言ったり、
クォヴレーは腰を揺らして、彼を想像して自慰に没頭していく。
イングラムの手や口を想像し、熱を思い出す。
次第に手の動きは激しくなり頂点に上り詰めようとしたその時、クォヴレーの声は失われた。
全てを吐き出す前に懐かしい温もりが上に覆いかぶさってきたからだ。

「・・・っ、んっ・・・んん・・・」

顎を捉えられ声は荒々しい口付けに封じられ、くぐもったものしか出せない。
我慢しきれなくなったイングラムが寝室へ入ってきて、
クォヴレーの唇を塞いだのだ。

「・・・・ぁ・・・しょう・・・んっ」

唇が離れる。
目に映ったイングラムは意地悪そうな笑みを浮かべており、
出てきた言葉も意地悪であった。

「・・・クォヴレー・・・一人遊びか」

カァァァッ、と全身を真っ赤に染め高ぶっていた性器の熱が萎んでいく。
身体を捩りベッドの端へ逃げようとするが、
足の間にイングラムは身体を割り込ませてきていたので、
それは叶わず、大きく足を左右に開かれてしまう。

「い・・いつの間に帰って・・・」
「・・・結構前だ。お前が一人でぬいぐるみと戯れていたから声がかけにくくてな」
「!!」

クォヴレーは全身から火が出そうだった。
まさか女の子のようにぬいぐるみで遊んでいた場面も見られていたとは・・・。

「・・・ひど・・・い」
「酷い?」

クスッと笑って萎えた性器に軽く口付ける。
クォヴレーはそれだけで全身をビクンと震えさせるのだった。

「酷いのはクォヴレー・・・、お前だろう」
「・・・オ、オレが・・・・・何故???・・・っ!!」
「俺ではなくぬいぐるみを抱きしめているし・・・それに」
「あぁぁっ!」

ジュプッと音を立てて、イングラムは一気に性器を口に含んだ。
口淫に余りなれていないクォヴレーは、
目を大きく見開いたままされるがまま身体を捩らせ昇りつめていく。

「あ、・・・あぁ・・・ああっ」
「・・・それに・・・俺を・・・まだ・・・少佐、と呼んでいる」
「そ、そこで・・・しゃべらな・・・ひぅっ」

腰を大きく震えさせクォヴレーはあっけなくイングラムの口へ全てを吐き出した。
射精の余韻に生理現象で涙を流していると、
ゆっくりとイングラムが覆いかぶさってきて、
熱い杭を後孔に宛がってきた。
クォヴレーは思わず逃れようとベッドの上へ身を捩るが、
腰を掴まれそのままうたがれてしまうのだった。

「あーーー!!」
「・・・・・っ」
「・・あ、あぁ・・・・酷い・・・」

恨めしげにイングラムを見上げる目は熱に潤んでいる。
そんなものだからイングラムのモノはドクンと大きく脈打ち、
クォヴレーの中で更に硬さと大きさを増す。
自分を恨めしげに罵るクォヴレーにイングラムは欲情にかすれた声で
耳元で言い訳をした。

「酷くない・・・これはお仕置きだ・・・名前で呼んでくれないお仕置き」
「そ、ん、な・・・・あっ・・・・あぁ、・・・んっ」

グン、と奥まで貫かれる。
その衝撃に咽を仰け反らせればその咽に噛み付いてくるイングラム。
クォヴレーは逞しい腕に手を添えひたすら彼の熱に翻弄され続けたのだった。










熱い時がすぎてもイングラムはクォヴレーをはなさなかった。
腕に閉じ込め体中にキスをしている。
腕を絡め足を絡めてくるくすぐったい愛撫を月の光に照らされた薄明かりの部屋で
クォヴレーは幸せそうに身を任せていた。

「・・少・・イングラム・・・くすぐったい」
「もう少し・・・もう少し触っていたい・・・いいだろ?」
「・・・だけど・・・んっ・・・くすぐったい・・・んん・・・」
「・・・クォヴレー」

視線がかち合うと、駄目と言いながらクォヴレーは静かに目を閉じる。
すぐに降りてくる深い口付けに全てを預け気持ちを確かめ合う。
横抱きになっていた二人だが、再びクォヴレーの上にのるイングラム。
口付けをふかめ、足を開かせたその時、前触れもなくけたたましくその音はなった。

「!」
「・・・・・!」

緊急時になるコール音。
ブリッジがイングラムを呼んでいるのだ。
小さく舌打ちし、クォヴレーを見下ろすとクォヴレーも残念そうな顔をしている。
残念に感じているのは自分だけではないということにイングラムは喜びを覚えると、
最後に軽く唇を啄ばみクォヴレーから身体を離した。

「蜜月を邪魔するとはなかなか無粋だが・・仕方ない・・。行ってくる」
「・・・・イングラム」

不安そうなクォヴレー。
これまであまり呼び出しが鳴ったことはないから、不安なのだろう。

「大丈夫だ」

クォヴレーの頭をなで、優しい口調で安心させる。

「おそらく敵艦隊でも近づいてきているのだろう。心配ない。
 戻ってきたら・・・約束を果たす」
「・・・・約束?」
「俺と・・・お前の関係だ」
「!」


床に落ちている衣服を拾い上げ、ササッとシャワーで汗だけ流して、
ブリッジへ向かうため部屋をあとにするイングラム。
クォヴレーは不安そうな顔をしていたが、
最後には小さく微笑んで見送ってくれた。



しかし・・・・イングラムがクォヴレーをみたのはこれが最後になるのだった。















イングラムが部屋をあとにして数十分後、
おもむろに『彼女』は部屋を訪ねてきた。

「話があるの、入れてくれるかしら?」

ニッコリ微笑む彼女。
彼女は何処か懐かしいものを感じさせ、
クォヴレーは彼女がイングラムとは別の意味で好きだった。
昨夜の枕投げも怒ることなく一緒にはしゃいでくれた。

「ヴィレッタ大尉・・・、どうぞ」

だからなんの躊躇いもなく『彼女』を招き入れる。
イングラムが呼び出されているのだから、
彼の腹心ともいえる彼女が呼び出されていない、
というおかしな事実を考えることもなくむかえ入れてしまったのだ。


お茶を出すと、いつもは正面に座る彼女がなぜか隣に腰を下ろした。

「?大尉?」

少し上にある目線がスッと細められる。
その瞬間、全身に鳥肌が立ち、初めて違和感を覚えるクォヴレー。

「(・・・大尉の目・・・あんな色だったか??
 イングラムと同じ・・・深い青だったはず・・・だが・・・)」

違和感に腰を引くクォヴレー。
だが『ヴィレッタ』に腕を掴まれその目線から、彼女から逃げられなくなっていた。

「どうした?・・・ひどく顔色が悪いようよ」
「・・・ヴィレッタ大尉・・・貴女・・が・・怖い」
「・・・怖い?」
「今の貴女はいつもと空気が違う・・・どこか・・・黒くて・・でも悲しい感じだ」
「・・・悲しい?」

『ヴィレッタ』が目を見開く。
少年は記憶を失ってもやはり本質はかわっていないようだ。
人の心に敏感で、自分よりも他人を優先する。
・・・・・『ヴィレッタ』は、変わらないのね・・・と、
小さく呟いた。

「大尉?」
「・・・・一緒に格納庫へ来て欲しいの」
「え?」

悲しげな目を一瞬できついものに変え、『ヴィレッタ』は言った。

「格納庫?」
「・・・ベルグバウに乗るのよ・・・『アイン』」
「!?」

過去の名前と思しき名前で呼ばれ、全身が総毛だった。
とらわれた腕を力ずくで引き剥がし『ヴィレッタ』と距離をとる。
美しい顔で冷笑する彼女は確かにヴィレッタであるのに、何かが違う。
瞳の色か・・・、気配か・・・・。
薄明かりの部屋だからその違和感を感じるのか?

「(違う・・・姿かたちが似ているからそう思うんだ。
 目の前の彼女の心は全くの別人だ、大尉ではない?!)」

冷笑を浮かべた『女』がゆっくりと近づいてくる。
冷たい指で頬を撫でられるとクォヴレーは何故か逆らえない。

「(あの男と一緒だ・・・怖い・・・?)」
「自分の任務を・・使命を、思い出しなさい、アイン」
「・・・・あ・・・オレ・・・は・・・」
「アイン・バルシェム・・・さぁ、帰りましょう・・貴方の本当の居場所へ」
「・・・オレ、は・・・!!」

後頭部に痛みを感じたのと気を失ったのはほぼ同時だった。
目の前の彼女に夢中で後の気配に気付けなかったのだ。

「・・・なかなか強引ね・・・あなた」
「我慢も限界だったんだ・・・仕方なかろう?」
「フフフフ・・・、アインをベルグバウに乗せれば全て終わるわ」
「・・・禍々しい機体とともにアインは戻る・・・全て元通りというわけか」
「違うわ」
「?」

恐ろしいほどの冷笑で首を傾げるキャリコの肩に手を置き、
足元に倒れている『アイン』を見下ろす。

「今までよりも素晴らしくなるわ・・・、オリジナルが消えるのだもの」

足元の『アイン』を抱き上げながらスペクトラの話を聞いていたが、
その言葉に知れずキャリコも冷笑を浮かべていた。

「なるほど・・・違いない。
 しかもアウレフは愛しい『アイン』の手で葬られる」
「そういうこと・・・さぁ、手始めにヴェートよ。
 アレの部屋の回線は予め切っておいたからまだ部屋よ。
 ・・・偽の呼び出しにほとんどの連中はブリッジでしょうし・・・簡単よ」

薄明かりに照らされている部屋に二人分の冷笑が響く。
意識を失ったクォヴレーは、眉間を中央に寄せ唇で何かを呟いていた。




・・・・・・イングラム



と。



ありがとうございました。 折り返し地点でしょうかねー。