シリアスBL2
 



「・・・・・見つけた」


男はゆっくりと目を開いた。
すると女が直ぐ傍にやってきて男の肩を叩いた。

「・・・本当?」
「ああ、間違いない・・・アレの気配だ・・・。
 傍に奴の気配も感じる・・・。忌むべき奴の・・・」
「ふーん?・・・なら強ち任務失敗、なわけではないようね?」
「・・・どうだかな・・・。とにかく接触してみよう」
「そうね・・・・」

男はゆっくりと頭から甲冑を取り外す。
そして目にサングラスをかけ、女にふり返った。

「直に接触を試みる」
「・・・わかったわ。くれぐれもオリジネイターに感ずかれないようにね」
「・・・・了解」


















医務室の出入り口、
その場所に背を預けイングラムは検査を見守っていた。
少年、クォヴレー・ゴードンは裸にされても
別段嫌がるそぶりを見せることもなく淡々と検査を受けている。
血を抜かれようと、変な機械を頭にかぶせられようと静かに従っていた。
医療班は『大人しくていい子だ』と褒めていたが、
イングラムは違和感を感ぜずにはいられなかった。
多少『意思』を持ってはいるものの・・・・

「(あれではまるで人形だ)」

知らず知らずクォヴレーをジッと見つめてしまう。
それだけ見つめられていれば本人が気づかないはずもなく、
少年は無表情だった瞳を少しだけ揺らしてイングラムを見つめてきた。




どうやら少年は完全な『人形』ではないらしい。
時折垣間見せる『感情』に、
ホッと息をつくとイングラムは驚いてしまう。


「(・・・何故、俺は今安心した?)」


自問しながらイングラムは少年が検査を終えるのを見守ったのだった。













〜冷めた瞳の奥〜













男は・・・
イングラムは再びあの闇の世界を歩いていた。
ただ今回はいつもと少しだけ違っているようだ。
なぜならいつも自分が見ている『闇世界』と多少『黒さ』が違うからだ。


ではここは一体誰の夢の中なのか?
イングラムは自分の夢の時と同じようにただ闇雲にその世界を歩いていく。



どれくらい歩いていただろうか?
前方にボゥ・・・と光が現れ、
それが何かを確かめるべく自然と急ぎ足になっていく。
だが完全にその場所にたどり着く前にイングラムの足は止まってしまった。


飛び込んできた光景に息を呑む。
何故かやりきれない気持ちがこみ上げてきて、光に手を伸ばす。
けれど透明なガラスでもあるかのようにそれ以上は伸ばせない。



『ァァ・・・ァ・・・く・・・・やめ・・・っ』

少年は必死に頭(かぶり)を振っていた。
いや、動かせる部分が頭しかないからそうするしかないのだろう。
両手は紐で戒められ、足は抱えられているので動かせない。
青い髪が肩より少し眺めの体格のいい男に組み敷かれている少年は
涙を流しながら訴えていた。

『止・・・、のか・・・?・・・・・ン?』

圧し掛かっている男が口端を歪め少年に問いかける。
淫らに腰を揺らし、少年を揺さぶりながら・・・・。
しかし男の声は途切れ途切れで何を言っているかまではわからない。

『・・・・ア、・・・・ァア・・・、だ・・・め・・・っ』

何か失態でもしたのか、少年の体のあちこちに痣が見受けられた。
圧し掛かっている男はソレを癒すかのようにそこに唇を這わせては
吸って、舐めて、を繰り返し行い、腰を小さくゆすっている。


『可哀相・・・・、ン?・・・俺・・・・からだ』

男が少年の唇をそっと自身の唇で塞いだ。
少年は差し出された男の唇を必死で貪り腰を自ら振り出し始めた。
男は唇を離し、少年の動きを面白そうに見下ろしている。
拘束された両手から血液が滲み出し始めていた。

『アイ・・・・、誓・・・・、お前・・・・』
『アァ・・・、あっ・・・・あぅっ・・・』


少年は苦しそうな表情で何度も首を縦に振っている。
見れば根元は何かに戒められており、
今にも爆ぜそうな欲望の熱を強制的に抑えられていた。
激しく身体を蹂躙され、少年は何度も男に許しを懇願しているようだ。
やがて少年の痴態に満足したのか、
男はそっと戒めていた紐を解こうと何度か性器をなでていく。
少年は腰を蠢かし熱に潤んだ目で男を見つめる。

『キャ・・・・早・・・・お願・・・・おかしく・・・・あぁぁっぁ!!』

やがて根元は解放され少年は何度も身体を痙攣させて果てた。
直後男も少年に欲望を放ち、意識を手放した少年を愛しそうに抱きしめたのだった。
そして・・・・



『お前は俺のものだ・・・・アイン』

















「!!?」

目を覚ませば全身にビッショリ汗をかいていた。
なんとも言い難いリアルな夢にイングラムは眉間に皺を寄せる。
そして暗い部屋、隣のベッドを見れば少年が掛け布団を蹴って眠っていた。
ベッドから立ち上がり、少年のベッドに近づく。

本来、『少佐』であれば一人部屋だが、
監視という名目で少年・クォヴレーは
イングラムの部屋で寝起きすることになったのだ。
ベッドサイドに立ち、顔を覗き込めばなにやら難しい顔をして眠っている。
掛け布団を蹴っているクォヴレーに思わず微笑するイングラム。
普段の大人っぽい仕草からは想像できないその寝相の悪さにギャップを感じたようだ。
掛け布団をかけなおし、眉間によっている皺をそっと撫でてやる。
すると難しい顔をしていたクォヴレーの寝顔が穏やかなものになった。


「(・・・夢でもみていたのか?
 俺と同じように・・・・・暗い、夢だろうか?)」

幼さの残る寝顔・・・・。
イングラムは今さっき見た夢を思い出した。
男に圧し掛かられ、拘束され蹂躙されていた少年・・・・。
髪の色こそちがえど、あの顔は間違いなく・・・・。






眠るクォヴレーの頭をそっと撫でる。

「・・・・ん・・・」

口から小さく零れる声。
しかし目を覚ます気配は感じられない。
イングラムはそのまま頭を撫でながらボソッ・・と呟くのだった。


「アイ、ン・・・?お前のコードネームは・・・アイン、か?」

クォヴレーのベッドに腰を下ろし、イングラムは昼間の出来事を思い返していく。















「クォヴレーは何が好き?」

急に執務室の扉が許可なく開いたかと思えば、
その二人組みは無遠慮にイングラムの横に立っている少年に話しかけてきた。
確かにそろそろ休憩時間だから入ってきてもかまわないが・・・
イングラムは危機感がない、と不愉快な表情を露にして見せた。
それに気がついたのか、二人組みの女の子の方が慌てて頭を下げた。

「すみません、少佐!いきなり・・・その・・・」

ゼオラはペコペコ頭を下げ、横にいるアラドにも謝罪を即す。

「す、すんません!!」

ペコペコ、ペコペコ、二人は必死で頭を下げる。
全身をゆでた蛸のように赤くして何度も何度も謝る。
クォヴレーは二人の必死な様子が可笑しかったのか、
口はしに少しだけ微笑を浮かべイングラムに話しかけた。

「・・・少佐、そろそろ休憩時間です」

静かな声だった。
浮かんでいたはずの微笑は消えうせ、事務的に話しかける。

「(たった今浮かべていた笑顔はどうした?)
 ・・・そろそろ、ではなくもう休憩時間のようだな」

腕時計を見、険しい表情で二人を睨みつけクォヴレーに視線を戻す。

「だからこの二人はお前を向かえにきたのだろう?
 俺の手伝いも一区切りついたことだし休んでくるといい」

ゼオラとアラドはクォヴレーと歳が近いせいもあってか、
直ぐに打ち解けたようだ。
いや、今の表現には語弊がある。
クォヴレーにとっては歳が近いからなんとなく一緒に行動している、
そんなところだろう。

「・・・いいのですか?」
「かまわん。・・・・だが・・・」

イングラムは再びゼオラとアラドに視線を戻し、
確認するように言った。

「クォヴレーの行動する場所には必ず俺がいなければならない。
 ・・・食堂へ行く気ならば当然俺というオプションがつくが・・?」

それでもいいのか?と険しい瞳のイングラム。
ゼオラがなんとなくクォヴレーを見れば、
唇を小さく噛みしめ瞳の奥が少しだけ揺れていた。
記憶喪失であるクォヴレーは『自由』が制限されているのだ。
アラドもそんな様子に気がつき、ゼオラと顔を見合わせると・・・

「かまわないっス!!少佐も一緒にお茶しましょう!」

だから一緒に行こう!と、いう風にクォヴレーに笑いかけた。

「・・・お前は?」
「え?」

アラドとゼオラの返事に頷くと、
今度はクォヴレーの返事を伺ってみる。

「お前も俺と一緒だがそれでも食堂へ行きたいのか?」
「・・・オレ、は・・・・」

クォヴレーの表情が曇る。
本当は『貴方は余計だ』と言いたいのだろう。
だが言えない・・・・。
なぜならばクォヴレーはまだ『信用』も『信頼』もされていない
ただの『生き物』にすぎないのだから。

「オレ、も・・・それでもかまわない・・です。行きたい」

クォヴレーの返答を聞き、イングラムはすかさず席を立った。
三人でその様子をポカーン・・・と見つめていると、
訝しげな表情のイングラムが、

「・・・どうした?いかないのか?」

と、威圧的に言葉を放った。
アラドはあまりの怖さにブルリと身体を震わせるが、
直ぐにいつもの調子を取り戻し、突っ立ったままのクォヴレーの腕を取った。

「!!」
「行きます!行きます!!ほら、行くぞ、クォヴレー!!」
「え?」
「あ、アラド!ずるい!!それは私がやろうと思ってたのに!!」
「・・・??」
「早い者勝ちなんだよ!ほら、行くぞーー」
「うわっ!!ちょっと待・・・・」

両腕を二人に組まれ、強引に部屋から連れ出されていく。
その様子を厳しい視線で見守りながら、
イングラムは三人の後に続くのだった・・・・。


















クォヴレーは時々コクンと頷いたりしてゼオラの話を聞いていた。
チラッと横目で見ればアラドはまだ何にするかで迷っているようである。
イングラムが奢ってくれるというので、アラドとゼオラは大喜びをした。
ゼオラは紅茶セットを頼んだが、アラドはまだ決めかねているようだ。
そしてクォヴレーはというと、お腹が空いていないからと

『水でいい』

と一言残し、さっそと席に行ってしまったのであった。
その後を追うようにして後を追うゼオラ。
つまり今クォヴレーはそのことについてゼオラからお説教を食らっているのだ。

「聞いているの!クォヴレー」
「・・・ああ(めんどくさいな・・・水の何がいけないというんだ??)」
「もぉ〜!!」

呆れたようにため息をつき、ゼオラはそれ以上は何も言わなくなってしまった。
ゼオラには分かっているのだ。
かつて自分も何度か悩んだものだ。
『記憶』がなく自分が誰なのわからず、自分の殻に閉じこもってしまった過去が
今のクォヴレーの心情を痛いほど痛感させてくれていた。

「(疑っている人もいるみたいだけど、私は信じるわ!
 だって・・・この子の目は澄んでいるもの!
 ・・・・だから待つわ・・・心を開いてくれる日まで・・・ずっと。
 アラドとそう心に決めたんだから!)」

そしてしばらくの沈黙ののち、ホクホク顔のアラドが戻ってきた。
ドンッと机に置かれたソレは3段のホットケーキにアイスクリームつきで、
一緒に持ってきたケーキと紅茶をゼオラの前に置きその横に腰を下ろす。

「ほい、お前のな」
「ありがとう!!わぁ・・・美味しそう」

そして数歩遅れて戻ってきたイングラムに御礼を言うのも忘れない礼儀正しいゼオラ。

「少佐、ありがとうございます」
「ああ」

イングラムはテーブルにコーヒーを置くと、
少しためらった後、ソレをクォヴレーの前においた。
突然目の前に飛び込んできたソレに何度も目を瞬かせては
隣に座るイングラムと交互に見やる。

「・・・これ?」
「それが食べたかったのだろう?
 ・・・・この前、ジッとソレを見ていたように記憶しているが・・?」
「!!」

クォヴレーは驚いた。
確かに2〜3日前、
クォヴレーはショーケースのイミテーションのソレをジッと見つめていたのだ。
まさかそれを見られていたばかりか覚えられていたなんて思いもしなかったのだろう。
そして水でいい、と言ったのにソレを持ってきたイングラムに戸惑ってしまっている。

「あら!!クォヴレーのそれ、美味しそう!!」
「本当だ!オレも今度それ食べよ!」

アラドもゼオラもそういって、自分達のおやつを食べ始めた。
だがクォヴレーはどうしたらよいか分からずソレを食べることが出来ない。
隣に座るイングラムはコーヒーカップを持ち上げながら、静かに呟いた。

「・・・いらなければ捨てて来い」

その言葉が決め手になったのかクォヴレーはスプーンを手に取り、

「・・・ありがとうございます」

と、一言お礼をいいソレを食べ始めるのだった。
どうやら食べ物を粗末に出来る性分ではないらしい。
そしてソレを一口食べた後のクォヴレーの表情に3人は思わず動きを止めてしまった。
小さな口に欲張りすぎたのか、口の周りにベットリと『チョコレートパフェ』の
チョコソースがついてしまったクォヴレー。
しかし甘いものは好きなのか、口の中に広がった甘さに表情は綻んでいた。
ゼオラは微笑みながらまるで小さい子に聞くかのように聞くのだった。

「美味しい?クォヴレー」
「・・・・ああ」
「よかったわね!」
「・・・・ああ」

ゼオラの問いかけに微笑ではなく笑顔で返すクォヴレー。
その顔を見たアラドは感心したように言った。

「はぁ〜・・・お前も笑うんだなぁ・・・びっくりした」
「?」
「馬鹿アラド!あったり前でしょ!!人間なんだから」
「ははっ・・・そりゃそーだ!」

笑いながらおやつを食べる三人。
しかしイングラムは複雑な心中でクォヴレーを見つめていた。


「(・・・・人間、か・・・・)」
















クォヴレーは規則正しい寝息で眠っている。
時々苦しそうに眉間に皺がよるが、
イングラムが撫でてやると安心したように穏やかな表情に戻っていく。

「人間・・・・」

暗い部屋、一人呟くイングラム。
昼間確かにクォヴレーは笑った。
それは人形ではありえない『感情』の一つだ。
だがクォヴレーはまだまだ人間としては・・・何かが欠けている。


「・・・アイン?・・・お前の任務は俺を消すことだったのか?」
「・・・・ん・・・」
「お前から吉報がなくて・・・奴らはどうしているのだろうな?
 ・・・・任務失敗は即処分・・・。
 もうすぐ誰かがお前を消しに来るのか・・・・?」

問いかけに対する返事は当然返ってこないが、
イングラムは苦しげな表情でクォヴレーを見下し問いかけ続ける。

「折角自我が目覚め始めているのに・・・消されてしまうのか?
 ・・・そんなことはさせない・・・アイン、お前はクォヴレーだ。
 人間となって他の子供と同じように生活をする。
 それがバルシェムの糧を外す第一歩だ・・・・。
 そして俺も本当の意味で糧を外せるかもしれん」

苦しげだった表情が一変し、イングラムの冷めた瞳の奥に何かが宿りだした。
無防備に眠るクォヴレーの唇にそっと唇をよせ一瞬だけ触れてみる。

「ぅ・・・んん・・・?」

唇を離しもう一度軽く触れてみる。

「ん・・・?・・・んーん・・??」

離しては唇を寄せ、また離していく。
そしてだんだん唇を合わせている時間が長くなり・・・・。

「・・・・ん・・・・ふ、ぅ・・・」
「!!?」

だがその時、クォヴレーの苦しげな声にハッと我に返り
イングラムはベッドから慌てて離れた。
そして急いでバスルームに駆け入り、
パジャマを着たまま熱いシャワーを身体に当てるのだった。
バスルームの鏡に映る自分を見てイングラムは驚きを隠せない。
シャワーを頭から浴び、すでに全身はずぶ濡れだ。
シャワーの水滴に濡れた鏡の向こう側の自分。
その表情は確かに獰猛な獣の目をして光っている。

「・・・・・っ」

あの隠避な夢のせいなのか、それとも久々に口付けを交わしたかなのか・・・、
イングラムの身体は確かに反応を示し、体の繋がりを求め始めていた。
浅ましい男の生理にため息をつくと、
濡れてしまったパジャマを脱ぎそっと腫れ上がった自身に触れる。

「・・・・・っ」

ゆるゆると扱き始め、次第にそれに熱中していく。
シャワーの水音が卑猥な音を掻き消してくれている。
何度も何度も自身を扱き、次第に息遣いが荒いものに変わっていった。
細い指を器用に動かし、久しぶりの自慰に没頭していく。
そして欲望を爆ぜるその瞬間・・・・、


「・・・クォ・・・ヴレー・・・!!」

その名を小さく叫び、吐精する。
浮かんだのは昼間見たあの笑顔だった。
手に放った白濁はシャワーが瞬く間に流していくが、
イングラムはいつまでもその手を見つめ続けていた。

「(馬鹿な・・・!一体何故・・・?俺は・・・あの子、を・・・?)」



有り難うございました。 だんだん裏が入っていきまする。