窓辺に腰掛けながら小さな袋から小さな一欠片を取り出した。
半透明なソレをしばらくジッと眺めたあと、
そっと口に含んでいく。
本来甘いものはあまり好まないキャリコではあるが、
疲れたときや過ぎた過去を思い出しているときは、
ついついソレを口に含んでしまう。
口の中に入れても直ぐには溶けない氷・・・氷砂糖。
歯に力をこめればジャリジャリと音を立て砕けて溶けていく。





『ご褒美は不思議な氷がいい』







遥か遠くから懐かしい声が聞こえてきた・・・気がした。


そっと目を閉じる。
目を閉じれば懐かしく愛しい日々が昨日のことのように蘇ってくるからだ。
小さな袋からもう一欠片取り出し口に含むと
今度は噛まずにゆっくりと溶けるのを楽しむことにした。
















〜溶けない氷 前編〜


















「・・・・・あき・・・はば・・ら?・・・おたく・・・ふじょ・・し??
 ろぼっと・・・・これは・・・んー???」

背後から資料を覗き込み、途切れ途切れに発音するアイン。
まだまだ青い星、地球の日本語は習い始めたばかりで、
専門用語ともいえる言葉は未知の言葉であるのでなかなか上手く発音できない。

「これはメイド喫茶、と読む」
「・・・めえどきっさ???」

キャリコの背後から彼の首に腕をまわしアインは聞きなれぬ言葉に首を傾げる。
そんな様子に苦笑を浮かべ、
資料の下から1枚の写真を取り出すと、説明を始めるキャリコ。

「こういう格好をした女性が店員の喫茶店だ」
「・・・・・!!」

手渡された写真を見、唖然とするアイン。
なぜならキャリコが渡した写真はかなり際どいスカート丈のメイドの格好のもので、
当然上の衣装も乳房の形などもはっきりと分かるピチピチしたものだったからだ。

「こんな格好で本当に商売が可能なのか???
 なんだかいかがわしい店みたいだ」
「フッ・・・それはメイド喫茶の中でもエッチな部類に入るヤツの写真だ。
 いかがわしくない店もあるんだぞ?」
「ふーん???・・・『いえろぉもんきぃ』の思考はイマイチ理解に苦しむ。
 ・・・・こんなののどこがいいんだ????」
「いえろぉもんきぃ???」

アインは一体何を言っているのか?
目を何度も瞬きしながら今度はキャリコが首をかしげた。
するとアインは得意げに、

「今度オレがスパイに行く部隊・・・オリジネイターがもぐりこんでいた部隊には、
 『いえろぉもんきぃ』が沢山いるんだろ?きちんと調査済みだ!」

と、言うのだった。
キャリコに褒めて欲しい一身で『いえろぉもんきぃ』を知っていることを
アピールするアインだが、当のキャリコは目を瞬かせるばかり・・・・。

「いえろぉもんきぃ・・・?アイン」
「なんだ?」
「いえろぉもんきぃ、とはなんだ???」
「???日本という国の人間の通称だろ?」
「!!(日本人の!!)」

まさに目からうろこ、なキャリコ。
成る程、確かに黄色人種な日本人は『いえろぉもんきぃ』・・・、
即ち『イエローモンキー』だ。
だがキャリコは思った。
肌の色が黄色いだけで『イエローモンキー』ならば、
アジア系の人間はすべて『イエローモンキー』なのではないだろうか?
それをアインは日本人=イエローモンキーと決定し、得意気にしている。

「・・・・く・・・くくくく・・・」
「???キャリコ????」

首に回している腕がアインの意思に反して震え始める。
なぜならキャリコが息を殺して笑いを堪えているので、
どうしても彼の身体が震えてしまうからだ。
しかしキャリコはなんとか笑いを咽の奥に押し込め、
少しだけ涙のたまり始めている目でアインを見上げた。

「お前はまだまだ『日本語』の修練が必要のようだな。
 いや、日本語というより地球の人種についての勉強か?」
「どういうことだ?」
「さぁ、な。地球の言葉が・・・日本語に限らず全ての言葉が堪能になり、
 地球の歴史を全て把握したなら己の間違いに気がつくだろう」

首に回っているアインの腕に自分の手をのせ優しく外す。
そして自分の席の横に座るよう目配せすると、
アインは小さく頷いて横に腰を下ろした。

「お前、この後の予定は・・?」
「・・・・ない。格闘術の訓練は終わった。」
「そうか・・・・」

キャリコは横に座るアインの後頭に手を置くと瞼に唇を寄せる。
それを合図にアインはゆっくり目を閉じる・・・・
そして目を閉じるのと同時に優しいキスを施されたのだった。

「・・・・ぁ・・・・ふ・・・」

それは一瞬の・・・けれども濃厚な恋人の口付け。
キャリコの唇が離れると、
アインはうっとりと目を開けキャリコを見つめ続ける。
そんなアインに慈悲深い視線を向けながら、
料の頬に手を添え、甘いボイスで呟いた。

「では、今日は俺が日本語を教えてやろう」
「!!」

うっとりしていたアインの顔が太陽のように輝いた。
何度も首を縦に大きく振りながら慌てて席を立ち、

「本当か!?」

と叫びながら聞くのであった。
キャリコは男らしい笑顔で頷き、教科書を持ってくるよう指示をだす。

「了解だ!!ついでに飲み物も持ってくる!!
 ・・・・・最も水しかないが・・・・・」
「フフ、それは別っている。だが冷たいのを所望だ」
「心得た!」


アインは大急ぎで部屋を後にする。
その様子を微笑を浮かべながら見送るキャリコ。



・・・・しかしこの後、
キャリコはアインの行動に大層驚くこととなるのである。


有難うございました。