**パラレル??**



頭の固い爺(婆)共の話は相変らず疲れるだけだ、
と、ゲンナリしながら書類を片手に抱えつつ、
自分の執務室の扉を開いたら『彼ら』はいた。






〜逃げる君、追う君〜



イングラムが扉を開けるとそこには白と黒と銀の猫が3匹、
ソファーで戯れていた。
・・・いや、正確には白と黒の猫2匹と、銀髪の少年一人なのだが、
少年は常日頃『猫』を思わせる行動と性格をしているので、強ち間違いではないだろう。
まぁ、本人には口が滑っても言えはしないが・・・。

「お帰り、イングラム。大丈夫だったか?」
「・・・ああ。嫌味はいつものことだしな。それよりソレは・・・?」

クォヴレーはイングラムが一部の上層部からやっかみというか邪魔がられているのを知っている。
それというのもこれというのもイングラムの過去が問題だからだが、
それにくわえクォヴレーというハイブリットヒューマンを
部下として抱えているというのも輪にかけているのだ。
だから呼び出しをくらうと毎回毎回心配そうに自分を見送り、
帰ってくると「大丈夫か?」と聞いてくるのだ。
クォヴレー自身、自分という存在のせいで、という自責の念もあるのかもしれない。
けれど今はそんなクォヴレーの労いの言葉より、
彼の膝元に居座っている猫2匹が気になって仕方がない。
しかも記憶違いでなければその猫は間違いなくあの猫だ。

「イングラムを見送った後、廊下の反対側で立ち往生しているのを保護したんだ。
 どうやら飼い主と離れて迷子になったらしい。」
「・・・どうして迷子とわかった?」

迷子と分かった理由をわかっていつつも確かめずにはいられない。
ここしばらくあの風の男は見かけなかったから戻ってきているとも限らない。
他人の空似ならぬ空猫かもしれないからだ。

「猫ちゃんが教えてくれた。」
「・・・(!猫・・ちゃん???)」

クォヴレーはその年齢にしてはクールで、
相手を呼ぶ時は呼び捨てかもしくは敬称をつけている。
だから猫に「ちゃん」をつけて呼んだ事に驚いてしまった。

「猫が努力すれば喋れる生物とは思わなかった。
 やはり生きとし生けるもの努力は必須なんだな。
 オレも見習わなければ・・・・」
「(普通の猫は努力しても人語は話さんがな・・・)」
「クロちゃんとシロちゃんは飼い主に似て方向音痴らしい」
「・・・・(そういえばとんでもない方向音痴だったな)」
「飼い主・・・マサ?・・は普段はある人を追い回しているらしいんだが、
 今回は何故か逃げ回っているらしいんだ。
 で、マサ?の足元について一緒に逃げ回っているうちに逸れてしまい、今に至るらしいぞ」
「マサじゃにゃくてマサキだにゃん!」
「・・マサ・・・ジ・・・?」
「マサキにゃ!」
「・・・マサ・・・イ・・?」

二匹は一生懸命に飼い主の名前を教えているが、
外国人・・ではなく宇宙人には日本の発音は難しいらしい。
イングラムも随分日本の名前には苦労したからなんとなくわかる。
まぁ、イングラムの場合はクールな顔でその場を取り繕い、
後日何度か練習して言えるようにしていたのだが。
しかしクォヴレーはその後5分くらい練習していたが上手くいえないらしく、
だんだん眉間に皺がよっていく。
イングラムは小さくため息を吐いて、クォヴレーの横に腰を下ろすと、
二匹のうちの一匹、シロの首根っこをつまみあげて膝の上に乗っけた。

「うにゃにゃ〜??」
「・・・久しぶりだな、猫」

ニヤリと黒い微笑を浮かべればシロはダラダラと汗を流して、

「ドコかであったことあったかにゃ??」

と視線をそらし白々しく言った。

「さぁ、どうだったかな?俺も記憶が飛んでいて定かではないが、
 覚えている、ということは会っているのだろうな、猫」

シロはますます汗をダラダラながしていく。
目の前の男はマサキが追っている男と同等・・、いやそれ以上に怖い。
下手に怒らせてもいいことはないし、
猫特有の猫撫で声をだしてそのまま彼の手に頭を擦りつけた。
するとまんざらでもないのか、イングラムは咽を優しく撫でてくれたので、
シロはびっくりしてしまう。
もちろんクォヴレーの膝の上にいるクロも驚いているようだった。

「イングラムは猫が好きなのか??」
「ん?ああ、嫌いではない。しなやかな身体は抱き心地がいいし、
 特定の人にしか懐かない性分も気に入っている。
 あと、俺にはとことん甘えてくれるところとか、な」

ニヤリと笑う流し目は完全にクォヴレーを捕らえ、愛しげなものにかわっていた。
鈍いクォヴレーもそこまでされれば、今言った「猫」が誰なのかは想像もつく。

「・・・バカッ!・・・はずかしい・・だろ?」

真っ赤になりながら消え入りそうな声で言いつつも、
クォヴレーは顔を上げ目を閉じた。
数秒後にはイングラムの吐息を近くに感じ、唇には温かい感触が伝わってくる。
そしてキスは段々深くなっていったのか、
濡れた音とクォヴレーの苦しげな、けれども甘い吐息が静かな部屋に広まっていく。




・・・・二人の膝の上にいた二匹の猫は頭上で繰り広げられている甘い雰囲気に動じることもなく、
興味心身にその様子を見守っていた。


「あにゃにゃ〜??男と男の関係だったのかにゃ〜。キスもカップルによって違うにゃ」
「本当にゃ。恋愛とは奥が深いんだにゃ〜。ま、マサキもたまに・・・・にゃ?」

と、その時だった。
部屋の扉が小さいノックの後に部屋の主の返事を待つこともなく開かれたのは。

「・・・おや?これは失礼」

無遠慮に入ってきた人物は「要注意人物」。
本来ならこの基地にいるはずもないが時折協力もしてくれるつかみ所のない彼は、
「失礼」と謝りつつもズカズカと部屋の中に入り込んでくる。
さすがにそんな行動をされればキスを続けるわけにもいかず、
イングラムはゆっくり唇を離し、舌打ちをした。

「何の用だ?」

不機嫌に聞けば、相手はイングラム以上の黒い笑みを浮かべて、

「すぐに出て行きますから気にせず続けてください」

と、なにやら部屋の中を物色し始めるのだった。
どうやらこの紫の髪の男は何かを探しているらしい。
そして二人が再びキスをしないことに気がついたのかもう一度、

「私のことは気にせずどうぞ?」

と、窓際まで歩いていく。
けれどいくらここが自分たちの部屋で、
第三者が「どうぞ?」と言っても「はい、ぞうですか。では遠慮なく」と言えるほど、
イングラムは図太くない。
クォヴレーに至っては当然のことだろう。
しかもキスを目撃されているので、心なしか目が泣きそうに潤んでいる。
けれど紫の男はそんな二人を気にとめるでもなく何かを探し続ける。
そして二人の膝の上の存在に目を留めると、

「ああ、そういうことですか」

と、小さく納得してイングラムとクォヴレーに近づいてきた。

「マサキではなくその二匹の気配だったようですね。
 ・・・・・マサキはいないのですか?」
「・・・・・」

丁寧な口調だが声には力があり、怖いときのイングラムを思わせる。
けれど相手の迫力もなんのその・・・、イングラムは仏頂面で何も答えない。
クォヴレーはキョトンと紫の彼を見上げ、横にいるイングラムを見た。
紫の彼はイングラムを見ながら質問しているし、どうやらこの猫も知っているようだ。
イングラムと猫も知り合いらしいなにより先ほど言っている人物の名前はもう何度も聞いたものだ。

「・・・二人は知り合いですか?」

クォヴレーの口調も丁寧語に変わった。
基本、仲間にはタメ語なクォヴレーだが目上のものや知り合ったばかりのものには丁寧語を話す。
紫の彼もイングラムが何も答える気はない、というのを悟ったのか、
すぐに質問をしてきたクォヴレーに視線を移した。

「そうですね・・・オトモダチではないでしょうね。知り合いが妥当です」
「ふぅん・・・・?貴方はこの猫ちゃんの飼い主とも知り合いですか?」
「マサキとは知り合いではないですね。オトモダチでもないですが・・・。
 そうそう、坊や、マサキの居所を知ってますか?探しているのですよ」

「坊や」という呼び名に少し(かなり)カチンときたが、
そこは大人になってクォヴレーは顔には出さず首を横に振る。

「マサ・・とは会ったこともないです」
「そうですか・・・。普段は追ってくるというのに今回は立場が逆転してましてね。
 私が追っているんです。
 『用』があるときに限って勘が働くのはやはり本能なんですかねぇ??
 普段はボケててバカな男なのですが」
「???(どういう意味だ??)」

紫の髪の彼の言っていることはいまいちクォヴレーには分からなかった。
横にいるイングラムはあからさまなため息をついているし、
どうしたものかと膝の上のクロ猫を見れば、
イングラムの膝の上にいるシロ猫とともに、

「男心は複雑にゃのね〜」
「シュウが歪んでいるからだにゃ」

となにやら話していた。
するとその会話が聞こえていたのか、紫の髪の彼はより強く黒く微笑んだ。
二匹は顔を引きつらせつつもそれでもコソコソ内緒話を続けている。
そしてその時、頭上からクォヴレーの質問が降ってくる。

「シウって誰だ??」

そういえばこの場にいる誰も(といってもイングラムとクロ・シロしかいないが)、
紫の髪の男の紹介をしていない。
当然会ったことのないクォヴレーには分からないので、最もな疑問だ。

「私のことですよ。シウではなくシュウです」

猫に聞いたはずなのに、紫の髪の男が先に答えてしまった。
え?と顔を紫の男に戻すと、不気味なくらいに綺麗に微笑まれて、
クォヴレーは悪寒が走ってしまった。

「貴方が・・・シュー・・?」
「・・・フフフ」

おまけにキチンと発音できないでいると更に黒く綺麗に微笑まれてしまい、悪寒が強くなる。
あの手の笑顔は危険だ、
なぜならあの手の笑顔は知っているからだ。
イングラムがたまにする凶悪な微笑み。
それは焼餅を焼いたり、怒った時の彼が「おしおき」の時に向けてくる笑顔と同類だ。

「シューではありません。シュウ。
 シュウ・シラカワです。宜しく、クォヴレー」
「え?」

どうして自分の名前を紫の髪の彼、シュウは知っているのだろう。
おまけに発音が難しいと大評判の自分の名前を初めからキチンと発音していて更に驚いてしまう。
様々な疑問が渦巻いて、
横にいるイングラムを再び見れば相変らずの仏頂面で何かを聞ける雰囲気ではない。

「私はなんでも知っています。それよりここで待たせてもらって構いませんか?」
「・・・・待つ??」

誰をだろう?と首を捻っていればイングラムは迷惑だといわんばかりに手を左右に振っている。
相変らず口を開かない。
すると何かを察したのかシュウは顎に手を当てて再び口を開く。

「ああ、そういえばラブシーンのお邪魔をしていましたね。
 私のことはどうぞ空気だとでも思って続けてください、なんなら最後まで。
 私は目的の人物がきたら直ぐにお暇しますので」

クククク・・・と相変らずの凶悪な笑みに半ばゲンナリしたイングラムがやっと口を開く。

「ここにくるとは限らないだろう?」

だから早く出て行け、と言いたかったのだろうがシュウはイングラムより上手らしい。

「来ますよ、必ず。ここにその二匹が居る限りこないわけにはいかないでしょう?」

ニッコリ笑う凶悪な笑顔。
イングラムは諦めたのか深いため息の後クォヴレーの頭を数回なでると、
お茶の用意を命じてきた。
するとシュウは勝ち誇った微笑を浮かべたまますかさず注文を入れてきた。

「私は紅茶でお願いします。できればアールグレイで。
 コーヒーはキスが不味くなるから今日は飲みたくないんですよ」

クォヴレーには一瞬なぜキスが関係あるのか分からなかったが、
「キスが不味くなる」は賛同できたので首を傾げつつも頷き、
注文どおりアールグレイを3人分入れ、猫二匹にはミルクを用意したのだった。


どこかにいる猫二匹の飼い主がどこかでクシャミを連発していたのは言うまでもない。
果たして猫二匹と飼い主は無事に再会できるのか・・・?
それは飼い主の根性しだいであろう。


アリガトウゴザイマシタ。発売記念に絡ませてみました。 イングラムと緑の彼&猫が顔見知りかどうか・・・? 記憶が吹っ飛んでいて定かではないので曖昧にしました。 続くかもしれないし、続かないかもしれない。 なぜなら緑と紫の濡れ場は難しそうだから・・・・。 戻る