**パラレル??**

〜逃げる君、追う君2〜

「おや?この部屋にはゲーム機もあるんですね」

紅茶を啜りながらクォヴレーの後にあるテレビの下にある白い機械が目に付いたのか、
シュウは立ち上がりその傍までゆっくり歩いていった。
ゲーム機の傍に行くと立ったまま紅茶を一口飲み、
これで運転している気分になれるんですね、とハンドルの形をしたリモコンを持ち上げる。

「こっちのボードでヨガとかが出来るわけですか・・・」

フムフムと興味深気にそれらを触っている。

「シュウはゲームに興味があるのにゃ??」

それをみていた黒猫、クロがクォヴレーの膝からピョンと降り、
トトトトとシュウの傍まで歩み寄る。

「ないといえば嘘になりますがどうしてもやりたいわけでもないですね」
「・・・どーしていつも回りくどい言い方なのかにゃ〜??」

シュウの遠まわしな言い方にイングラムの膝の上に乗っていた白猫、シロもピョンと折り、
トテトテとシュウの足元に近づいていく。
そして髭をピンピンさせ、にやにや笑いながらからかった。

「だからマサキにも伝わらない・・・にゃーーー!?」

けれど相手は凶悪な大魔王。
ニッコリと微笑を浮かべつつ尻尾を掴んで持ち上げた。

「なかなか口が達者な猫ですね。そういうところは飼い主にそっくりです。」

フフフと笑いながら紅茶をテレビの上に置き、その手で今度は首根っこを掴み腕に抱き上げた。
その様子を見ていたクォヴレーは青い顔をして隣にいるイングラムの服の裾を掴んだ。

「大丈夫なのか?猫ちゃん」
「・・・大丈夫だろう。あの男だって馬鹿じゃない。大事な猫を傷つけたりはしない」
「大事な猫??あの人は猫好きということか??」
「・・・・・はぁ」
「むっ」

心底哀れむような目で頭一つ上でため息を疲れることほど腹の立つことはない。
何か言い返さなければ腹も収まらない。
口を開きかけたその時、

「私は猫よりもキャンキャン吠えるチワワが好きですね」

といつの間にかクロも抱き上げソファーの近くまで来ていた。

「勝てないと分かっているのにキャンキャン喚く姿はたまらなく愛でてやりたくなります」

「チワワ・・・?」

キョトンとなっているクォヴレーとしかめっ面のイングラム。
シュウはニコリと笑いながら、どうかしました?と問うてくるので、
嫌味たっぷりに答えてやった。

「ファミリアが猫の時点で犬ではなく猫だろう?」
「フフ・・貴方ともあろう男が・・・視野が狭いですね」
「・・・・!」
「相手をどう感じるかはその人間しだい。
 100人の人間が猫だと言っても私にはチワワに見えるのですよ。
 だから彼は犬なんです」

得意げに語るシュウはチラリとクォヴレーに目をやると付け足した。

「でも坊やは完璧に猫ですね。100人の人間が犬と言っても私は猫だといいますよ?」
「・・・・え?」

意味ありげな目で見つめられたままクォヴレーは困惑してしまう。
有無を言わさないシュウの言葉は何か違うと思いつつも、
その感じるプレッシャーに押し負け、口を噤んでしまうのだ。
だから心で思うだけにした。

「(それって世界は自分を中心に回っているということだよな??)」
「・・・マサキも気の毒にな」

おそらくイングラムも同じことを思っていたのだろう。
呆れた顔をしながらボソリと呟き、紅茶を一口飲むのだった。



と、その時、コンコンとまたもやドアがノックされる。
今度は遠慮ががちでコチラが返事をしないでいると勝手には行ってきたりはしなかった。
クォヴレーがイングラムを見ると、イングラムは小さく頷いたのでドアに向かう為立ち上がる。
その時何気なしに後に立っていたシュウを見たら最強最悪なくらいに綺麗に微笑んでいたので、
クォヴレーはなんだか怖くなってしまった。
おまけに彼の腕の中にいる猫二匹は「あちゃ〜」と言う顔をしているのだから、
イングラムやヴィレッタ以外の気配を感じられないクォヴレーにも分かってしまう。
今、扉の向こう側にいる人物の正体が。



扉の前に着くとクォヴレーは「どちらさまですか?」と伺いを立てる。
99%、彼だとは思うがココは少佐の部屋。
万が一、という場合もあるのだから。

「・・・安藤正樹」
「・・・・・・」

相手は名乗った。
けれどクォヴレーはどうしたのかチラリとイングラムを振り返った。
イングラムはどうしたのか?とクォヴレーに近寄ると、クォヴレーは眉根を寄せて、

「名前が聞き取れなかった」

と、正直に、悔しそうに報告した。


「名前が・・・?」


悔しそうなクォヴレーの頭に手を置き、今度はイングラムが扉の向こうの人物に質問した。
イングラムとて扉の向こうの人間が彼である、というのは99%の確立で正解だと思ってはいるが、
やはりここは少佐の部屋、万が一ということもあるのだ。

「もう一度名を名乗れ」

静かに声を低めにして質問する。
すると小さな舌打ちの後、相手はまた名乗った。

「安藤正樹」

扉の向こうの声にイングラムも眉を寄せたが、ファーストネームと思われる部分は分かったので、
英国風に聞き直した。

「マサキ・アンドー?」
「!・・・・ああ、そっか・・・、ああ、そうだ。」

扉の向こうの相手は何かを悟ったのか今度は「俺はマサキ・アンドー」だ、と名乗った。

「あんた、イングラム・プリスケン・・だよな」
「それが?」
「そこに白い猫と黒い猫・・いるか?」
「居るには居るが・・・」

おまけがもう一人・・・言おうかどうか迷っていると、
扉の向こうの人間が先に聞いてきた。

「・・・紫のライオンも居る・・よな??」
「(紫のライオン??)」

イングラムは後を振り返る。
するとそこにはいつの間に来たのか、直ぐ真後ろに猫に引きを抱えたシュウが立っていた。
凶悪に笑った彼はイングラムに頷いてみせる。

キャンキャン吠えるチワワを捕まえるハンター。
ハンターに捕まれば哀れなチワワは食べられてしまう。

「(紫のライオン、か・・・。成る程な)」
「どういう意味だ??ここにはライオンなんていないぞ??」

一人だけ分かっていないクォヴレーは目をパチパチさせながらも、
向こうに居るのが「マサ」ということが確定されたので、
とり合えず扉に手を伸ばし、手前に引っ張るのだった。
するとそこには緑の髪の青年が顔を引きつらせながら立っており、
一歩、二歩、と後に下がりながら部屋の中を凝視した。
するとそこには見た事がない銀髪の少年、それと顔見知りの長身の青髪の男、
・・・・それから。

「マサキにゃ!」
「待ってたにゃん!!」
「・・シロ、クロ・・!」

誰かの腕の中で手足をバタつかせ喜ぶ猫二匹。
けれどその二匹を抱っこしている人物がよろしくない。
近づきたくない、それが本心だ。
マサキは扉を開けてくれた今日、初めて会う少年に声をかけた。

「・・・お前、名前は?」
「え?・・・オレ??」

急に話しかけられ驚きつつも、クォヴレーは自己紹介をした。
確かに初めて会うのだから自己紹介は重要だ、と思ったらしい。

「オレはクォヴレー・ゴードン・・・、
 その・・イングラム・・少佐の部下で同居人・・です」

だがマサキはイングラムの同居人という言葉よりも、
名前が聞き取れなくて頭を捻った。

「・・・・クボレー・・・?」

すると少しだけムッとしながらクォヴレーはもう一度名乗る。
仕方がない、発音しにくいと大変有名な名前なのだから。
こんなのは慣れっこだ。

「クォヴレー」
「コブレー?」
「・・・・・クォ・ヴ・レー」
「・・・クォ・・ヴレー???」

マサキは段々焦りつつも最後には何とか発音して見せた。
なかなか危なっかしくはあるが、
ややこしい名前を聞きなれているせいか覚えるのは早かった。

「俺は安藤・・・じゃなくて、マサキ・アンドーだ。宜しくな」
「・・・マサ・・・、宜しく」
「???そんな場所でやくされんのは初めてだな。
 ま、マーサよりいっか!でよ、会ったばかりでアレなんだけど、
 頼みごと聞いてくれねーか??」

やくしたのではなく言えないだけだ、と本人以外は分かっていたがあえて言わなかった。
いう必要もないし、
どうせクォヴレーのことだから2〜3日もすればキチンと発音できているだろうから。

「お願い??」

マサキは少しかがんでクォヴレーの耳元でボソボソと囁くように言った。
もちろんイングラムの機嫌が急降下したことには気づいていない。
鈍いこの男が気づくはずもないのだ。

「あの紫の男から猫二匹、奪ってきてくれねーかな??」
「猫ちゃん??」

クォヴレーは怪訝な顔をした。
シュウとマサキはオトモダチではないし、知り合いでもないらしいが、
とりあえずお互いを知っているのだから「顔見知り」のはずだ。
どうして自分で頼まないのだろう?
おまけにマサキは猫の飼い主ではないのだろうか?
と疑問が次々と浮かんでいたからだ。

「アイツとは猫とネズミより具合が悪い関係なんだ。
 こういう時は近寄ったら最後・・・喰われて貪りつくされる!」
「・・・はぁ・・・?」

シュウといいマサキといいよく分からない言葉を使うものだ。
クォヴレーにはさっぱり意味が分からない。
喰われるとか貪られるとか・・・・。
すると大きなため息を吐いたシュウが猫二匹を抱え、
ゆっくりとマサキに近づいていく。

「・・・なんとも情けない人ですね。」
「何!?」

マサキは更に一歩後に下がりつつ、キャンキャン吠えながら目の前の強敵を必死に睨んだ。

「初めて会った坊やを使うだなんて・・・貴方はその坊やより坊やですね」

不適に笑いながらクォヴレーとイングラムを見、意味ありげに口端を吊り上げた。

「坊や・・クォヴレーは私がこの部屋に入ってきてもそこの男とキスをし続けていましたよ。
 私から逃げ回っている貴方よりよほど大人というものです」
「・・・なっ!」
「キス??」

シュウのサラリとしたカミングアウトにクォヴレーもマサキも同時に叫んで、赤くなった。

「お前・・・大人しそうな顔して破廉恥なんだな・・・」
「違う!」

アレはキスをしていたら急にシュウが入ってきたんだ、と言いたかったが、
驚愕、という顔のマサキは真っ赤になっていて、
それ以上言うな、と手で制してきたので反論が出来なくなってしまう。
イングラムは真っ赤になっているクォヴレーの腰を抱き寄せ、
落ち着けと頭をなでてやるのだった。

そんなことにはお構い無しのシュウはニコニコ笑いながらマサキが下がった分だけ足を進めた。

「まぁ、そんなに落ち込まなくても大丈夫です」
「・・・落ち込んでねーよ・・」
「貴方もすぐ坊やと同じレベルまでになれますから」
「・・・?どういう意味・・・・!?」

マサキが後に下がる間を与えず、急速に近寄ったシュウ。
腕に抱えていた猫二匹を強引にマサキの腕に渡すと、
その腰を捕らえ、顎に手をかけた。
そしてその勢いのまま強引に唇を塞ぐのだった。

「うわっ!キスした??」

目の前の他人のラブシーンにクォヴレーは真っ赤な顔を更に真っ赤に染めてしまう。
腰を抱いてくれていたイングラムの腕に抱きつき、
野次馬根性からドキドキしながらマジマジと見つめてしまう。

「んっ・・・うっ・・・んんーーー!!!」

余程激しいキスなのか、マサキは身体から段々力が抜け始め、
腕に抱えていた猫二匹をおもわず手から落としてしまう。

「うにゃ〜!!」
「にゃぎゃ!!」

それを薄めで見ていたシュウは加減することなく、
マサキの鳩尾一発拳を入れた。

「んぅ!!?」

マサキの身体がズルリとシュウに向って倒れ落ちる。
離れた唇からは唾液が数本顎に向って流れていた。
ソレをクォヴレーとともに見ていたイングラムは本当に呆れたように、

「・・・なかなか激しいプレイだな」

と言いながら半開きだった扉を前回に開いて道を作ってやった。
気絶させたマサキを方に担ぎ上げ、口を拭いつつニヤリと笑うシュウは

「こんなのは序の口ですよ」

と恐ろしいことを言いながら扉の外に向って歩き始めた。
足元には猫二匹が心配げに気絶している主を見上げながらついて行っていた。

「猫、預かっておこうか?」

どんなプレイをしようが勝手だが猫には刺激が強すぎるだろう、
珍しく気を使ったイングラムの台詞にシュウは少しだけ驚いた顔をするが、
すぐに結構、と断りを入れる。

「猫には専用の待機室をいつも作ってますよ。
 美味しいキャットフードに、美味しい水、
 キャットタワーも充実しているから退屈はしないでしょう」

そういいながら同意を求めるように足元の猫を見ると、
二匹はコクコク頷いて足元に纏わりついていた。

シュウはそれでは、と挨拶をすると何事もなかったかのように立ち去っていった。
イングラムは扉を閉めるとまだ真っ赤になっているクォヴレーの肩を抱き、
ソファーまで連れて行った。
冷めた紅茶を手渡し、飲ませるとようやく人心地ついたのか、
クォヴレーは火照る頬に手をあて、聞いてきた。

「あの二人、恋人なのか?」
「・・・どうだろうな?」
「違うのか??キスしていたのに」
「・・・ああ・・まぁ・・・そうだな・・・。
 少し特殊な恋人関係・・・というところか」
「特殊??」
「・・・プレイがな・・。
 (相手は嫌がっているし・・まぁ、最後まで嫌がっているかはわからんが)」
「・・・プレイ??・・・あ!・・・そ、そうなんだ・・・ふーん・・・」

プレイが何をさしているのか分かったのであろう。
下を向きつつイングラムの手を握った。
そして顔を上げるとそっとイングラムの唇に唇を寄せる。

さっきのキスに感化されたのか、クォヴレーのキスは最初から情熱的で、
イングラムはキスを受けつつ後頭を支えつつ、優しくソファーに押し倒した。
そしてハンカチを取り出し、

「特殊なプレイ・・・、やってみるか?」

と、素早くクォヴレーの手を縛めていく。

「・・・え?あ!何縛って・・・イングラム!」
「クォヴレーは初心者だからな、最初は手だけを縛るソフトなやつからだ。
 まだアソコの根元を縛ったりとかはしないから安心しろ」
「!!!?????」










その日はどんなに懇願しても手の縛めは解いてもらえなかったそうだ。

一方のマサキが「特殊プレイ」をされているかどうかは分からないが、
クォヴレーが次の日の夕方に食堂で見かけたときはゲッソリしていたらしい。



戻る ありがとうございました。 ・・・続きはですねぇ・・・読みたいですか?? 難しそうですよね。。。 三人がお互いを何と読んでいたのか、分からないので軽くスルーしました。 もう一回DVD見ればわかるかな??