なぜ『アイン』だったのか・・・。


そう画策したからに他ならない。


ゴールのない果てしない旅だ。


少しくらいの贅沢はしても許されるだろう?


それに俺がそうしたからあの時『クォヴレー』は現れたのだから・・。







〜Conclusive evidence〜





果てしない旅。
ゴールの見えない迷路。
操られながらも必死に抗おうとする自分の運命。



・・・疲れていたのだろう、熱を出してしまった。

ヴィレッタを呼ぶわけにはいかない。
彼女には彼女の役割があるし、たかが熱ごときで・・・。


だが『人間』弱まっている時には心細くなるものだ。
初めてそれを実感する。



俺はヤツの手の平の上で踊っている人形から抜け出せないのかもしれない。



そんな時だった。
額に冷たい何かを感じた。


不思議と嫌な感じはしない。
むしろ愛しくさえ感じた。
そのことを疑問に思いつつ重たい目を開け、その正体を確かめる。


「・・・・・?」


姿、形はよく分からなかった。
熱で視界が定まらないせいではない。

ソレがボウッとした銀色の光で人のような形をしている。


・・・だが人とは思えない。
ただの銀色の塊だ。
その塊の手らしきものが俺の額に置かれている。
・・・・熱でも計っているかのように。



そしてその声は唐突に聞こえたのだった。



『・・・この程度なら安心だな』
「・・・!?」


声は少年のようだった。
俺は驚きでその光をジッと見つめ続けた。
するとその光はフッと笑った・・・ような気配を感じた。
そして少年の声はさらに驚くことを言い始めた。

『・・・因子が足りないから形が保てない。もう行かなくては・・・。
 ・・・・そう遠くない未来にきっと会える・・・。
 だからそんな熱に負けないで頑張れ、イングラム』


俺を知っている・・!?
一体あの光の正体は・・・?
冷たい感触が額を去り、俺は重たい眼を再び閉じた。
疑問は山ほどある。
だがあの光が触れたせいか、不思議と身体が楽になった。


・・・俺は深い深い眠りに落ちた。





あの光の正体は何なのか・・・、この時の俺はまだ知る由もなかった。

















時は経ち、俺は身体を失った。
正確には俺の心の一部・・・分かれた体の一部だ。
本体は別の場所で眠っていたからまたいつでも再生できるが、今はその時ではない。
だがこうして眠っていると思い出すのはあの時の光だ。
今思えばアレは俺なのかもしれない。
こうして本体を別の場所に眠らせ、平行世界の番人をしているのだから、
俺は少年の自分を作り出し、どこかの世界に放ったのかもしれない。
だが俺はまだそれをしていない。
そんなことを考えつつ、俺は意識をあるバルシェムの研究室へ送った。
次なるターゲットはこの世界なので、
まず先に自分のクローン部隊を確かめるのはいつもの日課だ。



・・・そこで、俺は俺の考えの過ちに気がついた。







行き着いた先ではまさにバルシェムが調整槽から出された瞬間だった。
・・・出されたというか仕方なしに出したというのが正しいのかもしれない。
『アイン』とネームプレートのついた調整槽は、
電気基盤の故障で電気の供給を受けられなくなり、強制的に外の世界へ放り出されていた。
アインだけではなくその周りの調整槽も同様で、他にも何人かのバルシェムが放り出されていたが、
『息』があるのはアインだけのようだった。

「あ〜あ!皆死んでら・・・・・ん?」
「コイツは息があるな・・・だが14〜15歳位か?他のはまだ赤ちゃんだからもたなかったか」
「ああ、それくらいかもな。成人以外は処分だが・・・コイツは運がいい」
「今度、地球の部隊にスパイを送るからだろ?その部隊は何故か子供が多いらしいから、
 コイツはきっと使える・・・。まだ息もあるようだし、蘇生して使おう。」
「・・・失敗しても失敗作が1体、消えるだけだし・・問題はない、そうするか」



『アイン』と呼ばれた失敗作はそのまま白衣をきた男達に処置室へ連れて行かれた。
これが俺と『アイン』の『出会い』だ。
白衣の男は「運がいい」と言った。
まさにその通りだ。


・・・・俺は運がいい。
まさかこんなところであの光の正体を知るとは、な。


















その後、俺は意識をゲートに集中させ、
その世界で『消えた』俺が乗っていたアストラナガンを操った。
そして『アイン』がゲートに近づいた瞬間に・・・捕らえた。




・・・・『アイン』の髪の色はあの光と同じく銀色に変わっていた。















そしてまた時が経ち、俺は眠らせていた自分の身体で番人家業を再会した。
理由は他でもない、あの銀色の光を探す為だ。

あの世界で『アイン』・・いやクォヴレーは俺と同じ番人として生きることを決意し、
様々な世界を飛び回っている。
だから俺はまだクォヴレーに会えていない。



・・・いや、正確には一度だけ、クォヴレーは俺に会いに来ているのだが。
何故クォヴレーが過去に遡り、倒れた俺に会いにきたのかは分からないが、
まぁ、その理由はこれからクォヴレーに会えたときに、いずれ、わかるのだろう。


とにかく今はクォヴレーを見つけるのが先だ。
そして俺はもう既にターゲットを捕らえている。



・・・山奥の無人の寂れた小屋。
森の木々にディス・アストラナガンを隠し、身体を休めているらしい。
子供の身体ではまだまだ負の力はきついのだろう。



俺はそっと山小屋の扉を開けた。



・・・そこには会いたくてたまらなかった存在が死んだように眠っていた。
近寄って更によく顔を見れば血の気は失せ、青白い。



精神世界で話したときも、俺の前に銀色の光で現れた時も顔はよく見えなかった。
だからクォヴレーの顔をこうしてよく見るのは今回が初めてだが、
青白い顔で眠った姿は今にも消えてしまいそうで儚げだった。
クローンとは思えないほど、自分とは似ていない。
顔立ちは確かに似ているが、育った環境と性格の違いが、
あまり俺とは似つかせないのかもしれない。



・・・俺は銀色の光がそうしてくれたようにそっと額に手を乗せた。


「・・・!」


すると驚いたのかクォヴレーはバッと眼を覚ました。
腰にさしていたのか銃を俺に向けて。


「!!!お前は・・・」
「・・・初めまして、の割にはとんだ挨拶だな」
「・・・・っ」

クォヴレーは混乱しているようだが、俺たちは互いに『分かる』存在だ、
疑いようもないのだろう、疑問を目に浮かべつつ銃を下ろした。

「何故、貴方がここに・・?死んだはずではなかったのか?」
「・・・それは俺の分身の一人だ。ここにいる俺がオリジナルだ」
「・・・分身?・・・ふぅん・・・」

半信半疑のようだが渋々納得しつつあるようだ。
こういうときにお互いのことが『わかる』のは便利だな。

「それで?貴方はオレを始末しに来たのか?」
「わざわざ番人に仕上げたのに始末するわけがない」
「・・・それもそうか・・・・ん?」
「どうした?」

クォヴレーは首を傾げて俺を見上げてきた。

「・・・イングラムが生きているのにどうしてオレを番人にしたんだ?」
「・・・・・」

最もな質問だ。
だがまだソレを答える時期ではない。
なぜなら俺は負ける戦はしない主義だからだ。
だから言う言葉は一つしかない。

「それは・・」
「それは?」
「・・・今はまだ答える時ではない」
「・・・・!」

そうか・・・とクォヴレーは少しだけしょんぼりとしてしまったようだ。
長く果てしない旅。
ゴールの見えない孤独な旅がどんなに心細いものか俺は知っている。
だからこそ俺はお前という存在を育て上げた。

だがクォヴレーはまだまだその孤独さに耐えられているようだ。
だから俺はまだ答えを教えない。

「では何故オレの前に現れたんだ?」
「・・・お前が弱っているのを感じたからだ。
 俺のいない場所でお前に死なれても困る」
「・・・・ただの過労だ。」
「慣れない旅の疲れだろうな、だが過労を甘く見てはいけない。
 かつて俺も過労で倒れた・・・」
「・・・・イングラムも?」


そしてそんな俺の前に現れたのがお前だ。





「クォヴレー」
「?」
「お前を番人にした理由はまだ教えられないが、看病は出来る」
「看病・・・?」
「死なれるわけにはいかないからな・・・熱はあるのか?」

俺はクォヴレーの額にそっと手を伸ばす。
一瞬、驚いたのかクォヴレーは身体を僅かに後退させたが、抵抗はそれだけだった。
大人しく熱を計らせ、ベッドに横になれ、と言えば大人しく横になる。

「少し微熱のようだな。」
「・・・情けない・・・まだ身体が慣れていないんだろうか?」
「そうかもな・・・、まぁ、その程度なら眠れば直るだろう」
「・・・眠って・・・いいのか?」
「眠るといい・・・ここには俺以外誰も居ない・・・敵はいないということだ」
「て、き・・・?」

額の手を瞼に移動させ俺は眠るように即した。
クォヴレーは不思議そうな顔をしながらもゆっくり瞼を閉じたようだ。
顔から手をどければ目を閉じたクォヴレー。
まだ眠っていないのか瞼はピクピクしている。

俺はクスッと笑ってそっと青白い顔に顔を近づけた。
そして・・・・。






「・・・・・!・・・んっ・・?」

小さく冷たい唇に自分の唇を寄せる。
目を開けたままキスをしたので、クォヴレーが目を開いたのがわかった。
絡み合う視線。
クォヴレーは戸惑いとオドロキをその目に浮かべ、
次の瞬間、俺の左頬は鋭い痛みに襲われていた。


「はぁ・・・はぁ・・・な、・・お・・おま・・お前・・!」

どうやらビンタを喰らったらしい。
まぁ、当然と言えば当然だが・・・面白くない。

「お前・・・、ホモだったのか!?」

真っ赤な顔で叫ぶクォヴレー。

「リュウセイ達はお前がホモだったとは言ってなかったぞ!?」

・・・何だソレは?
例え、俺がホモだったとしても、『死んだ』人間を紹介するときに、
『この人はホモでした』とは言わないだろう・・・。
第一に・・・・、

「俺はホモではない」

そうホモじゃない。
・・・お前だけだ。
お前だからキスをした。


・・・そう言えたらどんなに楽だろう。
だが今は言えない。


・・・言わない。


・・・まだ早い。


「じゃあ、何だ!?変態か??」
「・・・変態とは真夏にコートを着たスッポンポンのヤツのことだろう?」
「・・・そ、そうなのか・・・??じゃ、違うな・・・?お前はスッポンポンじゃない。
 ・・・・タイツスーツを着ている・・・真っ赤だけど」

・・・お前だってタイツスーツじゃないか。
・・・赤ではないが・・・、第一に色は関係ないんじゃないか??

「ではどうして・・・その・・・キ・・・キキキキキ・・・」
「キス?」

青白かったクォヴレーの顔がボンッと真っ赤に染まる。
色事には不慣れらしい。
しかしこの程度の言葉で真っ赤とは・・・可愛らしいな。

「そうだ・・・どうして・・・その・・・した?」
「その答えが先ほどの答えだ」
「・・・・は?」
「同じ理由ということだ、お前を番人にしたり理由と」
「・・・わけが分からないぞ」


・・・そうだろうな。
だからまだ教えない。
これはお前が俺と同じ気持ちになって初めてスタートするのだから。

「まぁ、今は深く考えなくてもいい・・・ほら、もう休め」
「・・・目を閉じたらまたするんじゃないのか・・・?その・・・接吻」


・・・接吻とはまた古風だな。
と、いうかその言い方のほうが恥ずかしくないか?

「して欲しいならお応えするが・・・?」
「・・・え?・・・してほしくはないというか・・・だが、嫌ではなかったし、
 ん?・・え?えぇ?・・・・オ、オレは・・・・?」

どうやら混乱しているようだ。
そしてクォヴレーももう直ぐ俺と同じ答えに行き着くに違いない。

まぁ、そんなことはあの銀の光が現れた時点で分かっていたことだが。
だがまだ自覚をもてないこの子供を翻弄するのも面白いかもしれない。
俺は意地悪く笑うと、

「タイムオーバーだ」

と、クォヴレーの頤をつかみ再び唇を寄せた。
驚きで開いたままの小さな唇に舌を差し込む。
微熱のせいか、それとももともと体温が高いのか、
クォヴレーの舌はとても熱かった。

必死に逃げ惑う可愛い舌。
俺は余裕でソレを追いかけ、カラメトッタ。


「・・・ん・・・ふ・・・」


息苦しいからか、それとも違う理由か。
クォヴレーのドキドキする鼓動が伝わってきた。






・・・そしていつの間にか俺の首にはクォヴレーの細い腕が回っていた。


・・・逃げ回っていた舌はもう逃げてはおらず、寧ろ大胆に動き始めている。



・・・俺の鼓動が小さく、トクンと高鳴った。





クォヴレーの気持ちが俺と同じ場所まで来るのにそう時間はかからないだろう。




・・・長く長いゴールの見えない旅に、
小さくけれども力強い光が見えた気がした。




有難うございました。 実は続きも作ってます。 続きは裏になる予定。 この話は、クォヴレーがイングラムを包み込む話にしたいんです。 まだ包み込んでないですからね。。。。 あ、リバではないですよ?? 戻る