〜愛情表現?〜


恋人という存在は彼以外知らないからクォヴレーはここ最近とても困惑していた。
最初の頃はそんなものかな?と気にしていなかったのだが、
世の中が平和になり『テレビ』というものを見るようになってから、
その疑問は最高潮に達したのだった。
どのテレビの『恋人』も彼のような台詞は言わない。
実際、現実の恋人達の会話もカフェとかでなんとなく盗み聞きしてみたが、
やはり言わないのだ。

そしてクォヴレーの『何でも知りたい病』は発病し、
とりあえずアラドに聞いてみることにしたのだった。






「・・・アラド?」
「・・・ふぁに?」

場所は軍施設の近場にあるカフェのオープンテラス、
ゼオラの買い物につき合わせられる、とかで待ち合わせがここらしい。
なので約束している時間の前にこうして相談を持ちかけたのだ。
クォヴレーはアイスティーを、アラドはミルクティーと季節のケーキを頬張っていた。
これからデートでランチとかするだろうにケーキを食べるとは流石だ・・・と、
心の中で感心しつつズバリ直球で本題に入ることにする。

「アラドとゼオラは付き合っているのだろう?」
「・・・ぶほっ!!」

思ってもいなかった質問なのか、アラドは食べていたケーキをつまらせてしまったらしい。
慌ててミルクティーを流し込み、咽を叩いた。
そして涙目で

「恐ろしいこというなよ・・・」
「・・・・(どうして恐ろしいんだ??)違うのか?」
「当たり前だろ!!オレはもっとおしとやかな子がいーの!」
「・・・ふぅん?(なら何で買い物に付き合うんだ??)」
「お前、そんなこと聞くためにオレとわざわざ来たわけ?」
「そんなわけないだろう?」
「んじゃ、なに?」

アラドは再びケーキにフォークをさし、口に運び始める。
クォヴレーは一瞬だけ悩んだようだが再び口を開いた。

「お前達が恋人でないのは痛かったが・・・聞いていいか?」
「・・・・うん?」
「恋人というのは・・・その・・・」
「うん?」
「・・・ああも・・・その・・・恥ずかしいものなのか?」
「・・・・・はぁ?・・・恥ずかしい・・?何が・・・あ、エッチ?」
「!?」
「へ?何でそんな赤くなるの??」
「お・・おま・・・お前・・・!(恥ずかしくないのか!?)

単刀直入なアラドの言葉に顔が真っ赤になってしまったが、
クォヴレーは頭を左右に振った。

「・・・あ、違うの?」

すると今度は頭を縦に二度動かす、クォヴレー。
生真面目な性格では外でエッチな単語を聞くのは恥ずかしいことこの上ないらしい。

「(真っ赤になっちゃって・・・初心なんかな?)じゃ、なに?」
「・・・・その・・・好きとか・・・あ、愛してる・・とかはまだいいんだ」
「言われるのがってことだよな?」
「・・・ああ」
「可愛いとか食べたいとか閉じ込めたい・・とかもまぁ、いいんだ」
「・・・・ふぅん(その三つのが恥ずかしくないか??)」
「『お前の瞳はどんなダイヤよりも俺を魅了する』」
「・・・・・へ?」
「『お前の唇はイチゴよりも真っ赤に熟し、俺を虜にする』」
「は?」
「『お、・・お、・・おお・・』」
「(今度は何だよ??)」
「『お前の××は●●で俺の△△をねじ込むと・・・」』
「!!???わぁぁぁぁ!!タンマタンマァァァァ!!」

アラドはフォークに刺さったままのケーキを慌ててクォヴレーの口中に押し込み無理やり黙らせた。
当の本人は真っ赤になりながらも下を向きながらそれを租借している。
アラドもあまりの恥ずかしさにミルクティーのストローを噛みながら啜るのだった。

「お前さぁ・・・あんな破廉恥な言葉言うなよな〜・・・猥褻罪だぞ?あー、焦った」
「オレじゃない!」

バンッと机を叩き猛抗議のクォヴレー。
そしてオレだって恥ずかしいのを我慢して言ったんだから!と珍しく逆切れしている。

「・・・イ、イングラムが・・・」
「・・・今のを言うの??」

コクンと小さく頷くのでアラドまでその場面を想像し真っ赤になってしまう。
アラドは普段のイングラムを知っている。
黙ってその場所にいるだけで妙な威圧感があり、背筋に寒気が走る人なのに、
『教官』という顔になるときは更に凄みが増すのだ。
ニヤリと冷笑を浮かべた彼は悪魔の如く綺麗に微笑み扱き始めるのだ。
戦場においても常に冷静沈着であまりに冷静すぎて時折ゾクッとさせられたのもシバシバ。
時々彼には感情がなく冷たい金属で出来た機械なんじゃないか?と疑ったこともある。
そんな彼が今さっきのような台詞を言うとはとてもではないが想像できない。

「(あ、やばい・・笑っちゃいそう・・)」
「アラド?」

笑いを堪えて苦しそうな表情になっていくアラドに怪訝に声をかける。
そして先ほどの台詞をいつも見なれたあの無表情で言っているのかと想像すると、
ついに限界を迎えてしまった。

「プッ!あっはははははははは!」

急に笑い始めたアラドに益々怪訝な表情になっていくクォヴレーであるが、
アラドは涙を流して笑い続けるのでひたすら笑い終わるのを待つしかなかった。

「はははっ!ひぃ〜・・く、苦しっ・・・ふぅ・・・」
「・・大丈夫か??急に笑い出して気でもふれたか?」
「ちげーよ!」

イングラムに負けず劣らず生真面目なクォヴレーにアラドは再び笑いそうになるのを堪える。

「イングラムさんってさぁ・・・」
「ああ」
「愛情表現が下手そうじゃん?ま、恋をしたことがないオレがいうのもアレだけどさ」
「・・・そうか?(その割にはベッドの中でしつこい気が・・?)」
「常に無表情だし・・・」
「(いつもいつも黒い微笑を浮かべている気がしなくもないがな)まぁ、そうかも」
「だからさ・・その・・・さっきの甘ったるい台詞はあの人なりの愛情表現なんじゃん?」
「愛情表現!?」
「まぁ、今時、テレビでも言わない台詞の数々だけど・・・(どこで習ったんだろ?)」
「・・・・愛情表現、か」
「そ!恥ずかしいだろうけど、流してやれよ!・・・好きなんだろ?」

ニッと笑うアラドに照れた微笑で頷くクォヴレー。
確かに恥ずかしくこそばゆいが、愛情表現なら嬉しく感じる。
一通り話し終え、時計に目をやるとゼオラとの待ち合わせ時間が近づいているようなので、
クォヴレーはお礼と、アラドと自分のぶんのお茶代、
それからこれから来るであろうゼオラの分を少し上乗せして置いていった。
こんなことくらいしかお礼が思い浮かばなかったのだ。
アラドは気にするなと言ってくれたが、クォヴレーも引かず、
アラドは苦笑しながらそれを受け取った。
席を立ち、カフェから出ると、『女の子の顔をした』ゼオラが小走りで来るのが見え、
鈍いアラドと彼女のこれからの葛藤を想うと心の中で彼女をそっと励ますのだった。
















ソファーで寛いでいると風呂上りの彼が当然のように横に座り、腰を抱いてきた。
テレビから視線を外し、イングラムを見上げたところで唇を塞がれる。
まだ濡れた髪からはクォヴレーと同じシャンプーのにおいがするが、
彼の匂いも混じりあい、クォヴレーの心を落ち着かせなくさせる。

「んん・・・」

ダランと垂れていた腕はいつの間にか彼の首に回していた。
イングラムの手はいつの間にか腰からお尻にまわっており、
ゆっくりと尻たぶの感触を愉しんでいるようだ。
時折、その狭間に息づく小さな口を指先で刺激しクォヴレーの反応をキスをしながら愉しんでいる。
たっぷりキスを貪り、満足したのか唇を離すと、
パジャマの襟を掴んだクォヴレーに引き寄せられ再び深いキスを交わし始めた。

「クォヴレー・・・」

舌を絡ませながらお尻を触っていた手を前に移動させた。
クォヴレーのそこは熱くなっており、
イングラムの手が触れるとビクンと身体が反応し身体をモジモジさせる。
そしてキスをしながらゆっくりとイングラムの膝の上まで移動し、
イングラムの欲望と自分のよく欲望をパジャマの上から擦り合わせるように腰を動かした。

「いやらしいな・・・、フフ・・・」

唇を離すと目の潤んだクォヴレーが恥ずかしそうにイングラムの首に顔を埋める。
そして霞んだ声で、

「ベッドへつれって行って欲しい」

とおねだりをした。
するとイングラムはアラドが言っていた無表情ではなく、
これ以上ないくらい甘い顔で、

「了解だ。マイスウィートハート」

と言うのだった。
一瞬、恥ずかしい台詞にクォヴレーは顔を埋めたまま苦笑を浮かべたが、
彼の首に噛み付くことでそれを隠した。
イングラムは噛み付かれたことをただの催促と受け取ったらしい。
ソファーから軽い身体を抱えあげるとすばやく寝室へ移動するのだった。







その晩、彼らの寝室からは甘い喘ぎ声と甘い台詞が一晩中続いていたという・・・。




ありがとうございました。 イングラムは真面目にクサイ台詞とかいいそうなイメージです、私の中で。 なんとなく続くかもしれません。。。。 戻る