〜怖い贈り物〜



「・・・ぁ・・・だぁ〜!!」

目が覚めた瞬間驚きで声も出なかった。
覚えもないのにこの若さで2人お子もちになっていたら無理もない。

ベッドの上に一人、そして床に一人。
赤ちゃんは合計二人で性別は男女一人ずつだ。
一人は自分と同じ銀の髪の女の子、
もう一人は紫の髪の男の子だ。

「だぁ!・・だぁ・・あー・・?」

紫の髪の男の子が何が楽しいのか、笑いながら突進してくる。

「!!!!」

そしてベッドの上にいる銀の髪の女の子も
その様子を見て自分めがけて飛び降りようとしているではないか!?

「(ちょっとまて!!)」

危ない!心の中でそう叫びながらクォヴレーは混乱している頭をフル回転させて
夕べの記憶を手繰り寄せるのだった。























昨日は次の日が久々のオフという事もあり、
アラドとゼオラと一緒に夜更かしをしていた。
夜中にお菓子を食べるのはよくないが、
3人はお菓子を食べながら明日はどこへ行って何をするのか?などを話していたのだ。
そして夜も更け、明日のために解散しようと各々の部屋へ引き上げようとしたその時、
クォヴレーの部屋を出ようとしたアラドが何かに気がついた。

「クォヴレーー!チョコだぜ」
「・・チョコ?」

訝しげにアラドへ近づくと、確かに部屋の入り口の外に一つのチョコの箱が置かれている。

「本当だわ。明日はバレンタインだから誰かが一足先にくれたんじゃない?」
「・・・バレンタイン?」

地球の行事をまだ全て把握しているわけではないが、
バレンタインならクォヴレーも知っていた。
いつものように調べる以前に艦の男性陣が聞きもしないのに教えてくれたからだ。
国によって多少違うらしいが、
日本人の多いこの部隊では女性から男性にチョコを贈るのが風習らしい。

「オレはまだよくバレンタインを理解していないが、
 ・・・こんな場所において帰るものなのか?」

クォヴレーの最もな疑問にゼオラは苦笑しながら答える。

「そうねぇ・・・、本当は手渡しが一番だけれど、照れくさかったんじゃない?」
「???チョコを渡すだけなのにか?」
「コレを置いていった子、お前が好きなのかもなぁ」
「・・・好き?」

廊下のチョコを拾い上げながらしみじみ言うアラドに益々困惑のクォヴレー。
それもそのはず、クォヴレーの中のバレンタインは、
女性が男性に強制的にチョコをあげなければいけない日、と認識しているので、
混乱しているのだ。
よもや好きな男性、お世話になった男性に、という概念はない。
だから余計に混乱しているのだろう。
けれどそんなことを知らないゼオラもアラドも苦笑しながら
相変らず「鈍い」と心の中で思うのだった。

「ほら、カードも付いているし。」
「カード?なんて書いてあるんだ??」
「・・・オレが読んでいいの?」

なぜか驚いているアラドにクォヴレーは首を傾げながら頷いた。
するとすかざずゼオラが、

「ちょっと!デリカシーがないわよ、クォヴレー!!」

と怒り始める。
クォヴレーは益々混乱しながらゼオラに反論をした。

「だが・・・、どこの誰かも分からないものは受け取っても気持ち悪いぞ」

実はクォヴレーはしつこいストーカー悩まされている。
仮面を被った変態で、いつもいつも『アイン』と叫びながら追いかけてくるのだ。
だからクォヴレーは怪しげなものには絶対と言っていいほど手を出してはいない。
するとそんなクォヴレーの気持ちも理解できたのか、
ゼオラは少し考えたのちアラドに読むことを許した。

「んじゃ、読むぞ?『あなたのために作りました。Gより』だってさ」
「・・・G?」
「Gって誰かしら??」

三人は入り口で困惑の色を浮かべた。
『G』で思い浮かぶ人物がいないのだ。

「とりあえず仮面ではなさそうね」
「そうだな!あの仮面なら『K』だしな」
「・・・・アラド、中はどんな感じなんだ?開けてみてくれ」
「わかった」

メッセージカードをクォヴレーに渡すと、
リボンを解き、丁寧に包装されている包みをビリッと破り中を開けていく。

「もう!アラドは大雑把なんだから!」
「仕方ねーじゃん・・・お、出てきた出てきた」
「あら!美味しそうなチョコだわ」

箱の中から出てきたのは合計6個のトリュフチョコだった。
綺麗なラッピング同様、中のチョコもプロが作ったように綺麗な見栄えである。

「『あなたのために作りました』ということは手作りなのか?」
「きっとそうでしょうね。コレなら安全そうだし、食べてみたら?」

ゼオラの進めに、アラドがチョコを差し出してくる。
しかしクォヴレーは疑いを棄てきれず躊躇してしまう。

「ほら!美味そうじゃーん!」
「・・・・ぅ」
「クォヴレー!女の子の気持ちを無碍にしちゃだめよ」
「それは・・そうなんだろうが・・・」

けれどやはり踏ん切りがつかない。
だが目を何故かキラキラさせている二人の手前食べないわけにもいかない雰囲気だ。

「(仕方がない、ここは妥協策で)なら二人も食べて欲しい」
「え?」
「オレらも?」

キョトンとする二人にクォヴレーはもっともらしいことを言って
なんとか巻き添えにしようと試みた。

「一度開けてしまったら早く食べないと痛んでしまう。
 だが生憎とオレは6個も食べられない。
 3人で2個ずつ・・・いいだろ?」

ゼオラとアラドは目を見合わせた。
確かに手作りは市販の品と違って開けたら直ぐに食べないと痛んでしまう。
だがクォヴレーは小食だ。
確かに6個食べるのはきついのかもしれない。

「分かったわ、じゃ私も2個頂くわね」
「オレも〜」
「助かる・・・ありがとう」

微笑を浮かべるクォヴレーに二人も微笑を返すと、
アラドは箱を差し出し三人で一斉にチョコを口に放り込む。

「!!!お!」
「あら??」
「・・・・・っ!」

そのチョコは多少リキュールがきついものの、
口の中に入れるとふんわりと溶けまろやかな口当たりだった。

「美味しいわ」
「うめぇ〜」
「・・・店にはない味わいだ」

三人は頬を綻ばせ、もう一つ口に放り込んだ。

「やっぱり美味しいわ〜」
「んーー!!酒はちょっときついけど最高!」

と、その時だった。
急に艦内の消灯が一斉に落ち、あたりは真っ暗になってしまった。

「大変!まごまごしてたら消灯時間だったみたい」
「やべーー!ウロウロしてたら反省室だ」
「・・・・・・」

廊下のチョコで揉めたり食べたりしていたら消灯時間になってしまったようだ。
消灯時間を過ぎて艦内をウロウロしていたら反省室、もしくは食事1日抜きになってしまう。
クォヴレーはどちらもあまり苦ではないが二人・・・特にアラドにしてみれば拷問だろう。
仕方無しに、

「オレの部屋に泊っていけばいい。
 ゼオラは女の子だからベッド、アラドはオレと一緒に床だ」
「え!でも・・・私一応嫁入り前だし男の子の部屋に泊るだなんて・・・」

ゼオラは顔を真っ赤にして初めは嫌がっていたが、
アラドもクォヴレーも人畜無害だし(アラドが無害なのは気になるが)、
反省室に入るよりは・・・と結局2人はクォヴレーの部屋に泊る事にしたのだ。












そう、そうなのだ。
夕べまでは確かに赤ん坊はいなかった。
クォヴレーはベッドからジャンプしてきた銀髪の女の子を受け止め腕に抱き、
紫の髪の赤ん坊を膝に乗せていた。

「(アラドとゼオラがいない・・・そして赤ん坊2人。
 おまけに髪の色が二人と同じと来ればこの赤ん坊は・・・・)」

背中に嫌な汗をかきながら無邪気に笑っている二人を見下ろす。
認めたくないがココに二人がいない以上この赤ん坊は二人なのだろう。

「(しかし何故???)」

何故、と考えても思い当たるのはあのチョコしかない。
けど何故クォヴレーは無事なのだろう??

「(オレがバルシェムのせいか??だが二人だってそれなりに・・)」
「だぁ!だぁ!」

あれこれ考えているとアラドと思わしき赤ん坊がクォヴレーの頬をペチペチ叩いて、
自分のお腹を指した。
涎を垂らしているし、お腹がへったという合図だろう。

「小さくなってもアラドはアラドか」

フッと苦笑しながら二人を抱き上げ机の引き出しを開ける。
果たして幼児に食べさせていいものか分からないが、
元々は幼児ではないのだしいいだろう、
と、クォヴレーは栄養補助食品のブロッククッキーを二人に手渡し、
備え付けの冷蔵庫から牛乳を取り出してホットミルクを作って二人に渡した。

「きゃっきゃっ」

ゼオラと思わしき女の子が丁寧にお辞儀をしてミルクを受け取る。
そして二人が裸だとういことに今更ながらに気がつき、
クォヴレーは思案した結果洗濯してあったシーツを箪笥から取り出し、
これまた何故か持っている裁縫道具でなにやら作り始めたのだった。




おおよそ二時間後、アラドにはセーラー服と短パン、
ゼオラにはセーラー服とスカートを作り着させた。
シーツで作ったので色は白だが見た目はプロのそれだった。
余った布で、ゼオラの頭にリボンも付けてあげた・・・やはり色は白だった。
二人は嬉しげに微笑んでクォヴレーの足元にじゃれついた。


「・・こら!・・・ふぅ・・・まぁ、仕方ないか。
 ・・・それにしてもこれからどうしたらいいんだ??」

お腹も満たさせ、服も着せた。
だが問題はここからなのだ。
一体、誰にどうやって説明したらいいのか・・・。
クォヴレーは悩んだ結果結局ヴィレッタに相談するのが一番と判断する。
無論、二人をおいていくわけにもいかないので、抱き上げようとしたその時・・・。


「アイーーーン!」



という声とともに部屋の扉が勢いよく開いたのだった。




「・・・なっ」



そして叫び声をあげる間もなくそのまま床に押し倒される。

「ぐ・・・」

手首は頭の横で固定され体重をかけて圧し掛かられてしまったので動くことが出来ない。

「フッフッ・・・逢いたかったぞ・・アイン」
「・・・キャ・・リコ・・・・?」

仮面で隠れていない口もとがニヤリと笑い、クォヴレーはおぞましさに全身に鳥肌ができた。
懸命に身体を捩りキャリコを引っぺがそうとした、が、できない。

「(くそ!重い!!)」
「フフ・・抵抗しないところをみると俺のあげたチョコを食べたようだな」
「(チョコだと!!!)」
「だぁ!だぁ!」
「ばぶーー!!」
「・・・ん?なんだこの餓鬼どもは」

自分と『アイン』を引き剥がそうと赤ん坊はキャリコにキックやパンチをしていたが、
幼児の力なのでは痛くも痒くもい。
哀れな様子に鼻で笑うと、首根っこを掴みポンッと部屋の端へ投げ捨てた。

「なんてことを!」
「ふん!俺とお前の邪魔をするからだ・・・、軽く投げたから死にはしない」
「そういう問題じゃ・・・あ!それよりお前・・」
「・・・ん?」

キャリコはクォヴレーの頤をつかみ正面をむかせると、
顔を近づけながらその先を待った。

「か、顔を近づけるな!」
「顔を近づけなければキスができんだろう?」
「キスをする必要はない!・・いやそれよりお前チョコってなんだ??」
「・・・あぁ・・・それはな・・・」
「それ・・・ん・・・んんっ」

チュッと音がした瞬間、遠くで赤ん坊の叫びが聞こえた、が、
クォヴレーはそれどころではなかった。

「(ま、まずい・・・危機だ!!)・・・ん・・・んんんっ???」

頤をつかまれているので口が閉じれない。
キャリコの笑う気配を感じながら進入してくる舌をなんとか押し戻そうと
自分の舌で押し返すがそれがよくなかった。
簡単に舌を絡め撮られいいように口の中を犯されてしまう。

「んん・・・んーーー」

おまけになんだか体中が熱くなって意識も朦朧としてくるではないか。

「(まずい!まずいのは分かってる・・・!だが抵抗できない)・・・ん・・」

クォヴレーの抵抗がヨワヨワしくなるのを見ていた赤ん坊二人は、
互いに顔を見合わせクォヴレーの部屋を大急ぎで出て行った。
助けを呼ばなければ、と思っているに違いない。



そして・・・・。




「・・・・ふぁ・・・」

唾液が口の端を伝いそれをキャリコが美味しそうに舌で舐めた。
クォヴレーの身体は無意識に仰け反ってしまう。

「フフ・・・どうやら本当にチョコが効いたようだな。
 キャリコの『K』ではなく、ギメルの『G』にしておいて正解だった」
「!!!(そうだったのか)・・・く・・・いい加減・・どけ」

クォヴレーは力をこめてキャリコの胸板を押すがビクともしない。

「(・・・く・・・力が入らない・・・おまけに身体が熱い)」

そんなクォヴレーの様子に咽で笑いながらキャリコはスルリとクォヴレーの腰をなで、
双丘を揉んだ。

「ああっ」

ゾクリと何かが背中を駆け抜けブルリと震える。

「(・・おかしい・・なんだ、これ?)」
「フフ・・・本当に効き目がバッチリのようだな。
 まがりなりにもお前はバルシェムだから効かないと危惧していたが・・・」
「(・・そういえばチョコがどうとか言っていたな・・・そのせいか?)」
「少しの間、身体の自由が利かなくなるだけのはずだが、
 どうやら媚薬の効果もあったようだ・・・最後に入れたリキュールの影響か?」
「(リキュール・・?く・・ダメだ・・身体が熱い・・おまけに目が・・まわ・・る)」

抵抗できないクォヴレーにほくそえみながら、
けれどそっとクォヴレーの頬を撫で、再び口付けようとしたその時・・・。

「・・・・なんだと!?」

ボンと大きな音がしたかと思うとキャリコは『アイン』ではなく
なぜか赤ん坊を組み敷いていたのだった。



続きます。久々にコメディチックなキャリコに挑戦です。 戻る