〜くせ毛が一番?〜


**パラレル**



春という季節は理由もなく浮かれた気分になるもので、
その浮かれ気分のまま髪型を変えたくなるのも人間の心理というものだ。

その日、クォヴレーは薬局に用があり立ち寄ったのだが、
そこであるものがフと目にとまった。
棚にはシャンプー・コンディショナー・トリートメントが様々なメーカーごとに置かれている。
しかしクォヴレーの目にとまったのはソレではない。
なぜならクォヴレーが使っているのはクセッ毛用の少しだけお高い
(と言ってもイングラムが買ってくれている)モノで薬局には売っていないのだ。
そしてその横にこれまた沢山の種類があるカラーリング剤に目がとまったのでもなかった。

「・・・ストレートパーマか・・・」























ガチャーン!


お高そうなティーカップはものの見事に床に落ち割れてしまった。
クォヴレーは慌ててイングラムの元に駆け寄るが、
ティーカップを割ってしまったイングラムは青い顔で近づいてきたクォヴレーの肩に手を置いた。

「うわっ?」

そしてガクガクと前後に揺すり、ものすごい剣幕で、

「反対だ!」

と、叫ぶのであった。

「???何がだ?」

この世の終わりのような顔のイングラムを目を瞬かせ見上げる。

「お前にストレートは似合わん!」
「・・・・!・・・ああ・・・」

ストレート、の一言でクォヴレーは合点がいく。
薬局でなんとなく目に付きなんとなく買ってしまった『ストレートパーマ』。

「似合うか、そうでないかはやってみなければわからないだろう?」
「・・・そうれはそうだが・・・俺は反対だ」
「・・?何故だ?」

いつものイングラムならクォヴレーが「やりたい」ということには反対したりしない。
むしろ大賛成してくれ、時には必要な手を貸してくれたりもする。
イングラムはなにやらいいにくそうな顔で肩から手を放すと、
床にしゃがんで割ってしまった陶器を拾いながらポツリと言った。

「俺はお前のそのくせ毛が好きだ。そのクセ毛を含めお前だと思っている」
「・・・クセ毛でないオレは恋人として見れないということか??」
「そうではない!」

折角拾った陶器が叫びとともに再び床に落ち、ガチャンと音を立てた。

「クセ毛って大変なんだ」
「・・・それは理解できる。俺もそうだからな」
「イングラムはまだいい。長いからまとめればそんなに気にならないだろう?
 だがオレの長さは中途半端で一番邪魔なんだ」
「クォヴレー・・・」

シュン・・とうな垂れクォヴレーもまたしゃがみこんだ。
そして床に落ちている陶器に手を伸ばした。

「危ないぞ・・俺が片付けるからお前は・・・!」

クォヴレーが片付けようとするのを制しようとした時、
陶器と一緒に床に散らばっている紅茶に真っ赤な鮮血が落ちた。
見れば眉を寄せたクォヴレーが切れてしまった自分の手を見つめていた。
流れ出る血をイングラムはコクンと咽を鳴らし、
無意識にクォヴレーの指を口に含んだ。

「!!・・・・イ・・・」

気障な行動に指の痛みも忘れ真っ赤な顔で口の中から指を抜こうとするが、
腕を強く掴まれてしまい出来なかった。
そしてそうこうしているうちにグイッと腕ごと引っ張られイングラムの胸に倒れこんでしまう。
塞がれた口に鉄の味が広がった。
頭を撫でられ、癖のある髪を大きな手で弄られるとたまらなく気持ちよくなり、
頭の奥がボー・・・としてきてしまう。

「・・・イングラムはクセ毛が好きなのか?
 そういえば歴代の彼女はくせ毛が多かったよな・・・」

唇が離れ、クォヴレーが困ったように笑うと、
歴代の彼女、という言葉に虚をつかれたのかイングラムは苦笑した。

「幼児に手を出すわけにはいかなかったからな。自然とそうなってしまったんだろう」
「は?」

それはどういう意味だ?と問う間もなく、
唇は再びイングラムに奪われてしまう。
熱い舌が我が物顔でクォヴレーの口内を動き回り、
キスだけで体中が翻弄され、クォヴレーは必死に大きな身体にしがみつくしかなかった。
やがて満足がいったのか、暴君な舌はゆっくりとクォヴレーの中から出ていった。

「・・・俺はお前の全てを愛しいと思う」

キスで火照った頬を大きな手の甲で撫でられた。
たったそれだけでクォヴレーの身体はビクビク反応を示してしまう。

「・・・・ん」
「もちろん一番好きなのは中身だが、
 クォヴレーの強い眼差しや、癖のある今のままの外見も好きなんだ」
「・・・イングラム」
「・・・お前は俺のモノだが俺の物ではない。クォヴレーのやりたいことには反対できないが、
 髪型だけは俺の好みのままにしておいてくれると嬉しい」
「・・理由は・・・」
「うん?」
「本当の理由はそれだけではないんだろう?」
「!」

珍しく意地の悪い笑みを浮かべクスッとクォヴレーは笑った。
そしていつもイングラムが自分にするように耳元に唇を寄せ、囁く。

「わかっている。このままストレートにすればミニヴィレッタだし、
 長くしてストレートにすれば・・・・うわっ!」

その時、ギュッと腰を痛いほど抱かれ、床に押し倒されてしまった。
見下ろすイングラムの瞳は少しだけ傷ついているようだった。

「オレ達が少なからず抱えている問題だ。
 オレはまだ大人になりきれていないからいいけど、
 イングラム達はもっと抱えているんだろうな・・・」
「産まれは変えようがないからな・・・だがしかし・・・、お前は頭が良くてたまに困る」

いつも不適なイングラムがこうも苦笑を浮かべるなんて珍しい日だ、
クォヴレーは心の中でそう感じながら、

「オレはそんなに賢くないぞ?物事をほとんど知らないしな・・。
 一般の人間から少しずれている、とよく言われる」
「一般からずれているかどうかは賛同しかねるが・・・・そうだな」
「?」

苦笑を浮かべていた顔が見る間に意地の悪い顔に変わっていく。
そして色気が大きな体中からあふれ出し、クォヴレーを魅了していく。
大きな手がズボンのベルトにかかり、いつもクォヴレーを翻弄する罪な唇が耳元を擽り始めた。

「・・・そう、物事を殆ど知らない、には賛同できるな・・・フフ・・」
「イ・・イングラ・・・!待て!!まだ床・・が・・・ぁ・・・」
「確かにストレートに反対な理由はお前が言った理由もあるが、ソレは俺も一緒だ。
 寧ろ銀髪のお前より俺のほうがそうだろう・・・?ストレートに反対な本当の理由はな・・・」
「・・?・・、イン・・・んぅ・・・んっ・・・」

イングラムがクスクス笑いながら何かを言っている。
けれど体中を弄る指と、唇のせいでもう何を言っているのか頭では理解できなくなっていた。
しかし彼の足の間に顔を埋めた時と、
彼の足の上に座り貫かれ、逞しい肩幅に顔を埋めた時イングラムが言っていた言葉は聞こえた。





「やはりこの位の長さでこの位のくせ毛が一番クルな」





と。



その時は夢中でよく分からなかったが、
事後、冷静になった頭でよくよく考えてみればその言葉の意味が分かり、
クォヴレーは真っ赤になってしまった。
だがしかし、イングラムがそれで喜んでくれるならば・・と、
この手入れのめんどくさい髪と一生付き合うのも悪くはないかな、と思ってしまうのであった。



ありがとうございました。 クォヴレーの髪の毛って気持ちよさそうだよな・・・と、 イングラムとかキャリコがその髪、クセ毛を愛していてもいいんじゃない? と思ってしまい、落ちも何もない駄文を作ってみました。 イングラムサイド、もしくはキャリアイでこのクセ毛の話を作ってみたいものです。 起承転結のあるクセ毛の話を。 戻る