あいつは変態のショタコンだったんだ!


青いコートを翻しながら、
青い顔をした子供は命からがら(?)和光市駅まで逃げ伸びてきた。


車両転属の云々で身体が西武有楽町より小さく、大師より大きいくらいに縮んでしまった東上。

西武池袋に拾われ少しだけホンワカしていたところで
風呂に一緒に入ろう!などと提案され、
命からがら逃げてきた。

嫌、風呂に入るのは良いのだ。

でもなんだか目が怪しい光を帯びていて、
なんともいえない危機を感じ取った東上はがむしゃらに暴れ逃げおおせた。



そして・・・・。






〜和光市に逃げました〜




ドンドンと和光市にある詰め所の扉が叩かれ、
時間も時間だし有楽町一人しかいないその詰め所では当然ながら有楽町がドアを開ける羽目になる。

こんな夜中に誰だろう?と腹も少しだけ立ったが、そこは有楽町である。
顔には出さずに静かにドアを開けた、すると。


「ゆーらくちょー!!」

青いコートを着た子供が体当たりするかのように自分に飛び込んできたではないか。
青いコートのせいで最初は西武有楽町かと思ったが、
あの子よりはいささか小さいし、髪の毛も茶色ではなく黒であったので有楽町は慌てた。

「(西武有楽町・・じゃないよな??え・・えぇぇ??西武の新しい路線??)
 あ、あの・・・?君・・・、だれ、かな??」

すると腰に抱きついていた子供が顔を上げてキッと睨んできた。

「(ん?どこかで見た顔だな?)・・・あの・・・?」

本当にだれ?と困惑気味の有楽町にその子供はますます不機嫌そうな顔になりながら、

「俺だよ、俺!!」

と、俺俺詐欺のように『おれ』を連呼している。
だがいくら有楽町でも『おれ』だけでは誰だかわからない。

「・・・え・・っとぉ??どちらの俺君かな??
 西武の制服だし西武線の誰かかな???」

お得意の愛想笑いを腰を屈めて視線を合わせ、ゆっくりと尋ねる。
けれども子供はハッと気がついたように西武の象徴でもある青いコートをバッと脱ぎ捨てて、

「誰が西武だ!!これは仕方なく着てんだよ!!」

と怒鳴り散らす。
ああ、子供の癇癪は手に追えないんだよなぁ・・・、と、
有楽町は副都心が新線と呼ばれていた頃を遠い目をして思い出してしまった。

「へぇ?そうなんだ??仕方なくってことはそれは君の服じゃないんだね?」
「当たり前だろ!?西武の服なんて反吐が出る!!俺は一応東武だからな!!」
「・・・へぇ?東武なんだ・・・、ふーん・・・、・・・!!?」

東武ねぇ・・・と、顎に手をかけた瞬間、有楽町の目は大きく見開かれ、
その勢いのまま目の前の子供を目を瞬かせてもう一度よく見てみた。
子供はなんとなくあの本線にいる『大師』に似通っていた。
けれど大師よりはきつい性格の様な印象を受け、
そう、それはまるで特定の人にしか懐かない猫のようなもので、
特定の人にしかなつかない東武といえば・・・・。

「・・ま、まさか・・・・」

何かに思い当たり有楽町は真っ青な顔で子供と目線を合わせる。
子供は何で気づかないんだよ!?とばかりに今にも地団駄を踏みそうな勢いだ。

「そのまさかだよ!!俺は東上だ!!」
「えぇぇぇぇぇ!?」

やっぱりそうなの??と、
有楽町の絶叫が響いたのは夜も更けた和光市の詰め所だった。















自分の心を落ち着けようととりあえず甘いもの、と
二人分のココアを入れて有楽町は東上のいる部屋まで戻った。
東上から一通りの話を聞き終え、
彼の身体が縮んだ理由と、西武から逃げてきた理由をなんとか理解し、今に至る。

「はい、東上。熱いからね」
「・・・・さんきゅー」

小さな手で熱いマグカップを受け取り、フーフーとココアを冷ます姿は、
普段の東上からは想像できなくて可愛らしい。
思わず小さく笑い声を漏らすと、ムッとした顔で睨まれてしまった。

「・・・なんだよ?」
「うん?別になんでもないよ」

なんでもない、と言うわりに相変らず顔がにやけているので、
東上はマグカップをテーブルに置き、
有楽町のそばまでテクテク近寄って、その脛に蹴りを一発入れた。

「痛っ」
「笑うな!!」

けれどおもいっきりけったのに、子供の力ではたいしたダメージにならないらしい。
有楽町は相変らずクスクス笑っていて、

「相変らずだなぁ・・・」

と、東上の頭を撫でてくる始末だ。
ムムッと納得のいかない東上は両手を挙げて抗議しようとしたが、
その時、苦笑しながらも有楽町の目がスッと細まり、

「心もちょっと子供になっちゃたのか?」

と、苦笑しながらヒョイと東上を抱き上げたのだった。

「うぎゃあぁぁぁぁーー!なにしやがんだ!?この変態!!」

急に抱き上げられ東上は両手両足をバタつかせたがやはりたいした抵抗ではないらしい。

「変態って・・・、東上が抱っこしてほしそうだったからしてあげたんだろー?」
「はぁ!?」

有楽町の膝の上、向き合うようにだっこっされたので、東上は有楽町を見上げた。

「なんだよ・・・、抱っこしてほしそうって・・?」
「え?両手伸ばしてきたじゃないか?新線も抱っこして欲しい時にさ、よくやってたよ」
「!!???」

確かに子供が親に『抱っこ〜』というときは、両手を伸ばしている光景がよくある。
そして東上は確かに有楽町に向かって腕を伸ばしていた。
・・・勘違いされても仕方ない・・・のかもしれない。

「・・・そんなつもりはねーよ・・・。姿はともかく心は大人のままだし」
「え?そうなのか??」

そりゃ悪いこと下したかな?と困ったように笑う有楽町に、
東上はムスッとしたまま膝に居座ることにした。

「・・・東上?」
「・・・・歓迎する格好じゃねーけど、抱っこは子供の特権だしな!
 せっかくだし甘えることにしてやるよ」

ニッ、と子供には似つかわしくない笑みを浮かべギュッと有楽町に抱きつく東上は、
本人は「心は大人のまま」と言っているが、やっぱり多少は「後退」しているんだろうな、
と有楽町は思った。
優しく東上の背中を撫でてやりながら、東上が少しだけうとうとし始めてしまったので、
有楽町はハッと気がついた。

「と、東上!!」
「・・・ん〜??」

ムニャムニャ口を動かして、小さな手で両目を擦る東上に、
有楽町は東上がココに着た理由をまだ聞いていないことに気がついた。
いや、西武池袋から逃げてきたのはもう聞いたが、
流石にそれだけでは自分のところにはこないだろう。

「そういえばさ、どうして俺の所にきたの??」

自分の宿舎に戻れば越生もいるでしょ?と聞けば、
越生には見せられない、と案の定の答えが返ってくる。

「武蔵野のとこでもよかったんだけど、普段の仕返し〜、とか言ってあいつに苛められそうだし」
「はははっ」
「笑い事じゃねーよ!!」
「・・・ごめんごめん。まぁ、確かにそうかもな〜」

武蔵野も多少、大人げないところもあるし・・・、
有楽町が小さく笑っているが、それを無視して東上は話を続けていた。

「でも、お前ならそんなことしないだろ?」
「・・・・うん?俺?」
「ああ!お前、俺のことは好きじゃねぇだろうけど、
 でもお前は俺を苛めたりはしないだろ?」
「・・・・え?」

東上の言葉に有楽町はひっかかりを覚えた。

『俺のことは好きじゃねぇだろうけど』

と、東上は言っていた。
なんか嫌なかんじだな、と珍しくムスッとした顔をしているのに、
東上は気づかないのかまだ話し続けている。

「明日、いささきのトコに大師の服を借りに行くんだけど・・・」
「・・・いささき?・・・・ああ、伊勢崎か」

ムスッとしながらも東上との会話を続けられる有楽町は流石だ。
西武池袋にはわからなかった「いささき」=「伊勢崎」と分かるのも流石といったところか。
でも東上はまだ有楽町の不機嫌さに気がついていないので話しは続いた。

「そう、いささき!で、地下鉄経由で行こうと思うんだけどさ、
 このナリじゃ一人では乗れないだろ??保護者がいないとさ」
「・・・そうだろうな・・・」

小さな子供は保護者同伴でのるのが鉄則で、
今の東上の姿では電車に乗ることは出来ないだろう。

「だからさ!悪いんだけど有楽町に俺の保護者になってもらって、
 いささきのところまで付き合って欲しいんだけど・・・・・」

と、そこまで言い終えたとき東上は初めて有楽町が不機嫌になっているのに気がついた。

「(あれ??こいつ、今、不機嫌??)・・・ゆーらくちょー?」

恐る恐る名前を呼び、小さな手を伸ばせば、
有楽町はヤレヤレという感じでため息を吐き、
東上の小さな手を両手で包んでくれた。

「(・・・あ、大きい・・・)お前、なんで不機嫌なんだよ?」
「そんなことないよ?」
「・・・そんなことあるだろ!」
「そんなことないって!もしそう感じるなら東上が俺を嫌いだから自意識過剰でそう思うんだろ」
「なっ!!」

冷たい物言いの有楽町を東上の目はだんだんウルウルと潤んでいく。
普段から涙もろい東上ではあるが、
姿が子供になりその涙もろさには拍車がかかっているようだ。

「・・お、おれ・・・俺は・・・」

両手を握られたまま小刻みに震え始める東上だが、
有楽町は冷たく見据えるだけだ。

「俺は・・・!」
「俺は・・・、なに?」

俺は、しか言わない東上に低い声で有楽町はその先は何?と即す。
けれど言い方が冷たいので東上はついにしゃくりあげた。

「俺はお前のこときらいじゃねーよ!!お前が俺を嫌いなんだろーー!」

わんわん泣きだす東上に有楽町は怒りを忘れ慌てた。

「と、東上!!」
「ゆーらくちょーは冷たい!!おれ・・おれは・・・」
「あぁぁぁ・・、ごめん!ごめんってば!!
 ただ東上の言い方にひっかかったから苛めてみたって言うか・・・」

まさかこんなにおお泣きされるとは思いもせず、
有楽町はアワアワと東上の頭を撫でたり、背中をさすったりする。
大きな手で涙を拭い、謝る有楽町のすがたに大きな嗚咽は小さなものに変わり、
ギュッと有楽町のYシャツを掴んで顔を胸へと埋めた。
そして拗ねた声で聞いてくる。

「俺の言い方って・・・、なんだよ・・・?」
「うん?だからさ『俺のことは好きじゃねぇだろうけど』ってやつ」
「・・は?」

言われたことの意味が分からず東上は目をパチクリさせて有楽町を見上げると、
有楽町は苦笑しながら教えてくれる。

「嫌いじゃないのにさ、そうやって相手に決め付けられると腹が立つだろ?」
「・・・・!!」
「俺はお前のこと嫌いじゃないんだけど?だから決め付けないで欲しいな」
「・・・嫌いじゃないって・・・、ほんと・・かよ?」

信じられない、と東上の顔は疑惑でいっぱいという風にな変わっていた。
さっきまでの大泣きはどこへやら、といった風にだ。

「本当。まぁ、東上は偏屈だし意地っ張りだし、頑固だし扱いにくいけど」
「・・・!!うぅ」
「でも俺は『個性的な路線』には慣れてるからね。西武池袋も含めてさ・・・」
「・・・・西武・・・?」
「あいつも個性的だよなぁ・・・、それもかなりの!」

ね?とニッコリわらう有楽町に東上も笑顔で頷き返す。
ニコニコわらうその顔は越生や秩鉄ぐらいしか見られない珍しいもので、
有楽町の胸が知らず知らずほんわかと温かくなっていく。
それを現すように握っていた手を解き、東上の頭を優しく撫でる。
東上はなんだか嬉しくなってギュっと腕を有楽町の首に巻きつけて抱きつくと、

「有楽町・・・、俺もお前のこと嫌いじゃねぇぞ!」

と笑顔で言うのだった。
大人の姿であったなら絶対にいえない言葉。
もちろん東上にとっては「変な意味」つまり恋愛感情的な意味は無い。
それは有楽町にとってもそうであり、
これからはますます良い友人関係になれそうな予感が頭を過ぎったのだが・・・。

「嫌いじゃないってことは、東上は俺のこと好き?」

と、有楽町が聞いてきたので少しだけ歯車が狂いそうな予感がしなくもない。
けれど東上にはそんなこと分からないので、
片手を良い子が返事をする時のように「はーい」とあげて、

「おう!俺は有楽町のことが好きだ!越生と秩鉄の次くらいだけど・・・」

と言った。
有楽町はクスクス笑いながら、

「なんだ・・・三番目ってこと?・・・残念」

と言いながら東上をギュッと抱きしめ返した。

・・・そういえば新線にもよくこうしたなぁ・・・と、思い出しながら。
けど、新線を抱きしめていた時とは少しだけ気持ちが違うのだけれど・・・とも思うのだった。














翌日、東上は有楽町と手を繋ぎながら東武本線に現れた。
けれどその表情はブスッとしていて、伊勢崎は首を傾げた。
まぁ、身体が小さくなったから機嫌が悪いのかな?とも思ったが、
東上の姿をよくよく見ればなぜかメトロの制服を着ていて、
あれ?と首を傾げながら傍らにいる有楽町を見れば、
彼は苦笑しながら、
「副都心にむりやり着せられて不機嫌なんだ」
と、教えてくれた。
確か昨夜の電話越しでは「西武にむりやり西武の服を着せられた」と、
嘆いていたので、ああ、小さくなるって苦労することなんだな、と、
伊勢崎は心の中で合掌して東上を励ますのだった・・・・。


2011/4/23


ありがとうございました。 有楽町バージョンで続けてみました。 この話はあくまで『×』にはなりません。『&』なんですよ。 ま、大きくなったときに西武池袋か有楽町あたりと『×』になるのかしら? 的な伏線をおきまして(笑) 副都心に追い掛け回され、副都心の新線時代の服を着せられる東上の話とかも面白いと思いますが、 訪問者様が読みたいかどうかは不明なので、小さくなった東上のお話はとり合えず打ち切り。 リクエストがあればひっそり書いているかもしれません(笑) 戻る